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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-106.マジュヌーン(58)死者の都 -いとことふたり
しおりを挟む「カリブル! よくぞ、よくぞ無事で……!」
「我が従兄殿よ! お主こそ、再び相まみえることができようとは……!」
よく似た面した不細工二人が、肩を抱き合い頬を寄せ合い、涙ながらに感動の再会。
周りの連中の中にも思わずもらい泣きをするような奴らまで現れる場面だが、俺の心中は複雑だ。
何せ……この廃都アンディルをリカトリジオスの基地にする為に派遣された部隊のその先遣隊は、本人たちは全く気付いていないものの、既に一度食屍鬼により食い殺され、その後食屍鬼として復活している。
今はまだ復活したてで、生前の知性、人格、記憶が強く残ってるが、このまま 何日、何ヶ月か、何年かすれば、いずれは正気でいられる時間が少なくなり、ただ生きてる者を襲い喰らうだけの、文字通りの人喰いの亡者 になる。
「カリブル、感動の再会はめでたい話だが、その従兄殿も今やリカトリジオスの兵士なのだろう? 喜び抱き合いしてるだけじゃ済まされん」
サルフキルが冷静にそう割って入る。
この男、見た目も雰囲気も、この世界で犬獣人へと生まれ変わった後の静修さんに似ていて、こいつには何の問題点も責任もないのだが、どうにも心がチクリとしやがるぜ。
「はは、馬鹿を言うな! 我ら誇り高き“猛き岩山”の勇士たるもの、たとえリカトリジオスの捕虜となり、戦奴とされようとも、その魂まで売り渡すようなことなどありはしない!」
破顔一笑でそう請け負うが、それを横で聞くカリブルもどき……ボルマデフは渋い顔。
「……いや、すまぬ従兄殿よ。俺にはもう、“猛き岩山”の勇士を名乗る資格はない」
俺から口を挟むまでもなく、ボルマデフは自分がなぜここにいて、その目的は何なのかと言うリカトリジオスの計画について全てを話した。
それらは大筋で言えばアラークブの掴んでいた情報を裏打ちする証言だが、そのアラークブは今ここにいない。なので、それを聞くこちら側の温度差も様々だ。
「……つまり今この廃都アンディル内にリカトリジオスの先遣隊が居て、じきに本隊も来る……と言うことか」
サルフキルがそう唸りながらまとめるが、
「信じられん。だいたいなんでこんなところに軍を派遣するのだ?」
「いや、小隊が来てるのは本当かもしれんぞ? ただ我らに攻撃されるのを恐れて本隊が来るなどと嘘をついてるのかもしれん」
「嘘ではない! 本隊の数は300を超える! 早く逃げねば皆殺しにされるのだ」
「仮に本隊が来たところで、奴らも食屍鬼の餌食になるだけだろう」
「ならばどうだ? 奴らが食屍鬼にやられ逃げ出すところ我らが追撃し、捕虜にするのだ! 指揮官クラスを捕虜にできれば、労せず情報が手に入るぞ?」
「何を姑息なこと言っておる!? 食屍鬼になど頼らず、我の手で打ち破るべきだ!」
「そりゃいくらなんでも夢見すぎだナー。 本当に300を超える本隊が来るんなら、たった10人かそこらの俺達に勝てるわけナーだろー?」
「臆病者が!!」
「てめえはただの間抜けだ!! 俺は勝てる戦いでやつらを打ち破る! 自殺するために戦う気はねーぜ!?」
喧々囂々の言い争い。そもそもの話の真偽から、本隊が来るとしてその人数、またその本隊にどう対処し立ち向かうか……。
個人的な意見としちゃあ、食屍鬼とリカトリジオスをぶつけ合わせるってな、かなりお気に入りのアイデアだがな。
「……あー、 ちょっといいか?
まず先遣隊が来てる事に関しては事実だ。俺も会ってる。寺院の跡っぽいところで野営をしてるぜ」
「なに? それでお主、どうした? 逃げ出したのか?」
「とりあえずこいつと決闘で勝って、 勇士と認められた」
「何ィ!? お、お主が、ボ、ボルマデフに、け、決闘で、勝っただとォ~~!?」
「……そんなに驚くんじゃねえよ。てめえと戦い方が似てるから対処しやすかったぜ」
「……不覚を取った」
「……いや、こやつはいつもいつも、こすっからい卑怯な戦い方ばかりをする。正面から戦う事ができんから、せこい技ばかり使うのだ!」
まったく相変わらずの武人バカだな、こいつは。
だが、ボルマデフの方はカリブルのその言葉に再び首を振り、
「……言い訳をするつもりはないが、俺はどうもここに来てから確かに調子が悪い。興奮してくると頭が真っ白になり、意識が途切れ、何をやってるのか自分でも分からなくなってくるのだ……。
だが、それを差し引いても、この者は勇士と呼ばれるにふさわしい力を持っている。従兄弟殿は姑息と言うが、相手との距離を上手く取り、己の持ち味を生かした実に軽妙な戦い方であった」
何と言うか、意外にもボルマデフからは高い評価。見た目も似てるし部族も同じ。考え方も同じような、脳筋武人気取りかと思いきや、意外とそうでもないようだ。
従兄殿のその言葉に、カリブルはぐむ、と小さく唸り言葉を継げない。俺も俺で、突然そんな風に褒められたからって何とも反応しにくい。
軽く咳払いで 気を取り直し、
「あー、 それでな、本隊の件についてだが、それも情報は入ってる。
こいつはもともとリカトリジオスの動向を探ってたカリブルの従者からの情報だ。
で、こっち来て最初に空人のツレに空から偵察しもらった感じからは、少なくとも……あ~、2、3ミーレ? ぐれーにまで迫ってきてる……なんてことはなさそうだが、だからって明日、明後日にでも到着しないとは限らねえ。
どうするにしても、今すぐ方針を決めて行動を起こした方がいいと思うぜ。
一応町の外には、俺の連れが四人程来てる。撤退するなら今のうちだ」
元々、カリブルと共に反リカトリジオスのチームを組んでいるとは言え、連中もここでやり合うのは想定外。
逸る奴らも居るには居るが、結局は今の俺の提案が妥当な所だろう。
「……たしかに、彼の言う通りなら、今の内に撤退するべきかもしれないな」
サルフキルがそう言うと、
「だが、奴らをこのまま見過ごすのか?」
と反論が入る。そして、
「それに、ルゴイとレイシルドがまだ見つかってない」
俺の知らない名の二人は、多分最初に説明のあった奇妙な食屍鬼に連れ去られた仲間なんだろう。
「……あの壊れた梯子の上、やりようによっちゃあ登れなくもないよな?」
「いや、試したが壁面が脆い。這い上がろうにも途中で崩れてしまう」
「そりゃ、壁を上ろうとするからだろ? カリブル、例の手の応用編だ」
俺はそう言って合図。
「ふむ……そうだな、お主となら出来なくもないか」
▽ ▲ ▽
“悪魔の喉”から脱出したときは、土台にカリブル、ロケット役にルチア、そしてコックピットが俺、と言う編成だった。
今回はルチアが居ないが、高さも“悪魔の喉”に比べて高くはないし、かなり頑丈なフック付きロープがある。
俺がカリブルの両手を足場にして打ち上げられ、正面の壁を蹴りさらに高高度へ。同時にフック付きロープを投げて天井の穴から外のどこかへひっかける……。
三回程の挑戦で、俺は穴の外へと舞い戻る。
フックのひっかかった瓦礫を確認すると、あまり安心出来る強度でもない。改めて良さげな柱にしっかりと結び直しておく。
こっから先は、二手に別れる。
例の奇妙な食屍鬼とやらに攫われた二人を見つけ出すのと、町の外へと出てマハやアラークブと合流、連携をするのと、だ。
マハ達と連携するには、俺かカリブルが出向いた方が良い。
問題になったのは、ボルマデフだ。
「……やはり俺は、一旦隊に戻る方が良いと思う」
ボルマデフと俺は、小便に行くことを口実に外へ出て来ている。
だが、既に外へ出て半時は過ぎた。
となれば、連中としちゃあ俺の逃亡を疑う。もとより俺としちゃあそのつもりだったがな。
俺が逃亡したと考えりゃ、奴らは班で捜索くらいはするかもしれない。
その辺はまあ微妙だ。奴らはあの寺院跡に食屍鬼除けの結界か何かがあって、だから今は襲撃されてないと考えているしな。
食屍鬼の動きが鈍る昼間まで待つか、それとも逃亡、または食屍鬼に襲われた可能性を加味して捜索を出すか……。
捜索を出してた場合、こちらとかち合う可能性が高まる。で、そうなりゃこっちは、リカトリジオス先遣隊と、もとから廃都アンディルに巣くっている食屍鬼の両方を相手取るハメになる。
「こいつが俺たちのことを奴らに知らせるかもしれん。カリブルに免じて殺しはしないが、見張っておくべきだ」
「ボルマデフが裏切るなどあり得ん!
だが……、せっかくリカトリジオスから抜け出せると言うのに、また戻ってしまうのは……」
常からしわくちゃの面をさらに歪めてそう言うカリブル。
それに対し、
「……いや、俺はこのまま抜ける事は出来ん」
と返すボルマデフ。
「何故だ!?」
肩をつかみ問いただすカリブルに、さらに苦しげな声でボルマデフは、
「……本隊に、妻と子がいる……」
と返した。
それからボルマデフは、おそらくは長く苦しいものだったろう半生を、かなり掻い摘まんで述べる。
リカトリジオスでは捕虜や降伏して戦奴となった者達にも、その力量や功績に応じて相応の待遇が与えられる。
それは同時に、裏切り離反を防ぐための枷でもあり、ボルマデフはかなり早い内に妻……厳密にはお世話係の女奴隷が与えられた。
その女奴隷を、ボルマデフは愛した。
それがリカトリジオスの罠でもあると知りつつも、ボルマデフはその女と子をなす。それによりボルマデフはさらに雁字搦めとなるが、今更妻子を見捨てる事など出来ない。自分が離反すれば処刑されるか、最下層の奴隷にされる。だから、どうあれボルマデフはリカトリジオスの意向通りの忠実な兵士として振る舞い続けるしかない。
「お主らの事を知らせはせん。だが、先遣隊とお主らが会ってしまえば、俺は命令通りに戦うしかなくなる……。
だから、先遣隊がお主らと会わぬようするためには、俺が戻るしかないのだ……」
「なら、俺も戻るぜ。
そっちに撤退準備が出来たらなんとか合流する」
「……良いのか?」
「俺一人が抜け出すだけなら簡単だ。ついでに、何かしらうまいこと情報探ったりしておくさ」
抜け出せる、てのはまあそのまんまだ。情報に関しちゃ……どうだろうな。実際、どうなるかは……アドリブ次第だ。
▽ ▲ ▽
「戻る前にマジで小便しとくわ」
「……まだしてなかったのか?」
「……いや、お前、俺が本当に小便するためにあそこを離れたと思ってたのか?」
「違うのか?」
「……まあいい、ちょっとまわりを見張っててくれ。小便中食屍鬼に襲われたかねーからよ」
「分かった」
ボルマデフと二人きりになってから、俺はそう言い瓦礫の路地裏へ入る。
入ってまずは、とりあえずマジに小便。ま、しばらくしてなかったからな。
だがもう一つの理由は、音と匂い。
「……主殿、そんなに近いとかかりますぞ?」
「いっそかけた方が誤魔化せるぜ」
「匂い含めての隠蔽を出来る術ならば既に使っております」
「犬獣人の嗅覚舐めんな。あいつら俺以上にやベーぞ。
で、どうだ?」
闇の中のさらなる闇、とでも言うかのダークエルフ、“闇の手”の一員のフォルトナ。砂の中の渦みてーな魔物を使い魔を使って、廃都アンディル内と、外で待機しているマハ達の監視を頼んで居た。
「他の皆様には問題無しです。合流も上手く行くでしょう。
リカトリジオスの先遣隊も、寺院跡から動いてはおりませんな。
そして問題の……」
そう、これが一番の重要情報。
「巨大な食屍鬼……。言うなれば食屍鬼の王でしょうか。そやつの居所に……攫われた者達の場所も確認しましたぞ」
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