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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-122.マジュヌーン(74)農場にて -僕らのゴォール!
しおりを挟む空高く弧を描くかのボールは、前世でのそれと比べると不格好で弾みにくい。その分どう転がるか分からないところもあり、技術のみならず運もより必要。
高く飛んで最初のボールをキープしたのは“白き踊り子”ことマハ。両チーム合わせても唯一の女性プレイヤーだが、フィジカルの安定感は群を抜いてる。
普段の5対5のフットサル形式ではなく、広いフィールドでの11対11の戦い。
元少年兵たちだけだと猛き岩山側の人数が足りないから、両チーム3人までは成人済みのメンバーを入れられるルールだ。
アスバルは今回は主審。カシュ・ケンとムーチャ、アラークブにルゴイなんかは線審。
アスバルの奴はこの半月の間、アリオ達のみならず、元少年兵たちやカリブル等猛き岩山の連中にまでサッカーを教えていた。まあ、驚くほど熱心に、だ。
半月程度じゃあ経験としちゃはっきり言って心許ない。だが元少年兵たちは犬獣人兵として鍛えられてきたフィジカルと、犬獣人ならではの集団行動の巧さがある。
最初は一月の練習期間を設けようと提案したのをはねのけて、「我らならそのような児戯など半月あれば十分!」と息巻いたのはポリマデフだかリアンガだか……糞、似すぎだお前ら。
それでも確かに、アスバル曰わくかなりの吸収力だったらしい。
で、こっちは監督にはダーヴェ。成人済みは俺とマハが入って、アリオを司令塔にしてのショートパス型の攻撃サッカー。
フィジカルが最も強いマハは敵陣深く切り込んでいて、その逆サイドを俺がぬるりと動き回る。
細かいパス回しはボールコントロールの技術に一日の長があるこちらが有利。ボールの支配率を高めつつ、状況によっては要所要所でロングパスを出し、マハか俺が決めて行く。
あちらさんは監督兼ゴールキーパーのカリブルが司令塔だが、基本はカウンター狙いのリトリート型守備。深く確実に守ってからの逆転を目指す作戦。
この辺、アスバルが色々指導してった上で、連中に適した戦術を教え込んだらしい。
フィジカルも強くチームプレーも得意。だがそれでも技術面はそうそう簡単には覆らない。
ならば、無理にボールの支配率を高めようとはせず、プレッシャーをかけつつ相手のミスを誘い、カウンターと速攻、そしてボールを奪われたら高いフィジカルを利して即座に自陣へ戻る、防御的な戦術だ。
これはカリブル自身の普段の戦い方にも似ている。まずは堅守。守って、守って、守ってからの、デカい一撃。
それが、なかなか気に入ったらしい。
ま、サッカーそのものについちゃあ俺もそんなに詳しかぁねえ。むしろ、アスバルからの指導を受け続けているアリオやフラビオたちの方が、今じゃ詳しいだろうさ。
その司令塔のアリオが、猛き岩山チームのカウンターのボールを奪い返し、トラップからショートパスを繋いでマハへ回す。
「はーつとーくてーーーーん!」
ゴール前で大きく叫んでボールに飛びつくマハを追うディフェンスとキーパーのカリブル。
だが……。
「な、何ィ!?」
そのマハがスルーしたボールに軽く頭を合わせて決めるのは俺だ。
フィジカルは強いがただ居るだけでも目を引くマハに、隠密得意で存在感を消すのに長けた俺との、コンビネーションプレイ。
唖然とするカリブルに、俺は笑いかけつつ頭の横を軽く指で叩く。お前らとはアタマの出来が違うんだよ、とね。
だが、敵もさるもの。ロングパスで一気にこちらの陣へとボールを戻すと、元少年兵たちの中でも特にガタイの良い3人を中心に切り込んでくる。
「ありゃなかなかキツいな。テクはなくても当たりが強ぇ。ウチの連中じゃ当たり負けする」
「ンフー、ワタシも戻った方が良いー?」
ダーヴェの方を見ると指示は無し。マハに関してはお任せのつもりか?
俺は? 当然コッソリと、だな。
3人のガタイの良い奴ら相手に各2人であたる。当然、敵にフリーになる奴が出るが、出来る範囲でパスコースは潰している。
アリオが中央でボールを奪いに仕掛けるが、ガキどもの中じゃ身体の出来上がってる方のアリオでも当たり負けをする。
ただ、あちらもボールを完全にキープをし続けられない。こぼれ球を拾うのはフラビオ。
体格、身体能力じゃアリオに負けるが、実はボールコントロールのテクニックなら一番だ。頭で受けた球を軽く後ろに回してから、ヒールで左にパス。
それを再び受けた俺は、ここで前衛のマハにロングパスを回す。
「あがれーーーー!!」
ディフェンス2人を残して一気に攻め込む。敵も戻りは早いが、カウンター合わせを狙ってたこちらが一歩先。
マハは敵のディフェンスを素早く抜き、ゴール前射程圏内。正面、ど真ん中に居るカリブルとの1対1での読み合いは……ど真ん中に蹴り込まれたシュートを弾くカリブル。
読み合いも糞もねえな。お互いど真ん中ストレート勝負かよ……。
「ンモー! せっかく自分で決められるト思ったのニー!」
悔しがるマハだが、実際身体能力が一番高いのに、練習試合でもなかなかゴールを決められないのは、こういう駆け引きの出来ない性格故だ。
前半はこんな調子で、俺たちがアリオ中心のパス回しから、俺かマハ、時にはフラビオあたりがシュートに持ち込むパターンで3対1で2点をリード。
だが後半に入るとやや形成が逆転する。
「……ク、クソォ~……あ、アイツら……ど、どんだけ、タフなんだ、よ……ッ!?」
もともと身体的にこちらのガキどもを上回る選手が多かったカリブル軍が、後半でフォーメーションを変え、前半で中心となっていたガタイのいい3人の元少年兵たちをサイドに置き、成人済みの2人を中央に。
今までこの2人はあくまで元少年兵3人を中心としたフォーメーションのサポートについていたんだが、今度はこの2人がぐいぐいとチームを引っ張る。
この2人の技術力も他の連中と大差はない。いや、下手すりゃ既に成人しているぶん覚えが悪く、元少年兵たちよりも下かもしれない。
だが、こいつらはなんだかんだ言って猛き岩山の勇士。フィジカルの強さは格段に上だし、何よりこれまでに培ってきた勝負度胸がある。
その上、例の犬獣人独特の広範囲視野の広さから、サッカーのルールや戦術なんてたいして知りもしないくせに、チーム全体を見渡しての指令が冴え渡る。
「押せ! 押せ!」
「相手はバテてきてるぞ! 足を使え!」
パス回しと執拗なプレスでゲームコントロールを続けてきた俺たちは、その分精神的にも身体的にも疲れてる。
もとよりタフネスは相手の方が上。ここに来てその弱点を巧みに見抜き、ついてきた。
特に、技術はあるがスタミナに難のあるフラビオがここで脱落。
ぶつかり合いの中で足をひねったフラビオを退場させ、代わりの選手は……うーん、一回りも身体の小さな元孤児のラング・ラグだ。
年齢的にも体格的にも、アリオ達より下の世代。まあ、やや小柄な高校一年生くらい……てな所かな。クァド族系の猿獣人と南方人の混血で、なかなか小器用ではしっこいが、相手の少年兵たちとの体格差はキツい。絶対に猛き岩山の勇士2人にゃぶつけられねえな。
頭数合わせではあるが、とは言え総合的な戦力が大幅ダウンしたのは否めない。
前半、あくまで元少年兵たちを中心にした試合立てをしていたのは、若手にチャンスを与え経験を積ませる為だったんだろう。勇士2人が全面に出てきてからは、明らかにチームの動きが変わって来た。
かなりの力業だが、全体が押し上げられてこちらの守備が下がる。
だが、マハは出来るだけ前衛で敵を引きつける必要がある。なら、俺が流れに応じて下がるしかない。
「即座に上げろ!」
スタミナ不足からボールのキープ率がさがり、こぼれ球を拾われる事が増える。そして拾われると即座に上がられる。
左サイドからガタイのデカい元少年兵がドリブルで数人を千切り、真ん中の1人へミドルパス。それを受ける……と見せ掛けて、スルーした球を右サイドで登っていた別の元少年兵が軽いタッチでさらに返す。
激戦区のゴール前中央。飛び上がりボールを奪い合うアリオと敵2人。当たり負けて倒れたのはアリオだが、敵2人もがっちりとは受けられずに、軌道の変わったボールが零れ落ちた。
そこへ駆け込んだのは、小柄だからこそ見過ごされていたラング・ラグ。
だが、その球をどうすれば良いか分からずに辺りを見る。そこへ視線を返してアピールした俺は、なかなか距離はあるがフリーの状態。
鋭くキレのあるパス……とは言えないボテボテ球を、追う1人をこちらの1人がカバー。その球を回り込んで受けた俺はドリブルで2人抜きしてマハに回す……ふりをして、背後から来ていたアリオへとバックパス。
その球を、アリオはさらに右サイドへ回して繋いで行く。
あちらは地力はあれども経験不足。どこに空間があり、どこにパスを回して行くかと言うと戦術レベルの判断を、即座に出来るプレイヤーがまだまだ足りない。
そのままの流れで、ゴール前へのロングパス。それをまたもキープしたのはマハだが……。
「こーんどーこ~そ~……!」
「オフサイド!」
ホイッスルと共に宣言されるマハの反則。
「ぐぁ~! ちゃんと見てんじゃねー、アスバル!」
「うるへー! おら、猛き岩山チーム、間接フリーキック!」
猛き岩山チーム側はこんな調子で追い上げつつも、最後まで決定打は得られず、なんとか3対3のイーブンに持ち込むので精一杯だった。
「試合終了~! 引き分け~!」
延長戦なし、PK戦もなし、時間いっぱいで決着。まあ最初に審判兼大会委員長のアスバルが宣言した通り……ではあるが……。
「え~、なあ、アスバル監督~! 延長戦……無理ならせめてPK戦やらせてーなあ!」
「決着、つける!」
両チームとも不完全燃焼。今更ながらに食い下がるが、
「ダメ~! もう太陽がテッペン近づいて来たから、暑くて審判なんかやってらんね~も~ん。
それに、もう昼飯だかんね~」
昼飯の準備をしていたリムラ族のモーグ、モラー、モナスの三兄姉が準備完了を鍋を叩いて知らせに来る。
「試合の後は焼き肉だ!
さー、バーベキュー総監督に着いてまいれ!」
「ンフー! 結局、今日もゴール決められなかったダモー!」
「ヴーム……。やバり、ヂームの采配ば難ジい」
「ぶっちゃけ、線審、超暇だったわ」
「……んぐ」
それぞれのコメント。最後のムーチャは、多分やや眠くなってて無口になってるな。
場所はカリブルたちが来て最初に使った広場で、真ん中に煉瓦積みの竃、その周囲には、鉄串に刺したワニの丸焼きと、特製の鉄板に魚介類やその他の肉類、野菜類も含めた鉄板焼きだ。
選手たちのみならず、小作人やら使用人、観客として来ていたレイシルドにサルフキル、何故か観に来ていた“鋼鉄”のハディドなんかにも大盤振る舞いだ。
……観客には参加費くらい取っても良かったな。
「試合の後は皆で一緒に飯を食うんだよ!」とのアスバルの言で、これも前々から準備していたもの。
ただ、準備を任されていたリムラ族三兄姉の采配のおかけで、想像していた以上のお祭り感が出ちまっては居るけどな。
「おーい、ワニ肉欲しい奴は皿もって並べ~」
今度はバーベキュー総監督のアスバルが、タレをつけて串に刺して丸焼きにしているワニの切り分けをする。
並ぶ両チームの連中に、アスバルはそれぞれに肉をより分けながら、「終盤の走りがよかったな!」だの、「ボールテクニック、各段に向上してたぜ!」だの、なんとも細かくコメントをする。
「……まったく、あのアスバルがなあ……」
肉の皿を山盛りにして俺の横に来るカリブルが、そう感心したかに言う。
「引き分けにしたままなのも、狙いなんだろうな。お互いの対抗心をあえて煽って、それを喧嘩ではなく、このサッカーと言う競技での闘いに誘導した。
なかなかたいした策士だ」
試合観戦に来ていたレイシルドがそう付け加えるが、いや~、それはさすがに……、
「買いかぶりすぎ」
俺もまあ、ムーチャと同意見だぜ。
それでも、アスバルの“策”が実際かなり上手くいったのは間違いない。
以前は頻繁にあったお互いのいがみ合い、さらには殴り合いなんかが減り、サッカーでの対戦に集中するようになった。
しかもこうして試合後に一緒に飯を食いながら、互いを誉め讃え、テクニックのことや細かい戦術の議論なんてのまでしていたりする。
「お前、マジで当たり強ぇーな! どうしたらそんなにデカくなれんねや?」
「ふふん、鍛え方、違う」
「いや、あそこは、もっと、前線を伸し上げ……もし上げ……」
「“押し上げ”?」
「そう、押し上げ、る、べきだった」
「スタミナやな~、やっぱ」
「フラビオ、走り込みや、走り込み!」
「お前らも、朝の、訓練、一緒に、やるか?」
「おお~、ええな! たまに合同訓練やろうや!」
「うえぇ、マジかいや!?」
犬獣人語しか話さなかった元少年兵たちも、アスバルの指導もあって少しずつクトリア語を覚えだしている。
「言葉知る、それは、文化知ること。
クトリア語、人間たちの文化ある。文化知る、むやみな恐れ、嫌悪、無くす」
これもまた、ムーチャの言う通りだな。
特にここ、残り火砂漠南端のラアルオームからバールシャム近辺は、ある意味文化、人種、種族の坩堝みてーな場所だ。
砂漠を中心とする犬獣人、猫獣人の文化。密林の猿獣人文化。南方、草原地帯の蹄獣人文化に、河川沿いにあるクトリア移民や南方人たち人間の文化……。
多種多様な種族、文化が混ざり合い共存し、だからこそ俺たちみたいなあぶれ者の寄せ集めも居場所が持てる。
「なあ、カシュ・ケン、ダーヴェ」
バナナ酒を飲みつつまったりとしている2人に、俺はそう話し掛ける。
「例の、サルフキルの“頼みごと”の件だけどよ……」
行き場の無い、あぶれ者たちの居場所を作る。
面倒っちゃ面倒だが……まあ、そう悪い話でもねえよな?
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