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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-134.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(62)「ガチでなんつーか、ザ・体育会系!」
しおりを挟む「どぉりゃあ! あと……3……人ッ……!!」
気合いの声……なのか、雄叫びなのか。とにかく大声でそう叫ぶアダンに、まあやたらと盛り上がり歓声を上げるカーングンス達。
しかし……いやまあ、本当、ガチでなんつーか、ザ・体育会系! なノリ。その上この“血の試練”、運が悪ければ死ぬ事もあるらしいので、かなりヤバい。
いや、魔法薬とか治癒術とかあるから感覚麻痺しちゃいがちだけど、途中でそれらを使うことは許されないので、ダメージの蓄積もヤバいし、それで弱ったところで打ち所が悪ければ、それ一発で……て事だって有り得るワケで……。
「……うわ、ね、もう……かなり……ヤバくない?」
痛そうだしヤバそうだし、見てられない!
「……いや~、ありゃ……まだ余裕だな、アダンの奴」
「うむ、まだまだな」
「え!? そうなんですか?」
明らかにふらふらなアダンの様子を見つつ、余裕のコメントをするJBにイベンダー。それに驚くのは僕だけではなくダミオン君もだ。
「ダミオンはまだそんなにやっとらんか。ま、訓練のときにもっとガンガンやってりゃ分かるが、アダンの奴、ああ見えて防御術はかなりのモンだ。というか、探索者仲間じゃずば抜けている」
「特に、こういう微妙なところでポイントをズラして、相手にはいい一撃を入れた……と思わせつつ、その実感の十分の一も食らってねー、みてーなの、めちゃくちゃうめーからな~」
え、そうなの?
「盾使いが上手いと言うのは知ってますけど……でも、今、素手ですよね?」
「基本は同じだ。盾でも、身体を使った防御でも、要はどう上手く打点をズラすか。相手の攻撃の一番良い所で受けず、自分の一番良いところで受ける」
「ま、理屈で言やあ簡単だが、それを実践出来るかどうか……だよな。アダンの奴のは、かなり天性のセンスもあるぜ」
ふへ~、まあ、確かに理屈は分かるけど、正直実感としてはさっぱり分からない。
「……あ、でも、そう言えば、ほら、ノルドバでのさ……」
ノルドバを発つ日の朝、早朝訓練としてアダン対エヴリンドの模擬戦では、アダンは本当の本当にへろへろのフラフラになっていた。
「あ~……アレな」
言いつつ、チラリと横のエヴリンドを見るJB。
まるで睨み付けるかの表情で、8人目の拳を受けているアダンを見ているエヴリンドには、これはなかなか声を掛けづらい。
「ま、相性が悪い」
「だな」
ほほう、それは……?
「どういうことなんですか?」
と、僕の内心を代弁してくれるダミオン君。
「アダンの防御は、まあドワーベン・ガーディアン相手のときは単に力の流れ、押し引きのタイミング……と、そういうテクニックだけだが、対人の時にはそこに心理戦が加わる」
「簡単に言やあ、相手を調子づかせるかビビらせるか。特にアダンは、相手を調子づかせて勢いに乗せて、おお振りをさせるのがうまい」
「あいつ、ぱっと見はすげえひょろひょろっぽく見えるだろ? だから例えば、ちょっと相手の打撃を受けた時にふらつくふりをすると、あちらさんはいいのが入ったと思って畳み掛けようとする。
けど、それが誘いなんだよな。それでできた隙に、まずは盾の一撃をガツンとかまして、間髪入れずに右手のメイス。
まあ町のチンピラぐらいならこの必勝パターンでほとんどやれるぜ」
へぇぇぇ~。いや、ごめんなさい、正直あのアダンさん、そんな駆け引きとか頭使って戦ってる人には見えなかった! それは本当見損なってた、ごめん!
「……で、相性……って言うのは……?」
これまた僕の代わりにエヴリンドをちら見しつつ聞くダミオン君。
「そりゃ見ての通りだ。この姐御、どんなに誘っても煽っても全然調子に乗らない」
「ああ~……」
ため息と共に納得する僕とダミオン君。
「要するに、冷静沈着で状況分析に長けた相手には、この手のアダン流の心理的駆け引きは通じねぇーんだよな」
「その上、間合いの取り方だの攻撃のスカし方だのは、アダンの上をいっておる」
まあ、そーだね~。エヴリンドが戦闘で調子に乗るところとか、想像出来ないものなあ。
しかしそのエヴリンドが、不意を突かれ、また“災厄の美妃”による魔力吸収と言う手を使われたとはいえ、ほぼ手を足も出なかったあの襲撃者……ますます只者じゃないよ。ちょっと対策を考えとかなきゃならない。
とかなんとか言ってる間に、9人目 からの最後のパンチを受け切るアダン。
見てると本当に痛そうで辛そうに見えてしょうがないんだけど、それがある種のブラフ、駆け引きのためのフリだというのは……う~んむ、にわかに信じがたい。
「いいぞ、おめえながながの根性だ!」
「最後の一人だ! おめなら耐え抜げるぞ!」
周りのカーングンス達も、完全に応援状態。この辺もめちゃ体育会系っぽい。
「……普通はな、一回で10人分の試練を受げるごどはねえんだ」
不意にそう声をかけてきたのはカーングンスの女騎兵のマーゴ。
カーングンスは父系社会の部族なので、基本的には戦士、騎兵は男、呪術師は女、呪術師の才のない女は主に家事、採取、羊の世話、または呪術師の下働きと言った仕事が一般的だそうだ。
もちろん、呪術師は何より才能が必要なので、男でも才能があれば呪術師の下について訓練もする。
そこから、完全な呪術専任の呪術師になるか、呪術を補助的に併用して戦う呪術騎兵になるかはまたそれぞれ。
だが逆の、女でありながら騎兵になる者は珍しい。
もちろんそれは、騎兵として一人前と認められる為には、騎乗術や騎射術の腕前の他に、この“血の試練”を必ずくぐり抜ける必要があるからでもある。
「この儀式で試されるのは、ぶっくらされ続げで耐えられる頑強さだげじゃねえ。
痛みに立ぢ向がい、そして何度ぶっくらされでも挫げずに挑戦し続げるその根性……。それがあるがどうが。
だがら、実際には何日ががげで試練を受げでも構わねえ。
こいづにはそんたけの根性があるど、周りの仲間に認められればいいんだがらな」
あら、そうなんだ。
でも今回は、彼等なりの価値観において、「僕らの証言は聞くに値するかどうか?」を、まさにその根性試しの結果如何で決めるというのだから、そうそうのんびりと何日もかけて試練を受ける時間はない。
「今までこの試練を1日のうぢに達成したのはごぐ一握り」
「その一人が……」
マーゴに続いて、若巫女様ジャミーに、彼女の護衛をしていた若い騎兵たちがそう言葉を続ける中、新たに広場中央へと現れたのは……。
「若君様!」
「若君様自ら!?」
アダンの前には上半身を剥き出しにし、下履きのみの半裸の偉丈夫。
鍛え上げられしなやかな、それでいてややうっすらと肉の乗った貫禄ある体型の背の高い男。例えるなら……うーんそうだなぁ、ルチャリブレを専門とする軽量級の若手レスラー……って感じかな?
その見事な肉体を晒しながら、次期族長と目されている若君様、アルークが現れる。
「おめの根性は見上げだもんだ! 最後の一人は、この俺自らが相手をしてやっぺ!」
おおおお、と、まさに赤壁の渓谷が揺れんばかりの大歓声。
「……え、ちょっと、これ、不味くない? だってあの若君様って、こっちの意見を封じたい立場だよね? 全力で潰しにかかってくるんじゃないの?」
カーングンス達はなんとも無邪気に大盛り上がりだが、正直僕には不安しかない。
この儀式の本来の目的はあくまで根性試しにある……というのであれば、殴る側だって本気で潰そうと思ってくるわけじゃない。でも今回このケースに関しては……違うんじゃないか? と、そう思える。
「無礼なごどを言うな。確がに若君様どは意見を異にするが、そのような姑息な真似をする方ではねえ」
「兄上は、儀式の神聖さを重視してる。彼が耐え抜げば、おめ達の言葉もちゃんと聞いでぐっぺ。けど……」
けど?
「……むしろそこが問題だ。“血の試練”を通過した者のことを、アルークはかなり信用してしまう。だから……」
「───おいおい、俺に断りなしにまた面白そうなことしてるじゃねえかよ」
話をしている僕たち、そして盛り上がるカーングンス達の間に、不意にそう、野太い声が響いてくる。
太い肉、だ。肉の塊……とでも言うべきだろうか? とにかく、パッと見の印象はそう。
上背はそう高くはなさそうだ。いや比率が狂って見えるからそう感じるだけかもしれないが、それでも2メートルは越してないだろう。
それよりも目立って感じるのは、厚み。胸板も厚い、胴回りも厚い、腕も足も厚いし、首も厚い。全てが厚く、そして太い。
太く厚い体を太く厚い脚が支え、そしてその上の頭を、太く厚い首が支えている。
そしてそう、何よりも目立つその頭。その頭は豚……いや、猪……だろうか?
ガンボン、つまりオークのような意味での「豚っぽい顔をしている」などというような意味でのそれじゃない。ほとんどまんま猪そのもののように見える顔が、野太く熱い身体の上に乗っかっている。
「おお、遅がったでねえが!
こーた遅ぐまで一体何をしておったのだ?」
「ふん、暇ぶっこいてたもんでよ。ちょっとばかし狩りに出かけたら、思いの外獲物が穫れ過ぎちまった」
そういう猪頭の野太い男の背後からは、これまた頑強な体つきの犬頭……つまりは犬獣人達が、何頭もの鹿、鳥、兎に狼……そして各種オオヤモリを何体か……とにかく山のような“獲物”を下ろしている。
「あ……あれは……?」
「リカトリジオスの使者……。
1日で“血の試練”の全でをやり通した、数少ねえうぢの一人だ」
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