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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-47.マジュヌーン 川賊退治(30)-我が良き友よ
しおりを挟むラアルオームは猿獣人の王国、アールマールの衛星都市で、公用語も一応猿獣人語。
住人の半数はやはり猿獣人だが、実際に住んでる者達は多岐にわたり、また残り火砂漠の南側の入り口という事もあり、砂漠を旅する隊商や“砂漠の咆哮”の大規模な野営地もある。
そのラアルオームを拠点にしてそろそろ半年以上近くになる。
まさに「新入りなのに運が良い」仕事だった、“砂伏せ”たちの猫獣神奪還で得られた「副収入」はかなりのモンで、それだけで半年は余裕で遊んで暮らせる程だった。
で、たいていの“砂漠の咆哮”の猫獣人戦士ならそうするらしい。
けどまあそこは俺もなんつーか、元人間のサガってーのか。いや、元日本人、だからなのかね。
やっぱどーにも、半年遊んで暮らせる金があるからと、そのまま半年遊んで暮らせる気分にゃなれやしない。
商人の臨時の護衛や害獣退治、それから遺跡調査だとか、珍しい収集品の回収だのと言う、細々した依頼をちょいちょい受けて、猫獣人にしちゃあ珍しいと言われるくらいの「勤勉さ」で、この間は団員メダルを更新するまでになった。
団員メダルてのは“砂漠の咆哮”の団員であることの証明であると同時に、そいつがどのくらい評価されているかの証明にもなるモンで、新入り、駆け出しは棍棒の意匠が彫り込まれた銅製のメダルだ。
それが「二ツ目」と呼ばれる一つ上になると鋼鉄製で衣装も二本の曲刀を交差させたものになる。
で、その上は銀メダルで、そのさらに上は金メダル。その上とさらに上には、宝石がはめ込まれた豪華なメダルになるらしいが、一番上は例の五派閥の代表しか持てないんだそうな。
で、メダルのランクが上がると色々団内での融通も利くし、取り分も変わる。新入りだと依頼料の半分を団に収めることになるが、二ツ目になると四割で良いし、元々の依頼料の高い難しい仕事も受けられる。
ま、分かり易い話だな。
カシュ・ケンとダーヴェも入団をしてみちゃどうかと話を向けてはみたが、とりあえずは俺の従者契約をする、という事で済ませておいた。団員募集はアティックが引退するときのようなケース以外は、死亡者が増えて人数を補充したいときに団の都合でやるだけで、誰でもいつでも入団出来るワケじゃない。ランクの高い団員による特別推薦みたいなのもあるらしいが、俺じゃあダメだ。
“砂漠の咆哮”に入れなかった荒くれ者や、入りたくてもタイミングの合わなかった奴らは、自分達だけで小規模な戦士団を作ったり、叉は“砂漠の咆哮”の野営地に入り浸って団員に自分を売り込み従者契約を結んでもらったり、下働きをしながら機会を伺ったりもする。
中にははぐれの戦士団から山賊に転身しちまうような奴らなんかも居て、そういう奴らへの討伐依頼が“砂漠の咆哮”に来たりもする。
白猫マハとムーチャの二人は、野営地で天幕を借りて二人暮らしをしつつ、ちょいちょい依頼をこなしている。マハはいかにも猫獣人らしい気紛れで自由な性格なので、俺たちに比べるとまめじゃないが、意外にもムーチャは金銭面には堅実で、気が付けば散財しちまうマハのサポートとして良くやってる。
俺達はというと、暫くは野営地暮らしをしては居たが、カシュ・ケンとダーヴェの意見も汲んで、ラアルオーム郊外にちょっとした広い荒れ地を買うことにした。
位置的には“砂漠の咆哮”の野営地よりやや山の方へと向かった傾斜のある高台。面積は広いが岩だらけの荒れた土地で、街からもあまり近くなく不便な場所だ。その分安く買えたが、ここでの生活は前途多難。まずは天幕を買ってきて寝床として、カシュ・ケンは小さな作業場を作り何やら鍛治仕事や細工物をやりだし、ダーヴェはそのカシュ・ケンと二人で作った、普通なら農耕馬が使うような糞でかい農具を使い川から水を引いて畑を耕し、豆やら果物やら野菜やらを作り出した。
で、たまにやる狩りなんかも入れれば、今はささやかながらも自給自足の暮らしが出来るようにまではなっている。
合間合間に家作りをして、あばら屋というには上等な家が出来た。
基本は日干しレンガとモルタル作りの平屋だが、ダーヴェ曰わくメキシコ風の邸宅を参考にしたとかで、真ん中にちょいとした中庭をしつらえ、それをぐるりと四角く囲むような構造だ。
半年以上の間にはカリブルやルチアもラアルオームに訪れ、少しばかり一緒に依頼をこなしたりもしている。
カリブルは相変わらず鬱陶しくて暑苦しい。成り行きで同じ依頼を受ける流れになってもグダグダと文句ばかりで小舅みてーだ。だが、従者になったアナグマみてーなアラークブとはかなり上手くやってる。
猪突猛進でよく言えば正々堂々、悪く……いや、普通に言えばバカ正直な正面突破ばかりのカリブルの脇で、投げナイフを巧みに使う小技も上手く、ああ見えて手先も器用。一点突破の破壊力はないが、なかなか万能にあらゆる局面に対応できる。何より一番の取り柄は目立たないところか。
その糞バカ正直な武人っぷりのカリブルに、ダーヴェがやたらに気に入られてたのも面白かった。一応あいつも体育会系だったし、それなりに馬の合う部分もあるっぽい。
ルチアは特定の従者は持たず、各地を流れながらその場その場で合う相手と組んで仕事をこなしているらしい。初めは人間種、つまりは“毛無し”であることで軽んじられ侮られてはいたが、無口ながらも確実な仕事ぶりと、シジュメルの加護という入れ墨魔法の力もあり、着実に高い評価を受けている。
“漆黒の竜巻”の二つ名は、南方人という“砂漠の咆哮”での物珍しさも加わり、ここいらでもよく聞こえてくるようになっている。
二人とはリカトリジオス軍の動向についての情報交換も続けている。“砂漠の咆哮”には二人同様にリカトリジオス軍により親しい者達を殺されたり奴隷にされたという奴らは少なくなく、そうでなくとも勢力を拡大しつつあることへの警戒心を持つ者も居る。
“砂漠の咆哮”内部や、またそれ以外でも“残り火砂漠”を行き来する隊商部族や狩人部族なんかにも居る。
そういった連中同士でそれぞれに情報ネットワークみたいなものも出来つつあり、俺達もある意味その末端に居るようなもんだ。
“砂伏せ”も以前の経緯からリカトリジオス軍には警戒心を強めているので、カリブル達に紹介してやった。
あれ以来連中は俺達を信頼しているのか、時々訪れては安く薬を売ってくれたり、また特別な依頼をしてきたりもする。
今の所分かっているのは、リカトリジオス軍は確かに勢力を増してはいるが、現在はあまり大きな軍事行動を取っては居ないらしいと言うことと、その中でやや頭角を現している部隊が居ると言うこと。
その部隊はオーガや猪人、人間なんかを含めた混成部隊で、かなりの戦果を上げているらしい。
俺達としちゃかなり複雑な気分だ。静修さん含めて元学園の奴らが無事でいるという事ではあるが、リカトリジオス軍の中での状況は分からないし、何よりもカリブルやルチアに聞くリカトリジオス軍の在り方からすれば、戦果をあげているという事はそれだけ多くの恨みを買うような真似を繰り返しているという話になる。つまりは、村を滅ぼしたり奴隷狩りをしたり……と言うことをだ。
ダーヴェがある時ボソリと言ったが、この荒れ地に畑を耕し続けているのは、ここに居場所を作っておきたいからだと言う。
もしいつか───何らかの形で奴らがここへと来れるような状況になったときの為に、俺達の、そして奴らの居場所を作っておきたい。
そういう思いが、この場所にはこめられている。
そして半年以上の間───例のシャーイダールとかいう邪術士の事は、未だにさっぱり分かっちゃいねえ。
▼ △ ▼
朝の光が窓から差し込み、気怠い感覚で目を覚ます。
ベッドの横にある僅かなへこみとやや湿った温もりが、ついさっきまで居たはずの存在と昨夜のことをも思い起こさせる。
毎度のことだ。だいたいアイツは俺より先に起きて、軽く運動をしてから水を浴びる。
それから台所の作り置きか貯蔵庫の食べ物を勝手に食べ、気が向けばまた勝手に居なくなる。
猫獣人らしいとされる気紛れで自由な気質を存分に発揮して、気が向いたときにふらっとやってきて、気紛れに飲み食いをしちゃ気紛れに泊まっていく。
そして気紛れに俺と寝て、気紛れにぷいっと居なくなる。
どうにもそういう“猫獣人らしさ”に欠ける俺としちゃあ思いの外振り回されっぱなしだが、存外そんな関係も悪くないと思っている。
顔を洗い飯でも食うかと台所へ向かうと、何やら美味そうな匂いにはしゃいだ声。
既に数人がテーブルに着き騒いで居る。
「美味そうだな」
「おう、めちゃめちゃイケるぜ、マジでよ!」
木の椀には赤い液体。おそらく最近カシュ・ケンがハマっている魚介のスパイシースープリゾットだろう。
「アハー、マジュ遅いかラ、全部無くなるトコだヨー」
口の周りを赤くしながらマハが笑う。
赤いのはトマトに似た野菜のアルジャブ。味はトマト似だが形はナスに近い。無理に言うなら赤茄子、てとこか。それにちょっとばかり唐辛子系の香辛料諸々を足して辛みもつけてある。
なのでイメージとしては、トマトベースのカレー風ピリ辛シーフードリゾット、てなところか。
「じゃあちょっと味見させてもらうぜ」
と言い、俺はマハの口元に付いたスープを舐めとる。
うーん、成る程、いい味だ。
「いつもより辛み効いてるな?」
「お、お、分かる? 火山島の新しい香辛料試したのよ。これが小粒でピリリと辛い! 良いアクセントになるぜー?」
カシュ・ケンにこんな才能があるとは思ってもなかったが、意外にも凝り性なところがあるもんで、ハマると何でも器用にこなす。喧嘩バカだった前世からは考えられねえわな。
鍋から新しく盛られた椀を受け取り、木匙でかっこむ。
確かにピリ辛で美味いそれを食いながら、アティックの奴もクトリアよりこっちで料理修行した方が良かったんじゃねえか? とも思うが、まあこの辺はそもそも素材が良くてそれをそのままあまり手を加えずに食う方が多い。あまり料理そのものの工夫が文化的には発達してないんだよな。
猿獣人の王国アールマールは密林地帯で果物や川魚、そして香辛料が豊富で、ラアルオーム以南は所謂ステップ気候の草原地帯。
こちらには蹄獣人達の部族国家群があり、牧畜や農耕が盛ん。
で、河を下って東へ行けば港湾都市のバールシャムがあり、そこからは東海諸島や火山島からの輸入品に海魚の塩漬けやら。
クトリアからここまで来るには、あの糞灼熱の残り火砂漠を縦断するか船で海路を来るかしなきゃならないという問題があるが、それさえクリアすればあんな瓦礫の廃墟に住むより遥かに良いだろう。
まあ……住人の殆どが獣人、てなのが、クトリア人的には住みにくいかもしれねえけどな。
「ガジュゲン、ゴレバ、店ダぜる味」
「やっぱ? やっぱそう!?」
ダーヴェの言葉にくるくる回りながら喜ぶカシュ・ケンだが、
「……ま、安定して同じ味出せればなあ」
と俺に言われて渋い顔。
「ワタシ好きよー。いつも新鮮、違う味!」
マハがそう言うが、どーもカシュ・ケンは器用に色々こなせる割に、料理に関しちゃ所謂レシピ通りが出来ずに気まぐれに作るもんで、美味いときはめちゃめちゃ美味いが、しくじるときは普通にしくじる。
今日の出来は10点満点中で8点くらいだが、平均すると5か6くらいになる。技術というか性格の問題かね。
「お前たち馬鹿。魚はそのまま美味しい。肉もそのまま美味しい。果物そのまま美味しい。無駄無駄無駄……」
料理の手間暇創意工夫そのものを全否定していくストロングスタイルなダメ出しはムーチャ。そう言いつつも出されたカレー風ピリ辛シーフードリゾットは残さず食べる。コイツとも長いつきあいにはなるが、そもそもコイツが食い物を残したり好き嫌いを言う所は見たことがないな。
「そういや、あのアホはどうした?」
全員揃った……と言えないのは一人居ないから。
その一人はどこかと言うと……、
「いや、多分昨日帰って来てねーぞ?」
「あザ帰りだな。反ゴう期だ」
「我が家の放蕩息子も色々お盛んだからな」
「いやいや、マジーはそれ言えねーから!」
デザートにヤシシロップをかけたカシュ・ケン特製フルーツヨーグルトを舐めつつそう話して居ると、やかましくけたたましく御本人の登場だ。
「へっへー、どうよー? まさに宙を飛ぶような夢心地だったんじゃないのー?」
へらへらとやや酔ったような声でそう言う声に、
「いや~ん、もう……スゴかった~……」
と、これまた軽い返し。
誰か? と問うなら、同居人の一人アスバル君。前世での名前は足羽大志。あの後色々調べまくり、最終的には猿獣人の言葉で「忍耐」を意味するアスバルに決めたらしい。
まあ本人の性格気質から言えば全く不似合いだが、この世界の言葉の中で足羽に似た響きの中でマシな意味があるのがそれぐらいだったのだそうだ。
中庭経由でへらへらしながらダイニングキッチンへと来るアスバルと、見知らぬ色黒の肌をした南方人の女。
「おーう、お揃いでー。マハっちも居んじゃん、良いね、良いね、丁度イーネ!」
フハッ、と笑うと、明らかに酒臭い息。
「おい、お前また酒のんで飛んできたのかよ? しかも女抱えてよ。危ねえから飲んだときは飛ぶなよ」
「あーはーん? 何々、マジーったら心配してくれちゃってんのォー? やっさしィ~」
「おめーが落ちて死ぬ分には良いが、他の人間を巻き込むなっつってンの!」
チャラけた返事のアスバルにカシュ・ケンが目を剥きつつそう言うが、本当にその通りだ。
「あのね、この程度じゃ酔ったウチに入らねーの? 今じゃ目ぇつぶってでもヨユーよ、ヨユー?」
実際、魔力循環に【飛行】魔法のコントロールも相当上手くはなっては来てる。
とは言えだからって容認出来るこっちゃあねえんだがな。
以前の“忠告”を踏まえて持ち前の要領のよさも上手く手伝い、ラアルオーム近辺じゃあかなりの人気者で通っている。
なもんで足羽改めアスバルの奴は“砂漠の咆哮”の仕事よりも、単純な人たらしで暮らしている。男女問わずに誰かの気を引いて、そいつが上手く扱えそうなら貢がせたりタカったり奢らせたり、だ。
まさに由緒正しいコマシであり、ヒモであり、クソ野郎だ。
しかも一応俺たちのルールとして、それぞれ稼いだ金の半分をこの世帯の資金として入れる、という決まりでシェアハウスしているんだが、こいつの場合金よりも直接的にたらしこんだ相手に面倒見てもらったりしているので、遊びまくってる割に入れる金はそう多くない。
その事で揉めたりすると、またしばらくよそで世話になり、しばらくするとこうして戻ってくる。
「そんで、何なんだよ。朝帰りの上おねーちゃん連れ込んで、何かまたやらかしでもしたのか?」
前より上手くたらし込めるようになったとは言え、誰かの女を寝取ったとか、適当に二股三股をかけていたとかで、何かしらやらかして揉める……てのは相変わらず。
そんでやらかすとこうしてここに逃げても来る。
「あのね、ハッソーがヒンコンよ、君は。見た目も頭もモンキーバナナ?」
「バナナも、ゴんど植えダいな」
「出来るのか? 密林地帯から苗木貰ってくんの?」
「アレ、美味シーよネ!」
「人に話聞いといて即脱線すんなよ!」
「おめーがつまらんこと言うからだろ」
「うるせー! とにかく聞け! 新しい仕事受けて来たんだよ!」
ばん! と勢い込んでテーブルを叩くアスバル。
「……おいマジか。アスバル君の口から、“仕事”って言葉が出てきたぞ?」
「あズは、雹が降る」
「天変地異の前触れネー」
「仕事ぐらいするわ! つうかしてるわ、いつも!!」
「“砂漠の咆哮”の依頼の方、いつもチョロいヤツしかやってねーじゃん」
「しかもいつでも飛んで逃げられるように、屋外のヤツしか受けねーしよ」
「文句あるかァ、ボケェ!! 今回も屋外関係の仕事じゃあ! 暗くて狭いところなんざ行きたくないンじゃあ!」
……話が進まねえ!
「いいから、どんな仕事だよ?」
埒が明かないのでそう続きを促すと、
「ふっへっへーん、聞いて驚け! なんとな、バールシャムでの海賊退治!
そしてこの娘はその依頼人だ!」
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