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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-178.J.B.(118)Don't Be Afraid(ビビんじゃねぇぜ)
しおりを挟む1人は……獣人にしてはやや人間臭い雰囲気だが、足に深い怪我をしている。その怪我人に肩を貸して居るのがスナフスリーで、俺へと飛びかかって来た動く死体リカトリジオス兵を蹴り飛ばしたのは、ぱっと見チーターみてぇな模様のある猫獣人戦士。見たはスナフスリーにやや似て無くもない。
「おいてめぇ、飛べるんだよな? なら、コイツ連れて飛んで逃げろ」
チーターみてぇなブチ模様の猫獣人戦士がそう言って指し示すのは、当然怪我をした一人。
「待てや、オレは……まだ、やれるわ……!」
「うん、無理。と言うか邪魔。さっさと連れてって」
虚勢を張る怪我人に、そう無慈悲な宣告を突きつけつつ、手にした曲刀で、再び飛びかかってきた動く死体リカトリジオス兵を切り伏せるスナフスリー。
「おい、スナフスリー、コイツ等何だ? 動く死体だよな?」
死者の気配は益々増えて来る。さらにはその中から……。
まるで大型バイクの猛スピードで突進して来るそれが、スナフスリーから受け渡された怪我人を抱きかかえる俺のすぐ脇を通り抜ける。その勢いの余波だけで、思わずつんのめり尻餅をついて倒れそうになるが、なんとかそれを堪えて上空へ。
「食屍鬼兵だ! 噂はホントウだったぜ! リカトリジオスの奴ら、廃都アンディルで食屍鬼を支配下に置く方法を見つけ出したッてな!」
そう叫ぶチーターの足元には、何やら沸騰した粘つく粘液のようなものが吐きかけられて、飛び上がり避けるもののかなりの痛手。
「うん、じゃあ走るか」
「うん、じゃねぇ! 糞ッ、このベトベト……めちゃくちゃ熱ィぜ!」
アティック同様に足の裏が猫の肉球のようなチーターは、ブーツもサンダルも履かない素足のようで、焼け付く粘液に火傷を負わされたようだ。
「まあ、速さだけが取り柄なんだから、走るしかないよね」
「糞……ッたれ! 相変わらずムカつくぜてめーは!」
悪態つきつつ大騒ぎで走り出すが、チーターは明らかに速度が落ちている。
「おい、しっかり掴まれよ」
俺は左手に抱えた小柄な怪我人にそう言ってから、再び高度を下げると、今度は右腕でチーター戦士を抱え上げて飛び上がる。
「う、うぉあ!? な、何だァ!?」
「騒ぐな。さすがに二人いっぺんは、バランスとるのが難しい」
「糞ッ! てめ、ムカつくぜ!」
何でムカつかれてんだか分からんが、とにかく騒ぐなってーの。
俺は視線でスナフスリーへと合図。コクリと頷き、姿勢を低くしながら走るスナフスリーと併走するように飛んで行く。
しかし……食屍鬼か。俺がかつてリカトリジオスの部隊で反乱を起こし逃げ出せたのも、廃都アンディルへ向かっていた部隊に食屍鬼達が襲い掛かって来たからだ。
食屍鬼は所詮は邪神の呪いで生まれた怪物で、別にその時だって俺たちを助けるために来たワケじゃねぇ。だが、今はリカトリジオスがその食屍鬼達を兵にして操っている……。
「食屍鬼を操る……て言うが、そりゃどうやってんだ……?」
何の気なしにそう呟くと、左に抱えたチーターが、
「……聞いた話じゃよ、廃都アンディルに隠れていた死霊術士がそれを研究してたらしいぜ! で、そいつを討伐して、研究成果だけをリカトリジオスの……アル・サメットだか言う将軍が手にした……てな噂だ!」
と、返して来る。
「だが、リカトリジオスは魔術嫌いだろ?」
「多分その死霊術士が作り出した魔導具か何かなんだろ! 知らねーけどよ!」
知らねーけど、などと言う割には、結構しっかりとした話だな。
「食屍鬼兵がどれだけ居るのか分からねーが、あいつら前面に出して攻めてくりゃ、ボバーシオなんか簡単に落とされちまわねぇか?」
さっきの蛙みてーにすげー高く飛び上がる食屍鬼兵なんかは簡単に城壁の上まで来てちまいそうだ。
だが、それには
「さあな! だが、見た限りじゃ食屍鬼兵の数はそんなに多くはなさそうだったぜ! それに、食屍鬼ッてなあ昼間は弱くなるらしいし、火にも弱ぇ!」
なる程、確かに主力として運用するには難があるか。
だが主力じゃなく、それこそ奇襲奇策の影の部隊にするッてんならまた話は変わる。
リカトリジオス兵は元から恐れを知らぬ不死身の兵と言われてるが、食屍鬼……動く死体ならばそれ以上に死を恐れない。文字通りにな。
「今回の任務は、兵糧庫を探り出し焼くことだけじゃなくて、噂だけのコイツ等の存在や兵力を探り出す……、てなのもあったンだがよ! この情報は是が非でもレイシルドの野郎に持って帰らなきゃなんねーぜ!」
そりゃ、確かにな。今までは噂レベルだったリカトリジオスの食屍鬼兵の存在が確認出来たってのはデカい情報だ。
まだ全面に出してなかったのは、さっきも聞いたような弱点の多さもあるだろうが、ある種の隠し玉、秘中の秘……ってやつでもあったんだろう。奴らの存在を知らずに居れば、例えば包囲が無いと思われている時期に、夜陰に乗じて城壁を越え、内部に潜り込まれていた……なんてこともある。いや、もしかしたら既にやられて居るかもしれねぇぞ?
とにかく、このチーターの言う通りだ。コイツは是が非でも持ち帰らなきゃなんねぇ情報だぜ。
そう考えていると、突然下からの鋭い叫び。
「避けろ!」
だがあいにくそのスナフスリーの警告はやや遅かった。俺の背を打つ衝撃は、まさに人間大とも言える巨石。衝撃によろめき失速した俺は、なんとか“シジュメルの翼”の防護膜を維持しつつも地表へ墜落。
「のぐぁ!!」
悲鳴はチーターかもう1人か、その両方か。とにかくすぐさま転がりつつ上体を起こすも、3人はてんでバラバラに地面に散らばる。
「くっそ、あのデカブツ……ヤベェな、こりゃ」
視線の先には数体の異形の食屍鬼兵だが、中でも図抜けて居るのは“巨神の骨”の巨人族かと見紛う巨体のそれ。
異常に上半身が肥大した筋肉の塊のような巨大食屍鬼兵は、再び地面から大岩を担ぎ上げると、それを怒りの咆哮と共にこちらへと投げつけてくる。
俺は素早く“シジュメルの翼”へと魔力を通し、ジェットの勢いでまずは足を怪我していた小柄な獣人を抱きかかえる。そのまま一旦上空へ行ってくるりと旋回。もう1人、チーター男はと視線を回すと、なんとか横っ飛びに投げつけられた巨石を避ける。
「うん、これは、さすがに、マズいね」
「糞ッたれ! おい、てめーはアリオを連れてレイシルドのとこまで先に行け! 俺たちゃコイツを始末してから追うぜ!」
叫ぶチーター男だが、いやそりゃいくら何でも無理筋だろ。
「ざけ……んな! オレも、戦……」
「糞ガキ! てめーが情報届けねーで誰が届けんだ!」
「うん、まあ、それしかないよね、ここは」
反抗する怪我した獣人に、怒鳴り返すチーター男と、やはりトボけた調子のスナフスリー。
この中で最高速度でレイシルドの所にたどり着けるのは俺しかいないし、食屍鬼兵についての詳細な情報はこのアリオと呼ばれた獣人が持って居るだろう。スナフスリーの言うとおり、「それしかない」状況だ。
俺は腰のポーチから薬瓶を一つ取り出して、それをチーター男の足元へぽとりと落とす。
「魔法薬だ。取りあえず足の裏の痛みを減らす程度には効果あるぜ」
「何だとてめー、クソ助かるじゃねぇかコノヤロウ!」
感謝してるのか怒鳴っているのかよく分からん返しだが、まあとにかく俺は今やるべき事をやるしかねぇ。
即座に“シジュメルの翼”へと最大級に魔力を回して、フルスロットルで全速飛行。
2人と追っ手の食屍鬼兵を置いて、一直線にレイシルドの船と到着。
「アリオか!? 他の者達は!?」
「ウーヒェと、オグェドは、やられた。食屍鬼兵や……。噂は、ほんまやった……」
「食屍鬼兵か!!」
周りからは驚き、ざわめき、または、やはりそうだったかとの納得の声。
「そんな所にこんなガキを送り込むとは、アンタも酷薄な用兵をするな」
言うつもりは無かったが、思わずそう嫌味ったらしい言葉が口をついて出てしまう。
「……ああ、その通りだ」
苦渋に満ちたレイシルドの顔。それを見て、言わなくていいことを言っちまったとの後悔も沸くが、今はそんなことを考えてる場合でもねぇ。
「スナフスリーともう1人が追っ手の食屍鬼兵の足止めをしてる。俺は戻るから、アンタらは先に行きな」
ここで遊軍本隊がグズグズしてれば、再びシーリオから部隊が追って来るかもしれねぇ。
食屍鬼兵達にはそれぞれ特殊な力はあるらしいが、全体としての数は十人隊にも満たない程度だった。だが、残った2人がどんなに凄腕でも、それらを退け撤退するのはかなり難しい。こちらから十人隊でも救援に向かえば助けられるかもしれないが、そこへさらに別の追っ手が掛かりでもすりゃあ、こちらが全滅しかねない。
つまりは救援に行けても、散会しての逃げがうてる、速度重視の少数精鋭。
だからやはりまた……酷薄な用兵をしなきゃならない。
「……ルゴイ、彼に着いて行けるか?」
「はい、行けます」
レイシルドに常に侍る護衛のような犬獣人、ルゴイへとそう聞くと、ルゴイは即答。だがそこに割って入るのは、例の銀毛傷顔の猿の獣人だ。
「馬鹿やろう、こういう時は俺の出番だろうが!」
こいつは確か、十人隊の隊長も務める、元“砂漠の咆哮”の強者。ひょろ長い両腕にしなやかで筋肉質の体躯は、“腕長”トムヨイやアダンを彷彿とさせる。
だが、確か聞いた話じゃこの猿系の獣人……確か、猿獣人とかってのは、犬獣人なんかに比べると、岩場や密林などの、立体的な場所での立ち回りは巧みだが、開けた平地では後手に回る。特に走って逃げる速度なら、間違い無く劣るはず。
レイシルドが俺のその聞きかじりより奴らのことを知らない……なんて事ぁ有り得ねぇ。その逡巡の僅かな間はおそらくは俺と同じ危惧からだろうが、すぐさま顔を引き締めて、
「分かった、ファーディ・ロン、頼む」
そう言って硬く両手を握り締める。
「後ろから抱えさせてもらうぜ」
そう言うや否や、俺は相手の許可など待ちもせず、このファーディ・ロンとか言う猿獣人の背後へ回り、脇の下に両腕を回して抱え上げる。
「うぉっ、くすぐンなよ!」
「くすぐってねぇ。そっちこそ暴れるな!」
むずがるファーディ・ロンを無視しながら、俺は素早く飛び戻る。
「あそこか!」
時間にすればほんの十数分か。全速飛行で戻った先には激戦の様子。
やや荒れた岩に囲まれた砂丘には、既に何体かの食屍鬼兵の死体が転がっている。数で勝り、さらには巨人の如き巨体の敵に対し、より優位な場所を選ぼうとここまで移動したんだろう。
目立って居るのは巨石を投げつけて来た巨大な犬獣人の食屍鬼兵に……ありゃあ何だ? 太くて長い鞭……いや、舌なのか? とにかく、岩場の上からその糞長いカメレオンみてーな長い舌を伸ばし、それを例のチーター男の首へとぐるぐるに巻き付けて、まさに絞首台さながらに吊り上げ窒息させようと言うひょろ長い体格の犬獣人食屍鬼兵だ。
スナフスリーはまだ健在、疲れは見えるものの岩場の不安定な足場を素早く動き、曲刀を振るっている。だが、チーター男を助けに近寄りたい所を、間を阻む巨大食屍鬼兵を倒しきれない。
「よっしゃ! 俺をあのデカブツ目掛け投げつけろ!」
「投げつける? 本気か?」
「うるせー、狙い定めろ! ほれ、3、2。1……」
良いぜ、やってやるわ!
0、の合図でその巨大|食屍鬼《グ
ール》兵目掛け、抱えていたファーディ・ロンを投げつける。
「オラァァァ!!」
叫びながら落下するファーディ・ロンは、両手に持っていた2パーカちょい(70センチ)程度の二本金属製の棍を大きく振りながら仕掛けを操作。すると、その棍の半分から先が分離し、鎖でつながれた金属部分がまるで鞭のように伸びて巨大食屍鬼へと絡みつく。
「燃えろこの糞ボケがぁ!」
叫ぶと同時に、鎖で繋がった先端が炎上する。この変わった武器は、仕掛けで分離し、鞭としても棍としても使えるのは機械的なモンだが、おそらく炎上したのは魔術的な仕掛けだ。機械仕掛けと魔導仕掛けの融合。イベンダーのオッサンが喜びそうだぜ。
火には弱いという食屍鬼だけあり、その効果はなかなかのもの。喚く巨大食屍鬼は身体に火がつきもだえ暴れる。しかしそれでも……いやむしろその巨体で狭い岩場が崩れかねない分危険が増えたか?
俺はその時には既に、ひょろ長い食屍鬼兵の長い舌を【風の刃根】で切り裂いてチーター男を解放。やや上空を旋回しつつ状況を把握すると、残る食屍鬼兵の数はそう多く無い。デカブツ含めてあと四、五体ってところだ。
だが……と、一瞬の間に襲いかかって来たのは巨大食屍鬼兵の腕。いや、狙ってのもんじゃあなく、火に焼かれて暴れ、デタラメに振り回した腕が俺の目の前を掠める。
直撃はしないが、急旋回で回避しようとしたことでバランスを崩し、そのまま岩場の側面に体をぶつける。それもまた、うまく体をひねったからダメージはないが、それでも墜落は免れない。
砂地の地面に叩きつけられると、そこへ飛び込んで来たのは例のカエルの跳躍力を持つ食屍鬼兵。爪先をすんでにかわした所に、カウンターの左腕でラリアットを決めたのはチーター男で、
「借りは返した!」
と叫びながら、その食屍鬼兵の首を極めつつ引き倒して、止めとばかりに山刀で何度も刺す。
これで数的な不利はもう無くなった。俺はそのまま再度高く飛び上がり、岩場の上にまだ残っていたひょろ長い食屍鬼兵へとそのまま突撃体当たりをかます。カメレオンみてーな舌で遠くからこちらを捕らえ窒息させる攻撃は厄介だが、逆に言えばこうして密着しちまえば無力。実際、直接組み合えば分かるが、例のカエルみたいに飛び跳ねる食屍鬼兵に比べれば、全く抵抗する力を感じられない。
そのままの勢いで、ひょろ長食屍鬼兵を別の岩場壁面へとぶつける。本来ならバイクとコンクリートの壁に挟まれたようなモンだが、“シジュメルの翼”の飛行中、密着しているものは俺と同じく風の防護膜に包まれているからそのダメージは少ない。
それでも、元から力強くは無かったこのひょろ長食屍鬼兵の身体からは、さらに力が抜ける。
そこへ追撃。岩壁に打ちつけるかのようにして、俺の隼形の兜での頭突き。一発、二発とかましてやると、ボコリとひょろ長食屍鬼兵の頭蓋骨が凹む。
嫌な感触だが、やけに脆い。
巨大食屍鬼に飛び跳ね食屍鬼、突進食屍鬼と、食屍鬼兵にも何種類かのバリエーションがあって、それぞれに攻撃の仕方も能力も違っていた。それで言うと、このカメレオンみてーな舌のひょろ長食屍鬼兵は遠隔からの絡め取りと言う特殊な攻撃が出来るが、身体能力的には他の食屍鬼兵よりも脆く弱いタイプなのかもしれねぇ。
とにかくこれでまた一体は片付けた。残るは……スナフスリーが相手をしている小柄でノミみてーにぴょんぴょん飛び跳ねる奴と、ファーディ・ロンが取り付いている巨大食屍鬼。
スナフスリーの方はじきにケリはつく。カエル食屍鬼に止めを刺したチーター男が援護に向かい、二人掛かりだ。
ファーディ・ロンは……なんつーか、こりゃまたたいしたもんだぜ。
密林や岩場など、立体的空間での戦いに強い猿獣人らしいその戦い方は、スナフスリー達が敵を狭い岩場の間に誘い込んでいたこともあり、周りの岩壁から巨大食屍鬼の巨体そのものからを足場にし、絡みつかせた鎖も巧みに使ってサーカスさながらに飛び回っている。
巨大食屍鬼もまた、丸太よりも太いその腕を、周りを飛び回る虫を叩き潰そうとブンブン振り回すが、ファーディ・ロンはその腕さえも掴み、また足場にしての縦横無尽。
その間にも、火に弱い食屍鬼の身体には最初の炎が燃え広がり、ダメージを受け続けてはいる。
それでも巨大食屍鬼の体力は、他の食屍鬼兵とは比べものにならないようで、未だに元気イッパイで暴れまわってやがる。
「ファーディ・ロン! そろそろケリつけねぇか!?」
時間をかければかけるほど、さらなる追っ手の可能性が増える。早めに終わらせてさっさとずらかるのが正解だ。
「気楽に言うな!」
素早く立体的に動き回って攻撃を避けてるファーディ・ロンだが、長引けばさらに体力が保たない。今の状態が続けばジリ貧だし、こちらには決定打がない。ファーディ・ロンの体力が保つか、火に焼かれながらも巨大食屍鬼の生命力……動く死体なのに生命力、てのは矛盾してるが……まあ、それが保つかのチキンゲームは得策じゃねぇ。
「上は俺が引き受ける、おめーは下を頼むぜ」
「ああ? 何だって?」
「そのスゲー火を噴く鎖で、だよ!」
まずは巨大食屍鬼の顔面へ向けて【風の刃根】を集中放火。当然、たいした威力とは言えねーが、奴の注意はファーディ・ロンから俺へと向く。
効き目があるか分からねぇが、まずは顔へと攻撃を集中。周りを飛びながらの攻撃に、かなり嫌そうに暴れ悶える巨大食屍鬼。
その隙に、ファーディ・ロンは肩口に絡みついていた鎖をほどいて足元へ。
踏み潰されそうな大暴れを巧みにかわして、その鎖を良いタイミングで両脚へと巻き付ける。
もんどりうってぶっ倒れるのは巨大食屍鬼の番。まさにジャックと豆の木、愚鈍な巨人の有り様だ。
「燃えろ、糞野郎!」
叫ぶファーディ・ロンの声に応じて、巨大食屍鬼に巻き付いた鎖の先端が再び火を噴く。
うつ伏せに倒れてのた打つ巨大食屍鬼。そのばたつく腕に跳ね飛ばされないようスナフスリーもチーター男も飛び退いて避ける。
ファーディ・ロンは頭の後ろへ乗っかると、もう一つの棍でしこたまぶん殴り、俺たちもまたそれに倣って止めを刺す。さすがの巨大食屍鬼も、ここまで殴られ切り刻まれれば為す術もない。燃える火炎と総攻撃で、しばらくしてから完全に動きが止まった。
「かはっ! ざまぁみやがれ!」
まるでお猿の人形みたいに両手を叩いて喜ぶファーディ・ロンに、
「うん、まあ、ケリはついたね」
と相変わらずのスナフスリー。
チーター男は苛立たしげに血の混じった唾を地面に吐いて、
「おい、ちゃんとアリオのボケガキはレイシルドの所に届けたんだろうな?」
と俺へと聞いてくる。
「当たり前ぇだ。でなきゃこっちにゃ戻ってこねぇ。まさにシジュメルの加護の賜物だぜ」
別に俺自身信心深いてほうじゃねえが、一応そう、いかにも素朴な南方人然としたことを付け加えておく。実際、マジでこの入れ墨魔法には助けられまくってるしな。
「だが、あんまり長居もしてらんねぇぜ。まだ追っ手が来るかもしれねぇんだ、さっさとずらかろう」
「うん、そうだね、その通りだ」
俺の言葉に、続けて同意を示すスナフスリーも、表情は相変わらずだが疲労の色が濃い。
一人妙に興奮状態にあるファーディ・ロンが、最後に一つとばかりに、倒れた巨大食屍鬼の背中に棍の一撃を加えると、火にも焼かれてもろくなってたその巨体がポロリと崩れる。
打たれて崩れたその場所に、ちょっとばかし覚えのある光の反射が目に映った。
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