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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-95.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「ノー モア ウォー!」
しおりを挟む「ああ、勿論私も最初から知っていたよ」
トマスのその言葉に、僕らだけでなくクレメンテ氏までが驚いている。
「いや~、だってアンタに話すと絶対バレるじゃん?」
ある意味では信頼度の高さとも言えるけど、そんなクレメンテ氏を下院議員として選出して大丈夫なのか?
しかし、この流れの中で、クレメンテ氏以上に納得出来てないのはマーランだ。
「と、とにかくその……確認させてもらうけど……。結局のところあの子供や借金を抱えた人たちが、無理やり闘技場で殺し合いをさせられてる……というのは……」
「ないよ。ぜーんぶ嘘。
借金返済で働かせる事はあるけどねー。けど、シロートを闘技場には立たせないよ。試合の質が落ちるもん」
そして当然、その流れでマーランが上目遣い気味に見るのはトマス氏の方。
そのトマス氏はと言うと、マーランの視線を受けてから軽く……そう、本当に軽く口の端を上げて微笑むようにしてから、
「見事に騙されてたよね、マーラン」
と言った。
口をパクパクさせるかに二の句を継げないマーラン。リディアはそれを軽く一瞥し、それからまた僕ら全員へと視線をやってこう言った。
「もし君タチが、ウーゴが殺し合いをさせられるかもしれない……という状況になっても、何も言わないで、笑ってその試合を眺めてるようだったら……アタシ等はクトリア共和国を見限ってたよ?
けどね……トマスが言うにはさ。そんなことは絶対にないって言うじゃない?
レイフのことは全然知らないけど、マーランが一緒にいるんだったら絶対に止めに入るはず……そう言ってたのさ」
「マーラン……。
君はあの頃から変わってない。
……いや、正確に言えば、良い意味で変わってないし、良い意味では……十分に変わったよ。
魔術の腕だけではなく、心も……強くなった」
トマスは視力の失われたその両目で、けれどもしっかりとマーランを見据えながらそう続ける。
「け……けど、僕はッ……、あのとき君を……ッ!」
助けられなかった───。
マーランの中にある悔恨。だがそれを受けたトマスは、
「───まるで恨まなかった……、と言えば嘘になる。
けど、確かにあのとき君は私を助けは出来なかったが、助けようとしていたのは知っている。その為に酷い罰を受けたのも、後になってから知ったよ。
私が市街地を去ったのは、それを分かっていながら、それでも恨んでしまう自分の心に耐えられなかったからだ。
自分の中の恨みや憎しみを払拭するのに、距離を置く必要があったんだ」
そう言うトマスの表情は、とても穏やかで落ち着いている。けれども同時に、眉間に刻まれた深く長い皺は、彼がこの心境に致るまでの道のりが、決して平易ではなかったことを物語ってもいる。
彼の、そして彼ら二人の、言葉にされないそれぞれの歴史。
「トマース! 君タチはそこでうじうじした昔話に花を咲かせててねー。
こっちはちょ~~~っとばかし、大事な話してくるから」
そう、ややしんみりとした空気をぶち壊すかのようにリディアが宣言する。
と、同時に、ステップを踏むように軽やかに僕に近付いてきてぐい、と肩に腕を回す。
もちろんエヴリンドはそれを防ごうと間に入るのだが、全くお構いなし。僕とそう大して変わらない背丈に手足の長さなのに、エヴリンドごとひっついてくる。
「あ、の……、何の……話ですか……?」
「オ・ン・ナ・ド・ウ・シ・ノ、イ・イ・ハ・ナ・シ」
……え、何スカ!? 何なんスカ!?
□ ■ □
「ふふ~ん、なァ~るほどねェ~……」
まじまじと僕の魔力中継点を見ながら、リディアがそう感心したように言う。
「で……こいつの管理権とやらを君からアタシが受け取れば、アタシは自由に魔獣を召喚する事が出来る……と」
ニヤリと言うか、ニンマリと言うか……とにかく今まで見たどんな表情よりも嬉しそうだ。
「え……あ~~……、その~~……場合によっては?」
さて困った。困ったと言えば困った。困ってないと言えば嘘になる。そう、つまりは困った。
リディアの使うウッドエルフの秘法であるところの【獣の支配】は、あくまで一時的なものらしい。
つまりさっき岩鱗熊を大人しくさせたように、敵対していたり攻撃的になっていた魔獣を一時的におとなしくさせる。
また、より高度な使い方では、一時的に自分に従属させたりということもできるが、いずれにせよ継続的な主従関係となる使い魔や、利害に基づく雇用に近い従属化とかとは性質が全く異なる。
例えるならそう、幻惑系統の魔法にある【魅了】の魔法に近い。相手が獣、魔獣限定だという違いがあるだけで。
なので、リディア曰わく、
「君の召喚術とアタシの【獣の支配】があれば完璧じゃん?」
となる。
僕が召喚できる従属魔獣たちは、必ずしも僕の命令に従ってくれるとは限らない。
ある程度の指示はもちろんできる。特にその魔獣の性質に合った指示なら喜んで受ける。けれども嫌なことはやっぱりサボるし、あまり不満があれば従わないし、あるいはこっちの指示を無視して勝手なことをやることもある。
クトリアの防衛軍として僕の従属魔獣を使えない理由はそこにある。
呼び出した魔獣たちが好き勝手暴れたり、もっといえばクトリアの人々を傷つけてしまうという可能性が十分にあるからだ。
けど、そこにリディアの【獣の支配】が加われば別だ。僕が召喚した従属魔獣をリディアがコントロールする。もちろんそれは一時的なものなので常備軍には向かない。けれども一時的な戦力補強としてこの組み合わせは確かに有用。
ただし問題は……まあ色々ある。
「まずリディア、あなたの魔術師としての素養が問われます」
彼女は十中八九間違いなく、いわゆる魔法戦士タイプだ。
魔力を魔術の行使よりも、身体能力の向上にまわしている。ウッドエルフの秘法【獣の支配】など使える魔術もあるにはあるが、全体としてどれほど魔術理論に対する理解があるのか……。
「あーそれは~~……うーん……」
「ごく普通の魔力中継点ならば可能だと思いますが、この魔力中継点はクトリアの古代ドワーフにより造られた大循環を司る魔力溜まりと繋がっています。
つまり、魔力溜まりを支配し管理するだけの魔術師としての能力がなければ、これを十分に使いこなすことはできません」
付け加えると、魔力溜まりや魔力中継点の支配と管理って、単純に魔術師としての能力だけでなく、なんちゅうか地味で面倒臭くって手間のかかることを続けるという、ある種の事務処理能力の高さみたいなものも問われるんだよね。
定期的なメンテナンスも必要だし、それにそもそも今ここに建ってる魔力中継点だって、永続化をするために定期的に魔力を注ぎ続けないと劣化してボロボロになって崩れちゃうし。
「それと、言うほど自由に魔獣を呼び出せるかと言うとそれも難しいです。白骨兵のような動く死体や、インプのような幻魔を除けば、基本的には別の場所で従属化しているものしか呼び出せませんし、その数には限りがあります」
なのでまあ、そうだな~……。
「闘技場で闘わせる魔獣の補充が簡単になる……、てなくらい~?」
う、うん、多分ね。
ただ、そうは言うがリディアの表情にはそれほどの落胆は見られない。
「ま、そんなもんか~。
けどまあ、使わせてはもらえるんでしょ?」
当たり前のようにそう言ってくる。なかなかに押しが強い。
と、ここで改めて思った。この押しの強い感じ……やっぱり母のナナイに似ているんだ。
なんとはなしにエヴリンドをちらりと見る。彼女からはリディアのこの感じはどう映っているのだろうか?
けれどもエヴリンドは相も変わらずの無表情で、その内面は伺い知れ無い。
とは言え、そもそも各居留地に魔力中継点を建てさせてもらうのは計画通りで、問題はその管理権を誰に、どのように持たせるか、と言うことだ。
「え~……、一旦、上に上げます」
「上?」
□ ■ □
魔獣の扱いに長けてるのは間違いなくリディアの方だ。
けれども魔力中継点そのものの管理に向いているのはトマス。
つまり、基本として彼ら2人に対して共同管理権を分譲する、と言うのが、スキル的、能力的な問題だけで言うならば、おそらくはベター。
問題は人格面……信頼度の方だ。
正直リディアに関しては……手放しで信頼できるかと言うとちょっと難しい。
いや、それは別に母になんとなく似ているからというだけではない。まあ、ちょっとは関係するかな?
最初に騙されて闘技場でバトルをさせられたから……、というのも、まあそれほど重要ではない。……少しは重要。
トマス氏の事は、マーランとのやりとりや、またここでの実績、諸々の証言などを加味すれば、かなりの人徳者だとは思える。
ただリディアと彼の二人だけにすると、リディアに対してかなり弱いように思える。
せめてもう一人はブレーキ役が欲しいのだ。
「……へ、え? わ、私ですかい!?」
「はい、クレメンテ氏にもお願いします」
再び一旦上へと行き、クレメンテ氏を含めた男チームを呼んできて改めての話し合い。
「ですが、あたしゃ魔術なんてなあ、これっぽっちも分かりやせんですよ!?」
「その辺は大丈夫です。クレメンテ氏には承認の役のみを引き受けてもらいたいと思います」
「承認……ですかい?」
つまりはこういうことだ。
魔獣の召喚、使役などに関してはリディアが基本的な権限を持つ。
そして魔力中継点それ自体の管理やメンテナンス、その他もろもろはトマス氏に行ってもらう。
で、クレメンテ氏にはそれらの中である程度以上に重大な決定や大きな召喚などに関して、ただ承認をするということだけを担ってもらう。
承認だけならば、あるレベル以上の行為にはクレメンテ氏による承認が必要である、という術式を組み込むだけで良い。
クレメンテ氏自身が魔術を行使する必要はないし、魔力適正がなくても可能だ。
「……何だか、色々めんどくさくな~い?」
「私にそのような任が務まるのでしょうか……?」
「少なくとも現状ではそれがベターです。トマス氏には後でまた色々とレクチャーしますので、よろしくお願いします」
ダンジョンの領域内ではないため、僕がダンジョンバトルの時にやっていたような複雑かつ精緻なダンジョン作り……つまり建築に関する能力はもともと発揮出来ない。
魔力中継点で出来ることはさらに少ないけれども、彼がインプを召喚し使うことで、ある程度は壁や建物の強化や、防衛のための罠や設備を作るといったことも出来るようになると思う。
彼らがきちんとこの魔力中継点を管理し運営することができれば、東地区の治安や防衛に関しては向上が見込めるだろう。
「ま、使える魔獣をある程度増やせるってンならそれだけでも十分かー。
そもそもこの闘技場を作ったのは、魔獣を使役して戦力にするのが目的じゃなくて、魔獣との戦い方覚える為だしね」
「そうなんですか?」
「そ。元は訓練場さ。
それが長いことやってるウチに見せ物の闘技場を兼ねるようになってったの。
さっきも言ったけどアタシの【獣の支配】は永続的に魔獣や動物をコントロールするわけじゃなくて、あくまで一時しのぎ。
【獣の支配】だけじゃなく、魔狩人達に薬だの卵の採取だの、とにかくいろんな手で魔獣を捕まえ連れてこさてここで管理しちゃあいるけれどよ。君の使い魔みたいな深い繋がりがあるワケじゃあないのよね~」
まあ、なるほど。言われてみれば確かにそうか。
「もちろん、付き合いが長くなればそれなりの関係もできるけどね。
例えばさっきの死爪竜──デミーの奴は卵から孵して育ててるンでね。
だからちょっとまあ……他のとは違うかな」
あらま。それ、普通にペットでないの?
【獣の支配】それ単体だと一時的な効果しかないし、死爪竜ぐらい巨大な魔獣になると滅多に効かないけれども、卵から孵して【獣の支配】を併用しながら育てていくことで懐いて行った……っていうことか。
いや……それって、魔術の力で繋がりを持ってる使い魔よりもむしろすごいんじゃね?
「……その大切な死爪竜とやらが我々に殺されてたらどうするつもりだった?」
唐突に横からエヴリンドがそう聞くと、
「やられる? ンなわけないない。
君タチの戦い方は三戦見て大体の傾向は分かってたし、いざとなりゃああやってちゃんと止めるつもりだったしね。実際止められたでしょー?」
と、事も無げに返す。
「……ほ~、たいした自信だな」
「ま~、あの大軍にゃあ驚いたけどさ~。それ以外はなんとかなったかな~。
苦労したのは、君タチらを殺させないように加減してコントロールする事の方だね」
あー、あー、あー、エヴリンドさん、そこ、殺気放たない! ノー モア ウォー! 争いは STOP IT!
□ ■ □
「おうおう、こん-な所におったかい」
そこへ、どかどかガチャガチャ現れるのはイベンダー。魔獣素材をふんだんに使った魔獣アーマーが賑やかしいこの闘技場に、さらに金ピカで賑やかな古代ドワーフ合金製魔導アーマーの乱入はかなり目に痛い。
「んお、アンタがリディアか? 俺はイベンダー。魔鍛冶師にして魔導技師、科学者にして医学の徒。そして運び屋であり砂漠の救世主だ」
「おーう、肩書き多いな!
アタシはリディア。魔狩人にして魔法戦士、地下闘技場の主にて、あ~……魔獣使いで~……クトリア一のイイ女?」
「おおう、そりゃ良いな!」
なにその、気の合いそうな流れ。
「……で、何か用ですか?」
わざわざ来た以上は何かしらの用事があるのだろうと、とりあえずイベンダーにそう聞く。
「うむ。そうだな……実はちと用事が出来て、夕方に帰ることが出来なくなった。
俺とJBの二人ともな」
え? お泊まりですかえ?
でもここ、宿屋的な所ってあったっけ?
そう考えていると、イベンダーは妙に作り笑いぽくニヤニヤ笑いを浮かべたまま、小声で僕の耳元へ。
「こいつは他の奴には内緒だ。
どうもここいらに人身売買ネットワークがある臭くてね。ちょっくらJBと調べておこうかな、と」
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