遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-117.マジュヌーン(69)砂漠の砂嵐 -嵐の中で

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 雄叫びというよりかはむしろ遠吠え。俺たちの周りを取り囲む砂嵐のせいで目の前の声すらマトモに聞き取れない中、鼓膜を破るかってなぐれえのばかデカい咆哮をあげると、辺りにある中でも一際大きな岩を掴みあげ投げつける。
 対する“不死身”のタファカーリ率いるリカトリジオス兵たちは、盾と剣を構えたまま隊列を固持して突き進む。 巨大な岩はそのうち一人を文字通りに潰しちまうが、奴らそんな事全然構っちゃいねえ。そのまま雑魚食屍鬼グールたちを盾で押しつぶし剣で突き刺す。
 
 超重量級の重戦車食屍鬼タンク・グールは、おそらくこの砂嵐のリングの中じゃ最強の個体。そしてそれを操る死霊術師も魔術の腕は間違いなく凄腕だろう。
 だがそれらを上手く機能させてないのが、“不死身”のタファカーリの指揮官としての非情さに、その指揮についていける親衛隊達の軍としての練度の高さだ。
 
 岩投げが当たってもひるまず突き進む隊列に、今度は例の突進食屍鬼チャージャー・グールのぶちかましでそれを崩そうとする。
 こいつも突進するパワーはハンパねぇ。誰か一人にぶち当たれば、そいつを何メートルも遠くへ連れて行くし、その軌道上にいる全員をも弾き飛ばしちまう。さながらボーリングのストライク。いくら盾を構えた屈強な兵士たちが強固に陣を組んでても、ぶちかまし一つで崩せるかもしれねえ。
 が、盾兵の後ろにでんと構えるタファカーリが投げ槍一閃、むしろその突進エネルギーを利用して、頭からケツまで貫きぶち殺しちまう。
 
 パワー系二体の攻撃では止められないその盾陣は、搦め手の煙たい食屍鬼スモーカー・グールの伸びる舌での拘束や、跳躍で上空からの飛びかかりを得意とする狩人食屍鬼ハンター・グールでは役者不足。
 長い舌で絡めとり引き寄せようにも 即座に横の兵士に舌を切られ、上空から飛び乗って兵士の一人を組み伏せたところで、周りから蹴り飛ばされ切りつけられ処理される。
 ほとんどの変異食屍鬼グールの攻撃は、乱戦状態の相手にはめちゃめちゃ有効的だが、こうまで隊列をがっちりと組まれると効果が弱ぇ。
 それに、今までの流れで分かったことだが、恐らく死霊術師が操って一度に攻撃を仕掛けられる変異食屍鬼グールの数は、4、5体が限度のようだ。
 つまり、変異食屍鬼グール4体の同時攻撃、重戦車食屍鬼タンク・グールによる岩投げ、無数の雑魚食屍鬼グールのによる突撃……これが死霊術師の今出来る戦術の限界。
 群れ対群れの戦いとしちゃあ、明らかにタファカーリ側に分がある。
 
「なかなかやりますな、あの犬頭どもが」
 不敵に笑いつつ弓を引き絞ると、フォルトナは複数の矢を一度に放つ。その矢は赤く輝きながらタファカーリたちの隊列へと襲いかかり、幾つかが盾や地面、そして親衛隊へと刺さって燃え上がる。
 
 火と闇の魔力を付与しての【極炎の矢】。この極炎の名を冠した魔術がただの火矢より性悪なのは、闇の魔力がどろりとした可燃性タールみたいな燃料のように変化し、可燃範囲を広げてより長く燃え続けるところだ。
 
 だがそれを受けてもなお、タファカーリの親衛隊は動きを止めない。着火した兵士は素早く転がり砂で火を消す。もちろん延焼しているからそうそう簡単には消えねえ。それでも慌てず喚かず、すぐさま隊列に戻る。
 
「盾掲げ! 隊列尖牙せんが!」
 タファカーリの号令で、親衛隊達は 軽盾をやや上方に掲げつつ、隊列を横一列から真ん中を尖らせた三角形に変える。
 その中央奥に居る指揮官のタファカーリが、横に侍る別の兵が抱えて持つ短めの投げ槍を手にし、それをこちらへと投げつけて来た。
「うお!?」
 危うくも横飛びに避ける俺とフォルトナ。
 正面の死霊術師と変異食屍鬼グールの集団に対峙しつつ、横合いからちょっかいを出すかたちの俺達へと鋭い牽制。重戦車食屍鬼タンク・グールの岩投げも厄介だが、タファカーリの投げ槍の方が予備動作の短さに射出の速度からしてより危険だ。
 
 こちらは頭数の少なさからも、俺としちゃ奴らが潰し合いをしてくれるのが助かるんだが、なかなかそうも言ってられない。
 ひとまず大きめの岩影に隠れてはみるものの、このままだとジリ貧だ。
 
「マジュヌーン! お主に選べるのは二つに一つだ! 我に臣従するか、浅ましき食屍鬼グール共々ここで果てるか!」
 砂嵐の音と渦の中、轟音を貫くようなタファカーリの声が響く。
 タファカーリがどこまで本気で俺を配下にしたがってるのかは分からねーが、その余裕ぶった態度は付け込む隙になる。
 
「死霊、術師、横から、討つ!」
 犬獣人リカート語での呼び掛けは、死霊術師が犬獣人リカート語を理解出来ないとの想定でのもの。
 呼び掛けつつ、俺は別の場所に潜んでるフォルトナへとハンドサインを送る。三つ巴とも言える状況で、さらにはこの砂嵐の中。台風の目のようにこの中だけはそこそこ凪いで穏やかだが、今この戦況、構図を正確に把握出来てる奴は少ないだろう。
 
 回り込むようにして死霊術師と変異食屍鬼グール達の群の側面へ。奴らはタファカーリの隊列を向いたままでこちらには気付いてないのか、脅威度が低いと見過ごしているのか。
 だが、仮面の死霊術師はすでに見ているはずだ。俺が“災厄の美妃”……敵の魔術を破壊し、魔力を奪う武器を持っていることを。
 
 這うように低く姿勢を落とし、心臓の上に手を当てて意識を集中。魔力の塊のような変異食屍鬼グールたちの攻撃的な意志と俺のその求めに応じて、こみ上げる吐き気と共に黒く曲がった刃の柄が突き出され、ぴたりとこの手に納まる。
 “災厄の美妃”から伝わって来る、今まで蓄えて来た魔力と魂の力は、やはり相変わらずの寒気と嫌悪感、そしてなんとも言えない奇妙な高揚感に闘争心をもたらすが、それらを無理やりに押さえ込み、このワガママオンナを逆手に構える。
 
 そこへ飛来して来るのは、やや短めの手槍。相変わらずの鋭え威力のタファカーリの槍は、狩人食屍鬼ハンター・グールとその背後に居た煙たい食屍鬼スモーカー・グールとを串刺しにする。
 
 現場、手駒の能力では死霊術師の方が上なはずだか、正面からのぶつかり合で優位にあるのはタファカーリ側。
 盾兵の強固な守りに、文字通りの一撃必殺の威力を持つ投げ槍に少しづつだが戦力を削られている。
 そしてタファカーリとしては、この流れで数の優位を作り出して後に、取り囲んで押し潰す。そういう狙いがあるだろう。
 
 そこに再び、タファカーリ側で火の手が上がる。
 フォルトナによる極炎を纏わせた矢による攻撃、牽制。
 タファカーリは極炎の射主が俺……いや、“災厄の美妃”の信奉者であることを知らない。つまり俺と奴が通じてるという確信がない。
 この状態を三つ巴であると明確に理解してんのは俺とフォルトナだけで、タファカーリも死霊術師も、三つ巴なのか1対1なのか、はたまた四者の対立なのかが把握出来てない。
 
 何にせよ、この極炎の矢への対応に乱れ手間どるタファカーリの隊列へ、死霊術師は再び変異食屍鬼グールの連携攻撃を仕掛ける。
 狩人食屍鬼ハンター・グールが二体、跳躍して高高度から飛びかかり、重戦車食屍鬼タンク・グールが岩を投げつけて隊列を乱して、同時にその足元へとゲロ吐き食屍鬼スピッター・グールが強酸性の立ち上る湯気までが痛い焼け付く緑の毒液を吐きつける。
 隊列をがっちり組むタファカーリ側に、ゲロ吐き食屍鬼スピッター・グールの焼け付く酸は確かに痛い。
 
 タファカーリ側は守りと攻撃を受けてからの立ち直りは固い。だがこの連携は、ダメージそのもののみならず、その守りの固さと立ち直りの早さ自体を妨げる。
 そこへ……大型クルーザーバイクのようなパワフルな勢いでぶちかます突進食屍鬼チャージャー・グール
 大岩、狩人食屍鬼ハンター・グール、さらには焼け付く毒液から逃れようとして乱れた盾陣のど真ん中をさらにバラバラにかき回す。
 完全に陣が崩壊したタファカーリ側へと、雑魚食屍鬼グールを含めた食屍鬼グール軍団が襲いかかる。
 うまくすれば陣を立て直せる前に乱戦状態に持ち込める。そうなりゃ、今まで以上に変異食屍鬼グールたちのトリッキーな攻撃が効いてくる。
 
 だが……。
 タファカーリ側へと多くの手勢を送り込んだ死霊術師の周りは今は手薄。 重戦車食屍鬼タンク・グールに数体の雑魚食屍鬼グール。他の変異食屍鬼グールはタファカーリ側へ突撃している。
 
 俺とフォルトナがそれぞれの陣営に隙を作り、より大きな衝突が起きるよう仕向ける。そしてその隙に、さらに俺たちが手薄になった方を攻める。
 俺は気づかれぬよう、それでいて素早く重戦車食屍鬼タンク・グールの足元へ近付き跳躍、その背に乗る死霊術師へと“災厄の美妃”の刃を向ける。そのつもりで動いた。が……。
 
 近づくにつれ、かすかに、そうかすかにだが、この砂嵐の騒音の中、奇妙な音が耳に入る。いや、それは音ではなくすすり泣き。悲しく切ない少女の泣き声だ。
 何だ? この灰砂の落とし子アッシュサンド・スポーンの集合体による砂嵐の結界の中に、誰か奴隷の少女が取り残されたりでもしたのか?
 その一瞬の躊躇。その気づきがもっと早ければ、結果は違っていたはずだ。
 気付いた時にはそのすすり泣きは、激しい恐怖と怒りを帯びた、荒い息の喘ぎ声となり、さらにはけたたましい叫び声へ。
 
 すすり泣く少女はいた。だがそいつがいたのは重戦車食屍鬼タンク・グールの足元で、ザンバラに長く伸びただけの髪、乾いて白く濁った死者の肌、そして闇の黒に血の赤を落とし込んだ濁った両目と、まるで全ての爪が長い鋭利なナイフと化したかのような両手をした食屍鬼グールだった。
 さながらサイレンのような叫び声とともに、まるで半狂乱になってその魔女食屍鬼ウィッチ・グールは俺へと踊りかかる。
 
 こいつは いわばブービートラップだ。
 俺のようにこっそりと死霊術師へと近づこうとする間抜け野郎を待ち構え、気配を感じると機械人形みてーに自動的に攻撃してきやがる。
 不意打ちで十本ナイフの同時攻撃。 かわせるか? いや。防げるか? 無理だ。なら───ダメージを最小限に押さえる!
 
 “災厄の美妃”を逆手に構えたまま、身体の前で両手を交差させる。
 右手の一撃。3本ほどの爪を“災厄の美妃”で弾くが、手首と肘の辺りを深く切り裂かれる。
 立て続けの左の一撃。同じく“災厄の美妃”で僅かに威力を削ぎはするが、右腕を何ヶ所も深く抉られる。
 その攻撃の鋭さ、爪の鋭利さもたまったもんじゃねえが、驚くのはその攻撃の重さだ。
 一見すると華奢で弱々しい少女の身体。しかしその中には濃縮され凝縮されたマグマみてーな魔力が詰まってやがる。のしかかってくる衝撃は、同じぐらいの大きさの石か金属の彫像にでもぶつかられたかのようだ。
 
 二撃食らっただけで足腰も立たず後ろに倒され、後は完全になすがまま。
 魔女食屍鬼ウィッチ・グールの甲高い叫び声とともに繰り返される爪の攻撃。何度も腕を切り裂かれ、ガードを超えて腹や胸にまで食い込んでくる。
 激痛と混乱と恐怖。その三つが俺の体を支配し、ただなすがまま仰向けに倒れ、一撃ごとに命を削られてゆく。
 しかもそのナイフの様な爪には、何かしらの魔力でもあるのか、ただ切り裂かれるだけではなく、一撃食らうごとに生命力が奪われていくかのようだ。
 
 都合のいい起死回生なんてあるワケねえ。だがそれでも俺は、なんとかこの状況を打開せねばと考える。考えたところで何も思い浮かびはしねえんだがよ。
 削られる命とともに失いかけた意識。
 意識の端に残っていたのは───“災厄の美妃”。この厄介なオンナへ、一縷の望みを託した懇願。
 
 その懇願が…… どうやら通じたらしい。
 
 もうほとんどまともに動かない右手首が、ほんのわずかに角度を変える。自分の意思じゃねえ。全くの無意識の行動……いや、もしかすると“災厄の美妃”が俺の手を操って動かしたのかもしれねえと思えるくらいだ。
 その刃先が、魔女食屍鬼ウィッチ・グールの右手首を切り裂いた。
 その一瞬だけで、“災厄の美妃”はごっそりと魔女食屍鬼ウィッチ・グールの魔力を吸い取り奪っていく。
 そしてその魔力の一部が、“災厄の美妃”を 通じて俺の体へと流れ込んでくる。
 
 魔力の流入と共に、俺の体にはまた再び活力と気力が戻ってくる。切り裂かれた腕はズタボロのまま。だが、痛みが僅かに和らぐと同時に、頭のてっぺんから指の先まで、僅かながらも奇妙な力が湧いてくる。
 足を使って魔女食屍鬼ウィッチ・グールの腹を蹴りあげる。先ほど感じたとてつもない重さは減り、蹴られた魔女食屍鬼ウィッチ・グールは軽くよろめく。
 そこへ再び、“災厄の美妃”を滑り込ませる。喉元へのその一撃で、さらに魔女食屍鬼ウィッチ・グールの魔力を吸い上げた。
 今まで以上の激しく鋭い絶叫が響く。そこにきて、ようやく仮面の死霊術師が、自らの乗っている重戦車食屍鬼タンク・グールの足元へと意識を向ける。
 
 おそらくそこから見えるのは、血まみれになりほとんど力なく横たわっている俺と、絶叫をあげびくびくと痙攣するようにのたうってから、次第に力なく倒れる魔女食屍鬼ウィッチ・グール
 元々たいして良くない目だ。夜目は効くが、物の形はぼんやりしていてよく見えねえ。その俺の視界の中の、見上げる巨体と肩に乗った小さな仮面の術師。細かい動作や仕草などは分からないが、それでもなんとなくその術師が、なんだかつまらなさそうな仕草をしてから、再び前方のタファカーリへ集中する。
 
 くそったれ、確かにお前は俺よか一枚上手だった。こんな隠し玉をきっちり仕込んどいて、その思惑通りにしてやられちまった。
 だが……俺はまだまだ死んじゃいねーぜ? 上から見下ろしゃあそう見えるかもしれねえが、首の皮一枚つながってるぜ。
 そう考えながら、“災厄の美妃”の柄を軽く握りしめ機会をうかがう。
 
 が、その気配を察したのか、あるいは単なる気まぐれか。少し何事かを考えたかの素振りを見せた後、死霊術師は再び俺へと向けて例の真っ赤な髑髏のついた杖を軽く向けてくる。
 黒くもやついた奇妙な煙みたいなものが辺りに現れ、俺を取り囲むように渦を巻く。だがそいつが俺へと何かしらの攻撃を仕掛けてくるかとそうじゃねえ。ただ俺の周りを取り囲み、次第に濃厚な黒いドーム状の物質のようになる。
 
 これは攻撃じゃねえ。あの野郎、俺を閉じ込めるつもりだ。
 
 “災厄の美妃”は その黒く歪んだ刃で 触れた魔術や魔力を打ち破り吸い取って力に変える。だが、その刃で触れることができなければその効力は一切発揮されない。
 そのことを見抜いた死霊術師は、俺が今自由に動けないのを見て取って、“災厄の美妃”の刃の届かぬ範囲へと黒い魔力の結界を張って閉じ込めることにした。
 
 だが、閉じ込めて次はどうする?
 ただ放置して失血死を待つのか? 確かに俺は今うまく動けねぇが、全く動けねえってワケじゃあねえ。
 完全に物質化した闇のドームに閉じ込められるも、俺は痛む右腕になんとか力を込め、我ながら情けないほどに弱々しい動きでそれを掲げる。
 なんとか刃先が触れた途端、俺の周りを囲っていた漆黒の闇のドームが砂の粒子のようになって粉々に砕け、そのまま“災厄の美妃”へと吸収される。
 
 と、同時に、俺の全身にさらに重い粒子の塊が覆いかぶさってきた。
 
 何だ!? 闇のドームを作っていた魔力は全て“災厄の美妃”が吸収したはず。それになによりもドームを壊したにもかかわらず、未だ視界は完全な闇に包まれている。
 
 パニックになりかけつつも、状況を把握しようと努める。
 分かるのはまず、やつは闇のドームを二重に作ったということだ。万が一俺が“災厄の美妃”を使い内側のドームを壊すことができたとしても、さらにその外側のドームに閉じ込められる形。 
 そしてこれは……そうだ、砂だ。魔力で作ったものでもない、魔力で操ってるワケでもない。
 ただの普通の、そこらへんに大量にある砂漠の砂だ。
 二重に作ったドームとドームの間。そこに砂漠の砂を充満させておいた。俺が内側のドームを破ったら、今度はその砂が物理的に俺を押しつぶし、生き埋めにし、窒息死させる。
 
 魔術を使った攻撃だが、魔術、魔力そのものを俺にぶつけるワケじゃねえ。
 大した策士と感心する余裕もなく、雪崩のように降り注ぐ砂に埋もれ、指先一つ動かせなくなる前に、なんとか呼吸をしようと首を伸ばす。その状態で鼻先だけが僅かに覗いた最後の時、覚えのある匂いが上から降ってきていた。
 
「これはこれは……いささか難儀しておられるようですな」
 聞き覚えのあるしわがれた声。そして、俺の肩を掴むの毛むくじゃらの太い腕。
 
 “闇の手”でありかつての“王の影シャーイダール”の一人、蜥蜴人シャハーリヤの魔術師アルアジル。そして同じく“闇の手”の一員で、猿獣人シマシーマの中で最も頑強な肉体を持つ戦士の部族、アールゴーラ族のムスタ。
 
 まさに、「遅ればせながら」の援軍だ。
 
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