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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-88.J.B.-Goddess of Thunder (あたしゃ雷の女神様だよ!)
しおりを挟む「あい、こーらしょ」
どん、バリバリ、とでも言うかの音に火花のような閃光。薄暗い地下下水道の中に青白く輝くのは、スティッフィの“雷神の戦鎚”が敵を打つと放たれる雷撃だ。
「あっぶねェな! こっちにもくんだろ!」
若手込みでついて回っていた俺は、そいつらを後ろに庇いつつ“シジュメルの翼”の防護膜を張るが、風属性魔力のこの防護膜は、スティッフィの雷撃にはそんなに効果がない。
イベンダーのオッサンが来て以降、壊れかけてた遺物や、ボーマで新たに発見された遺物やらと、去年はかなりの大収穫で、その中でも近接戦闘での破壊力という点じゃスティッフィの“雷神の戦鎚”は群を抜いている。
ここらで普通に遭遇する程度の魔獣や、魔力耐性の強いドワーフ合金製ドワーベン・ガーディアンですら、大型でもない限り一撃か二撃で行動不能。
特にタフであるとか硬いとかの特徴がある大物に強い。直接叩いた相手以外にも雷撃の余波で痺れさせ、そのダメージの残ってるウチに追撃すれば、群れごと壊滅させたりも出来る。
危ういのは長い尾に毒針のある魔蠍や、火を吐く火焔蟻なんかだが、雷撃の余波はそこそこ広い範囲にも届くので、相手の攻撃範囲外で地面をガツンと撃つことで雷撃を与えて、その隙に追撃……てな戦術も有効。
とにかくスティッフィは今、対魔獣のガチ殴り合いではトップクラスの実力者だ。
が。
「だからよ、スティッフィ。たかがオオネズミの群れ程度に、いちいち“雷神の戦鎚”使うなよ!」
「いーじゃねーかよ、一発で片つくから楽だろーよ」
「あぶねーしもったいねーだろ!」
地下遺跡を含め、地下街や地下下水道の保守管理が俺たちクトリア遺跡調査団の仕事になってからは、遺跡の遺物漁りよりも巡回の方が増えている。
付近の巡回自体は前から定期的にやっていて、それは俺たちの害になるようなモノが紛れてないか、厄介な連中が住み着いてないかを調べて対処する目的だったが、今はさらに広範囲にやっている。
浅い階層の下水道やら地下街で遭遇しうるのは、基本はオオネズミ、たまに穴掘りネズミや小型のドワーベン・ガーディアン。それらより少ないがままあるのが、偶発的に生まれた魔力の淀み、魔力溜まりにより生まれ、魔獣化した動物や動く死体。そしてさらに稀に、狂える半死人───。
まあ後者は別にして、前半にあげた連中相手に“雷神の戦鎚”は完全なオーバーキル。火力過多だ。
だいたいの魔導具、魔法の武器ってのは、その魔法効果を発揮するのにはある程度魔力が要る。
魔導具自体の魔力だけで十分だったり、使い手が自前で魔力を武器に付与出来るならそう問題はない。
俺の“シジュメルの翼”は、入れ墨魔法の魔力で動かせる。
だがスティッフィの“雷神の戦鎚”は、その威力に比例して必要な魔力が多い。
スティッフィ自身も少しばかしは魔力循環を鍛えているので付与も出来るが、ぶっちゃけたいした量じゃない。ハードな戦闘になると途中で魔力切れ……なんてこともあり得るし、そう言うときは魔晶石を使って補充しなきゃならない。
で、その魔晶石ってのは、けっこう高い。
ケチくさい話しのようだが、こう言うところでの無駄遣いはそりゃ控えた方が良いに決まってるワケだが……。
「別の武器に持ち替えるとか面倒くせーじゃんよー」
スティッフィときたらこの有り様だ。
「……つうかよ、たかがオオネズミの群れごときに、俺やお前が出張っちゃダメなんだよ。
それじゃいつまでよコイツ等が経験積めねーだろ? 今回潜って三回オオネズミに遭遇したけど、全部お前がやっちまってるから、コイツ等何もしてねーぞ」
現在ボーマ城塞でシゴかれているはずの新入りメンツ以外の居残り組にも、こちらはこちらで実践経験を積ませなきゃならない。
今はまだ俺たち先輩が付き添いで巡回をしているが、いずれは班分けしつつも今の新入り連中だけで回れるようになってもらう予定だしな。
「あー? 見てりゃなんとか覚えんだろ?」
「適当すぎだろ……」
とは言え、スティッフィ自身は「だいたいのことは見ててなんとなくで覚えた」クチなので始末が悪い。コイツはコイツで、ある種の感覚的な天才タイプなんだよな。
「お前ら、スティッフィは何の参考にもなんねー。せめてアダンのときに教えてもらえ」
うんうん、と頷く新入り達。ああ見えてアダンは細かいテクニックや気配りのことも教えられるところがある。お調子者なところさえ除けば、以外と一番教官向きかもしれん。
そんなこんなで今日の予定区画の見回りを終わらせようとしてた所で、前方から何やら騒がしい気配がする。
音と空気で様子を探ると、数人の走る音と……こりゃ悲鳴だな。
「おい、隊列組み直せ。何かトラブル来るぞ」
スティッフィと新入り達へとそう指示を出し、前衛中心の俺とスティッフィがそれぞれ武器を構え、後続達もそれに倣う。新入り達には基本装備としてイベンダーのオッサンとマルクレイがドワーフ合金を部分的に利用した装備一式を与えてる。ぶっちゃけ換金すればそこそこの財産。持ち逃げされないよう基本は本部に保管してる。
しばらくすると逃げてくるのはボロ着を着た貧民の一団。持ち物なんかを見るに、ありゃ“ねずみ屋”ゲルネロの下に居るねずみ狩り連中だ。
「ああ! たす、助け……!!」
慌てふためく1人が、俺たちの姿を見定めると駆け寄りそう叫ぶ。叫ぶが既に息も絶え絶えに走ってきたか、乾いて割れた声に精彩はない。
「俺らの後ろに下がってろ!」
さーて、動く死体か魔獣化した特大オオネズミか? と、“シジュメルの翼”へと魔力を回しつつ追っ手を見ると───。
ぶおん!
空気の圧が乱反射するかに下水道内を駆け巡る。
「な、何だありゃ!?」
「化け……」
マジか!? いや、確かにこいつは前にも感じた……いや、食らったことのあるヤツだ。
鰐男の名前で知られている、両手足がぬらりと長くて通常のそれより素早く歩き、さらには口から衝撃波みてーなモンを吐いて攻撃してくる肉食系。
カロド河に棲息しているハズのそいつが、何故かこんな下水道に……1、2……3体か?
「盾構え! 踏ん張れ!」
立て続けの衝撃波攻撃は、屋外と違って狭い下水道内で反射し増幅されて来る。直線ならまだ防ぎやすいが、上下左右斜めからと襲いかかってくるから始末が悪い。
俺は“シジュメルの翼”の防護膜を強く広げてその範囲の中に新入り連中を入れようとするが全員には間に合わない。“ねずみ屋”連中と共に数人が悲鳴を上げて倒れ崩れる。あの衝撃波、モロに食らうとただ倒れるのみならず、脳が揺さぶられるのか、めまいや昏倒にまでなるから厄介だ。
「ヤバいぜこりゃ。スティッ……」
言いかけて見ると既にそこにスティッフィは居ない。“雷神の戦鎚”を振りかざして一直線に突進。
「クッソ……! おい、お前らは体勢立て直せ! 後列、クロスボウ装填! 俺はスティッフィの援護に回る!」
取り急ぎ新入りに指示だししてそのまま飛ぶ。
鰐男が連続して衝撃波を出せない特性を利用してかわした後に距離を詰める、てのは確かに一つのセオリー。だがさっきもそうだが、屋外と違い地下下水道内での増幅される乱反射っぷりが糞ヤベェ。
鰐男達が大きく息を吸い込み喉と胸を膨らませる。後少しでまた衝撃波を放ってくる。だがスティッフィの距離はまだ遠いい。その前に───、
「おうぅぅるぁぁッッ!!!!」
怒声とともにスティッフィが手にしていた“雷神の戦鎚”をブン投げた。
回転しながら飛んで行くそれは、そのまま並列していた二体の鰐男の胸と喉にぶち当たり、雷撃を浴びせてぶっ倒す。
やや離れた位置の残り一体はそれに驚いたようにビクリと反応するも、既に衝撃波の予備動作が終わり大口を開けそれを放つ。
狭い下水道内を反響し増幅されるかの衝撃波に、走っていたスティッフィが押されよろめき膝を突く。流石の糞体力で踏ん張っているが、これで数瞬とは言え行動不能。頭をかき回されたようなダメージも残るハズ。
その衝撃波の真っ正面を───俺は貫き真っ直ぐに切り裂く。
“シジュメルの翼”で飛行中に周りを包む風の防護膜。これは鰐男の衝撃波同様の風属性魔力。
その防護膜を俺は鋭い流線型のような形にしてさらに密度を高めた。
そしてそのまま、俺の手にしていた嘴の付いたメイスが今し方衝撃波を吐いたばかりの鰐男の頭部をクリーンヒット。のけぞりよろめく鰐男へと、俺の「今だ、撃て!」の合図と共に後列からクロスボウのボルトが放たれ射抜く。
再装填させ構えの姿勢を保たせて、その間に俺は地面に落ちていた“雷神の戦鎚”を拾い上げるとスティッフィの元へとって返して足元へ下ろす。
ややあって持ち直したスティッフィがそれを拾うと、再び今度は起き上がり反撃にでようとしていた3体を纏めて雷撃の餌食に。全員下水の中な分よく効いてやがる。
そこへまたボルトを撃ち込ませたいところだが、スティッフィがさらに追撃を狙って突っ込むから、新入り達は待機のまま、俺がスティッフィの狙ってる奴以外へと【風の刃根】を撃ち込みつつ、さらにメイスで追撃。
それを数度繰り返したときには、タフで知られる鰐男をなんとか仕留める事が出来た。
「スティッフィ! 無闇に突っ込むなよ! 危なかっただろ」
俺がそう言うと、ダメージが残ってるのかややふらつきながら、スティッフィの奴はしれっと、
「危なかねーよ。おめーが横に居たんだからよ」
なんぞと言いやがる。
「……ちっ! いつも都合良く助けられるとは限んねーぞ」
そう言ったそばから、ふらついて足を滑らせそうになるスティッフィへと肩を貸してやる。
「ふへえ、なあJB、地下下水道のこの辺ってな、いつもこんな化け物が出てくんのか?」
そこへがちゃがちゃとやってきた新入りの中の、元囚人のブレソルがそう聞いてくる。コイツは魔蠍の毒にやられてたのを助けた内の1人で、戦いの技術そのものは、マルメルスに比べればただのごろつき程度だが、元は木こりをしてたとかでそこそこ力がある。なのでアダンが盾役にしようと目下訓練中だ。
「いや……少なくとも俺は初めて見たぜ」
地下下水道に白いワニが……なんてのは前世で聞いた都市伝説だが、クトリア市街地近くの地下下水道に鰐男……てのは耳にするのも初めてだ。
「あたしゃ邪術士奴隷の頃から数えりゃ十年近く地下下水道に出入りしてっけどよー。
邪術士共が放ったヤツ以外なら、やっぱ見たことも聞いたこともねーなー」
クトリア生まれクトリア育ちのスティッフィも、こんなのは知らないらしい。
“ねずみ屋”の手下どもにも確認するが、奴らもマジに遭遇したのは今回初めてだという。ただ噂程度には聞こえて来てたと言う。つまり、地下下水道に魔獣が最近よく紛れ込んで来ていると言う話を、だ。
この間の火焔オオヤモリといい、地下下水道に紛れ込んだ鰐男といい、どーも何やらきな臭い話だ。
その辺の真偽検証は置くとして、新しく作った協定では俺達が市街地区画内の地下遺跡や下水道で“狩った”オオネズミやその他の獲物は、必ずゲルネロに買い取ってもらう、と言うことになってる。
オオネズミなら既に20匹ほど獲物袋に突っ込んで運んでるが、この糞デカい鰐男の死体を運ぶのも面倒だし、そもそも奴らに鰐男を処理するノウハウがあるのかも分からねー。下手なことして残留魔力山盛りの魔獣肉をばらまかれても困るし、その辺ちっと考えどころだぜ。
◇ ◆ ◇
ゲルネロの手下共にオオネズミの死体を持たせて、俺たちはなんとか鰐男の死体を持って戻る。
詳しい再調査は後に回すとして、本部に戻って落ち着いてから、ゲルネロの手下を使いにする。
疲れたと文句を言いつつスティッフィは本部内にある自室へ直行し、厄介ごとを押し付けられる形で数人の新入りと残る。
色々面倒な事になりそうだが、まあしゃあねーか。
暫くして数人の荒くれを引き連れたゲルネロがやってきて、鰐男をぶら下げた軒下のある中庭の長椅子へとどっかと座る。新しく作ったばかりの綺麗な本部だが、ゲルネロとその手下の汚れと匂いで色までつきそうだ。
「ふん、これか、デカい獲物たぁよ」
「まあな。協定通り行くなら当然お前に引き渡す話になるがよ」
「何だ、文句でもあんのか?」
「魔力抜きは出来るのか?」
言われて、ゲルネロは面白くなさそうにふん、と鼻息を荒くする。
「こーゆー魔獣肉に関しちゃお互い想定外だろ?
だからどーしたもんかな、と思っててよ」
恐らく、ゲルネロ達に魔力抜きのノウハウはない。これが狩人組合のティエジならある。あいつは東方流の魔術、方術ってのを使えるので、当然魔獣肉から魔力を抜き取る方法も知っている。
ウチで処理する、てんならピクシーのピートの妖精の粉を使う手もあるし、マーランがやっても良い。
だが元々市街地でオオネズミやせいぜい穴掘りネズミだの地虫だのを狩って、あとは貴族街からのゴミ、残飯を漁っていただけのゲルネロにそんな知識があるハズもない。
そう思って居たのだが……。
「ふん、そんぐらい出来ねえとでも思ってたのか? 舐めるなよな、小僧」
意外なその答えに、俺は普通に驚いて目を見開く。
「おい、変な見栄を張ってねーだろうな?
魔力が殆ど殻にある岩蟹と違って、鰐男の残留魔力は結構“重い”ぞ?」
魔獣肉も種類や環境で残留魔力の状態や量、魔力の多い部位も違う。
鰐男は衝撃波の他にも、魔力でかなり身体が強化されているらしく、全身にみっちりと魔力が残っている。通常状態だと一週間くらい放置してても抜けきれず、食べればだいたい腹を壊す。
「へっ! 俺らにゃ俺らの伝手があるんだよ。元はよそ者のお前なんかにゃ分からねーだろうがな」
顔を歪めてそう言う様は、虚勢ハッタリというよりは自信たっぷりで、確かにそういうものを持ってそうに見える。
そしてそう言われて、俺の方にはそれを否定できるほどにはゲルネロの事は知らないっちゃあ知らない。
「……まあ、何にせよそれをどーすっかを決める権限は俺にゃねえしな。
今後のことはまた議会預かりだし、今ここでの問題は、この鰐男の残留魔力をどーすっか、てとこだけだ」
「言っておくがな、どーやって処理するかをおめーらに教えてやる義理はねえぞ?」
強気な態度を崩さないゲルネロだが、俺としちゃあ別に奴らのノウハウを知りたいワケじゃねえ。ただ害のある魔獣肉の流通しちまう可能性が嫌なだけだ。
「おおーう、こりゃまたどえらい獲物だな~」
と、そこへと新たにやってくるのは、イベンダーのオッサンとマーランにアルヴァーロ。
魔導技師として、また最近じゃ魔術師としても色々学びたいというアルヴァーロは、ここに来てるときにはだいたいオッサンかマーラン、またはその両方にちょこちょこついて回ってる。
「ふん、ちょうど良い所に来たな、マーランよ」
そのマーランへとそう声をかけたのは、意外にもゲルネロ。
「トマスの奴が寂しがってたぜ。それともとッくに忘れたってか? お前も出世したもんだしなあ」
話しぶりからして、ゲルネロとマーランはどうやら古馴染みらしい。そして、トマスとか言うのは共通の知り合いか?
だがそう言われたマーランの方は、懐かしむと言うには似つかわしくない表情で硬直する。
どうやら、俺の知らない触れられたくない記憶に類する話らしい。
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