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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-127.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー(57)「ここからが本番だ」
しおりを挟む夜の闇をひたひたと歩くその群れは、月明かりに照らされてるにも関わらず濃い影の中に蠢いている。
見た目は薄い茶色の毛並みに濃い黒いまだら模様がある短毛の犬のようだ。耳は大きく長くピンと立っていて、周囲の音をくまなく聞き取り、獲物や敵を探るのに優れている。鼻面にかけて黒ずんでいるその顔は、一見すると何やら間抜けなようにも見え可愛らしくも思えるが、骨格、筋肉、そして鋭い牙と頑強な顎が、その本質が獰猛な獣であるということを伺わせる。
マダラミミグロと呼ばれるイヌ科の野生動物に似ている毒蛇犬、または夜追いと呼ばれる闇属性の魔力を持つ魔獣だ。
体格はさほど大きくない。せいぜいが中型犬ぐらいで、姿勢は猫背気味。リカオンやハイエナなどのイヌ科の肉食獣に近い風貌の、クトリア周辺から残り火砂漠にかけて生息する、群れで狩猟をする肉食獣。
体格や顔立ちなどはほとんど変わらない。だが、一目見れば明らかに違うもと、魔獣だとわかる最大の特徴は、腰から後ろの下半身が爬虫類のような鱗に覆われていて、さらには本来は尾のあるはずの場所に、蛇の胴体と頭がついてるということだ。
上半身が犬、下半身が爬虫類、そして尻尾が毒蛇と言う、合成獣タイプの魔獣なのだ。
僕がこの魔獣を始めて見たのは、“土の迷宮”でのこと。
最初は敵として。それからは従属魔獣として戦い、また、使役もしてきた
概要はケイル・カプレートの著書や、妖術師の塔の中にあった蔵書なんかでも知っているし、そしてイベンダーやJB等からの色々な話でも知っている。
特徴はまず、群れがチームワークをもって獲物を狩るということ。
尻尾の毒蛇の毒はかなり強力なものであるということ。
そして何よりも、非常に高い隠密能力。
夜行性で夜の間しかほとんど活動することのない彼らは、ひっそりと音をたてることなく移動し獲物へと忍び寄る。その上さらには闇の魔力による隠蔽なども行なっているため、魔力感知の出来ないほとんどの人たちは、狙われたらほぼ逃れることは不可能。
が、逆に言うとそれって僕らのように魔力感知ができる者にとっては、隠れてるつもりでも所在はバレバレ。毒と隠密能力と群れのチームワークを除けば、個体としてはさほど強い魔獣ではない。
姿を隠した状態の熊猫インプに【憑依】して、僕はその群れ気配に紛れてそろそろと移動する。この群れは既に廃塔で夜営をしているカーングンス達を確認しているようだ。
群れの数はおよそ20頭近く。結構多い。数で言うならばカーングンス達よりも上回っているが、彼らには騎馬もある。狩りの獲物と狙い定めるにはいささか手に余る相手だけれども、報告によればカーングンス達の一部が怪我をしているという。
つまり……血の匂い。それに誘われ、やや興奮状態にある群れの連中はもう止められない。
距離、およそ50メートルか。
そのくらいまで近付いた毒蛇犬たちは三方に別れる。廃塔は出入り口が南北に二カ所。当然扉などは無い。
中は土台となる一階が9メートル四方ほどの正方形。その上の物見の塔は半ばで崩れているが、一階のスペースになら十分な空間がある。
馬は9頭程が外に。その近くには2人ほどの見張り。
その見張り達が近付いてくる毒蛇犬に気付いた様子は無い。
これは……不味いか?
僕は彼らのことは知らない。ただカーングンスであるらしい集団としてのみ知らされて、そのカーングンスのこともあくまで通り一遍の風聞しか知らない。
前を見て、上を見上げて、周りを見る。
さて、どうする?
毒蛇犬の群れに紛れる事で、より簡単に近づく事も出来た。また、イベンダーの思惑通り彼らがその毒蛇犬の群れにどう反応するかも見れる。
ただ、改めて言うまでもなく、僕らは彼らがここでやられる事を望んでるわけじゃない。
彼らの正体、目的を探り、最悪の事態を回避すること。それが重要だ。
ならば……、と、ここで僕は一旦毒蛇犬の群れから離れ、岩陰へと身を隠す。毒蛇犬は闇属性の魔力を持つ魔獣だ。僕の得意とする闇属性魔法は効き難い。より効果的なのは土属性。けど今使える中でこの場面に適切なのはと言うと……う~む、どうだろう?
そこまで考えて、魔力の塊が飛来する気配と、鋭い悲鳴。
悲鳴の主は僕が先ほどまで紛れていた毒蛇犬の中から。そして魔力はその毒蛇犬に刺さった矢からで、風属性のやや弱い魔力。
これは、風の魔力を弓矢に帯びさせることで命中精度を高める【風羽矢】の術だろうか。
この射撃で、三方に別れて囲んだつもりの毒蛇犬達の真ん中の群れの何頭かが倒れる。
毒蛇犬達は射掛けられ仲間を失い怯むかと思いきや、今までそれぞれ忍び足でいたのが一転、大きな声で吠え立てながら弧を描くように走り突撃する。
騎馬が騒いでばたばたと暴れる。再び斉射がなされ、何頭かが倒れるものの、群れ全体の動きは止まらない。
毒蛇犬の狩りは連携が怖い。囲んで相手の逃げ場を奪い誘導し、別の一群、別の個体が待ち伏せる。討ち掛かり牽制し、別の個体が噛み付いて動きを封じて、最後の一匹が毒蛇の尾で噛み付く。
とにかくそういう連携プレーが強み。
カーングンスの遊牧騎兵が馬上から射かけ続けるのならば、この風魔法の補正も加えて容易に打ち勝てるだろう。けれども狭い室内に追い込まれ、多数の素早く狡猾な毒蛇犬の群れに襲われたらかなり不利だ。
そのまま毒蛇犬の最初の数頭が、あけっぱなしの入口から廃塔の内部へと侵入しようとした瞬間、再びギャンとの悲鳴。駆け出てきた2人は、暴れていた騎馬へと素早く飛び乗ると、瞬く間に落ち着かせてそのままぐるりと走り回る。
「ホウーッホッホッホーウ!」
奇妙な叫びを上げながら走り回る二騎は、手にした短弓で次々と毒蛇犬達を射抜いていく。
話には聞いていた。いたが、見ると聞くとでは大違い。全くもって見事な騎射だ。勾配のあるでこぼことした岩の多い土地だというのに、まるで曲乗りかというぐらいに揺れながら、魔法の補助があるとはいえ、ほとんどの矢が見事に敵を射抜いている。
三周もしないウチに半数以上が動けなくなる毒蛇犬の群れ。しかし、残った奴らの一部は、走り回る騎兵には目もくれずに再び廃塔の入り口へと向かう。
そこへ───ズドン!
ちょっとした地響きでも起こるかのような勢いで降り立つのは、金色に輝く小さな身体。
我らが鋼鉄の男……じゃないな、ドワーフ合金の男……、イベンダー氏の登場だ。
その両腕の篭手からぶり撒かれる【魔法の矢】の弾幕が、次々と毒蛇犬の群れを撃ち抜き、蹴散らしていく。装甲の厚いドワーベン・ガーティアンや、耐久力に定評のある大型魔獣相手だとかすり傷のようなこの【魔法の矢】の弾幕も、個体としての強度が低い毒蛇犬相手には非常に有効。
2人の騎兵の撃ち漏らした残りのほぼすべてが、これで壊滅した。
まるで銃口から立ち上る硝煙の煙をふっ、と一息するようなポーズを決めるイベンダー。
そのイベンダーへと、騎乗したままの二人がゆっくりと近寄り、だが警戒を緩めずに鋭く誰何する。
「……おめ、何もんだっぺ?」
「ん? 俺か? 俺は、探鉱者にして科学者、商人でありまた運び屋で、医学の徒である……手っ取り早く言えば“砂漠の救世主”だ」
……おっ~と、やはり固まるお2人さん。うん、それ、普通の反応。正しい、正しい。
「で、お前さん方は何者だ? ロランドの知り合いか?」
続く言葉に再び固まる2人。
だが、その反応の意味はさっきのそれとは多分違う。
「な、何だ!? おめぇ、今、ロランドっつったが!?」
そう言いながら、廃塔の奥から外へと走り出てくる者がいる。
東方の遊牧民であり、遺伝的には前世で言うモンゴロイド、つまりは日本人に近い平板な顔立ちをしているはずのカーングンスにしては、妙に鋭い、シャープな雰囲気のある若い女性。
まさに食いつかんばかりの勢いでイベンダーへとつかみかかる彼女だが……。
おっと、これは……ど本命だった……かな?
◇ ◆ ◇
「で、おめがロランドの身内だど言う証拠はあんのが?」
なかなかに癖の強いクトリア語でそう問うのは騎馬に乗ったウチの1人。
その問いに、
「さあて、どうかな。
そもそも俺は、お前さん方がロランドの知り合いだっていう証拠の方がみたいがね」
と、いけしゃあしゃあと返すイベンダー。
状況からすれば8人ほどのカーングンス達に囲まれている。完全に多勢に無勢、どう考えてもこんな態度を取れる状況じゃない。
その態度に数人のカーングンス達が明らかに苛立った様子で身構え睨みを利かすが、当然イベンダーはそんなのお構いなしだ。
「俺が知ってんのはな、この場所にロランドの知り合いが来て困ってるかもしれない……ってだけだ。で、来てみたらそれっぽい奴らが居た。
ただ、お前さん方がロランドの知り合いじゃないってーんだったら、俺にはお前さん方を助けてやる義理は一コもないってコトになる。
例えばそうさな……その奥で怪我しているらしいお前さん方のお仲間の治療をしてやる……なんてのも、する必要は無くなる」
イベンダーの堂々たるその言い分に、彼らがわずかにざわめく。
「……信じられねえ。こいづが治癒術師だどでも言うのが?」
「こいづは嘘つぎの匂いがするっぺ。きっと汗を舐めでも嘘つぎの味がするはずだ」
「だが、もし本当ならどうする?」
「そうだ、薬も尽ぎだし、俺だぢの力ではどうにもならねえ」
「しかし……!」
そのなかなかまとまらない議論を、先ほどのシャープな顔立ちの女が引き取ってまとめる。
「───わかった、なら、おめーのやり方を試してみろ。妙なまねしたらただじゃおかねえぞ」
鋭い目つきで睨みながら、手にした儀式用のように見える装飾の多い短刀を地面へと突き刺す。
「全く……それが人にものを頼む態度か? 礼儀がなっとらんぞ、礼儀が。
まあロランドの知り合いだと言うからには、一回だけだったら助けてやらんでもない」
───いやはや、全く横で聞いててもヒヤヒヤすると言うか何と言うか、よくもまあこれだけ堂々と口からでまかせを言えるものだ。
ロランドとは一度も会ったこともなければ、手助けを頼まれた事もないのに、この口振りだけを聞けば、まるでロランドとは深い仲にあった旧友が、彼の頼みでよく知りもしない相手のことを助けに来てくれたとでも言うかのようだ。
しかもすごいのはイベンダー、この一連のやりとりの中で何一つ嘘はついていないということだ。
自分がロランドの友人だなんてことも言ってなければ、ロランドに頼まれてここに来たなんてことも言ってない。
ただ単に「お前さん方はロランドの知り合いか? 知り合いだったら助けてやらんでもない」と、そう言い張ってるだけなのだ。
そしてそう言われて手助けを求めてる時点で、彼らは自分達がロランドの知り合いであることを認めている。
「それで、おめは何を使うんだ? 薬が術が道具が?」
「ん? 俺か? 俺は何も使わん。というか、こいつが使う」
ひょい、と、まるで小さな子猫をつまみ上げるかのように、僕の首筋を持ってぶらりとぶら下げる。この場合の“僕”のというのはもちろん、僕が【憑依】してる使い魔、熊猫インプのことだ。
「……妖が」
「ほう、お前さん方もその呼び方をするのか」
東方人系の方術と呼ばれる魔術の体系では、僕らで言うところの使い魔に相当する存在が妖だと言う。
ただ、使い魔と違って、こちらで言うところのいわゆる幻魔や精霊に相当するような、異世界の精神生命体を呼び出し支配して、術士の用意した特定の物品に封じ込める……というような、 ものだそうだ。
ここでもイベンダーは特に嘘はついてない。僕の熊猫インプをあたかも自分の使い魔であるかのように振る舞ってはいるが、自分の使い魔だなんてことは一言も言ってない。
じろじろと注目をされていささかバツの悪い気分にはなるものの、まあこうなれば仕方がない。出来る限り害のない、無力そうで滑稽で可愛らしい歩き方をしながら、彼らと共に廃塔の中へと入っていく。
廃塔の中にはさらに3人の人物。
怪我をし、毛皮を敷いただけの間に合わせの寝床に横たわる若い女性。その女性に付き添い看病をしてるかのような、やや年上の女性と老齢の女性。
横たわる女性は明らかにこのカーングンス達の一団の中では身分が高い。服装も、作りそのものは他の者達とあまり変わらないが、まず布地が深い青で染め上げられた上質なもの。そこに刺繍や宝飾品といった飾りがいくつもある。
顔立ちはやはり東方人らしい彫りの浅いものだが、全体のバランスが良く上品だ。
けれども、その上品そうな顔立ちも今は白く青ざめ苦痛に歪んでいる。
怪我はどこかと見ると、彼女の青い服の腹部が赤黒く染まり、かなりの出血だったようだ。
「こりゃ……う~む。
すでに薬も術も使ってある程度の治療はしたようだな?」
「俺だぢの出来る限りではこごまでだ」
「俺らの治癒術はまだ未熟……。それに効果の高ぇ薬はもう使い切っちまった」
おそらく、彼女は脇腹を矢で射られてる。しかもこれは……。
「……毒か」
「……んだ。しかもがなり強ぇ。この毒の効果を消せるだげの術が、俺達は使えねえ」
出血を止め、なんとか体力を回復するところまでは出来たが、毒の効果だけがまだ完全に消せていない。
となると……困った。
僕が使える治療魔法の【大地の癒やし】は、対象の生命の力を引き出し回復させるタイプの魔法。つまり光属性の浄化系の魔法などと違い、毒や病に対しての即効性がない。
「……うーむ、仕方ない。コレを使うか……」
言いながらイベンダーが腰のポーチから取り出したのは、小さめのドワーフ合金製の小瓶に詰められた魔法薬。
「言っておくがな、コイツは今や貴重品なんだぞ?」
微妙にせこいことを言うイベンダーに、
「待て、オレに毒味をさせろ」
「言った通り貴重品だ、あんまり舐めすぎるな」
数滴を篭手の甲の部分に垂らしまずイベンダーがひと舐め。それから毒味を申し出てきた、例の鋭い印象の顔立ちの女性がひと舐め。
「……な、これはッ……!?」
魔法薬の効果を体感してるだろう女性が目を見開き驚きの表情をする。
「どうした!? 毒がッ!?」
「コイツ、妙なもん飲ませる気が!?」
騒ぎ出す他のカーングンス達をその女性は右手で制し、
「……この薬はやべぇくれーの本物だ。飲ませても問題ないどころか、かなり効果あるべ」
と答える。
おお、と、今度は周囲から期待のこもった声。
「貴重品だと分かったろ? 今の俺たちはではこれだけの効果のある薬をなかなか作れんわい」
何故か、ほんの少しだけイベンダーが寂しげにそう呟く。
「特別サービスだ。薬と癒しの二重掛け。これなら何とか持ち直すだろう」
そう請け負うイベンダーに促され、僕もまた熊猫インプへと【憑依】した状態のまま、その女性と大地の癒しの術をかける。
薬を飲まされる様子を見ながら、どっかりと座り込むイベンダー。
いやいや、【大地の癒やし】って、手を相手に当てながらずっと術を使い続けなければならないタイプのやつだから、結構これ時間かかると疲れるんだけど……ね。
◇ ◆ ◇
女性の容態は安定し始め、呼吸も落ち着いてくる。医療ドラマっぽく言うならば、「なんとか峠は越したようだ……」とでも言う感じかしらん? 何にせよ事なきを得て良かった、良かった。
「にしても、まあ、俺からすればお前さん達の事情なんぞ知ったことじゃあないが、ありゃなかなか厄介な毒だろう? たかがしれた山賊野盜に襲われたとは思えん。
しかも……魔力を帯びた矢だったとなれば、どうにもきな臭い話じゃあないのか?」
そう、毒だけではない。矢傷には僅かだが魔力痕があった。複雑な魔力痕だけども、一つは火。もう一つは恐らくは闇。闇の森で言えばグレイシアスの帝国人魔術師キャメロンの得意とする“極炎”に近い。
“極炎”はキャメロンの性格同様にかなり嫌らしい魔法。前世で言うナパーム弾みたいに、炎と可燃性燃料を混ぜたかに執拗な被害を与える。
そしてその上、使いこなせる術士はそう多くもない。
何にせよ、矢、毒、極炎……と言う三重の攻めには、必ず相手を仕留めてやろう……との執念すら感じる。
カーングンス達はイベンダーに問われてもやはり言いよどむ。
僕らには分からない、鼻濁音の多い彼らの言葉で話し合い、暫くしてから例のシャープな顔立ちの若い女性が切り出した。
「その前に、ロランドはどうした? 何故来れねえ?」
……と、これは……なる程、そうなのか。
「お前さん方、ロランドの事は知らんのか?
あいつは半年は前に死んだぞ」
「何ッ!?」
「何ど!? 道理で連絡がづがん思うだら……」
驚きを隠さずに口々に言う。
「……それは、何でだ?」
「殺された。魔人の襲撃でな」
ざわざわとした波紋が広がる。
彼らがロランドと通じ、三悪やその他の山賊野盜に、“聖人”ビエイムやヒメナ婆さん等の各居留地の悪党ネットワークに様々な薬物を流していたのは恐らく間違いない。
奴隷売買にまで関わって居たかは不明だが、この線自体はもはや明白だろう。
だが、三悪達との利害の不一致からか、モロシタテムの警備隊長であるロランドは“鉄塊”のネフィルにより殺され、その“鉄塊”のネフィルはマヌサアルバ会のアルバとJBとの協力の元に倒された。
それからまたすぐに、三悪の残り、“猛獣”ヴィオレトに“炎の料理人”フランマ・クークも王国軍との討伐戦で倒されたワケで、つまりはその後彼らカーングンス達とクトリア悪党ネットワークとは繋がりが断たれていた、という事になる。
再びカーングンス達は彼らの言葉で口々に何かを話し合い、やや揉めているかの様子。
暫くしてから、再びあの女性が、
「ロランドが殺された詳しい経緯を教えろ」
と聞いてくる。
そこでイベンダーは腕組みして一呼吸。
「ふ~む。そりゃどうかな?」
「何でだ!?」
「手助げする言うのは嘘が!?」
「馬鹿言うな、もう助けとるだろうが? まあ、治療の事は良い。だが、それ以上ならこっちにも見返りがないと不公正だろ?
それとも、お前さん方は俺の助けに返すものなんか無いと言うのか?」
言われて、やはり彼らは言いよどむ。また話し合いをして、再び答えるに、
「分がった。今はたいしたものは返せねーが、必ず礼はする」
とのこと。
このやりとりで、イベンダーは彼らとの今後の「やり取り」を、「取り引き」として認識させる。
つまり、相手からの要求も大きくなり得るが、同時にこちらからも様々な事を要求出来るスタート地点に立った事になる。
こちらがあちらの事情を探りにきた、と言うより状況から、対等な取り引きに変えてしまったのだ。
なので……ここからが本番だ。
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