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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-49.マジュヌーン 川賊退治(32)-もしもし!OK!!
しおりを挟むヴォルタス家のあらまし……なんてのをざっくりとは聞かされはしたものの、まあ簡単に言えば古くからクトリアで海運業を営んで居た家系で、5、60年ばかし前に近海の海賊退治をし、その後邪術士専横時代には拠点を東海諸島へ移しつつ、交易を続けてクトリア郊外の港町やらの支援を続けていた顔役……てなことだそうだ。
河川交易組合はここバールシャムからラアルオーム、そしてさらに遡って猿獣人の王国アールマール方面への通商をメインとしているが、ヴォルタス家はバールシャムと東海諸島、クトリア方面にさらに東のダークエルフの火山島や南の蹄獣人の部族国家との海運交易を仕切っている。
そう聞くと、川賊連中からは直接の被害を受けないので関係は無さそうにも思えるが、
「害虫ッてヤツはな、放っておくとわらわら増えやがる。早めに叩いて潰しておかんと、瞬く間に増殖していくからな!」
と言うことで、半ば押し掛け気味にこの件に絡んで来ているそうだ。
なんとも元気で押しの強いジジイ。
魔術師だっつう話だが、赤や緑の濃い色合いの身体にピタリとした服はおどろおどろしい魔法の使い手と言うより、派手でインチキ臭い手品師か道化師みてーだ。
いや、もっと言えばむしろ、俺らの前世での映画や何かに出てきた海賊のイメージに近い。
特に顔の大きな傷に、右足が膝から下をそっくり無くして、銀に輝く義足をつけているらしい……てなところなんかもだ。後は眼帯に派手な色合いのオウムが居ればまさにそのもの。
で、その息子のロジウスってのは見た感じは全然雰囲気の似てない優男然としている。
顔立ちなんかはよく見るとやはり親子だとも思えるが、それ以外の雰囲気はまるで似てない。いや、服の布地が色鮮やかだったりとかは似てるんだが、全体にこう……スマートだ。
「で、こちらはんが“砂漠の咆哮”のお方で?」
ちらりと目を向けてからそう組合長へ確認。
「ええ、それと表に居りますお二人が従者の方で」
組合長の言葉に顎に手を当てつつふうむと頷き、
「成る程……、空人に猫獣人……。表には猿獣人もいましたなあ。まあ、それなりには適材適所……てところですか」
そう言いつつ、こちらへ慇懃に一礼。
「ヴォルタス家のロジウス言います。よろしゅう頼んますわ」
「マハだヨ!」
「“天空を貫く風”! アスバルだ!」
「マジュヌーンだ」
一応それぞれに立ち上がり返答する。アスバルの奴はアホみたいな決めポーズ付きでだが。
ロジウスはややつまらなさそうに半眼になり、逆にアニチェトは面白そうに歯をむき出しにして笑う。
「はは! 流石はくせ者ぞろいの“砂漠の咆哮”だな!」
「そういう噂の事は生憎良く知らねえんだ。これでも仕事はきちんとやるから、まあ心配しねーで良いぜ」
アスバルのことまでは請け負えねーが、俺はしっかりやるつもりじゃいるぜ。
マジメーンだからな。
「それはそうと……この条件なんですけどな」
書面にした契約条件に目を通したロジウスがそう話を切り出して、
「日当の部分……そうですなァ、まず7日間に区切りこの支払いで、ただその間に有益な情報が無ければ払いを再検討させてもらいましょ。いつまでもだらだら適当やられても困りますさかいな。
個別情報に関しても、再確認後に有益だったか否かで分けさせてもらいませんと、役に立たへんカスネタを数だけ持ってこられてもあてらが損するばっかりや」
と、細々した注文をつけてくる。
「おぉ~? 何だ……そりゃ? 俺様の調査力が信用出来ない……ってのか?」
尊大さをあからさまにしつつ睨みを効かせようとするアスバルに、
「あんさんのその【目】をうまァ~く使ぅてくれるんでしたら、有益な情報もようけ手に入るでしょうけどなァ」
と返される。あー、また【魅了の目】に気付かれたな。
となると、このロジウスとやらも、父親譲りの魔術の使い手か、使い手でなくとも対処法を心得てる。
「あーーー、ロジウス~! お前はソーユーところがつまらん! ちまちまちま、細かァ~いところばかり気にしおって!」
呆れたように大仰にわめくアニチェトに、
「お父さんは商売のことに雑すぎるんです。あんなしょーもない廃城塞なんぞに援助して、損しかありませんがな」
「目先の損得だけが人生ではないぞ!」
「目先の損得を忘れたらおまんまの食い上げですわ」
見た感じ20代からせいぜい30代前半程度の年の離れた息子と、年の割に妙にパワフルな父親とで、意見の相違が激しいようだ。
「俺としちゃ別にそれでも構わんぜ。第一そんなに時間をかけてやる気もねえしな。さっさとケリつけて帰りてえ」
正直な話として、一週間も二週間もだらだらと地味な調査を続けたくはない。
それを聞くとアニチェトは興味深げに、
「ほほう? 何か既に見当でもつけておるのか?」
と聞いてくる。が、当然ながら、
「いや、別に。アスバルは別として、俺はこの辺にも数回しか来たこともねえしな。
ただ……そうだな、組合長」
「何でっか?」
「この辺は、元から霧ってのは良く出るもんなのか?」
そう聞くと、
「朝靄は季節によっては出ますけど……普段はそうでもないですわ」
との答え。
「え、そうなん?」
とぼけたアスバルの返しは無視しつつ、
「となりゃ、襲撃のときの霧も普通じゃないわな。魔術か魔物か、何だか分からんが、そーゆーもんが関係してんだろ。ま、その辺から調べてみるさ」
俺のその言葉に、再びアニチェトは楽しそうにニヤリと笑った。
▼ △ ▼
まずは初日の夜にはあてがわれた酒場兼宿屋へと向かい飲み食いしつつの噂集めだ。
こういうときには何よりアスバルの奴が活躍する。表向きの通り一遍な町の話はあらかた集まり、そこから個別に深堀りしたきゃ、毎度おなじみ【魅了の目】の出番だ。
マハもなかなかの情報ターミナルになる。というより舞い踊ることで注目を集め、そこから寄ってくる男どもがベラベラとしゃべってくれるので、横でそれを盗み聴きしているムーチャがそれらを精査するわけだ。マハ自身はただ陽気に飲んで踊って居るだけ。
俺とカシュ・ケンだとそういう役割分担もそう上手く機能しない。比較するなら俺よりカシュ・ケンの方が愛想が良く話し上手の聞き上手。まあ俺はその横でちまちまと酒を舐めつつ、辺りの気配を探るくらいだ。
例えば目立って注目されているアスバルやマハのことを遠目に見ている男が、単に声をかけたくても出来ないシャイな野郎なのか、警戒して様子を探っている奴なのか。
または席を回って食器の片づけをしている小僧に紛れているガキが、残り物の飯を袋に詰めているだけなのか、そのついでに懐の財布にまで手を伸ばして居る奴なのか。
「よう」
こっそりと伸ばされた小さな手を軽く握り、小声でそう話しかける。
恐らくクトリア人と猫獣人の混血らしき薄汚れた毛深いそのガキは、一瞬怯えた目を見せてから、すぐさまソレを引っ込めて何事もなかったかに表情を作り、
「何だよっ!?」
と歯をむき出しにして威嚇する。
「食うか?」
俺は皿の上の素揚げした魚の山を指してそう聞く。せっかくの海に面した港町だというのに、ここらの魚料理はそのまま煮るかそのまま揚げるかそのまま焼くかだけ。やたら癖の強い魚醤や香辛料を使ったタレみたいなのはあるものの、まあ正直やや期待外れ。
とは言えそれでも量だけは豪華そうに山盛りにしてあるので、単調な味で飽きてくる。
ガキは僅かな逡巡の後に、その身体の割に大きな手で掴めるだけの揚げ魚を掴むと左手の袋に詰め込んで、そのまま一気に走って逃げる。
まったく、せわしねえ奴だな。
飯も終わり夜も更けたら、借りてある部屋の一室に集まり情報の整理。
とは言え一日ではそうたいした収穫はない。
バールシャムには「軽く飛んで来れる」距離のアスバルはここでもそこそこ馴染みが多い。それで居て「今ンとこそんなに変わった話ねーから、また追加情報探しに行って来るわー」とかほざいてそそくさと出て行く。馴染みの女の誰かの所へ向かったんだろう。
マハは踊り疲れ酔いつぶれて既に寝ている。
で、俺とカシュ・ケンとムーチャが残り、そこそこ気になる噂と言えば……、
「呪いの印……ねえ」
魔術絡みの霧について調べようとその手の話を集めていたら、こんな話が出てきたという。
今居る北岸と、貧困層の多い南岸のどちらにもある噂だが、呪い自体は主に南岸で起きてるという。
「赤い顔料で印が書かれると、数日のウチにその近くで不幸が起きる……てな感じ? おおまかにゃあよ」
「曖昧だな」
「ウワサなんてみんな曖昧」
ま、そらそーだがよ。
多くは失踪。特に浮浪児や宿無し達がねぐらからごっそりと居なくなる、てなことがあるらしいが、話には出ててもそれほど気にされてはいない。まあそりゃそうだろうな。元から浮浪児の事なんざ誰も気にしちゃいねえ。
他にも強盗や泥棒、付け火、または殺傷事件にまで話は広がる。特に北岸側では盗難や強盗が多い。
そしてどちらでも、それらの現場の近くにはそれぞれ形の異なる印が数日前から書かれて居たという話もある。数日前から、と言われて居るが、たいていは事件が起きてから印が見つかってるので、その辺の証言はちとアテにならねえ。その位目立たない場所に書かれているらしい。
「まあそれが呪いだ……っつー奴も居れば、警告、予言だ、ていう奴も居るかな。
実際事前に見つけて消した場合、不幸が起きなかった、て話もあるぜ」
「呪い、呪い、呪い……ねェ~。
ムーチャ、どう思う?」
ムーチャは何だかんだで俺らの中じゃ博識な方だ。というか特に俺たち、つまり俺、カシュ・ケン、アスバルという家畜小屋育ちがモノを知らなさすぎるんだが、それでも猫獣人にしちゃあ……という言い方も何だが、ムーチャは広くモノを知ってる。特に魔術や呪い、いわゆるこの世界におけるオカルトじみた事に関しちゃ、明らかにマハよりも多く知ってる。
「嘘臭い。そんな呪い聞いたこと無い。本物ならもっと分かり難いか、逆にもっと目立つようにやる」
と、そのムーチャの見解としちゃ眉唾の噂らしい。
「どんな印だかってのは聞いたか?」
「んー……。三角やら四角やらの記号に、何本かの棒が描かれてて、他にも文字とか数字とかで……色々だな」
「毎回同じもん、てワケでもねえのか」
「あと、事件が起きた後に見つかる場合、だいたいぐちゃぐちゃにされてるらしい」
印に関しちゃけっこう具体的な話が出てるが、全体としちゃ曖昧だし、そもそも川賊問題と関係あるかどうか分からねー。
「あとなあ。あの組合長……キオンさん? けっこう叩き上げの苦労人で、今年の始めくらいに奥さんを病気で亡くしてるらしいぜ。
若い頃は働き詰めで色恋沙汰とは無縁。三十路すぎてからようやく貰った奥さんで、まだ子どもは出来て無かったんだがかなりアツアツでよ。亡くなったときはめちゃくちゃ落ち込んでたんだとよ。
で、この辺どーだか分かンねーけど、その呪いの始まりは、組合長の奥さんの死なんじゃねえか……て言う奴も居る」
「それ、けっこうデケェ話じゃねーか?」
組合長のあのいかにも自信なさげで判断力に欠けた態度も、その辺の事が尾を引いてのこと……と考えれば、まあ納得は行く。
「けど例の印はなかったらしいから、呪いの噂が広まった後に、後付けでアレもそうだったんじゃねえか、と言われ出したっぺーな」
なるほど、そりゃよくある話だ。
▼ △ ▼
数日はそんな案配で細々した街のウワサの収集と検証。
その間に集まったネタと言えば───。
「船乗りのヨアナは未亡人だが色気がすげえ。
雑貨商のパドラ・ザイジは盗品を扱ってるくさい。あと息も臭い。
河川交易組合の警備兵ティドはエロジジィ過ぎる。
逆に組合の会計係ハビエルは糞マジメだけど未だ独身で堅物過ぎ……」
「雑多過ぎだな」
ティドもハビエルも打ち合わせのときに居た組合長の腹心。
「親の代から組合長の家に仕えてる筋金入りらしいけどな。まあスケベとそれは関係ねーべな」
「あいつはエロジジィ。マハの身体ジロジロ見てた」
まあ確かにマハは、スタイルとしちゃ人間の価値観からしてもグラマラス。人間種の男でも、種族の違いさえ気にしなければ目が行っちまうのは仕方ねえだろうな。
「パドラ」
それら雑多でどう関係するか分からん情報の山に、ムーチャがさらに付け加えて言う。
「あいつは何日か前、呪いにやられた。店の商品盗まれた」
盗品を扱ってるとの噂の雑貨商が、今度は呪いで盗賊にやられた……?
そりゃまた、ご災難なっこったぜ。
────
第二部では既にお亡くなり状態での登場となっていましたが、アニチェト・ヴォルタスさん、この時点でだいたい70歳近くです。
魔力循環を習得し続けていると、肉体的な老化が抑えられるので、外見上は50歳くらいです。
ロジータさんはアニチェトと比べるとめちゃ若妻で、この時点では40代前半。
ロジウスはこの時点では20代半ばで、アデリアとアルヴァーロはこの話の時点ではローティーン。
ロジウスはボーマ城塞に定住せず、南海諸島(東海諸島)にあるヴォルタス家の海運交易団を取り仕切ってます。
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