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第三章 クラス丸ごと異世界転生!? 追放された野獣が進む、復讐の道は怒りのデスロード!
3-30.クトリア議会議長、レイフィアス・ケラー「ふわぁぁ……。こ、こりゃ、たまらん!」
しおりを挟む「ふわぁぁ……。こ、こりゃ、たまらん!」
ぐでんぐでんである。
そしてでろんでろんである。
さらに言うなら、にゅろんにゅろんである。
ぐりょんぐりょんのへろんへろんでもにゃんもにゃんである。
ヤバい。これは今まで以上にリアルガチでヤバい。
クランドロール……は、まあまあ、置いておくとして。プレイゼスのショーエンタメ観劇体験もかなり上質で素晴らしかった。
けど、それでもまあイベンダーも交えての根回し、事前交渉はそう悪くない流れで、よく出来た方だと思う。
隗より始めよ、との故事に倣い、クトリア共和国の発足に伴う新たな法令づくりでは、まずは貴族街三大ファミリーの活動を縛ることにもなる法を優先して制定することにした。
王無きクトリアでは共和制、そして議会による法の制定を原則とすることにはしたが、いきなり貴族街三大ファミリーと内城壁より外の、言わば“貧民”たちの議会を同等の権限を持つものとして扱うのには無理がある。
それでは絶対に貴族街三大ファミリーは納得しないし、無理やりごり押ししてそういう議会にしたところで足並みも揃うわけもない。
なので、貴族街三大ファミリー選出の議員の議会を「上院議会」とし、旧商業地区や外城壁外の集落等から選出された議員達の議会を「下院議議会」として差を付けることにした。
役割も勿論変えている。
上院議会は貴族街でのみの決まり事と、クトリア共和国全体に関わる決まり事の両方を制定出来る。
下院議会では、クトリア共和国全体の法令は作れるが、貴族街内部のみの法令は作れない。
また、下院議会で議決された法案は、必ず上院議会でも審議され、そこで否決されたら下院議会へ差し戻しになる。
逆に上院議会で議題になり可決された法案は基本的に下院議会から否決されることなく制定される。
ただ異議申し立てや再審議の要求を出すことは出来る。
細かいところもややこしくはあるけど、とにかく上院議会は下院議会に対してかなりの優越性をもっている。
この議会システムにしても、イベンダー等とかなり話し合ってなんとか形にしたものだ。
今まで貴族街三大ファミリーの者やその関係者は、いわゆる旧商業地区の貧民たち相手に何をしても、それが罰せられることはなかった。
極端な話、貴族街のファミリーの誰かが旧商業地区、市街地にやってきて、そこらの誰かを白昼堂々と好き勝手殺し回っても、それを罰する事は誰にも出来ない。
勿論実際にそんなことをすれば、自警団の王の守護者や、光魔法の使い手の集まりである“黎明の使徒”なんかと全面戦争になる可能性があるから、そうそうそんなバカをやる者は居ない。
けどそこまでひどくはない、つまり目立たない程度の事件ならちょいちょい起きている。
例えばJBが最初にクランドロールと関わり合いになるキッカケは、彼の昔馴染みの孤児の少女を、クランドロール前ボスのサルグランデがこっそりと誘拐させたことにあるという。そしてそれを罰する法は今のクトリアには無いし、それを防げる勢力も無い。
そこまでの絶対的な力の差、関係性の差がある貴族街と市街地との格差をどう調整するか?
なんとか折り合いを付けたのが、この両院制だ。
これも言うなれば飴と鞭でもある。
貴族街三大ファミリーの上層部としては、両院制の形で上位に当たる上院議会での権限を持てる、というのは、実質王政、貴族制のないクトリア共和国においては貴族になれるのに等しい。今までは単なる「山賊、豪族の寄り合い」でしかなかった彼らの権威を正当化するし、“ジャックの息子”による協定を一方的に守らさせられるだけではなく、自分たちでルール作り、つまり“協定の中身”を作れるわけだ。
つまりその特権や権威等々が飴。
と同時に、法を整備することで三大ファミリーの個々の構成員、関係者にも、ファミリーの掟以外の法的拘束力を持たせる事も出来る。
それこそサルグランデが孤児を誘拐させたみたいなことは、今後はキチンと罰せられるようにすることも、だ。
それを示すことで、今度は市街地に住む人々に、「今までのように貴族街三大ファミリーの連中が一方的に好き勝手出来るわけじゃない」事を印象づける。
この辺のバランスが難しいのだけど、スペシャルアドバイザーのイベンダー氏らと諸々詰めて動いていたりするわけです。
───が!
現在ワタクシ、にゅろんにゅろんのでろんでろんのぐでんくでんなのですのよ。
いや、もうね。
めっっっっちゃ気持ちイイわ~~~、ここの大浴場に美容エステ!
入浴習慣は闇の森のケルアディード郷でもあったけど、ここのは規模が違う。
いわゆる大浴場もあるし、様々な薬湯や、温度の違ういくつかの風呂に、サウナ。さらにはジェットバスみたいなのまである。
高級スパとかそんな感じなのだ。
んで、これまた噂の美容エステ。正直ダークエルフ的価値観としても、前世の感覚としても、所謂美容というものへの興味、関心度は低いんだけどもね。垢すりみたいな汚れ落としに始まり、丁寧な洗髪に蒸しタオルで顔の毛穴をオープンさせてのフェイシャルマッサージ。そしてまたハーブエキスを溶け込ませたアロマオイルによる全身マッサージ。
もうね。
デトーーーーーーーーーックス!
全身全力の、デトーーーーーーーーーックス!!
ダンジョンバトル以降、諸々でたまりにたまっていた体内の毒素が、すっかり溶け出て流されて行くかのような感覚……!
本日、こちらマヌサアルバ会の“白亜殿”へと来て以降、未だ会談も折衝も根回しも出来てませんが、とにかくまあそんな具合で、ひじょーーーーーーに、心地良い時間を過ごさせていただいております。
ヤバい。マジヤバい。これはハマるかもしれん。気持ち良すぎる……だ、堕落する……。
「レイフ様」
不意にそう施術中に声をかけられる。施術師は白くピッタリとした簡素だけど上等な服装に、これまた白い仮面。どちらも魔糸織物の特製品で、事前に聞いた話ではマヌサアルバ会正会員と呼ばれる上位メンバーらしいのだけど、その正会員によるマッサージを受けている。
「ここから先は、一般の方にはしない、特別なお客様への特別な施術になりますが、よろしいでしょうか?」
え? 何々? どーゆーの?
「どのようなものですか?」
僕がそう聞くのと、施術は受けず横で警護を続けているエヴリンドが警戒の視線を送るのはほぼ同時。その視線に気付いては居るだろうけども反応せずにその正会員の施術師は、
「この様な施術を必要とする方のためのものになります───」
と、ズキューーーン!
「うほぉわ!?」
いや、ズキューーーン! だけど、いや、ちょっと、そうなん!?
「え、ちょ、待って、一旦、待って!」
いや、ちょっと心の準備出来てなかったけど、はー……そうか、そう来たか。
JBやイベンダーからも聞いてはいたけど、ここマヌサアルバ会は表向きは美食と浴場と美容の総合リラクゼーション施設。けど本質的な実態は、貴族街唯一の魔術結社。
人数はそう多くはないものの、正会員と呼ばれる者達は全て魔術の使い手で、準会員とされる者達はその従僕としての護衛も兼ねている戦士たち。
その下にはさらに多くの使用人や何やらも居るけれど、中核を成すのは彼ら。
その魔術の使い手である正会員がわざわざマッサージをしていたのは、つまりこの「特別なお客様のみの施術」のためか。
これは、うん、確かに……。
「よろしいでしょうか?」
「あ、はい、続けて下さい」
ズキューーーン! と、施術師の掌から魔力が注がれ、僕の体内へと広がって、また回りうねりつつ循環を促される。
いや、これはかなり───上手い。
“風の迷宮”では僕もアデリアやジャンヌにやってはいたけど、恐らくそれの何倍も“上手い”、魔力循環マッサージだ。
魔力を扱う者にとっては円滑な魔力循環は必要不可欠だけど、例えば血流なんかが日々の疲労や不摂生で滞り、それが慢性的な疲労や肩こりに繋がるのと同様、魔力の循環が滞ることは魔術の行使の妨げのみならず、心身の健康にも問題を与える。それは人間もエルフも変わらない。
魔力瘤が出来るほどの滞りはそうはなくても、他者により循環を良好な状態に調整してもらうには魔力循環マッサージが効果的なんだけど、まさかそれを受けられるとは───。
なんて日だ! ヤバいここ最高!
■ □ ■
分かり易いくらいに上気した頬と緩んだ顔で、ぼけーっとテーブル席につく。
調度品も美しく調えられた個室の中に、僕とエヴリンド、デュアン、イベンダーとが合流し、四人でディナー会食。
食事そのものよりもまずはホストにあたるマヌサアルバ会会頭のアルバを待っているんだけど、この人は基本的に夜に入ってからでないと人前には姿を現さない主義だそうで、マヌサアルバ会から選出された上院議員は彼女自身ではない。
先に個室へと入っていたモディーナという名の背の高い正会員の女性は、仮面越しにも分かるくらいに目鼻立ちのしゅっとした美人のようだ。一見すると少女のように見えるアルバよりも随分と大人びた雰囲気で、知らぬ人が二人が並んでるところを見れば、間違いなくモディーナの方を会頭だと勘違いするだろう。
「少々支度に手間取っているようですね。
皆様とのせっかくの会食です。会頭も失礼の無いよう十分以上に気を張っているのでしょう」
口元を軽く釣り上げ、微笑みながらそう言うモディーナ。
うむむ。
いや、ここ、マヌサアルバ会の正会員はそれぞれ皆魔術の使い手だという。それでいて、かつての邪術士達のように悪逆非道な魔術実験をするでも、また王国の魔術師教会のように真理探究の道を進むでもなく、この貴族街という狭い城壁の中で「協定の範囲内」での支配者として君臨し、けれども事業形態としてはあくまでサービス業。
この辺、実際かなりこう……奇妙ではある。
これだけの術士の集まりなら、もっと強い立場、権力を得ていてもおかしくはないのだしね。
そして何より実際に“白亜殿”へと来てそのサービスを受け、彼らと相対していると、全体にこう……蠱惑的というか、謎めいて引き込まれる雰囲気と言うか、そういうものを感じる。
今目の前にいるモディーナもそうだ。視線一つ、口角の上げ方一つとっても、ただ見た目が整っているというだけではない魅力が溢れ出ている。
「そう言えばモディーナ。あなたはかなり古くからの正会員だそうですね」
射すくめら絡め取られるかの視線を意にも介さず、デュアンがそう水を向ける。
「ええ、そうですね。我々が結社を作った最初期から居ます」
「なるほど。言わばマヌサアルバ会の歴史に最もお詳しい」
「いいえ、それほどでも」
言葉上は否定はするも、実際問題そうなのだろう。
「わたしはまだ会頭のアルバ殿とはお会いして居ない。ですが魔術の使い手としてはかなり破格の実力をお持ちだそうですね」
僕もまだ今日で二回目。最初の召集のときに見た限りでも、その実力はダークエルフの呪術師にも匹敵するかと思えた。少なくとも人間の世界でなら、大魔術師と呼ばれてもおかしくないくらいはある。
ただ、又聞きの話としても、その実力に比例するかに“弱点”も多いらしく、何よりも闇属性の魔力に極端に偏った結果、日中と夜とでは実力含めてかなり変わってしまうとかなんとか。
しかしその特徴は……彼女だけなのかな?
マヌサアルバ会の正会員達がもしそのアルバと同系統の魔術師なのだとしたら、似たような特徴を持っていてもおかしくはない。
そう思いながらモディーナをぼんやりと見ていると、不意に目が合って微笑み返される。
ドキリとするような、なんとも言えない目で。
そのとき、
「その目を使うのは控えて貰おう」
と、横合いから不意にエヴリンドが口を挟む。
ん? と思いエヴリンドとモディーナへと視線を送っていると、
「ああ、これは不作法な真似をして申し訳ありません。
どうにもこの目は、自分でも完全に制御出来ぬモノ故、時折このように力が漏れ出てしまうのです。
特に───貴方のように魅力的な方と目を合わせてしまうと……」
と、小さく頭を下げ謝罪を示す。
んん? ん? ん? んーーー? ……と考え、あっ、と気付く。
そうか、あの目───見つめた相手に好感を持たせることの出来る【魅了の目】だったんだ!
道理で、何か見られるとゾクゾクすると思った!
「なるほど、呪文を唱えずに効果が現れるのものだったのですか。いやー、いつ使われたのか分からなかったー!」
何故かそうはしゃいだ調子で言うデュアン。
「ダークエルフの方々には通じませんね。我々も多くは闇属性の魔力を持ちます。しかしやはり闇属性魔力の質、量、密度、純度───とにかくあらゆる点で、ダークエルフの方々にはとうてい及びません」
確かに、僕らダークエルフは生まれながらに強い闇属性の魔力を持っている。そしてそのことが外界でのダークエルフへの悪評にも繋がっているのだけども、同じ闇属性の術士だからなのか、彼女らにはそのことへの嫌悪感や偏見は特に無いようだ。
いや、というよりはむしろ……と、そう考えて頭に浮かぶのはアデリアの顔。
いやいや、まさかまさかだよね?
まさかこの人たちもあの……ダークエルフフェチ……?
うん、まさかね!? ないよね!? そういうキャラ、アデリアさんだけでじゅーぶんですからね!?
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