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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-82.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「いや待てよ、てことは……?」
しおりを挟む三日ほどボーマ城塞へと滞在し、エヴリンドと母のナナイはダークエルフ戦士流の魔力循環訓練を手解きし、僕は城塞の図書館で手当たり次第に本を読みあさる。
読みあさると言っても、熟読するのは興味のある本や一部分だけで後はざっくりと流し読み。
何故それで済ませるか? と言うと、僕には“再読の書”という、自分が一度でも目にした本、文章は寸分違わず正確に再現してくれるスーパーマジカルアイテムがあるからなのだ。
これのお陰で前世記憶が蘇ってからは、前世で読んだ本まで再現出来るようになってちょお楽しいしちょお便利なのである。ただし未完、または続刊などで最終巻まで出てなかったアレとかアレの続きは絶対に読めないのだ! 悔しいですッ!!
ファンの間では半ば冗談半ば本気で「完結と先生の寿命、どちらが先か?」なんて言われてたアレとか、僕の方が先に死んじゃったよ。シャレにならないわ!
そしてまあ、発掘した古代ドワーフ遺物とか、新しい酒とかを仕入れた遺跡調査団&秘法店、つまりはアデリアとアルヴァーロと、城塞の警備兵達と協力して近辺の魔獣退治などの仕事を終えて、食料品等々の取引を終えた狩人達に、僕とエヴリンドとデュアンの三人は、今度は同行してクトリア市街地へと戻る。
その流れで、母のナナイはというと、ロジウスさんに同行して南海諸島まで遊びに行くと言い出した。
「え? 大丈夫? 一応、外交使節団の一員なんでしょ?」
と聞くと、
「あー? 別にあたしゃただのアドバイザーだし、交渉の頭数にゃ入ってねーよ。
ま、本格的な会談になる頃にゃ戻るさ」
とか、めちゃくちゃ適当な事を言う。
「だいたい、ここまで来てグラシアと会ってかねーってワケにゃいかねーしな」
グラシア……というのは、ロジータの母で、アデリアの祖母。つまりヴォルタス家では唯一、50年ほど前だかの海賊退治の時に直接の面識がある生き残り。かなりご高齢になってるだろうから、確かに今のタイミングで会いに行かなければ、次には会えない可能性は高い。
人間とエルフでは、時の進み方があまりにも違っている。
それとは別にちょっとした事としては、地下の“水の迷宮”を軽く改装した。
「I′ll be back.」の決意の壁画をJBに笑いながら突っ込まれつつも、今は僕の使い魔で、ダンジョンバトルの際には敵キーパーとして僕と対戦した水の精霊獣、水馬ケルピーであるケルッピさんの作ったひっじょーーーーーーに乱雑でデタラメなダンジョンを、もう少しマシな形に造り直すことに。
いえ、これ、やっても別に、何の意味も無いですよ?
単なる、僕の、こだわり? 趣味? 的な行為。
と。
そんな安易な考えで何か色々弄くってる内に。
ボーマ城塞から地下へ進んでケルッピさんの管理してたダンジョンハート及び魔力溜まり近辺の区画が、こう───ゴンドラで行く地下水道、みたいな……水棲魔獣動物園……みたいな?
そんな区画になってしまいまして、ええ、ええ。
いやまあ、ね。間違えてボーマ城塞の人達が魔獣に襲われちゃったり、逆に魔獣がボーマ城塞側に侵入してきて暴れたりしたら困るじゃん? 従属魔獣は僕がダンジョンハートに居て管理指示している間はある程度命令聞くけど、目を離すと従属魔獣同士ですら普通に殺し合ったりしちゃうくらいだし。
それに何者かにダンジョンハート区画に侵入されて、支配権奪われたりってのも困るじゃん?
その辺で色々試行錯誤していたら、ね。
上から来た人間が来れる区画と、従属、非従属問わず、魔獣達の居られる区画を分けて、かと言って完全な分断をしちゃうとそれはそれで把握できなくなるし、こう、姿は確認できるけど簡単に行き来できないように……としてたり、ね。
したら、ゴンドラで水路を進みつつ全体を確認できるように……と。
今の状態に。
んで、さらにはその流れで、その辺りの区画にこう、白オオサンショウウオ養殖場なんかも作る感じになりまして。
もしかしたらいずれボーマ城塞の名産品になるかも。白オオサンショウウオのハムとか。燻製とか。
その辺含めて、いずれは魔力溜まり管理権の委譲、または共同管理への移行をした方が良いんだけどもねえ。
□ ■ □
まず一旦は妖術師の塔へと帰還。旅の疲れと埃を落とすために風呂桶にお湯を張りリラックス。
この妖術師の塔には幾つかの居住区があるんだけど、そのほぼ全てに個室用の浴室があるのがなかなか凄い。
昔はある種の魔法学校兼研究所みたいなものとして使われてて、研究員兼学生みたいな術師達が生活してたらしいので、意外のその辺も充実している。
入浴しつつ、ボーマ城塞から持ち帰った課題、クトリア水軍をどうするか、について考える。
とは言え、正直僕個人で考えてそうそう簡単には答は出ない。
大山脈の“巨神の骨”の雪解け水が集まり大河となるカロド河は、クトリア旧王都の北方で東西に分かれ、西に進むと大きめの湖となり、さらに分岐しボーマ城塞へと繋がる支流となってまた合流し、グッドコーヴへと流れウェスカトリ湾に至る。
東へはまた幾つかの支流と集合しながら大きな流れとなり、モロシタテムを渡し場としてやはりウェスカトリ湾へと流れる。
上から見るとクトリアは大きな中州にある都市、のようにも見えるけど、勿論実際には中州ではないし、海面からの標高で言うと、何気にこの旧王都は意外と高かったりもする。
モロシタテムやグッドコーヴ辺りからは、全体としてゆるーい坂道が続く感じらしい。
この地形での水軍は、まあ海軍というよりはこのカロド河を中心とした防衛軍という要素が大きい。
勿論、かつてヴォルタス家が戦ったという海賊だとか、それ以前からあった東西交易の海路防衛の意味合いもある。
第一次クトリア王朝時には、やはり東方人が船団を組んで攻めにきたりと言うこともあったらしい。
ただ、現在の政情からすれば、東方人が海から攻めてくると言うのはかなり可能性として低い。
南方の獣人王国はさらに有り得ない。獣人王国の西には南方人の別の王国もあるが、そちら側から海路で来るには、多分一旦南極をぐるり回る必要があるっぽいし、そこは一説には竜の領域らしいから、さらに不可能。
なので当面重視すべきは、機動力と速度を生かす小型、中型船での、水路としてのカロド河の防衛と利用。
グッドコーヴ、ボーマ城塞、そして水路を再整備しての旧王都、モロシタテム……という防衛ラインの整備……か。
うーんむ。
うーんむむむ。
閃……かない!
考え込みつつやや長風呂してから、外出中の来客や手紙伝言のチェック。
これはまだ他には知られていない事だけど、そもそもクトリア解放戦後に“ジャックの息子”として知られていた術士の正体はこの妖術師の塔そのものであり、そこに作られたある種の人工知能。
世間的には“ジャックの息子”は、僕を後継者兼王の名代として擁立した後に旅に出たことになっている。
しかも厳密には時期はズレて居るものの、近い時期に“邪術士シャーイダール”も行方をくらませて旅に出た……と言うことになっているので、その辺の関係性を色々噂専する向きもある。
例えば「ジャックの息子、邪術士シャーイダール同一人物説」やら、「レイフィアス、邪術士シャーイダール同一人物説」 さらには、「レイフィアスである邪術士シャーイダールがジャックの息子を暗殺した説」まで。とにかく色々と囁かれたりもするのだけど、ま、それはそれで別な話。
手紙の中には嘆願書の類が多い。というかこちらから呼び掛けて投書をしてもらえるよう各区に専用の投書箱を設けて定期的に回収しているからだ。
大岡越前の目安箱みたいなものね。
ただクトリアの識字率はあまり高くないので、分け隔て無く幅広く……とは言えない。
新たに流入して来た流民、移民のトラブルへの不安。これは早めに対処が必要な案件。城壁外に一時的な難民キャンプでも作るべきかな、と計画してる。或いは王国駐屯軍の避難所も利用させてもらうか……。以前は王国からの流民が多かったらしいけど、最近はもっぱら西からだそうだ。
上下水道の増設、改修の要望。これは既に取りかかってはいる。ただし時間が必要。
食料価格の不安定化への危惧もある。食糧供給も増えてるけど、流民の流入も含めた人口増加とのバランスが良くない。元々この妖術師の塔にもかなりの金銀財宝等の換金できる資金は沢山あったので、それらを公共財として都市改修を進めているクルス家や細々した取り引き、補助金等として利用している。そこから交易商等との取引で食糧備蓄等を増やしてもいるから、市場の様子を見ながら放出はしている。
あまりこちらから備蓄を放出し過ぎると、今度は相場が下がりすぎて狩人組合や交易商が困るので、その辺本当に難しい。
組合と言えば、各組合同士の利権争いに関する投書も多々ある。いや、利権争いと決めてかかるのもなんだけど、ある組合が不正をしてる、いやむしろあっちこそ汚いまねをしてる……という、誹謗中傷か告発か難しい投書。これは一応、まとめて王の守護者の方へ回しておくけど、機会を見て僕の熊猫インプで調べられる事は調べてみるつもり。
……やっぱ、密偵組織みたいなのって必要になるんかしらねえ。
不満や告発だけでなく、賞賛やよく分からないファンレター的? なものもある。あるいは露骨な売り込みなんかも。
あと、ミッチ氏が『クトリアの歩き方』最新版を送って来た。
彼、何がすごいって何気に色々多才なようで、独自に活版印刷を開発しているらしいんだよね。
多分だけど、活字を枠の列にはめ込んで版下を作るタイプのやつ。
全くの個人的趣味でこれをやってるというのだから恐れ入る。
一応本職は雑貨商らしいんだけど、いっそ新聞屋でもやってもらおうかな?
あー、でもそれなら識字率の向上が急務だろ~? いや待てよ、てことは……?
□ ■ □
思い立ったら吉日。
翌朝、まずはジャンヌの所へと訪問し、下院議会へ提出する草案を渡す。
北地区に新しく作った遺跡調査団の敷地のすぐ横、というかほぼ敷地内の居住区にある、ジャンヌ達孤児グループ用の長屋は、シンプルなクトリア様式の日干し煉瓦と土壁の家だ。
こういうタイプの簡素な家々を四棟一ブロックとして各地区で再建させている。
ここも四棟一ブロックをさらに四ブロックとして、JB達が地下で“シャーイダールの探索者”として活動してた頃からの縁のあった地下街貧民、元囚人、捕虜組、そしてジャンヌ達孤児グループを住まわせている。ま、大きく言えば身内の縄張り。
ジャンヌが議員になったからと言って、別に高額報酬が得られるとかそんなことは無いし、豪邸に移り住むという事もないのだ。
で。
僕はクトリア評議会の議長だけど、あくまで余所者。それでも王権を得てるという立場なので、かなり強権的に物事を進めることは出来る。出来るけど、あんまそれをやりすぎるのも良くないので、よほどでないときはこうしてジャンヌを通じて議会に法案を提出する形を取る。
タテマエ、タイセツ。
夜のうちに書き認めたそれを見て、ふーんむと軽く眉根をしかめるジャンヌ。
「どーだかな。賛成取れるか怪しいとこだぜ」
うーん。やっぱ?
基本は、学校の設立だ。
子供に限らず、基礎教育を学びたい人達全てに開かれたオープンキャンパス。
識字率を上げ、基礎的な算数から初めて、いずれは高等教育へと進められれば……という構想。
「まあ、今居る議員の中じゃ、ティエジは賛成してくれっかもな。あいつは何気に孤児とか集めて狩人の技術やら算術やら教えたりしてて面倒見も良いんだよ。アタシらの仲間だった孤児の中にも、ティエジの教えで狩人として独り立ちできた奴らも居るしな」
評判は多々聞いているけど、ティエジ氏、かなり善行の人ですわねえ。
「メアリーのババァは、テメーの得になんねー法案には必ず難癖付けてくる。そんでそこからどーやって自分の懐に金が入るように変えてくか……てな事しか考えてねー。本当にあいつは金にがめついぜ」
市街地では最大の盛り場の“牛追い酒場”のオーナーで、性悪悪女との評判のメアリー・ケイ・シャロン。
解放後のクトリアで、三大ファミリーに成り代わるには二枚も三枚も手札の足りない小勢力だったが、所謂郊外に居た中小その他の武装勢力たちの中での生存競争に勝ち残った中規模のギャング……と、そう思って良かろうシャロン家。その当主でもあるメアリーの政治手法は、ど真ん中ストレートな賄賂と利権政治。
味方する者には恩恵を与え、敵対するなら叩き潰す。
なんとも厄介だけど、当然その恩恵に預かりたい人たちの支持も多いから無碍にも出来ない。
「それによ、北地区にゃゲルネロの糞野郎が居る」
“ねずみ屋”ゲルネロ。日本語圏の感性だと名前の響きからして厄介そうな彼は、その印象通りにやはり厄介な人物で、北地区の貧民を束ねる大物だ。
メアリーよりも露骨に自らの利権に執着し、その上名より実を取る強かさもある。
イベンダーの口八丁でうまいこと乗せてジャンヌが北地区議員になる話し合いでは、表向き「お互い納得した上での協力体制」にはなっているが、その実彼が折れたように見えるのは、「たかが孤児上がりの小娘など、好きな様に操れる」という思惑からなのはハッキリしてる。
ジャンヌをよく知る者からすればその考えは明らかに的外れで甘い考えだが、問題は彼がそういう考えの元に、北地区の貧民たちを扇動し、自分の利益の為に様々なことをごり押ししてくるところだ。
その点、まさに矢面に立つジャンヌにはかなり面倒な役目をさせてしまっているので申し訳無い。
「あいつは昔ッから、立場の弱い奴を脅して叩きのめして利用するのに長けてっからな。
アタシ等の身内を無理矢理手下にしようとして何度も揉めてるしよ。奴の子分を返り討ちにして叩きのめしてやったのも一度や二度じゃねえ。
奴にとっちゃ、学校なんざ作られて、他の連中が賢くなるのなんていい迷惑でしかねーよ。
言葉や文字を覚えられたら、奴の知らないところで結束されると恐れてるし、算数計算を覚えられたら手下への手間賃を誤魔化せなくなる」
ジャンヌはその逆で、身内の孤児たちには自分の知る限りの知識や生存術を教えて来ている。文字や計算のみならず、放浪時代に覚えた身体の鍛え方に食べ物の見つけ方諸々。
言い換えればゲルネロは分かり易い程の愚民政策で、周りの人間を「自分以下」に止めさせることで利権と支配力を確立したいタイプで、ジャンヌは真逆、知識とスキルを広め共有することで集団のボトムアップを計り強くなることを目指してる。
もちろん僕が目指すのも後者。
このクトリアを国として立て直すのには、まず底から上げていくのは必須だ。
「ま、郊外の連中はまだ議員選出も済んでないから、そいつらがどう出るか分かんねーけどよ。けどそうそう簡単にゃ通らねーだろうな」
いつも不機嫌そうな顔のジャンヌだけど、そこそこ付き合いも長くなり、同じ様な顔でもその裏にある感情の差異が少しは分かるようになってきてる。今の表情には、やりきれない悔しさと、それでも絶望しない不屈の精神がちらりとこぼれてる。
「学校の件は、長期的な計画として温めておいて下さい。ただその下地作りとして、議会を通さずこんなものを試してみようかと思ってます」
実は今日の本命はこちら。
何だ? と僕の手元にある数枚の下原稿を覗き込むジャンヌ。
□ ■ □
ジャンヌと僕ら、そしてジャンヌの仲間の数人の孤児たちで連れ立って次に来たのは、西地区の“ミッチとマキシモの何でも揃う店”だ。
「お、ほ? おぉ~う? おいおいおい、ちょっと待ってくれよ、待っておくんなましよ?
まさかまさかまさかだけども、こりゃ……今をときめくクトリア共和国評議会の議長にして、“ジャックの息子”の代理人たるレイフィアス・ケラー様と? かつては流浪の孤児ながらも、“シャーイダールの探索者”を経て、今や北地区代表の下院議員になられたジャンヌ様々じゃあねえの?
おい、マキシモ! あとお前ら! そんなみみっちい汚ぇ鉈の修繕なんざしてる場合じゃあないよ! いいから! な? 鉈なんざ最初の一、二回切れりゃあそれで良いんだよ。その後は棍棒として使えばすむんだからよ!
ほらほら、茶だよ、茶! ヤシ糖と朝一で仕入れたミルクに生姜もたっぷり入れてな! 人数? 良いよ、二人分で! 俺のじゃないよ、お客様二人分だよ!」
まあ、話に聞くとおりに何とも騒がしい。
「へっへ、それで、お前様方は一体何がお入り用で?」
もみ手すり手でペコペコするも、その目の奥には単純なこびへつらいよりも、貪欲な好奇心が覗いている。
「初めまして、ミッチ・イグニオさんですね?
『クトリアの歩き方』は、いつも拝読させていただいてます。
先日も新版をお送りしていただき、ありがとうございました」
「へ? いやいや、そりゃあ嬉しいね、ありがてぇ、ありがてぇ!
いやー、今回の新版はまぁ~~~……苦労したからねえ。
何てったって建国だよ? 廃墟瓦礫のゴミクズ漁りと馬鹿にされてきたクトリアが、こりゃキチンとした国になろうッてんだから、右も左もてんてこ舞いだ。その中で細心にして正確な情報をもとにしたこの最新版……!
こないだなんかね、ええ? 王国の外交特使だっつう兄ちゃんまで買いに来てよ? いや~、こりゃ王国にまで送ってやらにゃあならなくなるかもしんねえな、ってんでね」
「私の名はエヴァリンではなくエヴリンドだ。それ以前に私のことを載せるな。特にあのチンピラ連中の証言はな」
「うへ?」
「相変わらずだけど誤字多いぞ。今回は六ヶ所あった」
「うげげ!?」
これこれ、君たち、そう一方的に責めるものではありませんよ。誰にでも過ちはあるのです。
「あー、それでですね。今回は貴方の活版印刷の技術を見込んで、新しい事業提携の提案に来ました」
さてさて、どうなるものか。
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