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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-162.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(73)「こんなハズじゃ無かった……」
しおりを挟む子供たちや他のお供の人たちなどからも様々な感想意見を聞き、改めて教本制作の件について話し合う。
まず最初に出版するのは、エンハンス翁の神話をベースにした絵物語と、 ミッチ氏のちいころ君の冒険。
エンハンス翁のものはそつなく過不足なく優れていて、帝国語教本のままのバージョンと、クトリア語にアレンジしたものを二種類出そうと思う。
今後ティフツデイル王国との交流が増える事も考えれば、帝国語の教本としての有用性も上がるだろう。
ただ、 内容的なものも含めて懸賞付きのものにするのはちょっと向いていない面もある。神話をベースにしているというのもあり、それを懸賞付きとするのは信心深い人たちからの反感を買いかねないし、そのことでエンハンス翁に何らかの迷惑がかかってしまうのもよくないしね。
ミッチ氏のものは、まずは大量のドワーベン・ガーディアン蘊蓄を大幅にカット。ただミッチ氏自身がかなり未練がましかったので、副読本として別刷りにする事にする。
ちいころ君の設定も練り直し、「“ジャックの息子”により作られた、特別なドワーベン・ガーディアン」と言う事にする。
まあ現実には存在してないんだけど、その辺を強調することで、実際に 遺跡などで遭遇してしまう可能性のある小型ドワーベン・ガーディアンとは全くの別物なのだということを殊更アピールしておく。
また、エンハンス翁のものとの差別化も際だたせようと言う事で、より一層問題を増やし、こちらを懸賞付きのものとして出版する。
ドゥカム師のものは……とりあえずは保留。
で、ダフネのものは、物語性の高さから、教本と言うより読み物として分冊化して出版しようかと言う事に。
細かい校正や、分冊化する上での構成の変更等々をしてから、順次出版することになると思う。
あとは……絵の問題だ。
基本的には全部絵本という形で出版することになる予定で、その挿し絵を誰が書くのかということなのだけれども……一応、まずは僕だ。
いや、こちらに来てからはそんなに機会がなかったけれども、僕は結構絵が描ける。まあここ最近で描いたものと言えば、ダンジョンバトルの時、水の迷宮を去る前に作った「アイルビーバック」の壁画ぐらい。
実際には原画を描いて、それを誰か職人に版画にしてもらう事になるだろうけど。
版画職人やその他の絵描きについては、ミッチ氏に探してもらう事になる。
それらも含めて、読み分け会の中でも、この教本製作はミッチ氏とダフネに今後とも担当してもらうこととなった。
□ ■ □
他にも、クルス家を中心にやって貰っている街の建物の改修増築の状況も確認。市街地内部の一般向け賃貸、集合住宅はかなり進んでいる。
そして、新たに流入してきた流民、難民達も積極的に雇えるようクルス家には補助金も出している。
難民、移民問題は、どこの世界でも対立や軋轢を生む。これは必ずしもどちらかが正しくどちらかに非がある事で起きる話じゃなく、何より単純に「縄張り争い」の問題だ。
「後から来た奴らに、俺たちの取り分を奪われる」と言う不満、恐怖感。そういう意識が、古い住人と新しい住人との対立を生む。
話によると、これまでのクトリアにもそれはあったらしい。
調査団の中では、例えばニキやマルクレイ、また見方によればJBにイベンダーなんかは、そういう「後から来たよそ者」になる。
ニキやマルクレイは、王都解放後に転送門経由でクトリア入りした旧帝国圏の住人。
これには、王の守護者の一部を筆頭としたクトリア地元民の少なくない人達が反発し、けっこうな対立もあったそうな。
また、ジャンヌ、JB、またクルス家の面々なんかは、「クトリア市街地以外からの流入者」と言う意味ではよそ者だが、そういう層の筆頭と言えばまず何より貴族街の三大ファミリーがいる。その為もあり、こちらにはあまり目に見えた反発は現れなかった。元はクトリア人であったり、また砂漠の南方人の多くもその属領の住人、と言う見方が一般的だからだ。
今増えている流民、難民の多くは、その西カロド河以西からの流入者だ。
しかも今まで以上の人数が、今まで以上に増え続けている。
建国特需に沸いている事もあり、今のところはかつての王国領からの流民に比べると目に見えた反発はまだ無いが、それはやはり“まだ”少ないだけだろう。
なので、それらを抑制する為にも、また、困窮した難民、流民達が犯罪行為などに走らないようする為にも、まずは城壁街に難民キャンプを設営し、王の守護者と“黎明の使徒”たちの協力のもと、炊き出しなどで彼らの最低限の食と住環境を保証し、その上で働きたい者達にはなるべく古くからのクトリア住人や既存の組合などの仕事を奪わないような仕事を回すようにしている。
クルス家の改修増築を含めた建設業は、その一つだ。
もちろん元々のクトリア住人より優先して流民を雇うように働きかけてるワケではない。それをやれば、それこそ衝突が起きる。
そこはもう、完全に力業。仕事の無かったクトリア人を雇う以上に、クルス家に対して仕事を発注しているのだ。
特に城壁補修はかなりの大人数を雇用できている。まさに公共事業のごり押しである。ぶっちゃけ、クルス家側がキャパオーバーにならないように調整するのが難しい。
んが。
公衆浴場を含めた様々な公共施設、集合住宅にある程度の富裕層向けの ちょっとした邸宅に、既に居住者の住んでる家に対する補助金給付による安価にな補修改築の受注。
これら城壁内での事業の他、城壁の修復、城壁外の難民キャンプの設営、街道の設備にカロド河から引き込んだ水路、堀……と。
今現在行われてる建設業の仕事量はかなりのものではある……が、これらの事業は当然、永遠には続かない。
改修補修は定期的に続ける必要がある。だが新規の建設は当然、完成すれば終わり。頭打ちだ。
毎年毎年それほど必要じゃない道路工事を繰り返すわけにもいかないし、新規建築の需要が減ってきた後にも、今雇っている流民たちが新たな働き口を手に入れるよう今のうちに手を打っておかねばならない。
そのうちの一つは、新たな農場の設立。
あまり農業に適してるとは言えない土地柄のクトリアではあるが、その一つの理由は、長年にわたり魔力循環が歪め続けられていたことにもある。
僕がダンジョンバトルを通じてクトリア全体の魔力循環を正したからには、今までよりかは豊かな土地にはなると思う。
それともう一つは───、
「さあで、レイフ殿、今日は観劇の方へ行ぐがな?」
エントランスホール二階のラウンジで昼食を終えたけだるい午後一番に、そう言いながらやってくる一人の男と連れの数人。
「えー、そうですね、アーロフ殿。その、僕はまだ所用がありますので、デュアンと共に行かれては……」
「まだまだ、昨日もそう言ってだではねえが。閉じごもって仕事ばがししてるど、気が滅入るぞ!」
半ば抱えられるかに肩を組まれてラウンジから連れ出される僕。エヴリンドが間に入ろうとするもまるでお構いなしだ。
カーングンスの外交官であるアーロフは、過去の落馬事故で脊椎を痛め、怪我そのものは完治はしたものの、後遺症が残り上手く乗馬が出来ない。その為、次期族長となる権利を失ってしまったのだが、だからと言って僕のように虚弱なひょろひょろかと言うとそうではない。
もちろん乗馬と同様に、体術、剣術などを含めた戦闘術や、普段の行動にもある程度支障はある。だが、体のつくりそのものは偉丈夫で頑強。どちらかと言うと大男とも言える。
そして単純な腕力ならかなりのもので、ドワーフでもあり調査団メンバーの中では今最も腕力のあるイベンダーにも匹敵するぐらいには力強い。
「……貴様、いい加減にしろ。レイフには色々とやるべき仕事がある。確かに、人間どもの作った汚らしい瓦礫の山をいじくり回しこね回し、馬鹿げた争いや内輪もめに首を突っ込むと言う 実にくだらなく意味のない仕事だが、それでもレイフが自分でやると決めたことだ。邪魔をするな」
「エヴリンド……さりげにディスりすぎじゃない……!?」
「そーですよ~。観劇なら私と行きましょうよ。いや、何だかんだ言ってレイフと一緒だと、なかなか羽が伸ばせないじゃないですか」
「嘘だ! いっつもめちゃめちゃ羽伸ばしてるじゃん!?」
エヴリンドもデュアンも、本気で止める気あるのか疑わし過ぎですよ?
正直僕にも観劇を楽しみたい気持ちはあるにはある。だが、今のうちに処理しておかねばならないことが山積みなのでそうも言ってられない。
議会の方がもっと本格的に動き出せば僕一人でやらなきゃならないことなんてもっと減ってくはずなんだけど、これがなかなかどちらもそううまくは行ってない。
おかしい、こんなハズじゃ無かった……。
いや、まて? 違うな、議会だけの問題じゃないぞ。
そうだそうだ、これも重要案件なんだけど、議会以上に行政官が足りてないんだよ。
行政官、そして現場を担当する役人。それが全然足りてない。
今やってる事業って基本的に、議会の承認を得たものを僕が直接民間業者に発注して行っているみたいな流れだからなぁ。
数日置きに、行政官として働けそうな人を紹介してもらったり募ったりして面接もしてるんだけど、あまり採用に至った人は居ないんだよね。
そもそも応募者も少ない。
なんだかんだ言って、共和国建国やその後の公共事業ラッシュなどで景気は良くなっているし、クトリア市民たちの生活も活気が出てきているのは確か。だけど、ジャックの息子の承認を得て王の名代となったダークエルフに直接“仕えたい”と思うほどの人達はそう居ない。いや、厳密には僕個人に仕えるワケじゃないんだけど、彼らの感覚としてはそんなところ。
そして実際、行政システム自体が既にきちんと出来上がってる状態ならば、単純にある程度の適正、能力だけで採用しても、そう問題は起こらない。が、 今はまだその段階にまで行ってはいない。だからある種の忠誠心や信頼性も重要になる。
と、そんな風にばたついた昼下がりに、今度は“生ける石イアン”から、通信の通知が来る。
「あ、待って……えーと、イアン、何かな?」
アーロフやエヴリンド達を軽く押しとどめ、肩掛け鞄の中の握りこぶし大の石……すなわちこの“妖術師の塔”そのものでもある古代ドワーフ遺物の人工知能、“ジャックの息子”の端末、“生ける石イアン”を手に取る。
『キーパーよ、魔力中継点からの通信だ』
「ほいほい、どちらから?」
『“巨神の踵”、カーングンス野営地からだ』
おおっと、まるで狙いすましたかのようなタイミング。
『おう、レイフ。とりあえず簡単な調査の結果を報告するぞ』
通信の相手はイベンダー。
市街地に戻って必要な細々したことを済ませてすぐに、イベンダーはカーングンス野営地へととって返し、鉱脈の調査をしていた。
『ある程度鉱脈のありそうな場所の見当はついた。まあ、俺のは簡単な魔導具を使った簡易調査だから、本格的に調べなければどのくらいの埋蔵量かまでは分からんが、これくらい材料があれば、奴らを呼ぶには十分だ』
「来てもらえますかね?」
『うむ、連絡さえ取れればな』
イベンダーが言う「奴ら」と言うのは、“黒鶴嘴ドワーフ団“と呼ばれる流浪のドワーフ集団。
彼らは依頼を受けて、採掘や大規模建築の土木作業などに従事する専門家 集団で、イベンダーは過去に彼らとの面識があるらしい。
本来は主に王国領内を活動範囲にしているが、今なら転送門があるからこちらにも来てもらえる可能性はある。
『今から大急ぎで戻れば夕方にはそっちに着くだろう。それからサンプルをあちらさんに届けるのに数日、返事が来るのに……まあ、早めに見積もって4、5日……てとこか?』
概ね一週間前後で結果が分かる……といったところかな?
「分かりました。それではひとまず帰還するのを待ってます」
と、そこで通信を切る。
「何があったがね?」
こちらの様子を伺いつつそう聞いてくるアーロフに、
「はい、夕方までにこちらへ戻ってきてください。まずは最初の通商交渉に入りましょう」
と返す。
何についてか、と言えば勿論、カーングンスの領域である“巨神の骨”の東南端、“巨神の踝”、“巨神の踵”などと呼ばれる山地での、採掘事業について、だ。
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