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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-157.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(69)「こりゃ、たまらん!」
しおりを挟む海の幸。
そう、海の幸だ。
前世的にはそうくるとつい刺身、寿司、テンプラ、フジヤマ! ……と言う気分になってしまうが、生憎とやはりここでは魚の生食をする文化はあまり無い。
その代わり、まずは魚醤。魚醤と言うとまたこれつい前世知識的には東南アジアのナムプラーやニョクマムとかを想像してしまうが、ここらの伝統的な魚醤は特定の種類のイワシをメインにして発酵させたものと、そこにさらに小海老やイカの腸や貝類を混ぜて漬け込んだもので、追加するものにより風味も代わるが、想像しているような生臭さも雑味も無く、けっこうスッキリとした味わいと切れの良さがある。
それから、ブイヤベースに似た海鮮スープ。魚醤仕立てなのがちょっと違うが、香草と南海諸島経由でヴォルタス家が輸入しているスパイス類も使ったそれは、なかなかの美味。
ただそれくらいは、先日ボーマ城塞でも頂けてた。
今回はそういう、ちょっと贅沢な料理より、シンプルな取れたて魚介類の網焼き。これが一番だ。
「だぁ~ろ~? やっぱグッドコーヴはこの網焼きなのよ。軽く塩を振ってのイカに、貝に、エビにと、軽く魚醤をかけて……とかな!」
得意げなのは、もちろんそのグッドコーヴ出身のアダン氏。
青く、青く、澄み渡った海の一望できる、港町のちょっとした展望広場。そしてこれまた澄みきった青い空のもと、ヤシの木陰で軽く涼みながら、海鮮バーベキューに舌づつみを打つ僕たち。
建物の様式などは、クトリア城壁内、市街地のものと大して変わらない。ただ、お馴染みの焼レンガにモルタル塗りのクトリア様式の建物も、市街地のものがやや黄色みがかった色合いなのに対し、こちらは透き通ったような白が多い。
まったりとした昼下がり。日射しは相変わらずキツいが、涼やかな潮風。
美しく、陽光きらめく青い海に、同じ様に青い空。その中にさらにくっきりと浮かび上がる白い家々の建ち並ぶ風景は、そのコントラストも相まってなんとも心地良い。
□ ■ □
塩づくり職人の家に生まれたものの、家族は女ばかりでなにかと窮屈な思いのあったアダンは、6年前の王都解放からすぐに「遺跡探索で一旗揚げて成り上がってやんぜー!」と単身王都へ。紆余曲折ありつつも、当時同じく勢力を伸ばし始めてた“シャーイダールの探索者”と合流して今に至る。
家父長制的に考えると唯一の男子であるアダンは跡取りで、そんな我が儘勝手は許されなさそうに思えるが、クトリア、特に邪術士専横から以降のこの辺りでは、そういう感覚、風習はあまりない。加えてアダンの父も元々流れ者のいわば入り婿だそうで、今もアダンの生家の塩づくりは、姉とその夫が切り盛りして続けている。
今、新鮮な海の幸によるお持て成しは、その姉のドミーによるもの。
グッドコーヴは集落としてはノルドバの体制に近く、数人の有力者のゆるい合議制で明確なリーダーが居ない。
アダンの生家、塩づくり職人の親方をしているソレル家もその一つ。
クトリア王朝華やかな頃は第二の交易港として、また漁港として栄えてもいたが、ザルコディナス三世の暴政に、その後の邪術士専横時代にとどんどん衰退して行った。
衰退の経緯もまたノルドバと似ている。ただその後違っていたのは、ノルドバ近郊からクトリア以南を実行支配していた当時のプレイゼス達に恭順せず、独立独歩を貫いたところだ。
プレイゼスは現在劇場を支配しての娯楽興行を主としているし、また僕なんかは直接面識があるのが優男でへらへらしている“気取り屋”パコ氏ぐらいだったりもするから、魔術結社であり、しかもその実吸血鬼達の集団でもあるマヌサアルバ会や、また、元傭兵団でガチガチの武闘派集団であるクランドロールなんかと比べて、「ヤワな」人達だと錯覚してしまいがちなんだけど、色々過去の話を聞くに、彼らも彼らで本質的な所ではやはり恐ろしいギャング達なのだ。
現在のプレイゼスの中心に居るのは、ザルコディナス三世の時代に今の大劇場を取り仕切っていた劇団支配人の息子にあたるベニート氏と役者や芸人たち。
そこだけ切り取るとまったく暴力沙汰と無縁のようにも思えるかもしれないけど、実際はそうでもない。例えば戦後日本の芸能界がヤクザ興業師と無縁でいられなかったように、この世界で芸能興行をやるということは、それ自体が暴力と無縁ではいられないのだ。
その上で、実は彼らもまた、元々半密偵のような活動もしていたらしい。というか、ザルコディナス三世の組織していた密偵組織の一部が、劇場という場所と彼らの劇団を利用していた……と言うことのようだ。
まあザルコディナス三世という人物はとにかく猜疑心が強く、いたるところに密偵を放っていたからね。
けれどもその密偵組織からの忠誠心はいかがなものかと言わざるを得ない。女性のみで組織された“災厄の美妃”のデジラエさんもそうであったけど、色々な記録、証言を紐解くに、クトリア王朝崩壊、ザルコディナス三世崩御という一大事のときに、最後まで忠誠を誓ったと思える密偵の動きは全く見られない。まさに沈没船から逃げ出すネズミのごとく、こぞって王と王都を見捨てている。
何にせよその劇場を利用し根城としていた密偵組織の一部が、クトリア王朝崩壊の際に分かりやすいほどの火事場泥棒をして、邪術士達の専横が始まるより先に郊外へと逃げ出した……てのがプレイゼスの始まり。
同じような動きをした連中は当時たくさんいた。傭兵団のクランドロールももちろんそうだし、国の正規軍だった兵士たちも、派閥ごとに分裂し、山賊、野盗の類、ならず者集団へとなっていった。国を立て直し民草を守ろう……なんて動きはほとんど無かった。
そこも、元正規軍兵士の山賊野盗なんかの方がプレイゼスよりも強かったんじゃないか? な~んてことも思ってしまうが、意外とそうでもない。
まず一つに、当時の王国軍兵士は、一部を除けばはっきりいって質が低かった。
ザルコディナス三世は邪術士、つまり魔術を重視し、武闘派の将軍たちを警戒して重用していなかった。なので一般兵士の質もなおざりだし、装備も安っぽい。
この兵士への扱いが忠誠心の低さになったのか、忠誠心が低いからザルコディナス三世が重用しなかったのか。まあどちらも相互的に関係あるんだろうけど、それもあって、忠誠心の低い将軍や兵士よりも、シンプルに金の関係で割り切れる傭兵団の方が幅を利かせていた。
で、プレイゼス同様に王都でさんざっぱら火事場泥棒をしてから郊外へと逃げ、山賊野盗に鞍替えした兵士たちの集団も何種類かあった。
元兵士以外にも、元交易商も、元鉱山労働者も、元木こりも、元徴税官も、元奴隷も、まあ色んな集団が山賊野盗へと鞍替えをし、苛烈な生存競争で殺したり殺されたりもしていた。
その中で、プレイゼス達が頭一つ抜けていった理由の一つは、やはり元密偵の集団が内部に居ることによる情報戦略の上手さにもある。
もともと各地の勢力や兵士たちの内情に詳しかった彼らは、どの集団とどの集団の仲が悪く、どの集団にどの集団をぶつければ自分たちの利益になるかを熟知していた。
それともう一つは、元興業師故の人心掌握術。
例えばどのような言葉を使い交渉すれば相手が乗ってくるか、またどのような言葉なら敵対勢力の内部分裂を引き起こせるか。
もちろん、ノルドバを含めたならず者以外の人達の支持を得るのにもそれらは有用だった。
つまり、第一に、兵士や傭兵集団に比べればやや心もとないものの、元々ある程度の武力を持っていたということ。
それから、元密偵の集団がいることによる情報戦と策略の巧さ。
そして、元興業師故の駆け引き、人身掌握術。
この三つによって、プレイゼスはクトリア郊外の不毛の荒野のならず者集団の中で、頭一つ抜きん出てたワケだ。
ある程度勢力間の均衡ができてからは、さらに彼らの権謀術数が効いてくる。
ノルドバ周辺を仕切り、辺りのならず者集団とは適度に友好的に付き合いつつ、勢力をつけてきた別々の集団を争わせたり、内部に確執があると見ればそれを煽る。
例えば、ある集団の頭を贅沢にもてなし、様々な贈り物をしておきながら、それらを独り占めする強欲さを手下達に見せ付けて裏切りを誘発する……などだ。
何と言うか彼らがやってきたこの手のことだけで、結構な劇が作れそうでもある。
と、そんな彼らが直接的にグッドコーヴへの支配力を持たなかったのには、やはり相応の理由があったらしい。
まず一つに、彼らは直接的な支配領域を広げるという戦略をとっていなかったため、ノルドバ以外の周辺にはプレイゼスの下部組織、“舎弟分”的な小集団が勢力を持っていた、と言うのがある。
今は『牛追い酒場』の経営者でもあり、下院議員にまでなったメアリー・シャロン率いるシャロンファミリーが北の方で揉めていた、金貨団と名乗っていたならず者集団も孫請けくらの下部組織だったらしいし、東地区周辺でのさばっていた蠍団や、モロシタテム近辺に居た毒蛇犬兄弟とかいう連中もそう。
ここグッドコーヴの周辺には、砂袋団と言う妙ちくりんな名前のならず者たちがいた。彼らは元々は囚人奴隷たちの人足の集まりだそうで、ツルハシやシャベルなどの他に、袋に詰めた砂を武器としていた。
袋に詰めた砂なんて言うと、皮袋に砂を詰めた武器のブラックジャックを想像してしまうけれども、別にそういうもんではなかったらしい。すぐに口が開くようゆるく縛った砂袋に紐をつけてぐるぐると回し相手に投げつける。きめ細かい砂なので、飛び散るとぶわっと広がり目くらましになる。
なんだか子供の喧嘩みたいにも思えるけれど、コレ、けっこう厄介。かなりの高確率で目に砂が入り、視界も奪われるし当然痛い!
で、あっという間に囲まれてボコボコにされる。
訓練された兵士同士の集団戦なんかじゃいまいちな戦術でも、数人のならず者集同士や、漁民農民相手じゃなかなか侮れない。
その彼らが次第に勢力を伸ばしていき、遂にグッドコーヴへと攻勢に出たのが、邪術士専横時代に入ってから五年ほどの頃だそうな。
攻勢と言ってももちろん最初は、集団で脅しに来て、貢ぎ物を出せと要求してきた、という流れ。
それまで何度か、彼らよりも少人数のならず者集団との攻防あったが、グッドコーヴの人々はそれらをキッチリと撃退してきた。例え衰退していたとはいえ、基本は荒くれ海の男たちの町というところなのだろうか。
だがこの時の砂袋団達は今まで撃退してきたならず者集団の倍以上の人数が居て、元々囚人な事もあり凶悪な連中が多い。
しっかりとまとまった集落でないが故に、対応もバラバラになった。
それをなんとかまとめたのが……、
「俺のオヤジ……ってワケよ」
と、アダン。
元々流れ者だったアダンの父は、怪我をして倒れていたところを町医者に助けられ、それをキッカケにここで働き出した。特にこれといった職能があるでもなかったため、最初はアダンの家で雇われ塩づくりの労働者をしていたが、その時に偶然、交易商が砂袋団に襲われて、その生き残りがグッドコーヴへと逃げて来た。
その流れで砂袋団は「そいつを引き渡せ。さもなくば……」と、こう来たのだと言う。
これはこれで、なかなか上手いやり口だ。
アタマっから力尽くの襲撃をすれば、人数的には優り、全力で抵抗するグッドコーヴ住人相手に遅れをとる可能性がある。選択肢を投げかけることで、出鼻をくじきつつ、結束する機会も封じた。
そしてこの「交易商隊の生き残りを引き渡せ」と言う取り引きは、それだけならばグッドコーヴ側には何の損もないように見える。なので当然、手早くそれで片付けてしまおう……と言う意見も出てくる。
だが、よそ者とはいえ、グッドコーヴとも取り引きをしている交易商を野盗のならず者集団に引き渡す……と言うのは、普通に考えて決して褒められたことでもないし外面が悪い。
つまり、もしこの取引をしてしまえばそれが弱みになる。
そして、しばらくしたら彼らは再びグッドコーヴに取り引きを持ちかけただろう。
「お前たちが俺たちと取り引きして交易商隊を襲わせてると、他の交易商たちにふれて回るぞ」
……とかなんとか。
それ自体は事実とは違う。けれども彼らには交易商を引き渡したという事実がある。事実無根の潔白だとは決して言えない。疑われれば、砂袋団の言い分を補強する証拠も出てくる。それが嫌なら金と食い物を寄越せ……と。
そこから先はずるずるべったり。まさに寄生虫のようにたかり続けるつもりだったのだろう。
そこまで先の展開を読んでいたのかどうかは分からないが、アダンの父は 他の住人たちを辛抱強く説得し、その取り引きに応じたら、余計悪いことになると説き伏せた。
で、それぞれに武器や罠などを準備し、一致団結して立ち向かい撃退した……との事だ。
「あんたって本当、父さんそっくりよね」
とアダンを評する姉のドミー。
「お、おお? 勇敢でリーダーシップに溢れてる……てか?」
「口先ばっかで調子のいいこと言って、いっつも女の目を気にしてるとこ」
「何だよそりゃあ!?」
それらの顛末もあり、グッドコーヴではなかなか男気のある男としての評判だが、その後父親として、また夫として共に生活をしてきた彼女たちに言わせれば、どうやらアダンの父も、本質はそういうところのようだ。
過去のプレイゼスとの関係に話を戻すと、形としては下部の下部組織にあたるギャングが撃退されたことになったワケだが、それでプレイゼス自身がグッドコーヴ相手にことを構えようとなったかと言えば、そんな事はない。
元々プレイゼスが周りのならず者集団と裏で繋がっていたことは表にはなってなかったし、その頃はノルドバへの影響力もかなり強くなって安定してきていた。わざわざそんな連中に加勢する為にグッドコーヴくんだりまで来てリスクを負う必要はない。
むしろその状況をうまく使って、周りの山賊野盗ならず者集団の整理整頓を始めたようだ。つまり、よく言うことを聞く奴らを残し、反抗的、または厄介そうな火種を持ってる連中を潰すために、弱った砂袋団を餌にして抗争を起こさせた。
で、その辺はそれなりに上手くいったらしく、それをきっかけにして、ノルドバ周辺のプレイゼスによる支配は磐石なものになった。
この辺、補足をすると長期的に見ればここでの結果が、その後貴族街入いする際に従順なならず者集団をそのまま吸収することができ、プレイゼス達の勢力基盤になったと同時に、それによって生まれ空白地帯に、王都解放後新たに現れた魔人の山賊集団が、難なく活動できるような下地を作ってしまった……とも言える。痛し痒しだ。
まあとにかく、それらの経緯もありグッドコーヴはモロシタテムと並んで、邪術士専横時代にも、山賊野盗や邪術士達からの大きな被害を受けることなく、独立独歩と自主自治を貫き通した郊外集落の一つとなった。
王都解放後は、と言うと、それ以前からある程度の交流援助を受けていたヴォルタス家により、交易港として、また彼らの武装商船団の停泊地としても発展。
壊れていた城壁なども整備補修し、また魔人の賊徒達が討伐されて以降はさらに安全性も上がり、なかなか活気づいてもいるようだ。
「アダン、あんた他のお仲間方や、この議長様にご迷惑かけてなんか居ないだろうね?」
「そーそー。あんたす~ぐお調子乗るんだから」
長女であり塩屋の親方のドミーをはじめとする四人の姉妹達が、網焼きを盛り分けながら口々にそう言う。
「いやいや、アダンはこう見えてじつに有能な男だ。今や遺跡調査団では欠かせない存在だぞ」
「ぼ、僕も、アダンさんには色々学ばさせていただいてます」
事前にちょいとばかしアダンからの「お願い」はあったものの、イベンダーとダミオンが口々にそう言う。
「……ま、少なくとも根性だけは、認めてやれんでもないな」
その二人に続いてボソリ付け加えるのはエヴリンド。あらま珍しい。
同僚のイベンダーやダミオンからの高評価には、「またまた~」、と笑って返していた姉妹も、不意に出たコワモテなダークエルフからのこの言葉にはナチュラルな驚きを露わにする。
「ええ~? いや、そりゃまあ、確かにこの子は、昔っから突然変なこと言い出しては、意固地になって言うこと聞かないようなところもありましたけどもねぇ~」
「そーだよ、前なんか、自分は将来タコになる! とか言い出して、一日中浅瀬でぐねぐねしてて……」
「……ばっ! おま、ガキの頃の話だろ、ガキの頃の!?」
「……は!? アダンさん、その頃の経験が、今の柔軟でしなやかな防御技術の基礎に……!?」
「なワケあるか~!!」
「……そうか、意外と幼い頃からのたゆまぬ努力があったのだな」
「エ、エヴリンド? それ……ボケだよね?」
姉妹たちからの暴露トークに変な解釈をしたダミオンと、それを受けてさらに変な評価をしだすエヴリンド。
それを見ていたイベンダーが、妙なニヤニヤ笑いを浮かべながら、
「どうやらエヴリンドは、アダンの“不意の一撃”を食らってたようだな?」
と、変なコメント。
わいわい楽しいけども、話が全くバラバラだ。
「ま、アダン殿は我らがカーングンスの“血の試練”をたった1日でやり遂げだ真の勇士。姉君も誇りに思われるど良いぞ」
かかか、と大笑しつつそう付けたすのは、カーングンスの長、アーブラーマ・カブチャル・カーンの長男であり、カーングンスを代表する外交官でもあるアーロフ・カブチャル。
彼はマーゴ他数人の使節団と共に、この後はクトリア市街地にまで来て交渉に入る予定だ。
これ、政治的には現在ティフツデイル王国特使団が来てて、そちらとの交渉の最中である……と言う面で言うと、実はかなり複雑な話なんだよね。
何せカーングンスは元々はティフツデイル帝国への侵攻軍、東方の軍の一部。つまり「帝国の敵」だった勢力。当然王国軍からの心証も良くはない。
とは言え、今彼らとするのは、和平と通商のみで、同盟よりまだ前段階。交渉のテーブルに着いたばかりだ。
で、そのカーングンス一行は、モロシタテムでの諸々(モロシタテムでのモロモロ……? いや、駄洒落じゃないよ?)が済んで後、そこで一旦僕らとは別れるか、またはグッドコーヴ行きの前に共にクトリア市街地へと行くか……となったのだが、
「ついでだがら、我々もグッドコーヴで海の幸のご相伴に預がっぺ」
……とかなんとか言って、そのまま当初の予定通りに移動することになった。
で、到着しすぐ、アダンの生家ソレル家でのオ・モ・テ・ナ・シ、お持て成しにも当然の顔で同席し、これまた堂々たる振る舞いで歓談に加わってもいる。
「あ~……、けどねぇ。そう言われても、あんましピンとは来ないねぇ~」
「ねぇ~。だって、アダンだもんねぇ~」
手厳しい!
「いやいや、そーたごどはありますめぇ。アダン殿はこーたに美しく素晴らしい女性方に囲まれで、この雄大な海に抱がれで育った。そーた男が情げねえ男になるわげがねえ」
再び豪快に笑う。
そう言われた姉妹たちは、今までとは違いそう悪くないかの反応。まあそりゃそうだろう。アダンを誉めてるようで、実際には姉妹たちを誉めている。しかもかなりどストレートに。
「やだね、あんましそんなうまいこと言わんでよ」
グッドコーヴの人達とはまだ少ないやりとりしかしていないけれども、聞いた話も含めて言えば、豪快だが口の悪い海の男に、きっぷのいい肝っ玉女が多いようだ。
そこにこんな異文化からの優男が来て、こんな風にべた褒めされれば、その気はなくとも悪い気はしないだろう。
そう、実はアーロフ、結構な色男なのだ。
カーングンスは東方人で、人種的には前世で言うモンゴロイド系に近い。同じ東方人系でも、ハコブ氏なんかはクトリア人との混血でもあったけど、インド系の彫りの深い顔立ち。
カーングンスの人達は、狩人ギルドのティエジ氏やティーシェさんなんかに近い。
つまり、あまり彫りが深くなく、平板で、目は小さめで一重。
ただこのアーロフは、確かに面長で平板、彫りは深くなくつるりとした印象のある顔立ちなのだが、何と言うかこう鼻筋がしゅっと通っていて、小さくはあるが切れ長な目をしている。
肌も焼けて色黒で精悍。ドワーフであるイベンダーなんかよりもよっぽど豊かな髭をたくわえていて、睨まれたりすれば結構ビビったりしちゃうくらい迫力もあるが、その小さな目を細くして微笑まれると、ギャップもあって意外に可愛らしくもある。そしてその上、アリークに勝るとも劣らない偉丈夫でもある。
この辺、恐らく間違いなく計算でやってると思えるんだよね。 髭を蓄えるのはカーングンスの風習でもあるんだけれども、やはりここいらでも男らしさや力強さの象徴。守旧的なのを嫌う若者や、エルフ的なものを良しとするタイプのインテリ層なんかでは敢えて髭を剃るのも流行りらしいけど、まあそう、ではない。
その男らしさアピールの上に、訛りはあるものの巧みな弁舌に屈託なく見える笑みで述べる率直そうなほめ言葉。
相手にどういう面を見せて、どういう語り方をすれば効果的かを考えての立ち振る舞いだ。
カーングンスの外交官の肩書きは伊達じゃあないか。
ま、とはいえ今はそんな話は関係ない。
今の僕に一番大切なのは、そう……。
「あ、こっちの海老、もう焼けただね」
全長40センチはあろうかと言う、ロブスターのような大きな海老!
程よく焼けたそれを切り分け皿に乗せて、海塩をパラリに小さなライムをキュッと絞る。
こりゃ、たまらん! よだれズビッ! ってなもんですよ!
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