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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-100.マジュヌーン(52)死者の都 -予定は未定で
しおりを挟む「おう、元気にやっとるか?」
「……なんだ、またこのパターンか?」
「また、とはどういうことだ?」
「いや、こっちの話だ。で、どうした? またリカトリジオスに関する情報でも入ったのか?」
「む、何故わかった?」
「他にお前がここまでやってくる理由なんかねえだろ?」
「そ、そんなことはないだろう!?」
とまぁダラダラとこんなやり取りをした相手は当然ながらカリブルの野郎だ。
ルチアもカリブルもそれぞれにリカトリジオスに関する情報を集めちゃあ、この農場までやってくる。
まあ、同期で二人の過去を唯一知ってる俺が、こうして拠点を持ってるという時点で、奴らにどっちゃ都合のいい集合場所みてえなもんだ。
ただ、二人が過去に故郷をリカトリジオスに滅ぼされたということについては、マハもムーチャもアスバルも知りはしない。
話す必要があると思えば自分から話すだろうし、俺だって静修さんとの別れの会話についちゃあ、誰にも話しちゃあいねえ。
で、そのカリブルが持ち込んできた今回の話しってーのが……、
「…… 奴隷狩り部隊?」
「うむ」
リカトリジオス軍は規模が大きくなり、また、残り火砂漠の各地に広く展開されている。
軍の規模は大きいが、それを支えるだけの資源を確保しているとは言い難い。
アールマール王国の謀反を支援し、新政権と同盟を結ぶことで豊富な資源を得ようという計画はあったがそれは俺達が潰しちまった。
他の種族に比べて餓えや粗食、悪環境に強いってのは、実のところ犬獣人の特質らしいが、それでも限界はある。
で、そうなると必然、奴隷狩りと略奪が活発化する。
リカトリジオスによる残り火砂漠内での略奪や奴隷狩りの活発化は、残り火砂漠を行き来する隊商の部族や、もちろん俺たち“砂漠の咆哮”でも問題になっていて、どうにかしてその対抗手段を取らねばならないという話にもなっている。
ただ、例の五派閥長老全ての合意、てなとこまでは行ってない。 今のところは基本は様子見……てな感じらしい。
「様子見……である以上、本格的な攻勢は仕掛けられんが、様子見である以上、偵察は出来る」
ブルドッグみたいな顔をしわくちゃに歪めながら、カリブルがそう続ける。
「はっ! うまいこと言うな、ブル公。
……で、その偵察のついでにいくつかの部隊が運悪く俺たちを見つけて、運悪く壊滅させられても仕方ねー……って理屈だな?」
「そこまでは言うとらん、そこまでは。……出来りゃ万々歳だがな」
壊滅……てのは冗談にしても、カリブルとしてはそのくらいは狙いたいところか。
「……で、 俺には具体的に何を頼みたいんだ?」
「べ、別にお主に頼み事をするとは言っとらんだろう!?」
「じゃあ何で来たんだよ?」
「旧知と旧交を温めにきたとは考えられんのか?」
「…………」
「……分かった、言う。その通りだ」
深く息を吐いてから腕を組み直し、カリブルが続ける。
「俺は来るべき日に備えて、“砂漠の咆哮”内で反リカトリジオスの志高いもの達を集めておる。
そう遠くないうちに奴隷狩り部隊へと襲撃を仕掛け、囚われてる者たち、そして我が部族の仲間たちを解放する日が来るやもしれん。いや、来る。必ずな」
カリブルにとって、そしてルチアにとって、リカトリジオスの奴隷となっている部族、村の仲間たちを解放するのは悲願の一つだ。
「……だがな、ここで一つ問題がある」
「何だ?」
「俺の集めた強者どもには、斥候向きのやつが少ない」
あー……それは想像に難くない。
武人気質のカリブルと気が合い、志を共にしようなんて連中は、やっぱ似たような脳筋バカばっかりだろう。
「なるほど。それで、俺か」
「う……うむ」
しわくちゃの顔をさらにしわくちゃにしながら苦しげに頷く。
全く相変わらず腹の中が顔にすぐ出るやつだ。よほど俺に借りを作るのがいやらしい。
「高くつくぞ?」
「か、金を取るのか?」
「当たり前だろ? お前は俺に“依頼”をしに来たんだ。
“砂漠の咆哮”の決まりは知ってるだろ? 同じ団員内であっても依頼というのであればちゃんと金を払う」
まあその場合、直接払いで構わないってことだから、団を通すよりかは安くは済む。
「むうぅ……確かに」
腕組みしかめ面で唸ってしばらく。
ようやく絞り出すようにしてカリブルは、
「分かった、望むだけ払おう」
と言う。
「頼みたいのは、事前の偵察、情報収集と、襲撃時の斥候だ。
特に事前の情報収集は念入りにやってほしい。今、俺達が手に入れてる情報も全て渡す。
奴隷狩り部隊の全容、数、規模に巡回ルートや野営地など、何でもいい。
とにかくまだ情報がまるで足りておらんのだ」
「よくそんな状況で襲撃チーム作ったな」
「仕方なかろう。リカトリジオスに一矢報いたい、と言う者は少なくない。皆、気が逸っておる」
まあ、この依頼自体は俺からすれば渡りに船。実際、カリブルに頼まれるまでもなく折に触れては、リカトリジオスの動向は探っている。
「……そういやよ」
ふと気になって、改めてカリブルに聞いてみる。
「アラークブの奴はどうした?」
カリブルの従者で、アナグマに似たぬろっとしたよーなツラの犬獣人。何故か今回、そいつの姿が見えねぇ。
「うむ。あやつはすでに、情報収集のため色々と探ってもらっている」
「本当か? どっかでサボってんじゃねーのか?」
「馬鹿をぬかすな! あやつは実に信頼のおける男だ!」
「俺よりもか?」
「うむ!」
「……じゃ、俺は用なしだな」
「いやいや、そうは言うとらん、そうは!」
やっぱりカリブルの野郎は、からかうと面白ぇな。
▽ ▲ ▽
カリブルからのこの依頼は、いわゆる長期依頼っていうものになる。特定の期限を決めず長期間に渡って、必要なだけの情報や成果を得る。報酬は成果次第。バールシャムの河川交易組合から受けた川賊調査の時と近いパターンだ。
なので、他の細々した依頼を受けつつ、同時進行で情報を集めを続けるという感じになる。
俺は猫獣人という種族じゃあるが、家畜小屋生まれな上に別世界の前世での記憶も持ってる。だもんで猫獣人らしい文化風俗で生きてきた経験がない。旅暮らしが基本と言う猫獣人 らしさを持ってねーもんで、 長期間の隊商護衛の依頼なんてのはあまり受ける気にならねえ。
受けるにしても、長くて半月か1月程度。出来りゃ近場ででちゃちゃっと済ませてえもんだ。
だが、ラアルオーム近辺で害獣退治だの失せ物探しだのなんてやってたところで、リカトリジオスの情報なんざたいして入ってこねぇ。
どっかで遠出をしなきゃ新しいネタも見つからねぇから、その辺が吟味のしどころだ。
なもんでここ最近は、以前みたいに簡単でちょろいが退屈な仕事をたくさん受けることはなくなり、ある程度残り火砂漠方面に遠出はするが、かと言って長くはなりすぎないくらいの案配の依頼を探している。
「─── てな感じの仕事はねーか?」
“砂漠の咆哮”、ラアルオーム野営地の天幕で、古株の亀人の“楼閣主”へとそう聞く。
“楼閣主”ってのは各野営地のまとめ役をする役職の団員をさす。
四ツ金以上の階級で、現役は半ば引退したような歴戦の戦士がなる役職で、依頼の取りまとめや采配などの事務仕事なんかもする。 まとめ役と言ってもリーダーというよりかは、裏方仕事の中心みたいな感じだ 。
なので、この役職に猫獣人がなることはほとんどないらしい。
俺はその、かなり年を食ってるらしい亀そっくりの爺様のことを、仙人と呼ぶか、長老と呼ぶか、老師と呼ぶかで悩んで、最終的に亀老師と呼ぶことにしていた。もちろん心の中でな。
亀老師のガムジャムは、相変わらずののんびりした口調で、
「そうー、何度もー何度もー、聞かれたところでー、そうー、都合よくはー、依頼は増えてーこんーわなー」
と返してくる。
ここんところ週一、週二ぐらいで通いつめちゃあ、同じようなことを聞いてるんだ。向こうもいい加減うんざりしてきてんのもしかたねぇ。
「ま~た同じことを聞いてンのか、マジュヌーン」
横からそう口を挟んでくる猫獣人戦士は、獅子の谷野営地でヒジュルの補佐をしてた先輩団員の一人、“鋼鉄”のハディド。
黄色と白のツートンカラーをベースに、小さな黒いブチ模様が体中にある。何に似てるかってーと、豹とかあっち系だ。
その上今は、ヒジュルの後を継いで訓練教官のチーフも兼任しているベテランだ。
ヒジュルがあまりのスパルタ訓練をしてたから、“砂漠の咆哮”の新人訓練のデフォルトがああいうもの、と思ってしまいがちだが、こいつの新人訓練のやり方はヒジュルに比べるとなんつーかスポーツライク。
ま、俺やヒジュルがいわゆる「猫獣人らしくない」だけで、ほとんどの猫獣人はマハやアティックに近いお気楽ポジティブな奴らばかり。
このハディドもそっち系で、前任のヒジュルとは真反対。
「なあ、じさま。コイツになら例の塩漬け案件回しても良いかもしれんぞ?」
「塩漬け?」
「だいたいが無期限の依頼で、色んな理由から引き受け手が居ない、達成出来ないで、“塩漬け”になってる依頼だ」
は~、なるほど、難物っ……てことか。
「それが何で俺に都合がいいんだ?」
「失敗しても誰にも文句言われん。時間はゆっくりかけても構わねー。成果があれば儲けにもなる。それに物によっちゃあ依頼を受けるだけで支度金も出る」
「……何か裏がありそうだな」
「ないぞ。ただ、だいたいが死人がやたら多いってだけだ」
「あるじゃねーかよ!?」
思わずそう、ストレートに突っ込み返すが、
「死ぬのが怖ぇなら、さっさと引退しちまいな」
と、これまたストレートに返される。
命知らずの強者、名うての戦士の集まりてな触れ込みの“砂漠の咆哮”だ。そう言われちゃあ二の句も継げねぇぜ。
「怖い怖くねえの話じゃねーぜ。俺にゃあ今、やんなきゃなんねぇことが色々あるんだよ。その途中でバカみてーな死に方だきゃあしたくねーんでな」
実際、俺が本当に怖ぇのは、自分が死ぬってなことじゃあねえ。もちろん自分が死ぬんだって怖ぇが、それ以上に怖ぇことが山ほど増えちまった。
そう言うと、ハディドはニヤリと笑って、
「そこよそこ、そこがお前向きだってーのよ。
オメーはヒジュルに似て、やたらと慎重だし細けーこと気にしやがる。
この手の“塩漬け”任務には、そういう性格のが向いてんのさ。命知らずの腕自慢なんて奴らは、ソッコーで死にやがる」
……まあ、またその評価か。
繰り返すが、俺が特別慎重なんじゃなくて、猫獣人一般が無鉄砲で楽天家すぎんだよ。
「……分かったよ。で、どんなのがあんだ?」
そう聞くとハディドはまたもニヤリと笑い、
「ガム爺、アレとアレだ」
「あれ~、とは~……」
「ああ、俺が説明しとくから、その間に持って来てくれ。
一つは、“悪魔の喉”の調査だ。こいつはあのヒジュルですら途中で諦めた難物だぜ?」
「いや、それはやらん」
悪魔の喉は“闇の手”の聖域の入り口の一つだ。“闇の手”の聖域が実際どこにあるのか、ってのは、俺にも実は分かってねえ。
あの聖域には特殊な魔術の力でつながる入り口が世界の各所にあるらしい。そういう意味で言やあ、聖域経由で世界中のいろんなところに瞬間移動できるっていう便利ものでもある。
何にせよ、そんなもん報告できるわけもねーし、ヒジュルが途中で諦めたっていうのもそのことに関係してんだろう。
「なんだよ、お前にとっても思い出深い場所だろう?」
「だから行かねえの!」
“闇の手”のことは別としても、俺がそこでの最終試験で死にかけてたってことは周知のことだしな。
「しゃーねー、じゃあ次だ次。
廃都アンディルの方だな」
こりゃまた……懐かしい名前が出てきたもんだ。
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