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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-146.マジュヌーン(79)静寂の主 -おサル音頭
しおりを挟むだいたい半年以上は前になるだろうか。
ルチアの依頼を受けてアールマールの入り口都市サーフラジルへと出向き、そこでリカトリジオスの内通者を探し出し、結果、謀反を起こそうとしていた連中を一網打尽にした。
その過程で知り合ったうちの一人が、サーフラジルの荒くれ共を纏め、人足頭を務めている気っぷの良いクァド族の姉御肌、“銀の腕”だ。
金毛逆毛で、背が高く傷だらけの顔をしたシャーウ・ロンは、その“銀の腕”の子分の一人。
はっきり言って性格は底意地が悪く執念深い。要するにチンピラを絵に描いた様な野郎ではある。
そのシャーウ・ロンが、三人程の手下を連れてここラアルオームの“砂漠の咆哮”野営地へとやって来ている。
で、そいつと額を突き合わせるかの距離で睨み合いをしてるのは、反リカトリジオス同盟の唯一の猿獣人戦士、ファーディロン。
「おいおいおい、お山の大将が山から降りて来て、何しようってんだ、あぁ?」
「てめーこそ、尻尾巻いて逃げ出した臆病者が、こんなところで何してるッてんだよ、ええ?」
傍目にゃ完全に不良のメンチの切り合い。前世を思い出しゃなんだか懐かしくもなるが、目の前で知り合い同士がガチャガチャやりあってんのを、事情も分からず眺めてンのも座りが悪い。
「おい、なんだよガチャガチャうるせぇな。お前ら知り合いか?」
めんどくせーがそう言って割って入ると、
「はっ!! こんなやつ全然知らねえな」
「こんなふざけた不細工ヅラなんざ、見たこともねぇし見たくもねぇ!!」
「……絶対知り合いだろお前ら。しかもかなり縁が深ぇ」
今にも掴み合いになりそうな2人だが、同じクァド族ってこともあるんだろうが、体格やら顔立ちやらもお互い似てやがる。いや、待て待て、ちょっと待てよ? 片方は金毛逆毛のシャーウ・ロン。そしてこっちは……シルバーバックのファーディロン……いや、ファーディ・ロン、か?
「まさか……お前ら、“兄弟”かなにかか?」
シャーウ・ロンはクトリア語が弱いから、“兄弟”の部分だけは猿獣人語でそう聞くと、
「はッ!? ふざけンな、誰がこんな糞野郎と兄弟だと!?」
「こんなヘタレのクズのゴミ野郎と血が繋がってたら、恥ずかしくて表も歩けやしねぇぜ!!」
「なんだとコノヤロウ!?」
「やろうッてのかこの糞チビリ!?」
「やるのか、あぁ!? やるんだなこの野郎!?」
「やってやるわボケェ!!」
……駄目だこりゃ。
取っ組み合いが始まって、俺や何人かの“砂漠の咆哮”の戦士、シャーウ・ロンの連れやらで羽交い締めにして引き剥がす。“鋼鉄”ハディドや他何人かは、むしろ面白がって囃し立てるからより始末に悪ぃ。
無駄に結構な体力を使い、それぞれ引き離し距離を取って一段落。
こっちからすりゃあロクに事情も分からずに喧嘩の仲裁してるんだから、さらにムダに神経も使うぜ。
「兄ィ、マズいっスよ!」
「姉御の頼まれ事、きちんと済ませてからでなきゃ……」
シャーウ・ロンを押さえつけてるツレ連中は、何やらそうごにょごにょ言う。ここでの“姉御”ってのは、まあ“銀の腕”の事だろう。
つまりシャーウ・ロンの奴は、“銀の腕”から何かしら命じられて、サーフラジルからラアルオームの“砂漠の咆哮”の野営地にまで来てる。
で、そこでばったりと、どうやら過去に何かしらの因縁があるであろうファーディ・ロンと出くわした……、と。
「シャーウ・ロン。“銀の腕”、何お前、命じた?」
まだぎこちない猿獣人語で俺がそう聞くと、
「な、何だ……と、……あぁ!? お、お前……あの時の!?」
と、今更ながらに俺のことに気が付いたらしい。マジで今更だな、おい。
「な、何だ、てめぇ、な、何で、“銀の腕”からだと、分かンだよ!?」
「ふつう、分かる。他に、理由、ない」
「おおい、マジュ、おめーコイツ……あ~……、この、間抜け知ってんのか?」
「あぁ!? 誰が間抜けだコラ!?」
「てめーだよ糞毛野郎!」
「ブッ……殺……ッッ!!!」
「兄ィ、今は! 今は! マズいっスよ!?」
……あぁ~……もう……、
「ゴチャゴチャうるせぇ!!!!」
離れた所からコッチ指差してゲラゲラ笑ってる“鋼鉄”ハディド含めて、全員横に並べてぶん殴ってやりてぇ!
とにかく場を落ち着かせてシャーウ・ロンの話を聞くと、やはり要件は火災関係で、火消しの為の人集めをしている“銀の腕”だが、なかなか思うように集められず、“砂漠の咆哮”にまで出向いて、依頼をしに来た……と。
「……それとな、猫野郎。お前の主のアールゴーラとは、連絡取れんのか?」
シャーウ・ロンの言う“主のアールゴーラ”ってのは、“闇の手”の一員で怪力巨躯のゴリラ野郎、ムスタの事だ。
サーフラジルでのリカトリジオス内通者探しの際に、俺はムスタと協力し、またその時々に応じて偽りの役割設定をし、演じながら探っていた。
“銀の腕”たちと関わったときには「落ちぶれたアールゴーラの主とその下僕」と言うふりをしていて、その後“銀の腕”が実は王家直属の密偵組織の一員だと判明した際に、“銀の腕”からはムスタが王家に関わりのある何者かだとの誤解をされちまったんたが、面倒くさいのでその誤解はそのままにしてある。
なのでシャーウ・ロンからも“銀の腕”からも、俺とムスタの関係は主とその下僕と言う認識のまま。
まあ、これも殊更誤解を解くのも面倒だし、そのままにしてある。
「知らない。サーフラジルの隠れ家には居ないか?」
ムスタはサーフラジルに隠れ家として安酒場を持って居るが、俺はあれ以来立ち寄ってない。
「糞……じゃあ連絡は取れねぇのか?」
シャーウ・ロンの苛立たしげな問いに、俺は首を振って応える。
ここんとこ、“聖域”に行ってもムスタのみならず、アルアジルもフェルトナも居ない。話によると“闇の手”には、“聖域”にまでは入れない下位構成員まで含めればけっこうな人数が居るらしいが、この間始めて会った蛙人含めて、俺が直接知ってるのは四人だけだ。その内三人は、現在音信不通。普段はストーカーみてえな奴らの癖に、連絡つかねぇときはトコトン連絡がつかねぇ。
「……チッ、仕方ねぇ。テメーでも良いぜ。“銀の腕”が呼んでっからよ、ちょっと面貸せや」
これまた不良の呼び出しかよ、ってな物言いだ。マジでコイツと話してると前世が懐かしくなるぜ。
「おい、マジュヌーン、この馬鹿、何か因縁つけてんのか? 何なら、俺もやってやんぞ?」
ファーディ・ロンが横からそう口を挟むと、
「おい、テメー今、“馬鹿”っつったか、あぁ!?」
「おぅ、自分の事言われるとクトリア語も理解出来んのか?」
と、またもしょうもない口喧嘩。
「別にそーじゃねーよ。ただ、まあ……“銀の腕”か……」
何かは分からんが、あの“銀の腕”が話があるッてんなら、そりゃ聞いておきた方が良さそうではあるぜ。
「ああ? ちょっと待てよ、マジュヌーン? お前、姉御とどんな関係だ!?」
「テメーにゃ関係ねぇ!」
「黙れ、シャーウ・ロン。話、進まない。
あー……、前にサーフラジルでの依頼受けたときにちょっとな」
ただでさえ説明するのが面倒な経緯なのに、シャーウ・ロンが余計な口を挟むからさらに面倒になる。
「……うぅ~む、そうか、まあ、うん……だが、お前が姉御となぁ~」
「馴れ馴れしく姉御と呼ぶんじゃねぇ!」
「うるッせーなテメー! マジで食らわすぞ!?」
「どっちもうるせぇよ!!」
ッたく……きりがねぇな。
「あーもうめんどくせー、お前らほんとめんどくせえ。
とにかくよく分からんが、お前らは親戚だか兄弟だか、元々なんか関係あったんだろ? で、何か分かんねーけど、昔何か揉めた事があって、ファーディ・ロンはサーフラジルを去った。で、その揉め事には何かしら“銀の腕”が関わってる……。要するにそんなとこだろ?」
とにかく面倒くさい奴ら二人の軋轢だか何だかを整理してやると、まさに鳩が豆鉄砲食らったみたいな面をしたファーディ・ロンが、
「おいおい……な、何で分かンだよ、おい……」
と、呆然と言う。
「分かるわ!」
と叫んで返すが、クトリア語のよく分からないシャーウ・ロンの方はややきょとんとしてる。
「とにかく、お前ら、面倒だから、揉めるな。揉めるなら、“銀の腕”とは、会わない」
「ぐッ……な、て、てめぇ……」
シャーウ・ロンはまた興奮し顔を赤くするが、さすがに以前、俺とムスタの2人に手下共々コテンパンにのされたのは覚えているらしいし、まあ“銀の腕”からもこっちと揉めるなと厳命されていたンだろう。怒気をなんとか飲み込み押さえ込む。
「支度、既に、出来てる。農場に使いを出して、伝言したら、すぐにサーフラジル向かっても良い」
“砂漠の咆哮”の野営地に依頼探しに来るときは、旅の装備一式を持って来る。場合によっちゃそのまま現場に出向くかもしれねぇしな。
「おい、何だよ、おめぇサーフラジル行くのか?」
「元々、ウチの農場の取引先の状況確かめなきゃなんなかったからな。まあ、仕方ねぇわ」
なんだかんだ言って、現在進行形で森林火災が起きている現場に直で乗り込むのは気後れしていたが、どうにもこの辺でうだうだしたところで埒が明かねぇみてーだしな。
さて、まずは農場に手紙を書いて使いをだすか。いや、まだマハ達に話を通せるか?
などと考えてると、
「じゃあ、俺も連れて行けよ」
と、ファーディ・ロンが言って来る。
おっと、またシャーウ・ロンががなり出したな。うるせーよ、マジで。
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