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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-38.J.B.- So You Like What You See.(君の目に映るものが好きなように)
しおりを挟む「モディーナ! ここに居たのですね!?」
隠し倉庫の中に不意に響く大きな声。
この声にも聞き覚えはある。俺にとっちゃ結構なお馴染み、総料理長のものだ。
「タ、タシトゥス!?」
俺たち同様に驚いたモディーナの声。慌てつつ振り返るその口元には、ぬらりと光を反射する真っ赤な血。それを手早く左手で拭い隠そうとする。
「全く……、いいですか? もう王国の外交特使団は到着しているのですよ!?」
「そ、総料理長!?」
もう一人、あの小柄な見張り番。モディーナ以上に慌てた様子のそいつにも、
「ウィルフ! お前もです! 我が従士でありながら、モディーナの命令など聞いて何をしているのですか!?」
かなり強めの叱責が飛ぶ。
「も、申し訳ありません! で、ですが、その……」
「言い訳など無用! それとも何ですか? お前もここで“貴重な食材”のつまみ食いでもしようと言うのですか!?」
“貴重な食材”……!?
そりゃ一体何だ? おいおいおい、マジでそりゃシャレにならねえぜ!?
思わずこわばる俺の肩に、おっさんの手が乗せられる。
ああ、分かってんよ。動くのは“今”じゃねえ、ってことだろ。
だがそれよりも先に、さらなる乱入者が場を混沌の渦に叩き込む。
「なーーーにをしとるか、このバっカモーーーーン!」
「ナっ……!?」
「ナナイ様っ……!?」
「え!? へ!?」
ナナイ様? おい、誰だそいつは?
そんな奴……いや、この二人にアルバ以外で“様”付けで呼ばれる程の地位の奴が、まだマヌサアルバ会に居たのか?
「……ナナイ?」
イベンダーのおっさんもそう呟くが、初めて聞く名に、初めて聴く声。
その声の主は素早くテオの吊されたこの小部屋へと近づいて来て様子を確認。奥で隠れている俺たちの視界に入ったその姿は……青黒い肌のダークエルフだ。
「ナナイ様、本当に……本当にナナイ様……なのですか……!?」
「まて、何だこれは!? モディーナ、貴様ここで……何をしていた!?」
「あ、いや、待てタシトゥス……、こ、これには、わ、理由がっ……!?」
「ほほーん? じゃ、そのワケをきっちりと聞かせてもらおうか……。アルバも一緒に……な?」
「え? いや、ちょっ、まって、それは……!!??」
「……おい、何だか様子が変だぜ、おっさん」
「うぅ~む……、ナナイ……ナナイ……ナナイ……。駄目だ、思い出せん!」
「覚えがあんのか?」
「うむ。頭のこう……隅っこの方ォ~~~~に、引っかかっとるんだが……」
ひそひそ話でそうやりとりしていると、そのナナイとかいうダークエルフがこう強引にまとめ上げる。
「よし、これから全員でアルバの所に行くぞ! そこの奥の二人! この吊られた男を連れてついて来い!」
───バレてんじゃん、おい!?
◇ ◆ ◇
「───お姉様!!」
恐らくレイフが作っただろう蜘蛛糸のテントみてーなもんの中から飛び出したアルバは、立ち上がりダダっと駆け寄ると、そのままナナイへと抱き縋った。
───話が全然見えてこねえ。
よし、整理するぞ。
俺たちはエクトル・グンダーの息子、テオという男を探し出し、その流れでマヌサアルバ会の“食人の儀式”の噂を検証するために忍び込んだ。これが目的。
で、まずテオは確かにマヌサアルバ会の地下倉庫の奥に縛られ監禁され、しかもその犯人はどうやらモディーナという背の高い女。マヌサアルバ会の正会員の中のナンバー3であり、クトリア議会の上院議員になった奴だ。
モディーナは地下倉庫に監禁していたテオの首元に牙を突き立て、溢れる血を啜りだしたがその時に───まずは総料理長、つまりマヌサアルバ会ナンバー2の男、タシトゥスに見つかり邪魔をされる。
その時点で何やらかなり混沌とした状況になったものの、そこに現れたさらなる乱入者、ダークエルフのナナイにより俺たち含めて全員がこのレイフの借りている個室へと引き立てられ───今、だ。
レイフはナナイを「母上」と呼び、アルバは何故か「お姉様」と呼んで、抱きつき泣きじゃくっている。
まるで迷子の子どもが母親に再会したかのように。
「ふーん……成る程ねェ~」
と、まずは俺たちとレイフ側の「調査」の理由について一通り聞いて、ナナイと呼ばれたダークエルフの女がそう答える。
部屋の真ん中で籐の椅子にどっかと座り、俺たちとアルバ含めたマヌサアルバ会の面々とが挟み合う形での「事情聴取」だ。
「そんで、まずはその……あー、何だ? ティロ? ティロリロリロリ?」
「テオです、母上。違いすぎです」
「ま、そいつは見つかった……と。
うん、めでたし、めでたし、だな!」
部屋の隅で横になり眠らされているテオを横目にそう言うが……。
「いやー、まあ……それはそれで良いのですけどね。しかし……」
デュアンが今度はマヌサアルバ会の面々、特にモディーナへとちらりと視線。
視線を受けたモディーナは、まるで地べたに這うかに頭を低くし、
「申し訳ありません!」
との平謝り。
誰にか? まあまさに今ココで裁判官のようにして真ん中に居るナナイへだ。
そうだな、さながら今の状況を裁判になぞらえるなら、俺達は警察であり検事であり、「テオ誘拐事件」の事でその容疑者であり被告人のモディーナへと詰め寄るシーンだ。
「魔が───魔が差しましたっ……!!!!」
しかしその被告のモディーナは、無罪を主張するでもなくただただひたすらの謝罪。
「あー、ちょっと、いいか? まず、な。まず確認だ」
そこへイベンダーのおっさんが右手を上げてそう入り込む。
「モディーナは吸血鬼。まず、それは事実なんだな?」
そう、それだ。俺たちの見たあの姿。モディーナが吊されたテオの首筋に噛みつき血を啜るその様は、もう間違いなく所謂吸血鬼、バンパイアそのものの姿だった。
こりゃまさにゴスの極みの乙女だぜ。
それを受けてまずはナナイがマヌサアルバ会の面々へと視線をやり、何やら確認。それから代表して当然アルバが答える。
「───ああ、その通りだ。我らマヌサアルバ会の正会員は全て……俗に言う“吸血鬼”───厳密には死と薄暮の神サータルヌの使徒なのだ」
こりゃまた、アルバの奴もたいした秘密の塊だ。
別の世界で死んだ記憶を持つ吸血鬼で、ザルコディナス三世の虜囚となりその血を使われ魔人を作る素材にされていた。
……ああ、そうか。だから魔人の“失敗作”とされる者の多くが“半死人”なのか。半分だけ吸血鬼同様の不死者の性質を持たされているワケだ。
「それで、その───母上?」
なんとも言えない苦々しい顔で次に切り出すのはレイフのヤツだ。
「母上は、そのー……アルバ達とはどういう関係で?」
「そう! それですよ、ナナイ様! 私ら、聞いたことありませんよ?」
デュアンにとってもこのナナイというレイフの母親の乱入はかなり想定外だったらしい。
「そもそも……何故ここに居るんですか?」
そしてそれはエヴリンドにとっても同様……と。
「ここに居ンのは王国の外交特使団の一員だからだ。
アルバ達との縁は───あーーー……60年……くらい? 前? アルバの実家が燃やされたときにちょっとばかし助けて成り行きで?」
さらりと聞き流せない話が2、3個くらい連発されたぞ、おい!?
外交特使? 60年前!? アルバの……実家!?
「母上……説明が、雑です……!!」
いや全くレイフの言うとおりだ。このナナイ、スティッフィに輪をかけたレベルで雑すぎるぜ?
「───それでは、まずは我らとナナイ様との御縁に関しては、私から説明をば……」
おおっと、丁寧さには定評のある総料理長……ついさっき初めて名前を知ったタシトゥスからの「昔話」が始まる。
クトリアの闇の歴史のその、ほんの一部だが───。
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