遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!

3-101.マジュヌーン(53)死者の都 -わけあり物件

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 呪われた廃都アンディル。
 こいつの噂を聞くのは二年かそこらぶりぐらいか。“砂漠の咆哮”の入団試験の最中に聞いた、残り火砂漠にあるという危険地帯の一つ。
 残り火砂漠の気候は昔は今ほど過酷じゃなかったらしく、その時期に作られた南方人ラハイシュの街だという。
 何が原因で廃都となったのかは諸説あって定かじゃないが、何にせよ今は人っ子一人住まぬ廃墟の街。
 その代わりに、今は食屍鬼グールが住んでいると言う話だ。
 食屍鬼グールってのは……まあ、 会ったことはねえからよく知らねーが、それこそ前世の感覚で言やあ、ホラー映画の人食いゾンビみたいなもん……ではあるらしい。
 
「違う。食屍鬼グールは邪神の呪い」
 と、そう言うのはマハの従者で小さくて毛むくじゃらの猫獣人バルーティ、ムーチャ。
 廃都アンディルの調査依頼の件を農場に持ち帰ってからの、夕飯時のことだ。
 
「どう違うんだ?」
「お前が言ってるのは、死霊術や汚れた魔力溜まりマナプールで蘇った動く亡者アンデッド。ドニシャに居た」
 ドニシャの廃神殿では、さらわれた猫獣神バルータを奪還する過程でそこに潜んでいた死霊術師とカチ会うことになり、そいつの生み出した犬獣人リカートのゾンビと戦うはめになった。
 
「死霊術師に作られた動く亡者アンデッドは操り人形。だいたいは意思も感情もないし、あっても操られてるから何も出来ない。
 魔力溜まりマナプールの汚れから生まれた亡者は、憎しみと怒りにとりつかれ、生者を見境なく襲う。
 食屍鬼グールは違う。呪いで魂を縛られ、死体に留まり続けている者たち」
 
 続けてそう説明するムーチャの言葉を聞いて、しかしカシュ・ケンはいまいちピンと来てないようで、
「ん~~~~……? よくわかんねーけど、結局どっちも動く死体アンデッドなんだろう?」
「違う! 死霊術師や魔力溜まりマナプールの汚れから作られた亡者には魂がない。食屍鬼グールには魂が……ある」
 ムーチャにしては珍しくも意外だが、そうやや声を荒げる。
 
「……待て、そうか。
 動く死体、亡者はあくまで死体が勝手に動くだけ。 怨念みてえなもんは残ってるが、魂があるわけじゃねぇ。
 だが、食屍鬼グールは……」
 
 魂がある。だから生前の知識や記憶、そういったものも残っている。
 つまり……、
「……知性がある、か……」
 
 となるとそりゃ厄介だ。
 動く死体は命令に従うだけの木偶人形かひたすら突撃し襲ってくる化け物。
 それもそれで厄介だが、知性がねえってことは、あちらにゃ作戦も駆け引きも何もねえって事でもある。
 こっちの引っ掛け、誘導にも簡単に引っかかるし、何なら罠にはめるのも簡単だ。 
 それこそ甲羅猪シャルダハカ退治のときみてーに、落とし穴の一つでも掘っときゃコロコロ落ちてくれるだろう。
 
 だが、そう聞くとムーチャはまた苦い顔をし、
「あるときもある。ないときもある」
 と、よく分からねえ返し。
食屍鬼グールは、一度死んだ者が邪神の呪いで変化する。
 魂を死した肉体に閉じ込められる。
 最初は生きてたときとまるで変わらない。
 けど……次第に狂っていく。
 夜に眠ると正気を失い、まずは死体を探して貪るようになる。それから生者を殺し、食らう。
 ……本人は、初めはその事に気づいてない。
 朝になると足が土で汚れ、口には乾いた血と腐肉の匂い。何が起きたか分からず混乱する。
 そして、ある朝目が覚めると……共に暮らす親しい者を食い殺している……」
 
 しん、と、冷ややかな空気に静寂。
 
「……おいおいおい、詳しいな、おい。
 マジかよ、それ? マジもんの話なんかよ……!?」
 あからさまにビビった感じでそう聞くアスバルに、
「……ふふん、ヘタレアスバル」
 と、また毒を吐くムーチャ。
 
「ばっ……!? べ、別にビビってなんかいねーっての!? ただ、何か……すげー不気味でキメェ話じゃんかよ!?」
 言われて、アスバルは明らかにビビった声でそう弁明する。
「ま~、不気味っちゃあ不気味だわな~」
「ンフ~……、ワタシ、知らないウチにマジュのこと食べてたらイヤだモー」
「……俺が食べられる前提かよ」
 
 前世によくあったホラー映画のゾンビなんかも、親しい人間が人喰いの化け物になっちまうって点じゃあ同じだが、あれはなったらなったで不可逆だし、もう化け物だとはっきりわかる。
 だがこの呪われた食屍鬼グールの場合、どの段階で本当に化け物になったのかが周りにも本人にも分からねえ。

 クトリアにいた例の半死人ハーフデッドとやらにも似てるっちゃ似てる。
 だが、完全にイカれてるかまともな知性を残してるかのどちらかだった半死人ハーフデッドと違い、まともな時とそうじゃねえ時があるってのも恐ろしい。
 誰かを食い殺した時に決定的にそれがわかる。なんともまぁ……嫌な話だぜ。
 
「……それに呪いは伝播する。食われた者も、肉体が動ける状態なら、やはり食屍鬼グールになる。そしてヒトを食えば、損傷も回復する」
「うえぇぇ~、マジでゾンビ以上にヤベェじゃんよ~」
 本気の嫌そうな顔をしてそう言うアスバルに、
「マジュたち、よくゾンビ、ゾンビ言うけど、ゾンビって何ダモー?」
 と、マハが横からそう突っ込んでくる。
「あ~……、例の邪術士の使ってた言葉で言う、動く死体のことだ」
 ついつい使っちまうが、どうやらこの世界にはゾンビって言葉はねえんだよな。エルフだとかドワーフだとかってなのは前の世界でもあった言葉らしいっつーのに、なんでなんだか。
 
 しッかしまあそう聞くと、同じ残り火砂漠十大厄介危険地帯の一つと言っても、脱出が難しくて底に毒ガスが溜まってるってだけの悪魔の喉と、そんな厄介な食屍鬼グールがうろちょろしてるっていう廃都アンディルじゃあ、その厄介度はケタ違いな気がしてくるぜ。
 
「で、マジーさぁ~、マジその依頼を受けるつもり? 俺、頼まれても絶対一緒に行かねぇかんな?」
 心底嫌そうな顔でアスバルがそう言うが、
「……どうだかなァ~……。イマイチ乗り気になれねぇ~ってのが正直なとこだ」
 と、これまた正直にそう返す。
 
「そうだぜ~。ぶっちゃけ聞くだにヤバそうな案件じゃねえか。そんなのわざわざ受ける必要ね~って」
「ウーン、食屍鬼グールと戦うのは、多分、きっと、あんまり楽しくないだモヨー」
 カシュ・ケンもマハも、それぞれに否定的なコメント。
 
 まあもともと俺が求めてたのも、ある程度遠出が出来、時間も自由でリカトリジオスの情報を集めるのに都合のいい依頼ってだけだ。別に廃都アンディルの調査自体にこだわりがあるわけじゃねえ。
 
「……ま、そうだな。こいつはパスして、別の依頼を探してくるか」
 
 最後の締めくくりにカシュ・ケン特製バナナ酒をグイッと一口呑み、陶器の盃をテーブルに叩きつけるかのようにして置いてそう言った。
 実際この時は、本当にそうするつもりでいたんだよな。
 
 ▽ ▲ ▽
 
 俺たちの農場に頻繁に出入りするようになってるのは、何もカリブルやルチアたちばかりじゃねえ。
 カシュ・ケンといい仲になってるマーリカも、仕事やプライベートでたまに来るし、隊商部族の“新月の夜風”や、薬師部族の“砂伏せ” 連中も定期的にやってくる。
 旅の猫獣人バルーティ部族は、基本的には“砂漠の咆哮”なんか同様、残り火砂漠の各地にある野営地を転々として生活をしている。
 隊商部族もそうだし、狩人部族も薬師部族も、野営地で商売をし、交換、補給、交流をして、また旅に出る。
 “砂臥せ”もだから、ラアルオームに来た時は基本的にはラアルオームの野営地へと行き、そこで取引などをする。
 だが奴らはその後ちょっと足を伸ばして俺たちの農場へともやってくる。
 連中に農地の一部の土地を貸してるからだ。
 一つは、薬草類の栽培用の農地。貸してると言っても、普段は俺達がそこの世話をしてる。で、薬草の中から奴らが欲しいだけを持って行き、出来た薬のいくつかを安価で分けてもらっている。
 それともう一つ重要なことの一つに、出産のためというのがある。
 旅の猫獣人バルーティ部族にとって、どこで出産をするかというのは重要な問題だ。 部族ごとに信頼し安全で問題トラブルなく出産できる野営地をそれぞれに確保していたり、あるいは隠れ家的な場所を持っていたりする。
 “砂伏せ” たちも以前は彼らだけの隠れ家の洞窟をいくつか確保していたらしいが、それらの場所はどんどんリカトリジオスの勢力圏となってしまい、もはや安全な場所ではない。
 で、今最も信頼ができ、安全性を確保できるのが俺達の農場というわけだ。
 最初はダーヴェが張り切って新しい家を建てようとしたが、“砂伏せ”達の価値観では、レンガと粘土の家よりも、洞窟の方が安全かつ安心な住処と言うことらしい。
  しかもできるだけ周りから目立たず、入口の場所さえよくわからないような作りがいい。
 で、何でか知らねえが、ダーヴェもカシュ・ケンも、それに妙に刺激を受けちまった。
 ならば、と、農場のそこそこ広い敷地内を探し回って、その要望に沿う場所を見つけ出した。
 はずれのほうにある岩の多い斜面。そこに何箇所かの自然洞があり、そのうちの一つがそこそこの居住性を持っていた。
 で、そこを増改築した。
 内部を自然洞の雰囲気を壊さぬレベルで削りまた補強し、家具や何かを設える。用水路からこれまた自然の小川に見えるように水路をひいて、さらには内側に水道を引き込み、一見すると自然の湧き水っぽくしてから下水に流す。
 決定的なのは外観のカモフラージュだ。なんと、自然の岩を利用した機械仕掛けの隠し扉みたいな門を作りやがった。
 
「……やりすぎだろ、マジで」
「ごれヴァ、自信作」
「中にゃ隠し部屋とかもあるんだぜ!」
 自信満々でそういう二人だが、こりゃどっちかつーと秘密基地ごっこに近ぇな。
 実際、“砂伏せ”達が使ってない時期には、ガキどもの遊び場だったり、食料資材の隠し倉庫みたいな使い方をしてる。
 
 で、今回はまたいつも通りの取引や畑の薬草採集に薬作りを終えた後、出産の近い妊婦と数人がここに泊まり込むことになって居る。
 
「リカトリジオス達の、ハァ、最近の動きとしたらば、やや、広がるのが鈍り始めとる……つうのは、ありまスナ」
 “砂伏せ”の長老、ファルサフスがそう答える。
 洞窟内の調合部屋で、数人の“砂伏せ”達がゴリゴリと乾燥させた薬草や木の実、あるいは動物魔獣の骨や角と言ったものをすりつぶす音や、煮立てて蒸留し成分を抽出したりする音が静かに聞こえる中、他の面子なしでの秘密の情報交換だ。
 
「やっぱ、規模がでかくなりすぎて、補給が追いついてねぇってところか?」
「ハァ、そういう面も、ありまスナ」
 相変わらずふにゃふにゃベタベタとした何やら田舎臭い訛りのある喋り方だが、こう見えてこの長老、意外と鋭いところがある。
「規模は、ハァ、たスかに日々、大きくなっておりまスナ。それに対して、兵站は、ハァ、まだまだ弱い。それは事実でスナ。スかス……」
「しかし……?」
「しばらくは、100人から300人規模の中規模部隊を多数作って、ハァ、こ~……残り火砂漠全体に広げるように、ハァ、動いとりましたがなァ~……」
「何か変わったのか?」
「よくは分らんスが、ど~も、それらが、こ~、まとまりつつあるかの話を、聞きますなァ、ハァ」
 
 ファルサフスの情報は、単に“砂伏せ”達が直接見聞きしたものばかりじゃない。様々な旅の部族や何かと、その途上で、または各野営地で交換した噂や伝聞も含まれる。
 中にはただの事実無根のでたらめや憶測、また伝播過程で尾鰭がつき誇張されたものや、その逆にいつの間にか矮小化されたものもあるだろう。
 その中でこのファルサフスの情報は、勘所がいいと言うか、雑多な情報の中からうまく要点を掴んでることが多い。喋り方自体とは全く逆だ。
 
「族長、あんたの見解で良いが、なぜそうなってると思う?」
 改めてそう聞くと、その長い毛をかき分けボリボリと掻きつつしばらく考え込んでから、
「……南征をあきらめたように思いまスナ」
 との回答。
「アールマールか」
「リカトリジオス部隊の移動、進行方向などの話を合わせますと、スばらく前からこちら側への展開が減っとるようでスナ。
 諦めたは言い過ぎとスても、南より……北。そちらの重要度が上がっとるようで」
 
 猿獣人シマシーマの密林王国アールマール。そこの政権転覆のクーデターを目論んでいたリカトリジオスの内通者を突き止め、捕まえたのもだいたい三月ほど前の話だ。
 スパイや内通者はおそらく他にもたくさんいるだろう。だがそれによって計画の一部が頓挫、または遅延してるのも間違いないし、アールマール王国のリカトリジオスへの警戒度は上がってる。
 アールマール王国でシャブラハディの分離派神官を焚きつけてクーデターを起こし、新たな政権と同盟関係を結んで資材や食料を手に入れる。少なくともこの計画は立ち消えた。
 その結果、リカトリジオス内での大きな方針の変更が起きている……と、いうことなのか?
 
「ニャーゴス、ターズナム」
 と、考え込んでる俺と不意にそう猫獣人バルーティ語で話しかけてくるものがいる。
 もちろんそれは、この“砂伏せ”部族の守り神、俺達が知り合うきっかけにもなった若き猫獣神バルータのナルゴムナムだ。
 “砂伏せ”同様に長毛でやや小柄な猫獣神バルータだが、最初に会ったときは大型犬をちょっと大きくしたぐらいの体格だったのが、今や普通に虎かライオンぐらいの体格だ。
「ニャムニャゴムナ、ナーハームハニーク」
 猫獣人バルーティ語の勉強は一応まだ続けてるが、実際、旅する猫獣人バルーティ達の多くはクトリア語も習得してるので、猫獣人バルーティ語を使う機会は少ない。
 なのでいまいち生きた言葉になっちゃいねえんだよな。
 
 んで、ナルゴムナムが言ったのは、「迷いは源に帰れ」みたいなこと。
 意味? わかんねーよ。だからそりゃどういう意味だ、ってこと聞き返したら、
「ムナス、ニャーゴスナダス」
 魂の源……いや、精神……心……?
 ……やっぱ分からねーな。抽象的……つうか、なんだよ精神論だが根性論みたいなもんか?
 
「ナマナムフ、ワナール、ナマスナハム、グルーヴ」
 ……若者よ、迷いの先にこそ道がある……て、いや、実年齢的にはお前確か5歳ぐらいだろう? ぜってー俺より年下だよ。
 
 ▽ ▲ ▽
  
 数日後にまたラアルオームの“砂漠の咆哮”の野営地へと行き、手頃な依頼を探していると、ちょいと意外な奴と遭遇した。
 やや小柄で猫背。もの静かでひっそりとした佇まい。どこに居てもでしゃばって目立つ事が無く、どこにでも何故か妙に馴染んで見える。
 アナグマみてえな目の回りの真っ黒な模様がトレードマーク。カリブルと従者契約をしている犬獣人リカート戦士、アラークブだ。
 そのアラークブが、亀老師ガムジャムと“鋼鉄”ハディドと何やらごちゃごちゃ話し合っている。
 ちょうどその方向へ行こうと思っていた俺が、その様子を眺めながらやや距離を置いていると、俺に気付いたハディドの奴が大きく手招き。
 
「おい、こっちだこっち! 来いよ、マジュヌーン!」
 野放図な大声でそう呼ぶハディド。何の用事かはわからないがとりあえずそっちへ向かうと、アラークブが上目遣いにこちらを見る。……いや、 どっちかっつーとこれは、睨む……だな。
 
「お前、カリブルの奴とは今でもちょいちょい連むンだろう?」
「いや……連むってほど連んじゃねーぜ? たまには会うけどな。つーかそんなんだったら従者やってるアラークブの方が長く連んでんだろ」
 俺はアラークブとハディドを交互に見ながらそう返す。この二人が揃っていて、何でそんなこと俺に改めて聞くのかがよく分からねえ。
 
「お前、カリブル、何言った?」
「はぁ? 何ッ……て、何が何だよ?」
「お前何か言った。だから、カリブル、“廃都アンディル”に行った」
「はぁ? 待て、待て、何だ? 何の話だ? なんでカリブルが廃都アンディルに行くんだよ!?」
 話の流れが全く分からねぇが、アラークブはほとんど俺に詰め寄るみてえにしてくる。
 
「……は~。ま、だろうな。カリブルの動向にお前が関わってるとしたら、タイミングが合わねえ」
 ハディドは腕組みしつつそういうが、俺には何の話だかよくわからない。
「おいおい、お前らだけで納得してねえで、どういう話なのかちゃんと説明してくれよ」
 
 で、要するにこういう話だ。
 
 カリブルはおそらく例の、反リカトリジオスの仲間たちと共同で依頼を受ける。
 もちろん例の“塩漬け”案件だ。
 どうやらそれは俺がハディドから“ 塩漬け” 依頼の話を聞くより前に、亀老師のガムジャムがすでに回してたらしい。
 なんでこういうすれ違いが起きるのかって言うと亀人サヒファでありかつかなりの年寄りである亀老師のガムジャムは、俺含め他の奴らよりとにかくスローモーで、ガムジャムが説明するより先に話を進めちまうことが多いからだそうだ。
 
 何にせよ、カリブルとお仲間たちは、すでに10日は前に廃都アンディルへと向かっている。
 
「廃都アンディルの調査は、俺みたいな慎重で用心深い奴じゃないと向いてねーって言ってたじゃねえかよ。
 なんであの武人気取りの単細胞バカに回したんだ」
 
「俺に言うなよ。ガムジャムじいさんが回したんだからよ。それに別にカリブルだけが受けたんじゃねえ。他に連れ立った連中の中にゃ、斥候や隠密のエキスパートに、魔術を嗜む奴もいる。編成的にあんな大人数で調査に入った例は今まであんまねえが、じいさんの判断が間違ってたとは言い切れねえぜ」
 
 ハディドに言わせりゃ、なかなかのメンツを揃えていたってことらしい。
 
「大体お前ら何を心配してんだ?
 カリブルだっておめーの言う通り単純バカかもしんねーけどよ。あいつだって とっくに二ツ目になってんだぜ?」
 まあ確かに奴はもう見習いじゃねえし、戦士としちゃあそもそも俺より上なんだ。
 と、そう納得しかけていると、アラークブが俺の服の裾を引っ張り天幕の隅へ。
「お前が無関係なの、分かった。
 だが、今、あの辺りは危ない。リカトリジオスの中規模部隊が、廃都アンディルを拠点化するため動いている」
「……おい、マジか?」
 つまり……、
「知ってか知らずか、カリブルの野郎は、敵の渦中に突っ込むところ……てことか」
 こくり、と小さく頷くアラークブ。
 こりゃまた、面倒なことになったもんだぜ。
 
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