351 / 496
第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-151.マジュヌーン(84)静寂の主 -ふっ飛んでJUMP
しおりを挟むいつもなら、ダーヴェと小作人達に、バールシャムの孤児院、“慈愛の館”から引き取ったガキどもが、雲ひとつない青空のもと、朝の新鮮な空気を吸いながら畑の世話をしている時間だ。
今日もまた、鮮やかな空は変わらねぇ。
違うのは、吸い込む空気に混じるのが土と作物の匂いじゃなく、血と臓物と火、そして多数の犬獣人の匂いだと言う事。
サーフラジルの密林地帯で起きた山火事は、今はここラアルオームにまで飛び火している。元々山火事を起こしたのも、猪口に言わせりゃリカトリジオス……その傘下に降った静修さんの企てだと言うし、目の前でリカトリジオス兵達の指揮をとっている大賀もやはり、その静修さんの策の上で動いているんだろう。
「……何故だ? 何で……こんな事を……?」
絞り出されたその言葉は、あまりに当たり前な問い。
「ふん、今更か?」
だがその問いには、呆れたような大賀の返し。
「そう思うんだったら、ハナから反リカトリジオス同盟など組まなきゃ良かっただろうよ?」
違う……、と、そう叫びかけるが、上手く声にはならない。
確かに反リカトリジオス同盟は俺が作ったワケでもねぇし、俺も加わってるワケじゃねぇ。だが、カリブルをはじめとする同盟の連中と共に、幾度となくリカトリジオスとぶつかり、その策略、作戦を妨害し、潰してきたのも事実だ。
「“不死身”のタファカーリの奴をお前が潰したってのは、俺たちにとっては“朗報”だった。だが、そうなりゃ奴の戦略を引き継ぎ発展させたシューが、お前を含めた“砂漠の咆哮”の反リカトリジオス同盟を潰しに行かなきゃ面子が立たない。
リカトリジオスは、決闘もそうだが、面子にも拘るからな」
“不死身”のタファカーリの廃都アンディル拠点化策は、南征を止めて東征……つまりはクトリア方面へと進軍する策の要だったと言う。
なら、それを引き継いだと言うシュー……静修さんは、やはり東征を基本戦略としているんだろう。
なら何故今、残り火砂漠の南方のサーフラジル、ラアルオーム、そして“砂漠の咆哮”の野営地にこの農場を攻撃する必要かあるのか?
それが……面子のことも含めて、“反リカトリジオス同盟”を潰しておく為だけと言うのか……?
「……静修さんは……」
その疑問への問いではない言葉が、俺の口から漏れ出ていく。
「リカトリジオスからは抜けられねぇのか?」
「抜ける? 何でだ?」
お互いに道は別れた。だがそれでも、静修さん達がリカトリジオスにさえ居なきゃこんな風に争い合う必要はなかった。
だが大賀の答えは簡潔かつシンプル。
「リカトリジオスから離れる理由の方が無い」
つまり、大賀も、猪口も、そして静修さんも、今のリカトリジオスの在り方、その中で自分たちが“出世”し、勢力を伸ばして行くことを、完全に受け入れている……ということだ。
「だいたい、お前らはこんな猿共の街で呑気に畑仕事なんざしてるから分かってないみたいだがな。
そもそもこの世界……獣人種や俺らの生きて行ける場所は、元から少ない」
「俺は“オーガ”と呼ばれる種族だそうだ。人間からは“食人鬼”と呼ばれてる。ふん……まるで害獣扱いだな」
大賀はそう言いつつ、両手で顔を撫で下ろす。
「俺たちをこの世界に生まれ変わらせたあのジジイは、相当悪趣味な野郎だ。どいつもこいつもろくな生まれ変わりはしちゃいない。
食人鬼として生まれ変わり、クトリアの邪術士の実験材料にされてた俺が、あのまま地下に残ってたら恐らく“害獣扱い”のまま殺されていた。
俺が今ここで生きてるのは、間違いなくシューの導きに従ったおかげだし、この世界の人間社会に居場所の無い俺が生きてくには、リカトリジオスで地位を上げて行くのが一番良い。
そこは、俺も、シューも、イーノスも同じだ。お前らにしても……その方が良かったかもしれんがな」
三年……。
俺らの知らない静修さん達の三年。
その間に何がどうしてこうなってるのか俺にはわからねぇ。だが、外側から見るリカトリジオスの在り方からは、マトモなトコロにゃ思えねぇ。
「あんたらだって、ココで畑仕事しながら酒造りして過ごす事だって出来るんだぜ」
「ハッ!」
俺のその言葉に、大賀は鼻で笑って返す。
「そりゃおまえ、役不足ってやつだ。
俺やシューの持つ力は、それよりデカい事に使うべきだ。そうだろ?」
岩みたいにいかつい大賀の顔立ちは、基本は人間に似てはいるものの、獣人たちのそれみたいに表情が読めねえ。だが今のは簡単に分かる。
「そのデカい事ってのが……コレか?
辺鄙な農場を襲い、ぶっ壊す事か?」
「これは手始めで、見せしめだ。
東征する上で、廃都アンディルを拠点化すると同時に、後顧の憂いを断つ必要があった。
一番は“砂漠の咆哮”だ。その中の反リカトリジオス同盟とやらもな。
“砂漠の咆哮”自体は領地を持たない流れ者の集団だが、だからこそ神出鬼没にチョロチョロ動き回られちゃあ困る。今回の作戦じゃ、ラアルオームの野営地だけじゃなく、“砂漠の咆哮”が利用してる全ての野営地を、リカトリジオス軍が急襲し壊滅させている。
アールマールの猿獣人は砂漠に進出しないし、それより南の蹄獣人部族も問題にならん。猫獣人中心の“砂漠の咆哮”だけが、残り火砂漠周辺の邪魔者だった」
全ての野営地……。“砂漠の咆哮”が常時利用している残り火砂漠内の野営地は、20以上はある。
そこの常駐兵力は“砂漠の咆哮”の戦士だけではなく、狩人や隊商護衛なんかも含めれば相当なものだ。リカトリジオスが兵力を分散させて同時に攻めたというのなら、そうそう簡単に落とせるもんでもねえはずだ。
だが……。
「内通者か……」
カリブルの従者、アラークブの顔が思い出される。
内通者を先に忍び込ませ、また作り出しての作戦行動ってのは、サーフラジルでもやっていたリカトリジオスの常套手段。
特に“砂漠の咆哮”の野営地は、隊商、狩人、商人、野鍛冶師と、普段から利用する者達が多い。
その中に内通者を仕込むのは、そう難しい話じゃあねぇ。
「ああ、だからお前らの動向も筒抜けだった」
こっちは暗中模索、手探りしながら何とかリカトリジオスの動きを探ってたが、リカトリジオスは……いや、静修さんはそうじゃ無かった……て事か。
「それにな……」
ここで、大賀はその横に立ち尽くしていたダーヴェの肩をポンと叩く。
「田上の奴は、元からシューの部下だ」
言われて、俺はギョッとしてダーヴェの方を見る。
やはり元から表情の読めない犀人の顔からは、何の感情も伺えない。
「どういう事か分からない……て顔だな。ま、そうだろう。
だが、今のまんま言葉通りの意味だ。こいつはもとよりシューの部下。そしてそいつは前世でも現世でも、てことだ」
前世でも、現世でも……?
混乱する。どっちの事も、意味が分からねぇ。
「田上の家は貧乏子沢山で、スポーツ特待生になれたつっても、レスリングに専念しようとすりゃあ負担になる。そこを援助したのが宍堂家だ。
その代わりに、宍堂の親父は田上に、お前の友人になって監視役をするよう頼んだ。その報告を受け、指示をしてたのはシューだ」
アマレスのスポーツ特待生。しかも田上は猪口と違ってかなりガチで取り組んでいた。
その田上が、いくら人付き合いに長けた樫屋を間に入れたとは言え、俺みたいに周りから疎まれ嫌われていた厄介者の不良と連むようになる……。
その事を、妙だと思ってなかったと言えば嘘になる。
だが、ガチガチの体育会系でスポーツエリートの割に、妙にヌボーっとした所のあるつかみどころのない田上の性格もあり、初期に感じていたその疑問はすぐにどこかへと消えた。
だが……。
「マジか、田上……」
俺のそのか細く弱々しい問いに、やや間があってから、
「ゾうだ……」
と返ってくる。
「さっき、現世でもと言ったよな。
お前はもしかしたら、俺達全員ただの邪術士の奴隷か実験動物だったと思ってたかもしれないが、一部は違う。シューにイーノス、そして田上……。
こっちは奴隷や実験動物じゃなく、それを管理する看守役だった。
そしてシューは、その中でも隊長格。元々、田上もイーノスも、その部下としてお前らを管理したり、逃亡奴隷や侵入者達を捕らえ、追跡し、場合によっちゃあ処刑する……。
そっち側の立場だったんだよ」
“不死身”のタファカーリの話を思い出す。奴は邪術士専横時代のクトリアへと侵入し、捕らえられている犬獣人や猫獣人などの獣人種達を解放する作戦に従事していた。だが、それを追跡してきた敵部隊の中に、巨大な蹄獣人が居たとも言う。勿論、それがダーヴェかどうかは分からねぇ。
そして仮それがダーヴェだったとしても、それは前世の……田上の記憶を蘇らせる前の事だろう。
「そんななァ……どっちも“前”の話……だろ?」
俺はそう返すが、だがその声に力はねぇ。あるのは虚勢と、不信と、焦燥感。
現世での、田上としての記憶を蘇らせる前の事は……どうでも良い。だが、前世での事は……どう受け止めて良いのかすら分からねぇ。
俺の血縁上の父親、宍堂静太郎が金で付けた監視役……。
その話が本当なのか……本当なら……いや……。
「マジー……」
再び、ダーヴェがそう言葉を向ける。
「戦ヴな……勝ヂ目ヴぁ……無い」
降伏し、リカトリジオスに降れ……。
そう言う事か?
「そう言う事だ。
降ればどうあれお前らは助かる。特に……真嶋、お前は“不死身”のタファカーリのとこで“血の決闘”をして勝ってるらしいしな。そこそこの好待遇で入れるだろう。
田上も……まあ問題なく勝てるよな。お前のその犀人の肉体に、前世で培った技もありゃ、リカトリジオスの十人隊……いや、二、三十人隊程度なら素手で蹴散らせるだろ?」
ああ、そうだろうな。強い事、決闘での勝利。それはリカトリジオスで最も尊ばれるものだ。
「───カリブル……猛き岩山の連中はどうなる?」
俺たちの農場の隅、岩ばかりの荒れ地に住むブサイク面とその部族……、そして助け出した少年兵や奴隷兵たち。
「猛き……ああ、脱走兵どもか。
奴らはダメだ。脱走兵、脱走奴隷は全て処刑。これは動かせん」
「マハ……女たちは?」
「女はリカトリジオス兵にはなれん。奴隷だ。だが、お前のお気に入りのオンナがココに居るなら、決闘で勝ち取ることでお前の専属奴隷に出来るぞ」
……まあ、そうか。そうだろうな。聞くまでもねぇ、知ってたぜ。リカトリジオスがどんな所で、どんな原理で動いて居るか。
そりゃ、当然……。
「……そんなモン……」
「よグ、考えロ、マジー……」
ぬぅ、と、俺の眼前へと迫る巨体。ダーヴェはこちらの呼吸を盗むかに、いつの間にか俺を射程圏内へと収めてる。
「いいガ、勝ち目ヴぁ、無い。だガら、戦ヴな」
そしてダーヴェの野太い腕が俺の襟首を掴むと、そのまま持ち上げた。
「……てッ……てめぇ……ッ……!?」
じたばたともがくが、がっちり掴まれ手も足もでない。
「いいガ、何があッデも……戦ヴな……逃げろ」
最後に一つ、そう小声に耳元で呟くと、そのまま右手を振りかぶって遠くへと俺を投げ飛ばした。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる