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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-171.J.B.(111)Joke's On You(笑える話だぜ)
しおりを挟む笑えないジョークってのにも色々ある。単純にハズしてる、面白くねぇッてのももちろん笑えねえし、本人がブラックのつもりでも、聞かされる方からしたらただの悪趣味、露悪、下品、または侮辱や差別でしかないってなのも当然笑えねぇ。
ベニートの一件は、ジョークとしちゃあブラックを効かせすぎだ。特にこの中で一番真相に近い、それどころか唯一当事者として現場に居合わせた身としては、なんていうか哀れすぎて ツラも渋くなる。
「おいおいなんだよ反応悪ィな、すげー笑える話だろう? あの野郎、そんな与太話でわざわざこんな所まで来て、挙句リカトリジオスに捕まっちまてやがんだぜ?」
デーニスの方は本気で面白がってる顔でゲラゲラ笑う。こいつの笑える話ってのは大概そうだ。ジョークとしては悪趣味すぎ。タチの悪い厄介者って言われてるのも、でたらめ無軌道なところだけではなく、こういうマジで人の生き死にに関わるような不幸話を、本気で笑えると思ってるところにある。要するに、マジモンの根性悪だ。
俺はうなだれ気味になり、深く深く長いため息をついちまう。
「いや、マジ笑えねーわ。何が一番笑ねぇかッて言うとな、そのベニートの“与太話”、半分は当たってる……ってのが一つだ」
「はぁ? 当たってるっ……て、何がだよ?」
「古代ドワーフ遺跡の秘密の魔力溜まりは実在して、それを全て支配する事でクトリア王になれる……ってのが当たってる」
俺のその言葉に、デーニスは再びかはっ、と大声で笑い、
「おいおい、お前まで何言い出して……」
と言いかけ、止まる。
「……マジもんの話か?」
「ああ、俺も現場に居た」
「あぁ!? 何だよオイ!? おいおい、まさかよ? まさかまさか、おめえがその魔力溜まりを支配して、クトリア王になったとか言い出すんじゃねえだろうな!?」
「いや。だがよ、さっきも言ったろ? おめーが居ねーときにクトリアは随分変わったって。
議会制になったのはその魔力溜まり支配した奴が、そう言う政治にするって決めたからだ」
それを聞き、つい先ほどまで話していたことの内容を思い出すかのように記憶を手繰り寄せ、それから納得したかに頷きながら手を叩く。
「はっはっ! マジ笑えるじゃねぇかよ! ベニートの奴、他のファミリーを出し抜くつもりが、テメェの居ないウチに出し抜かれちまってやがんのかよ!」
それから再び浮かせていた腰を降ろしてどっかと座り込み、両手を広げながら宣言する。
「こりゃあやっぱ、どーにかしてベニートの奴を助け出して、この話を聞かせてやらねーとな!」
◇ ◆ ◇
「で、その算段は何かあンのか?」
改めてベニートをリカトリジオスの隠された砦から救い出すと宣言したデーニスにそう聞くと、
「まあ、あるぜ。あるが……んー、そうだな~……その前におめーらの腕前を知りたい」
無軌道ででたらめで衝動的な放浪癖。だが、このデーニスは決して馬鹿ではない。それどころかこんな性格のくせに、こいつもこいつでちょっとした天才の類だ。ほとんど正式な訓練や勉強などしたこともないのにある程度の魔術を使うこともできるし、状況判断や作戦立案といったものに関しては、あのハコブのお墨付きでもある。
曰く、この性格のことさえいなければ間違いなく探索者にスカウトしていた、と。
ただその性格的問題、ってのが問題過ぎる程に問題。
「その算段、成功率は何割だ?」
「今ンとこは2割ってとこか」
「低いな」
「おうよ。だが……面白ぇ」
そうここだ。腕もある、頭も回る。だが、勝率、成功率そのものよりも、自分が面白いと思うかどうか。それを最優先にする。しかもその上、そこからさらに成功率を上げる方法として、平然と他人に犠牲を強いれる。燃え盛る火の海を渡るときに、同行者を死体にして足場にするのも厭わない。
この辺は、結構最近になって腐れ頭から聞いた話だ。
昔まだシャロンファミリーと敵対してたギャング、金貨団にいた頃のデーニスは、そこの一番の特攻隊長だった。だがあまりの無軌道ぶりからボス一派の怒りを買い、対立してしまう。
罠にはめられ殺されそうになるものの危うく逃れ、多勢に無勢で妹のラミラ他数人と逃げ回っているうちにマランダたちと合流。口八丁手八丁で当時まだ生きていたマランダの父、ダーリオを丸め込んで金貨団とシャロンファミリーとの抗争に持ち込む。
で、そのダーリオを文字通りの肉の盾にする形で、金貨団のボスを始末した。
普通に聞くとそのことでシャロンファミリーから恨まれて当然のような話だが、マランダの父ダーリオもかなりイカれたたちの悪い男で、ぶっちゃけヤク中のDV親父。
家族全員から嫌われ煙たがられていたその親父が都合よく死んでくれたことで、シャロンファミリーの実質的リーダーはその妻のメアリーになり、デーニス一派にその他金貨団の生き残りを吸収し勢力が増し、さらには連中の溜め込んだ財貨諸々も手に入れられた事でむしろ有り難がられる。
双方にとって結果オーライな話だが、別にデーニスはその結果を見越してダーリオを盾に利用したわけじゃない。その方が面白いし、勝ちが拾える。ただそれだけの理由でだそうだ。
だが、それでも……だ。
「相変わらずのクソッタレ野郎だな、おめえはよ。腕前は教えてやる。とにかく聞かせろ。話はそれからだ」
「いいね、いいぜ、JB! そう来なくッちゃあな! まず、奴らの今の根城についてだ───」
現状、一番リカトリジオスとベニートの事について情報持ってんのは、このクソッタレ野郎しかいねぇ。だから、今ここで話を聞かねぇってのは選択肢にはねぇんだよな。
リカトリジオスの中隊が居るのは、スナフスリーの予想通り、かつて食人鬼が住んで居たとされる鬼の角岳洞窟の辺りで間違い無いらしい。
「ギザギザに尖った岩場に囲まれたここに洞窟がある。実際ありゃあ籠もられたら攻めるにゃ難儀なとこだな。
その上奴ら、木を伐採して運び込んでる。砦の柵にもしてるんだが、それより洞窟の奥に運び込んでいる量の方が多い」
「洞窟の奥?」
「へへ、それがな、その奥には、結構てけぇ地下水道がありやがんのよ」
洞窟の奥には地下水道があり、そこへと運び込まれる木材……。
「……待て、まさかその地下水道、マレイラ海へ繋がってんのか?」
「どうもそうらしいな」
リカトリジオスのまるで演習のようなボバーシオの城攻めは、元々城を持たず、城攻めの経験が少ない軍全体の経験値を上げるもの。
俺たちの読みはそうだ。だからある意味、すぐさまボバーシオがリカトリジオスに攻め落とされるという危険性は低いと見てる。いや、見ていた。
だが、同時進行で別働隊を鬼の角岳洞窟へと送り木を切り出している。
「その洞窟の内部の広さは分かるか?」
ボーノの問いに、
「さすがの俺もまだ直接は中は見ちゃいねぇ。だが、聞いた話じゃ元々食人鬼が住み着いてたってだけあって、かなりの広さに高さらしいぜ」
「内部でちょっとした船の建造が出来るくらいには……か?」
ボーノの言葉にデーニスは楽しげに笑いつつ、
「あたりだ! あんた賢いね、ワクワクするぜ。
その通り、奴ら洞窟の中で舟を作ってやがる。軍用船、ってほどじゃあねえ、櫂で漕げる輸送船……せいぜいがデカいイカダ程度だが、それでもボバーシオの港側からリカトリジオス兵を送り込むことができるようなモンを、な」
と。
……これだ。レイシルドが警戒していた「不振な動き」は、これだ。
リカトリジオス軍がこのボバーシオ攻めで攻城戦の練度を上げたいとしても、あまりに長い間そればかり繰り返してるわけにもいかない。場合によっちゃ最後に城門をこじ開けるには、奇策、搦め手が必要になるかもしれない。その一つがこれだ。
単調で拙い城壁攻めに慣れきったボバーシオ軍は、港側から敵が乗り込んでくるなんてことは想定しちゃいないだろう。一方に敵の目を引きつけ、別方向から攻める。これも十分立派な戦術だ。
「……おめ、さっき“聞いだ話”言ってだな? それは誰がら聞いだ?」
そこで、話を聞いていたマーゴがそうデーニスへと問いかける。
「は! 良い質問だぜ!
こいつは今その砦の中にいる犬獣人から聞いた話だ」
「捕まえて尋問でもしたのか?」
「いや。まあ、もともとはボバーシオに居た乞食の宿無し犬獣人だ。この辺の案内役に丁度良いんでベニートが雇った。でまあ、ベニートなんかと一緒に捕まったんだが、犬獣人なんで他の奴らより自由がきくみたいでな。定期的に情報を送って来ている」
話からすると、要はリカトリジオス部隊の中に内通者がいるって事になるが……、
「だが、もとは乞食でしかも犬獣人だろう? その情報は信用出来るのか?」
訝しむボーノに、デーニスはまたへらへらと笑いつつ、
「ま、だから勝算は2割ってところよ。だが、リカトリジオスの命令で俺を騙しておびき寄せるつもりだったらもっと違った嘘をつくだろう。船を作ってるっていうのが嘘だとするなら、考えられンのはボバーシオ側に偽情報を送り込みたい……てパターンくれーだ」
「もしそうなら……ここにボバーシオ兵をおびき寄せ、その隙に手薄になった城壁を攻略するのが狙い……となるが」
「そりゃ、ちょっとしっくりこねぇな」
この砦自体を囮にして、ボバーシオ側の兵力の分散を狙うというのなら、そもそもここまで隠密で行動をする必要がない。もっとわかりやすく別働隊を動かし、そちらに引き寄せれば良い。
「隠密部隊が隠し砦を作っている……それはまぁ事実と仮定して、その中で船を作ってるってのは、ここには見た奴も居ない伝聞情報……。
だが……まあ、捨て置けねーよな」
それに、だ。
「上手くすりゃあコレ一発で、今抱えてる問題、一気に解決できるかもしれねーしな」
ま、そう上手く行くとは限らねーがよ。
◇ ◆ ◇
「ほ、本当に、良いのか、俺だけ……?」
「良いも何もオメーが戻れなきゃこの件をボバーシオに伝達出来る奴が居ねーんだ。とにかく、絶対に見つからないようにしろよ」
戦力としてもワンランク落ちるブレソルには、まず一旦ボバーシオに戻り、今の段階で分かっていること、断定は出来ないが想定される事をレイシルドへと伝えて貰う事にする。
リカトリジオスのみならず、魔獣や猛獣に捕まったり襲われたりの危険性もあるから、俺がレイフから預かった隠密能力の高まる魔糸織物製のトーガも貸しておく。
「勝手に売ったりすんなよ?」
「し、しねーよ!」
ブレソルを送り出してから俺たちは、デーニスの案内で川沿いにあるちょっとした湿地へ移動する。
「ここの泥を全身に塗りたくれ」
「うええ、マジかよ」
「犬獣人の鼻除けだ。ここの泥浴びねーで近付けば、ソッコーでバレるぜ」
仕方ねぇ、と諦め全員で泥浴び。
「さーて、お次はコッチだ。音はたてるなよ?」
無理を言うな、と思いはするが、“シジュメルの翼”の防護膜を広げることで、ある種の防音の効果が出る。
進んだ先はその湿地の一角で、やや小高い岩場のある辺り。
「何だ、ここは?」
「あの岩場の裂け目の奥に横穴があってな。その先は薄暗くじめじめ濡れた洞窟だ。ここ数日は俺のねぐらでもあるが、さらに進むと……」
「まさか、例のリカトリジオスが砦にした洞窟につながってるのか?」
ボーノのその言葉に、またデーニスは嬉しそうに、
「またもや大正解! 本当、おめーらは話が早くて良いぜ」
と返す。
「マジか、裏口かよ。それじゃこの中から奴らの砦まで忍び込む……ってことか?」
「ま、行けるぜ。ただ、一歩通行だ」
「一方通行?」
「奴らが使ってる空間に繋がるのは、かなり高い位置の横穴だ。つまり行きは良いが帰りはかなりの壁面を登ることになる。それか、奴らの中を突っ切って外へ出るか……」
「なるほど。或いは、空を飛ぶかか……」
「ハッ! それが出来りゃあな!」
コイツもまた、デーニスの居ない半年ばかしにあった、奴の知らない変化の一つ……だ。
さて、計画をもうちっとばかし詰めておくか。
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