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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-64.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「それは……少し違うか?」
しおりを挟む「はあー、なるほどそうですかー。これは奇縁と申しますか、面白い話ですなぁ~」
そんな風な調子で、母ナナイこそが話に伝わるかつてのヴォルタス家の救い主だという件を聞くロジウス氏。
アデリアはアデリアで極端だが、なんと言うかこの反応も反応で……ちょっと薄味?
ロジウスという30代ほどの青年は、鼻筋の通った垂れ目気味で優男風の風貌。やや茶色に近い艶やかな黒髪に暗灰色の瞳はアデリアやアルヴァーロとも似てる。
だが丸顔のアデリア、ロジータと違い、アルヴァーロ同様の卵形に近い面長の輪郭などは明らかに違う。恐らくはその特徴は、今は亡き父のアニチェトから受け継いだのだろう。
その優男然とした風貌に似つかわしく、物腰は穏やかで口調もアデリアらに比べれば柔らかい。やや間延びした様な調子はともすれば愚鈍にも思われがちだが、彼の場合はそこにしっかりとした知性と抜け目のないしたたかさが伺える。
この年の離れた長兄は、普段は南海諸島の本拠地に居て、ヴォルタス家を中心とした海洋交易を取り仕切って居るという。
ボーマ城塞の方には基本ノータッチ。この城塞を建て直しそこに残っていた人々を助けて共同体を作り上げるというのは、曰わく彼らの父でありロジータの夫であったアニチェト・ヴォルタスの「老後の道楽ですわ」との事で、海洋交易事業の方を長男であるロジウスに全て任せての隠居暮らしだったのだと言う。
彼らロジウスとその家族を交え、昼餉の方は特につつがなく進む。
楽団は緩やかだが帝国流に比べると色合いの濃い音楽を奏で、特製の薄めたヤシ酒や果実水でのどを潤し、新鮮な果物にスパイスの効いた料理。贅を凝らした……と言うのとはまた違う素材の良さが際立つ。
さらには今日の朝に穫れたという魚介類をロジウスが船便で運んできて作られた魚介のスープや海魚のヤシの葉の包み焼きなども美味。いやー、美味! 山岳城塞で海の幸! 美味!
ヴォルタス家の面々はそれぞれに離れて暮らしていると言うこともあり、話題はまず近況報告から始まる。
部外者の僕らの前にしてはなんとも明け透けでおおっぴらではあるけど、その辺はアデリアの普段の振る舞いから見ても、ヴォルタス家の家風なのかもしれない。
「ケティちゃん、いくつやったっけ?」
「もう十三だよ!」
「そっかー、もうすぐ大人やんなー!」
「うん!」
僕の感覚からすれば、完全にまだまだ子どもだけど、こちらの人間社会だと十五歳が成人年齢というのが一般的。人間よりも生体になるのが早い獣人種だとさらに早い種族も多いらしいけど、何にせよ前世感覚でもダークエルフ感覚でも違和感はある。
ケティちゃんと呼ばれたその少女は、色黒の肌をした南方人で、民族的にはJBと同じタイプに見える。そしてその彼女の母でありロジウスの妻と言うのが、これまたすらりとしていて、かつしっかりとした筋肉もついた体格の良い色黒の女性ヨアナ。
ヨアナはかなーり南の方の獣人王国近くの港湾都市で川舟の船頭をしていた船乗りだが、縁あってロジウスと知り合い、紆余曲折の後に数年前結婚したという。
数年前、と言うところでも分かるとおり、ケティちゃんはロジウスの子ではなくヨアナの連れ子。
ロジウスとの間にも一子をもうけてるらしいが、まだ幼児で今は乳母に預けてのお昼寝中。
となればこの世界の人間社会的にはこういう場にも呼ばれないという場合もあったりはするのだけども、そこもまたヴォルタス家の家風なのか南方での風習の違いなのか、アデリア含めて全員ベタベタのデレデレだ。
「ほら、こっちも良う食べぇ。ちゃんと食べへんと元気で立派な大人になれへんからな?」
「うん! いただきます、おばあ様!」
血縁ではないが初孫になるケティちゃんに、ロジータもまたかなりデレデレ。
アニチェトに対する想いと良い、やはりヴォルタス家の人々はこう、情が濃いというか何というか、そういう所があるようだ。
「母さん、あんまりそうやって甘やかさんといてください。特に最近ケティは贅沢覚えてかないませんわ」
と、そのベタベタで甘々なファミリートークにロジウスが釘をさす。表情からしても軽くたしなめる、というよりは、結構本気で嫌そうに見える。
「何や、相変わらずお前はしぶちんやなあ。子供のちょっとした贅沢くらいでガタガタ言いよんな」
ジョヴァンニのその言葉からすると、ロジウスは一族の中でもケチで知られてる……と言うことか。
「金の問題だけやありませんわ。そら、ぎょうさん食べて身体が丈夫んなるんやったらええですけどな。この子ォは食べたら寝る、食べたら寝るですわ。
昔の帝国貴族の話は知ってますやろ。贅沢に食っちゃ寝食っちゃ寝ばかりして、ぶくぶくに太って病気ばかりや。そら馬上で鳴らした東方人にも負ける、言うもんですわ」
うーーむ。いや、まあロジウスの言ってること自体はまあ正しい。
かつての帝国貴族の美食飽食は成人病と肥満を蔓延させ、その事が東方人達への無様な負け戦に繋がった、というものよく言われていること。まあ実際の敗因は多岐にわたるだろうけどもね。
ただ……何と言うんでしょう、このロジウスの感じ?
こう、「それ、今言わなくて良くない?」系の理屈でグチグチと責め立てて場を醒めさせる感と言いますか。
それ言いたいだけやろ感と言いますか。
一言で言うと、「面倒くさい理屈馬鹿」感とも近い……けど、ちょっとそれとも違う感?
僕は軽く眼鏡を触りケティちゃんの様子を見る。眼鏡に付呪されている魔法の一つ診断モード。大まかな健康状態などを鑑定するもので観た限り食っちゃ寝で不健康になってるようには思えないが……。
と、
「あの、ちょっとよろしいですか?」
僕はそう右手を上げつつロジウスへと話しかける。
「はあ、何でっか?」
「先ほどのケティちゃんが『食べたら寝てばかり』というのは、比喩的な意味ですか? それとも実際に食後に疲れて怠くなりなかなか動けないのですか?」
「はァ……。まあ、実際にゴロゴロしてばっかおりますけどなァ」
うーんむ。ならば、ねえー……。
「ケティちゃん、いいかな?」
「……うん」
叱られてやや落ち込んでいるケティちゃんに視線を向け、改めて聞いてみる。
「食事の後に少し眠くなったり疲れたりしちゃうのは誰にでもあることです。
でも、体質や食べ方、食べるモノによってより疲れやすくなったりしてしまうこともあります。
ケティちゃんはいつも、何をどんな風に食べて、その後どんな風になるのですか?」
おそらくそんなことを聞かれるとは思ってなかっただろうケティちゃんは少し驚いたように軽く目を見開き、それからたどたどしくも一生懸命思い出しながら言葉を繋ぐ。
「えっと……。朝はね、お芋パンと、バナナと、あとオレンジとか。
お昼は……だいたい果物で、夜は……お芋パンか、スープと……果物?」
あらま。何というか見事な偏食。
「お魚やお肉は食べないの?」
「うーん……お魚、嫌いやもん……」
なるほど。多分魚の臭みが苦手なのかな? 後は小骨が嫌だとか、見た目がキモいとか……。
「島で暮らしとる言うのに、魚は食べたない、果物ばかり食べたいで、ワガママ放題ですやろ」
呆れた様に言うロジウスだが、ここで思わぬ反撃が来る。
「そないに言うんやったら、バールシャム戻りましょうか?」
「え!? い、いや、そ、そら話違うやろ!?」
反撃主は誰あろうロジウスの妻ヨアナさん。大きな目を険悪そうに歪めつつ、ロジウスへと睨みを効かせる。
「島に来て暮らして欲しい言うたんはアンタですやろ。アタシもケティもそれまでの暮らし捨てて島に移り住みましたんや。アンタの為に、や。
ケティかて前はこないに疲れてばかりやなかったですわ。島の暮らしが合わんのやったら、あのゴミゴミした汚い港町の方がよっぽどマシやわ」
「いや、いや、いや、それは筋がおかしいやろ!?」
あー……うん、夫婦喧嘩はこの際置いておくとして、ケティちゃんの偏食……特に果物と炭水化物に偏った栄養の方は気になるところ。
流れ的にここはガンボンちゃんの出番! ……と言いたいけど彼は今居ないので、まあ僕がやるしか無いよねー。
□ ■ □
さて、炊事場をお借りして作ってみた幾つかのメニュー。
一つはつみれハンバーグのフルーツソース掛け。
そしてスパイスをふんだんに使った魚介のパエリア風。
あと蟹のチーズグラタン。
蟹はなんとあの岩蟹を魔力抜きして薫製保存していたるとかで、それを使わせて貰った。
「どうですか?」
「うーん……。コレは……」
つみれハンバーグのフルーツソース掛けを少し食べつつも、微妙な顔。
「……美味しいんやけど……少し……」
「まだ匂いが気になりますか?」
「……ちょっと」
やはり魚の匂いが苦手なようだ。これでも香草やスパイスで臭み消しをし、それに豆の粉や玉ねぎにニンニクなんかを混ぜてつなぎにしたりと工夫はしたけど足りないか。
パエリア風のは逆にスパイスを効かせすぎたためか「ちょっと辛い」とのことで、残りの蟹のチーズグラタンだけはケティちゃんにも大好評。
「いや、どれもめっちゃ美味いやん!」
「いやー、これは結構……いけますねえ~」
「何やこれ、酒飲みとうなるわ」
「ロジータ、さすがに昼から飲みすぎやで」
「ええやないかいボケカスコラァ!? 美味い料理に美味い酒飲まんでどうすんねん、ダァホ!?」
何かちょっとヤバい人のエンジンに火をつけてしまったっぽいけど、まあそれはそれとして。
「……まあ、確かにこれはええ味ですけど、それが何の関係あるんですか?」
ロジウスとヨアナも食べつつも、こちらの意図が読めず疑問に思っている様子。
「先ほども言いましたが、食後に眠くなったり怠くなったりする事自体はよくあることです。
けれども体質や偏食によってそれらが強く出過ぎてしまう事もあります。
恐らくですが、ケティちゃんは元々そうなり易い体質で、そこに島での偏った食事により余計そうなった可能性があります」
端的に言えば、炭水化物と糖質過多、低タンパクによる低血糖……かなあ?
体質に関しては明言は出来ない。もう少しきちんと調べる必要があるだろう。
「肉や魚を摂らず、甘い果物や芋や小麦などに偏ると、食後の疲れや眠気が増す、ということがあるそうです。
ケティちゃんは魚が苦手で、島では美味しい果物が多かったことで、そうなってしまっていたかもしれません。
魚の臭みをとり、また姿も変えてみることで食べやすくなるのではないかと思い試してみました」
結果は一勝二敗。まだまだ工夫の余地ありか。
「魚だけでなく肉や動物の乳、卵なども良いので、もし島で取れないようでしたら余所から持ってきても良いかもしれません」
「うーんむ。わしら船乗りの間じゃあ、オレンジやライムは船旅に必須やから、そう身体に悪いとは思うとらんかったけどなァ~」
ジョヴァンニがそう言うが、これはビタミン不足による壊血病予防のことだろう。
「オレンジもライムもそれ自体は身体に良いです。問題は量と偏りです。
ケティちゃんはまずは肉、魚などと他の野菜類を増やすように変えてみるところから始めてみてはどうでしょう」
実にざっくりとした健康ワンポイントアドバイスではあるが、それで改善されるならそれに越したことはない。
「ああ、そう言やぁアニチェトもそないなような事は言うとったかもしれんなあ。
何やったか……い……医い……」
「医食同源……だろ?」
ジョヴァンニの言葉を母ナナイが引き継ぐ。
「東方人の思想にあるんだってよ。病気になってから薬を使うよりまずは、普段からの食事のバランスを整えて病気になりにくい身体にするとかなんとかってな。それをアニチェトにも教えて居たからな」
東方の小国ヤハル人だったという僕の父にもそう言う知識があったのか。まあ、そんなに特別な考え方ではないし、ある程度普遍的にはあるんだろうね。
「ふぅ~んむ……。まあ、そない言わはるンでしたら、試して見るンもよろしかもしれませんなあ」
「後で先ほどの料理の作り方を書き記してお渡しします。そこから工夫すれば、もっとケティちゃんにも食べやすく改良出来るでしょうし」
「ほなら、なんぼお支払いしましょ?」
「へ? え、いいですよ、それは別に」
「いえ、あても商売人ですよってに、価値ある話にはきちっと相応のものをお返しさせてもらわんと」
そうロジウスはきっぱりと言う。
「おうコラ、そないな銭金のつまらん話は後にしとけ、後に。今は宴や言うとるやろ、あぁ? 飲みの席でしょーもない話しよんなや?」
「ママ、飲みの席やのうて昼餉やって……」
「同しや、同しィ。気持ち良ぅ飲ませンかいコラァ!?」
ヤバい。この人が絡むとめちゃめちゃ話ややこしくなる……。
と、しかし。そんな和気あいあいな……えー……和気あいあいな宴も終わり、さて改めましての交渉へと進みますと、ロジウスさんの何というかこの性格がまた色濃く出て来まして、ええ。
□ ■ □
「───で、それはあてらにどないな得がありますのんや?」
想定内でありつつ想定外。
イベンダーとの打ち合わせのときにもしつこく言われ続けて肝に銘じていたのは、とにかく政治というのは基本的には利害調整だ、ということ。
理念とか理想は二の次……というのはそれはそれで間違いなのだけど、理念や理想で相容れない者同士でも手を取り合えるのが利害というもの。
なのでまずは相手に「我々の提案を受け入れれば、あなた方にはこれこれこのような利益がありますよ」と提示する。それが政治の基本である、と。
想定内でありつつ想定外なのは、このヴォルタス家の長男というロジウスさんの存在。
正直、彼が今日の会談に出てくるとは思ってなかったし、またその人となりについても曖昧にしか知らなかった。
現状としてボーマ城塞を取り仕切っているのはヴォルタス家で、ヴォルタス家の現在の家長はロジータ・ヴォルタスだ。
彼女は古くから海洋交易をしていたヴォルタス家の直系。
アニチェトは所謂入り婿というやつだ。
クトリア含めたティフツデイル帝国文化圏では基本としてはやはり家父長制主体で、たいていは男子が家督相続をする。王族も貴族も、商家もだ。だから入り婿のアニチェトが家長となっててもおかしくはない。
ただ男子家父長制は絶対的なルールでもなく、直系に男子不在の場合は女子後継者が家督を継ぐというのもよくある話。おそらく先代から当代のロジータへの家督相続はそのパターンだったのだろう。
もちろん、いわゆる入り婿のアニチェトが家督相続をする、という事も不可能ではないし、そうする場合もある。
特に荒くれ者相手の家業なら、そうする方が多いはず。
端的に言えば、「ナメられたら、アカン!」と言うことなので。
そうしなかったのは、ロジータが家長であっても舐められないという確信があったのか、ヴォルタス家には血縁を中心と考えるところがあったのか。
その辺は分からないけれども、何にせよ現当主のロジータはと言うと飲み過ぎたのか元からそのつもりだったのか、「こんまい話終わったら教えてくれ」と言い残して退席。
で、交渉の中心には恐らく普段からここの実質的とりまとめ役をしてるだろうジョヴァンニと、次期当主であるロジウスさん。
「あんな、レイちゃんはほんま凄いねんで! 使い魔とかようけおるし、ダンジョンもシュババババっ! て作ってまうねん!」
横合いからそう口を挟むアデリアを片手で制して、
「あー、何や、あての不出来な妹のことでは、えらい世話になったみたいですな。いや、ほんまおおきに。感謝しとりますわ。
ま、せやけどそれはそれ、言うやつですわ」
「ちょっ! もう、ちゃんと聞いとるー!? ほんまやねんてー! ほんまにレイちゃんは……」
「……あー、せやたわ。アデリア、アールマールで最近作られた新しい飴ちゃん持って来てん。土産や。ほら、舐めてみ」
食い下がるアデリアの口の中に白っぽい小さな塊を突っ込むロジウスさん。
それを入れられて、「んふ? ふお、甘ぁ~ひ!」と大喜びのアデリア。いやチョロ過ぎでしょ?
とは言えまあ仕切り直し。ロジウスさんの言い分は確かに最も。そしてこちら側はと言うと、アデリアと僕ら、ロジータ中心としたヴォルタス家とJB達との関係性から、ボーマ城塞の人々との交渉は難なく進むだろうと、正直甘く考えていた。
はっきり言えば、ここで大きく切れる交渉カードはない。
「───まずは、クトリア共和国内での通商、交易の自由を保証されます」
「つまり、今とそないに変わらん……言うことですわな?」
「城壁内での商取引にも組合が作られますので、それらの利点も得られます」
「そら、組合の利点ですわな。組合の参加資格には共和国の傘下におること、言う文言はありますんで?」
「いえ……今の所は必ずしもそうではありません」
組合のそれぞれの細かい制度は基本的には各組合で決められるようにしてある。
そして現時点ではどの組合にも「クトリア共和国の者に限る」とはなっていないはず。
「……これまでとの一番大きな違いは、ボーマ城塞が共和国の一部として加われば、下院議員として代表者を選出出来る事です」
今の所こちらから提示出来るのは結局はここの点に尽きる。が───。
「はあ。で、それがあてらにどない利益があるんかァ、言うのを聞いとりますんや」
「……おい、ロジウス。もう少し言葉を選ばんかい。このお人を誰や思うとんねん」
たまりかねたかにジョヴァンニがそう苦言を呈する。ただその苦言がロジウスの言葉の内容にではなく、あくまで物言い、言葉使いに関してのみ、と言うことは、ジョヴァンニも心情的にこちら寄りではあるが、内容には特に異論が無いという事だろう。
「レイフィアス・ケラーはん。古代ドワーフの“王の試練”を達成しはらはって、王権を授与されはった闇の森のダークエルフ魔術師。そしてかつてウチの父さんを連れて来はらはって、南海諸島周辺の海賊退治の際にごっつお世話んなったナナイ・ケラーはんの娘さん……ですわな?」
スラスラとまた、簡潔にだが過不足なくこのクトリア、そしてヴォルタス家にとっての僕の立場立ち位置を説明してくれる。
「古代ドワーフの王権の試練言うても、あてらドワーフ違いますやろ? そら昔むかぁしのお話や。とッくに滅びたモン等の理屈、今のあてらには関係おまへんわなあ。
それにまあ、ナナイはんにはそら感謝しとります。祖父母の代からまぁぎょーさん聞かされとりますわ。恩人や、素晴らしいお人やった、言うて。
けどそれも、つまりはレイフはんのお母上のお話や。今の話とは全く別な話です」
さてまたこれもど正論だ。僕が王権を授与されたと言ってもあくまでそれは古代ドワーフの遺産の上で。そして母のナナイとヴォルタス家との関係はあくまでその二者間での話であり、僕とも関係ないしさらにはクトリア共和国建国とはもっと関係ない。
彼の言うとおり、問題の焦点はあくまで「ヴォルタス家にとって、クトリア共和国への編入にどんな利益があるのか?」だ。
───いや、ちょっと待て、それは……少し違うか?
「その通りです。私個人の立場はクトリア共和国の事とは別な話です。それらは重要ではありません。
ただ、ボーマ城塞が正式にクトリア共和国の版図に組み込まれる事で、双方に防衛上の密な連携が可能になります」
これは兼ねてからの懸案でもある軍備、防衛力の問題でもある。
所謂国軍、常備兵を持つか、傭兵団をいくつか保持しておくのか、またはかつての帝国のように一部を除いては常備兵ではなく市民兵を中心にするのか。
何にせよクトリア共和国全体を視野に入れた軍備と防衛拠点の確保は必須で、その意味ではボーマ城塞が確保できないのはクトリア共和国としてもとても痛い。
だが同時に、それはヴォルタス家という一つの家にとっての問題とは別の、ホルストを初めとする現在ボーマ城塞に住んでいる人々全体の問題でもある。
ボーマ城塞を仕切っているのがヴォルタス家でも、しかしボーマ城塞の人々は必ずしもヴォルタス家に仕えて居るわけではないのだ。彼らの関係はあくまで協力関係であり、主従関係ではない。
横に侍るようにして立っている警備担当のホルストへと視線をやる。あくまで彼の役目は警備でありここで発言をする事はないが、彼には彼なりの考えもあるだろう。
「そうですなあ。防衛問題は確かに重要ですわなあ」
やや長めにまっすぐ伸ばした顎髭をさすりながら、ロジウスは思案深げにそう言う。
ここがキモか? と思いさらに何か提示出来ることはないかと考えていたところ、ロジウスはさらにこう切り込んで来た。
「せやたら、クトリア共和国では新たな海軍を設立するぅ言う事ですねんなァ?」
───クトリア海軍……。
なんとも間抜けなことに、この時点まで僕の頭の中からはその言葉がすっぽりと抜け落ちていた。
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