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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-98.J.B.-East Side Story.(イーストサイドストーリー)
しおりを挟む「なぁ、兄ちゃんよ、聞こえねーのか? ああ?」
粘ついて甲高い、チンピラ然とした声に口調。コイツが相手をイラつかせる目的であえてやっているとしたら、なかなか見事な案配だ。
ほとんど光源のない地下下水道内。俺もあちらも、それぞれに探索者用の小型ランタンを使ってる。俺のは腰に付けた魔晶石使用のドワーフ合金製で、あちらは一人が手に持つ油式。
ドワーフ合金製の魔装具、“シジュメルの翼”は例の変装用の布ですっぽり隠してはいるが、観察力さえあればそこだけでも装備の差は分かるはず。
ゆっくりと振り返りつつ、風を察知し気配を探る。
先ほどのダルモスとか言う親衛隊兜の男を中心にして、ビエイムの手下二人が両サイド。人払いでもしたのか、他は半径3アクト(約100メートル)近辺に気配はない。
さて、こいつらはどこまでこっちについて把握してる?
「そうだな、人探ししててかなり深い所まで潜っちまったぜ」
ビエイムに絡まれたときのことをこいつらが覚えていれば、俺のこの言葉に矛盾はない。
サリタに言わせりゃ、ビエイムはカリニョンを独占したくてあの辺りを見張っては、客になりそうな奴らを追い払っているらしい。だが、地下まで潜った俺の目当てが娼婦じゃねえのは馬鹿でも分かる。
痩せぎすのチンピラ子分は再び親衛隊兜の顔を伺う。親衛隊兜、ダルモスは二回ほど小さく頷き、チンピラ子分は再び甲高い声で、
「おうおうおう、てめぇ誰に断って……」
言いかけたチンピラ子分の後ろ頭をダルモスが殴る。どうやらダルモスの意図とは違う対応だったらしい。
今度はダルモスの口元に耳を持っていき、小声できちんと指示を受けてから、
「おうおうおう、てめぇ、こんなところまできて誰を探していやがんでぃ? おお? ことと次第によっちゃあ、俺たちが手伝ってやらねぇ事もねぇぞ、おう?」
と来た。
なるほど、ダルモスはビエイムの右腕で、唯一読み書き計算が出来る知恵袋……てなのは間違いないようだ。
脅して追い払うよりは、騙してこちらの目的や背後関係を探る方を選んだか。
まあ、狙いはバレバレだが。
さて、どーするか。思い付く手は二つほど。そのどちらで行くか……、いや、合わせ技で行く、ってのも手ではあるな。
「……別口でな。古い知り合いに頼まれて、鍛冶師とその家族を探してんだよ。
旦那の方は、確かティノ……とかってな名前で、かみさんはクロエ。それと、子供が2人居る。
去年の暮れくらいに王国領からクトリアに来た筈だが、その後連絡がねぇ」
素知らぬ顔してそう聞くと……チンピラ子分は心当たり無しとでも言う素振りだが、ダルモスの奴は目に見えて顔色が変わる。
こいつ、無口なのは基本的に反応が表に出やすいからなんじゃねーか?
ごにょごにょと何事か小声で話してから、
「おう、俺たちゃ心当たりはねぇが、知ってそうな奴なら知ってるぜ。ついて来な」
と、チンピラ子分。
「そいつは助かるな。遠いいのか?」
「いや、すぐそこだ」
実に有り難いお誘いだ。こいつに乗らねー手はねえな。
ランタンを持ったややひょろ長い体躯の方の子分を先頭に、地下下水道をさらに進む。
東地区の地下街、地下下水道は市街地のそれより壊れている場所が多いようで、行き止まりや回り道をしながら、時には瓦礫の山をも超えて行く。
しばらくしてたどり着いたのは、またもやどん詰まりの行き止まり。
「何だ? 行き止まりだぜ」
「違う、違う。見ろよ、その奥の所をよ」
「あ、どこだ?」
「暗すぎて見えねーか? ほら、そこだ……よッ!!」
覗き込んでる背中をどん、と蹴られるのと、もうひとりが紐か何かをひいて仕掛けを動かすのはほぼ同じタイミング。
俺は、廃材と砂とで隠してあったらしい落とし穴のぽっかりと空いた暗闇の中へとたたき落とされる……。
……と、ダルモス達は思っていたはずだ。
残念ながら、その手は俺には通じない。
「はーはっは!! 何者かはしらねーが、余計な事を嗅ぎ回っ……て……ん……じゃ……?」
下を覗き込みながらの高笑いが、徐々に視線が上へと上がって、その声も途切れ途切れになり宙へと消える。
そのさ迷う視線の先には、“シジュメルの翼”で宙に浮いた状態の俺が居る。
「……あ~、悪いな、嘘をついて騙してよ。
俺が本当に探してたのは、ここらでコソコソ人攫いをしている、モグリの奴隷商なんだよな」
「な、な……、てめぇ、な、何者だ……!?」
「お、降りてこいッ!!」
いや、降りるかよ。まあ、地下下水道内だからたいした高度でもねーけどな。
俺は周囲を確認しつつ、正確な狙いで“シジュメルの翼”から放てる風属性の魔法、【風の刃根】を数本放ち、ひょろ野郎の手にしていたランタンを叩き落とす。
正確に、他の奴らには当たらないように。
「ヒッ!? な、何だッ!?」
「───ま、いいから話を聞けよ。こりゃそう悪い話じゃねえぜ?」
さて、まずは奴らに騙されたふりをしてから、意表をついて力を見せる。
奴らの頭の中は今や完全に混乱状態。
そこに……今度は安心材料を投げ与えてやることにする。
「お前らどうせ、もともと魔人の山賊ども相手に取引してたんだろう? だが、こっちは転送門経由で王国領を密かに通過し辺境諸卿と直接取引するルートを持ってる」
だんまりむっつりのダルモスと、そいつの顔色を伺う子分二人。
「お前らの親分とこに案内しな。
そうすりゃ今より確実で大きな儲けを保障してやれるぜ。
ただ、従わないなら……潰す」
さあどうする? お前ら所詮下っ端だ。 この提案を蹴るも受けるも判断できねえ。
そしてもしビエイムの元に俺を連れてくってんなら、そりゃあ奴隷売買を認めたってことになる。
まあ認めるも何も……と、俺は宙に浮きながら、本来俺が落とされるはずだった落とし穴の奥を伺う。
力なくうなだれうずくまり、あるいは這いつくばり倒れている何人もの人間、獣人たち……。
ここは罠であると同時に、奴隷として捕らえた“商品”の一時保管庫……そういうことだろう。
「どうする?」
お前らにゃ選択肢なんざもう残っちゃ居ねーんだ、さっさとしな。
◇ ◆ ◇
一人が先触れとして親玉……つまりはビエイムへと連絡をし、俺とチンピラ子分とダルモスとで再び移動。
地下下水道を抜け出して出た地上はと言うと、東地区からやや離れた郊外の荒れた岩場。
遠目に見える街の影からすると距離的にはそれほど離れちゃいねーが、 位置関係や地形的にはなかなか上手い具合の死角になってる。下水道が流れてたからには、昔はここにも何らかの施設があったんだろうが、壊れた土台が少し見えるだけで、完全に廃れて放棄されてる。
「ここで待て」
外は日も陰りだし、もうじき夜へと入る頃。岩場の穴や亀裂の中にいくらかの野営用の道具類を隠して置いてあるようで、チンピラ子分が火口を取り出し小さな焚き火を作る。
クトリア近郊の荒野は、昼間は日差しがやたら強くめちゃくちゃ暑いが、夜になると急に冷えたりもする。
男三人、むさ苦しい面突き合わせて、その小さな焚き火の近くで時間を潰す。
ダルモスは相変わらずむっつりと黙ったままで、何を考えてるのかはさっぱり読めねぇ。
チンピラ子分は表向き平静を保とうとしているが、明らかにこの状況についていけず不安と動揺で目をキョロキョロさせながら、ひきつり気味の薄ら笑いを浮かべている。
しばらくすると結構な人数の近づく気配がしてくる。中心にいるのは例の“聖人”ビエイム。そしてさっきのひょろひょろ子分と、それ以外の取り巻き達。
「……てめえか? 訳のわかんないことほざいてる若僧ってなよ」
元々デカイ体をより一層大きく見せようとして、胸をそらしてそう言うビエイム。
「お互いが得になる話だぜ」
立ち上がり、改めてビエイムと向き合い周りを見回すと、荒れた岩場に囲まれたちょっとした空間では、全方位がビエイムとその手下連中に囲まれている。数的にゃあ、10対1、くらいか。
まぁもちろん上が空いてる以上、俺はすぐにでも飛んで逃げることもできれば、上から一方的にこいつらを攻撃することも出来るんだけどもな。
「なんだか変な疑いを俺たちにかけてるみてーだが、なんか証拠でもあるってのか?」
おっと、ここでまだそらっとぼけるつもりとは、なかなか太い奴だ。
「おいおい、あんな下水道の奥の奥にあんだけ攫った人を閉じ込めておいて、今更何言ってやがんだよ」
「人? 閉じ込めてる?
何のことかさっぱりわかんねーぜ。そいつら勝手にどっかに落ちて出られなくなっただけなんじゃねーのか? あの辺りはヤヤコシイからな」
こりゃまた、ずいぶん強引なとぼけ方だ。
「……それならそっちの無口男の書き記してた帳簿と照らし合わせたっていいんだぜ。
例えば去年の暮れあたり……娼婦を8人、鍛冶師とその家族4人……。なかなかの値段で売れたみてぇだな?」
無口男ダルモスが青ざめ息を呑み、 ビエイムも驚き目を見開きながら、そのダルモスを見る。
「後は……ネムリノキの樹液を使った眠り薬だな」
小瓶の中身の薬についてもレイフによる分析済み。ネムリノキと言う残り火砂漠をさらに西の方に向かったところにある特別な素材を使った眠り薬。ここらじゃあそうそう簡単に手に入るもんでもない。
「……て、てめえ……」
「おい、いい加減気づけよ。
俺が誰だかまだ分からないのか? 妖術師の塔の新たな支配者になったダークエルフ……それのお付きとしてやってきたんだぜ?
つまり……なんでもお見通しってことだ」
そこでようやく“聖人”ビエイムの顔色が目に見えて変わる。こいつ本当にこっちの事には何も気づいてなかったみたいだな。
「……そ、それじゃてめえが……?」
「そうだよ。前のお前らの取引相手、フランマ・クークをぶっ殺したのもこの俺だ。
なら次はどうすれば良いか分かるだろう? お前たちはクークじゃなく俺たちに奴隷を寄越す。お前たちは金を受け取る。それで万事問題なしだ、なァ?」
“聖人”ビエイムのみならず、ダルモスや小物のチンピラどもまで目の色が変わる。
クークと取引してたんなら、奴の異常性や恐ろしさは身に染みて分かってるだろうし、噂程度でしか知らないとはいえ、妖術師の塔の新たな支配者のダークエルフに対する畏怖心も当然ある。
その上での取り引きの話とくりゃあ、奴らの方に断るっていう選択肢はまずないはずだ。
「……そ、そうかよ。
けどな……お前が本当にそのダークエルフの配下だっていう証拠はあんのかよ?」
取り引きそのものについては触れず、 俺の身元確認の方にだけ言及してきたか。何気に慎重だな。
俺はまず、入れ墨魔法から魔力を循環させて“シジュメルの翼”で宙に浮く。
「まずは見ての通りだ」
と一言言って、それから右手を挙げると分かりやすくパチンと指を弾いてから
「白骨兵」
とこれまた分かり易く明瞭な声で。
「ひ、ひィッ!?」
「な、何だこりゃあ!?」
ざわめくビエイムとその手下たちを、ぐるりと取り囲んでいるのは白骨兵の一団。
俺を包囲していたビエイムたち一派の、さらにその外側を囲む別の包囲だ。
「……なァ? これだけの死霊術を使える奴が、今このクトリアにどれだけいると思うよ?」
「あ、ああ、分かった、分かった!
分かったからよ、な?
こっから先は、お互い腹を割って、大人の取り引きといこう、な?」
「……ああ、良いぜ」
ようやく、ビエイムは観念したようだ。
「あんたの言うとりさ! 俺たちゃ前は、クークや他の魔人達に奴隷を売ってた。ただ……へへっ、そうだな……魔人達が潰されてからは、売れる先はガクンと減っちまったよ」
一応は威厳を保とうとはしてるっぽいが、 それでも上目遣いに媚びへつらうような笑みを浮かべてビエイムは続ける。
「……減った……っていうことは、一応今でも売り先はいくつか残ってるって事だよな?」
そう。だからこいつはまだ奴隷商なんてのを続けてられる。
「……さすがに……それはなぁ。
まさか……そいつらのことを潰すつもりはねえだろ……?
あんたらがよ、奴隷をもっと欲しいってんだったら、俺達ゃもっともっと大量に捕まえてやるさ。
最近は王国からだけじゃねえ。よそ者がどんどんやって来る。西の方から逃げてきた連中とかよ……。
だが、この東地区は俺たちがずっと守ってきた土地だ。後がら来たよそ者どもに、勝手に荒らされちゃあ黙っちゃいらんねーんだよ。
だからよ、数の事ァ心配しなくていいぜ?」
なるほど、そうやって正当化してたのかよ。いっぱしの自警団気取りで。
まあ……何にせよ証言は十分に取れた。
そして、十分に聞かせられた。
「……ざけんじゃないよッ!!」
突然、岩場の上からそう叫ぶ一人の女はサリタ。
「よそ者から東地区を守るだって……? はっ!! てめえはただ単に欲とカネに目が眩んだ、人でなしのクズ野郎だ!!!」
こぶし大ぐらいの大きな石を投げつけるが、もちろん、当たらないどころか届きもしねえ。
ぼてぼてと足元に転がった石を見て、“聖人”ビエイムは何が起きたのか分からずキョトンとしている。
それと同時に、既に夜の帳も降り、ほぼ真っ暗闇となっていた岩場の中心部上空に、青白い大きな光球が浮かび、その中央に居るビエイム達をサーチライトのように照らし出す。トマスによる【灯明】の魔法だ。
「……ああ、違ぇねえ。テメーみてーなクソ野郎を、こんな身近で見逃してた……ってな、マジ不覚だわ」
赤茶けた髪をし、魔獣装備に身を固めた小柄な女がそう吐き捨てるように言う。
その周りを囲む戦士たちも、同様に派手な魔獣装備。だが、ぱっと見だけでもビエイム達との格の違いがはっきりわかる。
そこでようやく、呆けたような顔をしていたビエイムやその手下たちが、
「……リ、リディア!?」
と叫ぶ。
「な、何でここに……!?」
何でか……? と言えば改めて言うまでもなく、 俺がダルモス達に声をかけられ、ビエイムを騙して呼び出してからのここでの会話その他もろもろ、全て伝心の耳飾りを通じレイフとイベンダーに筒抜けだったからだ。
「……よそ者から東地区を守る……だと……? よう言うたもんじゃのォ~!?」
別の岩場の上に立ってそういうのは、火砂神モトムチャンガの入れ墨を持つ南方人カラムに……あれは食人鬼か……?
「……カ、カラム……!? 何でてめ……」
ビエイムが叫び終わるより早く、カラムは岩場から一気に飛び降り、顔面へと強烈な蹴りを食らわす。
ぶっ倒されるビエイムに、あわてうろたえる手下達。
いや、何より奴らを騙しそそのかし、ここまでお膳立てをして自白まで引き出した俺も、カラムのこの暴走には驚きあわてる。
「バカ、てめえカラム!? 何一人で突っ込んでやがる!?」
「糞どもがッ!! よくも、よくも……ミレーラをッ……!!!」
俺の制止なんかまるで耳に入っちゃいねえ。カラムはまるで子供みたいに泣きわめきながら、殴り蹴り、左手につけられた義手でさらにビエイムの面をかち割る。
そこへ来て、ようやくダルモス始め他の手下どもが反応し始める。武器を抜き、構えた数人がカラムへと切りかかろうとし、残り数人は周りの囲みのどこかに突破口はないかと右往左往する。
俺はカラムへと殺到する数人の足や腕を狙って【風の刃根】を撃つ。
さらには岩場の上から飛び降りてきたリディアと他魔獣装備の戦士たちが、間に入り手下どもを打ち倒す。
「……ガラム……でべぇだぎゃ……ぶっ……ごろじで……やばぎゃッ……!!!」
顔面を血まみれにしながら、不明瞭な声でそう叫ぶビエイムだが、全てを言い終わることの出来ぬまま、それが最期の言葉になった。
そりゃそうだ。言葉を言い切ろうにも、その口がついていた頭そのものが完全に潰れて、なくなっちまったからな。
一番最後にこの岩場に囲まれたリングへと降り立った巨漢、食人鬼の手にした粗雑な棍棒……その一撃で、ビエイムの頭は完全に粉砕された。
「……ご、ごいづ、ガラム、ごろす、言った……。それ、だめ」
後で聞いた話じゃこの食人鬼は、以前死にかけてたところをカラムに救われ、それ以来その事を恩に感じてか、東地区の防衛を手伝ってるとかいう話だ。
単純な頭で考えりゃ、その恩人を殺すと言った男を許せるわけはないっ……てーことか。
「あ~あ、マジかよ……。こりゃ、もう何にも聞き出せねーぞ……」
生き残ったビエイムの手下どもを縛り上げつつ、リディアが呆れたように言う。
カラムは自分が殴り蹴りつけ、また、頭を棍棒でぶち割られたビエイムの血を全身に浴び、疲労というよりもおそらくは強い感情の乱れにより、荒く短く、まさに鬼の形相で息を吐きながら 、ただただそこに立ち尽くしていた。
奴が口走っていたミレーラってのは誰なのか知らねえ。だがまあ、普通に聞けばそりゃ女の名だ。そしてビエイムは娼婦の女たち8人を、クークに奴隷として売っていた。
後はまあ……推して知るべし……てところか……。
「……ま、ビエイムから話を聞き出すのは無理だろうが、記録やなんかを残してたのはそっちのダルモスの方らしいぜ」
「……ふ……ん、ま、そっちでなんとかするか……」
縛られ、膝をつかされたダルモスを見下ろしつつリディアがそう言うと、
「……なすよぉ~~……」
と嗚咽か悲鳴かよく分からない小さな声が聞こえ始め、それが次第に大きくなってくる。
「……はなすよォ~……! 知ってることは全部話すよォ~……!
俺は読み書きできるし、帳簿書けるから、無理矢理ビエイムに手伝わされただけなんだよォ~!!! だから、殺さないでくれェ~!!! 俺は悪くない、悪いのは全部ビエイムなんだ~~!!!」
最後は完全に泣きじゃくっているかのような声で、ダルモスは身も蓋もなく命ごいをする。
それにつられて、他の手下どももまた同様に、口々に泣き喚いて命乞いを始めた。
正直、うるさくてたまらねぇぜ。
『……あ~、まあ、思ってた流れとはちょっと違うが……一件落着だな?』
「……ま、そーだな」
ビエイムが奴隷商人らしいと言う不確かな疑惑をサリタに伝えられたのが昼過ぎちょっと。
そこから、レイフが使い魔を使っての証拠探し。俺が証言を集めに地下へ降りたら、罠にかけるつもりもないのにあちらさんから来て、ちょいと一芝居を打ったらべらべらと喋る……。
あとはまあ……急転直下だ。
サリタからすりゃ仇も取れたし、東地区にとっては街に巣くう奴隷商人を退治できた。さらには、奴らに囚われ売られるはずだった連中を助け出すこともできて、こう並べて考えりゃ万事解決、めでたしめでたしだ。
だがなんだかこう……しまりが悪いとでも言うか、何と言うか……。
と、考えて一つ、忘れちゃいけねぇことを思い出した。
「おい、ちょっと 待ってくれ」
縛られ引き立てられるダルモスに、俺は急いで近寄り声をかける。
「おい、お前らが捕まえて売り払った奴隷の中に、俺のこのシジュメルの加護と似たような入れ墨を入れた奴はいなかったか?」
俺の立場からすりゃ、同郷の村人探しがメインのミッションで、この奴隷商人退治はそのついでに起きたモンに過ぎねえ。
「話す、話すよ! 話せば助けてくれるんだろう!? あんた、ダークエルフの部下なんだよな!?」
別に部下でもなんでもねえが、まぁ一応口添えぐらいはしてやれないこともない。ていうかそもそもこいつや他の手下どもをどう処分するかは、俺やレイフじゃなく、この街の連中の決めることだけどな。
「あ、あんたと同じかどうかはっきり分からねぇが、入れ墨持ちなら何人か捕まえて送ってるはずだ。
帳簿に送り先も書いてある。つっても、 魔人どもが口にしてたの覚えてメモ書きしただけだから、正確なところはわからねェが……」
さてこれが、命乞いのためだけの嘘八百なのか、それとも少なくとも奴の知る限りの事実を話しているのか───。
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