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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-159.J.B-(103)What You Wanna Do?(お望みは何?)
しおりを挟む「……うん、まあ、良いけどね」
と、そうあっさりと返答してくるのは、狩人のアティックの古馴染み……あー、実際はそんなに馴染みでもない猫獣人の“知り合い”、スナフスリーだ。
何の話かと言えば、当然、ボバーシオ行きの件について。
プレイゼスのベニートがカーングンスを雇ってボバーシオに向かい、さらにはそこにグッドコーヴの船大工の娘、グウェンドリンも同行していると言う。
で、それに際して二つの課題が出てきた。
一つはベニートの目論見を探ること。
もう一つはボバーシオに居るハズのグウェンドリンの姉、その夫である船大工を保護し連れて帰ること。
その夫は先代の弟子で、恐らくは魔導船の設計、建造技術を持っていると思われると言うからな。
まずはベニート。
ベニートがカーングンスを雇ったのは約半年ちょい前。俺が初めてプレイゼスと接触したのも半年ぐらい前だが、その時からすでに表に出てくるのはパコのみで、その後も長患いを理由に一切どこにも顔を出してない。
市街地へと戻ってすぐに、その辺をサクッとプレイゼスへと詰めに行ったら、パコは思いの外早々と口を割った。
「ですがねぇ~、正直あたしらも、ボスがどこへ何の目的で出てったのかなんてなぁ~、全~然わからないんですよ~」
相も変わらずヘラヘラと間延びした喋り方でそう言うが、嘘をついてるのか本当のことを言ってるのかさっぱり読めやしねぇ。
「なあ、パコ。一応俺も立場上名誉顧問なんてことやってるからきっちりと聞かなきゃならんのだが、もしこの件で何かしら隠し立てをしてたって後で分かったら、えらいことになるぜ?」
軽い調子ながらもきっちりと脅しをかけつつそう問い質すイベンダーに、やはりヘラヘラとしたまま、
「そんな~、今更“ジャックの息子”から王権を戴いた議長様に対して、嘘隠し立てなんざ~するワケがありませんさねぇ~」
と返す。
「仮に、だ。仮にな? ベニートが例えばサルグランデのような事を企んでたとしたら、どうだ?」
パコのノリに合わせてか、さらに軽薄な調子でそう聞くイベンダー。
「いやいや~、さぁ~すがにそんな事ぁ~無ぇでしょうがねぇ~」
ヘラヘラ笑いを浮かべたまま、だが明らかに空気は変わる。
「三者協定はなくなりましたが、あたしらも今や議会の一員でさぁ~。その一員たるあたしらが、それに仇なすような真似をしてたなんてなァ、そりゃ~示しがつきやせんぜ~」
お互い酒飲みの軽口でも叩いてるかのような調子だが、これでイベンダーはパコから、「もしベニートの目論見が、元々“ジャックの息子”を裏切る事にあったとしたら、プレイゼスは議会側に付く」との言質を得たことになる。
勿論ただの口約束……いや、約束にすらなってねぇが、それでも現在ボス代理であるパコの意向は確認出来た。
仮にそれが、実際にはパコがベニートの裏切りを知っててそれを隠していてのものだとしても、当時と今では事情が違う。今のパコ、またプレイゼスには“ジャックの息子”ではなく“クトリア共和国議会”を裏切る利点はないだろう。
あるいは……そう振る舞ってるように演じてのものかもしれないがな。
「まぁ~、もし本当にベニートの奴がボバーシオで見つかったら、何ちんたらしてんだ、さっさと戻ってこい、ってどやしつけといてやって下さいよ~」
やはり相変わらずのヘラヘラした調子を崩さず、パコはそう締めくくった。
▽ ▲ ▽
で。
それよりもさらに前の話だ。
グッドコーヴでの会談を円満に終えてから帰路にノルドバに寄りマーゴと宿屋の相続の手続きを済ませる。
ノルドバ住人も、よもやヒメナ婆さんの類縁が見つかるとは思って居なかったためかなり驚くが、マーゴ自身は既にカーングンスの一員として生きている。だから今更ノルドバの宿屋の主になるなんてことは全く考えてない。
名目上の所有者とはなるが、経営その他含めてタニシャに全てを任せ、また宿の一室をマーゴ、或いはアーロフなどカーングンスの友好使節の為にキープしておく、と言う事になった。
そして、とりあえずここでもボバーシオ方面の情報を再確認しようと聞き込みをしていると、意外な人物が協力を申し出てくる。
ノルドバの雇われ警備兵、クリスピノ・ボーノだ。
「ボバーシオに行くなら、今のリカトリジオスの動向を探る事になるんだろう? だったら俺も連れて行ってくれ。退役したとは言え、弓の腕も剣の腕も落ちちゃ居ない」
隠れて奴隷商人をしていたヒメナ婆さんにより、妻を攫われリカトリジオスに売られたボーノの目論見がどんなものかと言えば、そりゃまあある種の「かすかな望み」に賭けてのものだろう。ただ間違いなく、ハッピーエンドには向かうワケもない望みだ。
それでも何かしら行動にでなければ納得も出来ない。その気持ちはまあ……分からんでもねぇぜ。
とは言えそうそう簡単には決められない。それに、ノルドバ警備兵の仕事はどうするんだ、ってのもある。
だが、警備の仕事に関してはと言うと、以前レイフがこちらに設置した魔力中継点が、毎晩自動的に警備用の白骨兵を召喚、補充して巡回させているので、けっこう余裕が出てきた、なんぞと言う。白骨兵だが見た目を考慮して全身鎧に長めのトーガで白骨部分は見えないようしてあるから、ぱっと見には良さげな装備してるただの警備兵に見える。
それで雑貨商のクリマコだの、牧場主のデメトリだのは、「議会に恩を売るチャンス」とでも考えたのか、ボーノが警備兵の仕事を休んでボバーシオ行きに同行するのには大賛成と来た。
で、最終的にそこのところの判断をするのはレイフの役目になる訳だが……。
「うぅ~ん、どう……しよう?」
「決めらんねぇのかよ?」
「いや、だってさ、ボバーシオって今ガチでリカトリジオスの包囲にあってるんでしょ? めちゃ危険なワケで、そんな所によく知らない人をホイホイ送り込めないし……」
「いや、そのめちゃめちゃ危険な所へと俺を送り込もうとしてんじゃねーかよ」
「え? あ、いや、それはほら、まあ、信頼? JBならなんとか出来そうだし、いや、まあ……心配は心配だ……よ?」
俺ははっ、と軽く笑い飛ばして、
「つまり、あいつの信頼性がまだ分からない……てーコトだろ?」
「あ~……いや、まあ……そうなのかな……?」
ま、共に死線もくぐり抜け、そこそこ付き合いのあるレイフのこと。ある程度は考え方も分かって来てる。
実際、奴が不安なのは自分の決定で誰かが傷つき、または死んでしまうことだ。
聞いた話、奴は闇の森で異常な能力を持ったゴブリンの軍勢と戦争になり、その指揮をとったこともあるらしい。その時も少なからずダークエルフ側に犠牲者は出ていて、だからこそ、自分の決定で犠牲者が出ることを厭うのかもしれねぇ。
そいつは、確かに人としてはまっとうな事だろう。だが大きな組織、集団のリーダーとしちゃあ難しいところだ。
別に犠牲者が出ることに鈍感、無頓着になりゃ良いッてワケじゃあねぇ。それは、間違いなく違う。だがそこに敏感過ぎても、リーダーをやってくのは難しい。
俺が言えた話でもねえんだが、その辺、やっぱレイフはこういう大集団のリーダー向きとは言えねー繊細さみてーなのがあるよな、とは、思う。
「どっちにせよ、腕前は見せてもらった方が良かろう。どうだ?」
イベンダーがそう話をまとめて、ノルドバで急遽ボーノの腕試しをする事になる。
町外れでエヴリンドとの射撃比べに、アダン相手に白兵の模擬戦。そして俺との短距離走。
そこから分かったのは、技巧においてはかなりの巧者だが、身体能力的にはやや問題がある、と言うことだ。
「確か、怪我が元で退役したんじゃなかったか?」
「膝に矢を受けたんだろ?」
以前に聞いたうろ覚えの話を思い出しつつイベンダーとアダンがそう聞くと、
「……いや、まあ怪我をしたのは確かだが、それが直接の理由じゃない。上にはそう言う風に言ったがな」
と、何やら含みのある物言い。
「白兵も射撃もかなりの技術だが、走りは感心出来ない有り様だったぞ。その怪我の後遺症でも残ってるんじゃないのか?」
そうイベンダーが詰めて聞くと、
「以前より鈍っているのは認める。だが、まるで走れないと言う程ではないし、しばらく走り込みを続けていればなんとかなる」
なるか? とも思うが、なんとしてもボバーシオ行きに同行したいと言う執念を感じるな。
「あー、イベンダー、どうでしょう。付呪品のサンダルか何か、作れませんか?」
やや思案してからそう聞くのはレイフ。
「ん? ふーむ、そうだな。以前マルクレイの肘の動きを補助するのに使った術式を応用すれば……確かにある程度は走るのを補助するものが出来るかもしれんなぁ」
肘を痛めて、鍛冶細工物仕事が上手く出来なくなっていた鍛冶師のマルクレイの為に、イベンダーは魔法の付呪でパワーアシスト機能のある腕当てを作った。
確かにそれを応用すれば、ちょうど良いものも出来るかもしれねえな。
「ひとまず、クトリア市街地へ戻るのには同行して貰いましょう。それから、改めて考えます」
と、最後にそうレイフがまとめて、ようやく俺たちは市街地へと帰還する。
▽ ▲ ▽
そこから、レイフはまた妖術師の塔へと籠もって色々な面倒ごとにかまける。何せ王国特使団との正式会談まではすぐだ。
アーロフ達は妖術師の塔の一室をあてがわれ、そこをいわば臨時のカーングンス大使館とする。
とは言えアーロフ自身は遊びまわってばかりだがな。
マーゴの方は、呪術騎兵として呪術の腕もあるが、レイフやマーランみたいな魔術の専門家に比べりゃまぁまだで、ついでというかなんというか、同じく東方系の呪術を使う狩人ギルドのティエジなんかも交えて、色々と勉強させられたりもしてるらしい。
イベンダーの方は戻ってすぐに作業へと取りかかる。ボーノの足のサイズを採寸して、マルクレイが革細工でサンダルを作り、そこにイベンダーが付呪をする。
ついでにせっかくなのでと、他数人分のサンダルを新調もする事になる。
ちょうどタイミング良く先日仕留めた数種のオオヤモリや鰐男の皮があり、それを外側に利用して炎や熱への耐性を持たせられた。
サンダルに炎耐性なんてあってもあんまり意味なさそうに思えるかもしれねぇが、何せ向かう先はここより暑い“残り火砂漠”方面になる。つまり、足元だってここらよりも熱い砂だ。随分と役に立つことだろう。
他にも、魔獣素材の使い方なんかには、東地区のリディアやそこの職人達からも諸々助言を貰ったりもする。
それと、ボバーシオ方面に詳しい人物も必要だ、と言う事になり、まずはアティックに当たってみるが、まあ当然断られる。
「あの辺の食材はもう食い飽きたし、作り飽きたのだなーう。それよりかは、その、アーロフとやらにカーングンスの料理について話をさせるのだ」
今でも狩人として凄腕なのには違いはねえが、歴戦の戦士だったというのは過去の話。今じゃぽっちゃり小デブの料理好きだ。
だが、やはりそのアティックの紹介で次に当たったのが、例のひょろぶち猫獣人のスナフスリー。
元々ボバーシオ方面を中心に活動していた男で、リカトリジオスの難を逃れてこちらまで来た。
当然地の利は知り尽くしては居るはずだが、逃れてきた場所へと再び同行してもらうってのはちょっと難易度が高そうだ。
そう思いつつもダメもとで聞いてみたところ、二つ返事で承諾を得たワケだ。
「……いや、まあ、こっちから頼んどいてこんなこと聞くのもなんだけどよ。アンタ、リカトリジオスから逃れてクトリアまで来たんだよな? いいのか? また、危険な所に戻ることになるけどよ」
なんて、聞か無きゃ良いのにそう聞くと、
「うん、まあ……よくはないけど……そうだね、仕方ないね。ちょっと色々、気になることもあるしね」
と、またも捉えどころのない返答。
やっぱりコイツは、なんだか良く分からねぇな。
そんなこんなで、火焔オオヤモリの皮等も利用して作ったイベンダーの付呪サンダルも数足。ボーノ用には走行速度上昇に、レイフの義足のそれも参考にした歩行補助の付呪。
その他、東地区の魔獣素材装備なんかも含めて諸々を新調。
他にも様々な魔導具に旅の支度を整えて、最終的な面子も決まる。
まずは俺。今回の任務のリーダーだ。
それからボーノにスナフスリー。
最後に、マーゴ。
マーゴの同行は悩みどころだったが、ベニートの雇ったと言うカーングンスを確認し交渉する上では、誰かしらカーングンスの者を同行させた方が確実だと言う事と、やはり呪術騎兵として、専門の魔術師とまではいかないが、治癒術含めた能力から選ばれた。
とにかくこの4人で、ボバーシオへの潜入任務を行う事になった。
……まあ、その後さらに厄介なおまけがつくことになるんだけどな。
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