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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-76.マジュヌーン 災厄の美妃(47)-僕はこの瞳で嘘をつく
しおりを挟む「───なるほど、金毛、テメーだったのか」
なるほど、なーんて訳知り顔で言ってはみたが、実の所何もはっきりした事ァ分かっちゃいねえ。
幾つかの情報のパーツはある。“赤ら顔”のところからずっと俺たち二人をつけてきていたこのリムラ族のちび。
何故か俺達を“密偵”と思い、攻撃してきた“銀の腕”。
その“銀の腕”に、俺達を怪しませるよう“仕込んだ”のは何者か?
それと───ま、ここでは良いか。
「へっ……な、何だてめぇ、何の話だよ、あぁ!?」
分かり易いくれーにうろたえつつ、金毛の奴が虚勢を張る。
親分である“銀の腕”は人質になり、恐らくは奴と通じてたリムラ族も俺の手中。手勢の半分くらいは怪我もして、気を失ってる奴もいる。
奴らからも強いと目され警戒されてただろうアールゴーラ族のムスタと、その下僕……と、思われている貧相でボロ着の猫獣人の二人きりに、十人近くが“してやられた”。
ここでまだ不敵な態度を取れる“銀の腕”も、虚勢をはれる金毛野郎も、まあそれぞれなかなかたいしたもんだ。
とりあえず埒があかねえ。ずだ袋の中から引っ張り出したリムラ族の口元に、今度は気付の匂いを嗅がせる。眠りの粉の作用に限らず、強い刺激臭と覚醒成分で意識をハッキリさせる薬で、これまた“砂伏せ”達の製作。覚醒時に嗅ぐ、服用するとちょっとしたエナジードリンクみたいな効果があるが、例のナップルの魔法薬よりは効果の範囲は限定的で体力回復は特にしない。
んむむむむ、てな呻きと共に意識を取り戻し出すリムラ族のちび。戻しつつも寝ぼけたようにむにゃむにゃとしてまた寝そうになるのを軽く叩いて、「おい、起きろ!」と呼び掛ける。
「……ん、ウウン……?
何ッ!? 何なの!? モールドは王しゃまのオけつを掻くの!?」
起き抜けの一言は……いや、うん。まあ、何だ。
「お前もお前でたいしたもんだな、まだそんなこと言えるッてのは。
だが猿獣人の目を誤魔化すのに馴れすぎて、猫獣人の鼻まで誤魔化せると思ってたのが、お前の失敗だ。
いつまでもバカのフリしてても俺にゃ通用しねーぜ?」
そう“凶悪に見える笑み”を浮かべつつ、リムラ族を顔の前に持ってくる。
本当にコイツが話通りの“お馬鹿なリムラ族”だとしたら、間抜けはむしろ俺の方だ。
だが三カ所を巡って調べた中で、全ての場所に居たと言える匂いを発してるリムラ族なんてのは他に居なかった。
最初は“輪っかの尾”の周りでちょろちょろしてるリムラ族の1人から、“赤ら顔”の所の薬の匂いと、“銀の腕”の所の噛み煙草の匂いがしていたのを、間抜けな王様気取りに見える“輪っかの尾”が使っていた密偵なのかもとも考えたが、今の仮説はちょっと違う。
「何のことなの!? モールドは早く帰りたいの! モールドの目を見れば分かるの! モールドはウソつかないの!」
リムラ族特有のでかい目ン玉で哀れそうにこっちを見る。俺の凶悪フェイスなんざ意にも介してないのは度胸があるのかただ鈍いのか。
純真無垢を絵に描いたみてーな顔のまま、見つめ合うと吸い込まれそうに澄んだ瞳。
いや待てよ? 吸い込まれそう……どころじゃない、マジで意識が吸い込まれるぜ。
「ひゃっ!?」
バチバチっ! ってな衝撃。静電気に触れた程度でさして強くはないが、それでも奴と俺との間に繋がってた魔力を“災厄の美妃”が吸い取り切断する。
「何!? 何なの!?」
「……ッち、油断も隙もねえな。おイタが過ぎるぜ、目ン玉モールド」
アスバルやドニーシャの廃神殿で出会った仮面の術士の【魅了の目】とはまた違う。あのときの恍惚感とは別物の、意識そのものが吸い込まれちまいそうな奇妙な感覚。
「俺にゃお前の目の魔力は通じない。いや、目の魔力だけじゃねえ。銀の鞭の雷の魔力も、その他のどんな魔力もな、俺にゃ通じねーんだよ」
厳密に言や、“災厄の美妃”には……だけどもな。
「なる程───【暗示の目】だろうな、そいつの目の魔力は」
俺のクトリア語を通訳していたムスタがそう補足する。
「【暗示の目】?」
「比較的軽い幻惑系の魔法だ。
【精神支配】ほど強くはないが、不自然でない範囲で相手に指向性のある考え方を植え付ける。
今のように『もうこのちびを離してやった方が良さそうだ』とか……」
「『あのアールゴーラと猫獣人の二人組は怪しいから、捕まえた方が良い』……とかか?」
つまりは───。
「こいつがリカトリジオスの内通者か」
▽ ▲ ▽
「な、何のこと!? モールドにはまるで意味分からないの!?」
【暗示の目】を持ち、全ての裏勢力にそれとバレずに出入りして、リムラ族故の素早さに警戒をされない特性を生かして情報を集めまくる───。
「待ってくだせぇ、そいつァ……聞き捨てならねぇ話でござんすよ」
それまで黙っていた“銀の腕”が、驚いたことにクトリア語でそう口を挟む。
何だよ、クトリア語喋れたんかよ。俺らも間抜けだな。それじゃ“銀の腕”にだけは俺らの会話も筒抜けだったってかよ。そういうの、先に言っといてくれ。
「あっしらはお前さん方が───リカトリジオスの密偵じゃあねえかと疑っていたんでやすが……」
……ん? そりゃまた奇遇だな。
「───なるほど、そうか。“銀の腕”、お主、ラビアルザムの密偵の一人か」
その“銀の腕”を後ろから羽交い締めにしていたムスタがそう言う。
「何だそりゃ?」
「アールマールの闇の密偵組織だ。王家に仕える法務長官直属。各都市に密かに手下の者を潜ませているという話だが……なる程、こんな形で潜んでおるとはな」
感心したようにそう言うムスタに対し、
「それをご存知のお前様も───」
「ふん、聞くな。俺も今の話はしてなかった事にする」
今更遅いだろ、とも思うが、しかしムスタは何でそんなことを知ってるンだか。“銀の腕”の方は何かを察したのか勝手に勘ぐったのか納得しているようだが、いいのか、それで? ……まあいいか。
「金毛。テメーが情報貰ってたのはコイツだな? そん時には【暗示の目】で思考を操られてた。そしてそれを“銀の腕”へ回した。コイツの思惑通りの情報を……。
そんなトコだろ」
やや遠巻きにしてた金毛達手下にそう言う。ムスタの通訳でそれを聞いた金毛達は、ばつが悪そうに下を向く。図星だったか。
「密偵組織の一員にしちゃ質が悪ィぜ」
「いや、多分あいつらは正式には違うだろう」
「そうなんか?」
そのムスタの言を引き継いで、“銀の腕”が、
「恥ずかしながら奴らは手前の手下でやすが、正式には密偵とは違いやす。それどころか手前がラビアルザムの密偵であることも知りやせん。奴らにとっちゃ、手前はあくまで口入れ屋で人足の頭でさあ」
「もう離して! モールドもう帰りたい!」
相変わらずバカのふりを続けるちびリムラ族。甲高い声も相まって、ちょっといい加減イラついて来るが、どーにもなかなか口を割らねえな。
「チッ……。どうする?」
「眠りの粉をもう少し調整すれば、催眠状態にして喋らせる事のできる薬にもなるが、俺の調薬技術じゃあまり期待できん。新しく用意するには暫くかかるぞ」
一番手っ取り早いのはまあボコボコにして吐かせる手だが、どーにもコイツにゃ通用しそうな気がしねえ。
それに実際今の所あるのは状況証拠のみで、これと言った物証が無い。それがあるならコイツに突きつけてやることも出来るンだが……と。
ここまで考えて、さっき最初に感じたちょっとした違和感を思い出したが、そのとき、
「───お待ちくだされ!」
また別の誰かが割って入る。
現れたのはもう一人の小さなリムラ族。確かこいつも“輪っかの尾”の所に居た一人。お間抜け王様がバナナチップスの雨を嬉々として降らせるときに紐を揺すってた───。
「モダス! 来ちゃダメなの!」
「お前一人をそんな目に合わせられん。それにリカトリジオスの内通者などと嫌疑をかけられては黙ってもいられないわい」
パッと見どちらも前世の感覚で言えばぬいぐるみみてーなちっちゃなファンシーおさるだが、口調やら雰囲気やらからすると新しく現れたモダスっての方が年くってそーな感じだ。
「わしはモダス。あの“輪っかの尾”の側近をしておる……と、思わせておる。
一番はおぬしらに見破られた通り、モールドの【暗示の目】の力を上手く使って、だ。
他の連中は……クァドもアルシャバジも、シャブラハディもアールゴーラも、わしらリムラをバカで非力と侮っておるからな。魔術が使えるとも、わしのように知恵があるとも思ってない」
落ち着いた声音でそう言いつつ、小さくため息。
“銀の腕”を初めとしたクァド族の連中も、ムスタまでもが、完全に呆気にとられて言葉も出ないで居る。
「まあ、それも半分は正しい。だいたいのリムラは子供っぽく享楽的で、純粋だ。だからバカにされ蔑まれていてもさして気にもせん。下っ端仕事を押し付けられ、安い給金や、或いは無休でこき使われても恨みもせん。
そこに───わしはつけ込むことにしたのさ。
“輪っかの尾”はアルシャバジの出自だがリムラにも近い。奴は間抜けで虚栄心が強く刹那的。だが、生まれつき強運の加護をもっておった。
モールドに【暗示の目】を使わせ巧いこと操り、賭場の“王さま”に仕立て上げて傀儡にする。
そして実際の旨味はわしらが頂く。
長いことかけて完成させたこのシステムは、今まで誰にもバレてはこんかった。
───わしらリムラを見下しておらん、その猫獣人の旦那が来るまでは……な」
「見た目で判断するな」と、そう繰り返し俺に言ってたのはムスタだが、そのムスタにもこの展開は完全に想定外か。確かにこのモダスの言う通りかもしんねえな。もし俺が他の猿獣人同様にリムラ族をバカで幼稚なだけの取るに足らない連中、と決めつけていたら、例え匂いを嗅ぎ分けていたとしても、スルーしてたかもしんねえ。
「だが、わしらのしてたことはそれまでだ。よその連中の所に忍び込み情報を探りつつ、“輪っかの尾”を裏から操り利益を得る。それ以上とのことはやっておらんし、ましてリカトリジオスの内通者などとはとんでもない誤解だ」
理路整然と、そしてこの場面この状況にしちゃたいした度胸でそう言うモダス。
だが当然ここで徒手空拳で……てなまあ有り得ない。当然何かしら手を打ってあるはず。
その一つは……、
「───分かったぜ。確かに、お前らはリカトリジオスの内通者じゃあねえ」
俺はそう言って、掴んでいたモールドを離して地面へと落とす。
ここでそう来るとは思ってなかっただろうモダスは驚き慌てて小走りにモールドへと近寄るが、そこへすかさず脚を回して転ばせて、サッカーのリフティングみたいに蹴り上げてその首根っこを掴む。
「ぬあ、何を!?」
「さっきのは本心だ。だが、多分お前等は俺の欲しい情報を持っている。
だから───周りの連中をまずは下がらせて、じっくりと友好的に話し合いをしてーんだよな」
モダスは一瞬だけギョッとしたように眉根をつり上げてから、観念したかにまた小さくため息。
「……いいでしょう。やはり猫獣人の鼻は、誤魔化せそうにありませんな」
モダスが右手を上げて三回ほどひらひらと回すと、周りを囲んでいた50は越えるかという気配がそのまま引いていく。
ま、いくら非力なちびとされるリムラ族でも、50人で囲んで石でも投げられりゃ、こちらもただじゃ済まないだろう。魔術なら“災厄の美妃”で防げるが、単純で原始的な人海戦術にゃ適わねーぜ。
そして、その友好的話し合いが一段落ついくその少し前に、これまた再び別の奴がやってきて、新たな問題が持ち込まれる。
ルチア達が護衛していた名士の娘さんが攫われたという、実に“悪いニュース”だ。
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