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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-142.追放者のオーク、ガンボン(63)「何? 何なの? 何の話?」
しおりを挟む「そりゃあ……まあ、お前さんがカストなんぞ殺すからだ」
……はい?
あらやだちょっと、何? 何なの? 何の話?
カスト? カストってあれでしょ? JBとイベンダーの知り合いだか何だかの、髭胸毛のでかい人でしょ? 俺、お亡くなりになってるご遺体は見たもの。ていうか検死モドキに付き合わされたもの。
んで、殺人事件だ何だの疑いがあったものの、名探偵イべンくんの疑惑は空回りで、結局は単なる事故死だったとかいう、あのアレでしょ?
と、簡易便器代わりの手桶と穴あきの椅子の上でようやく一息ついて、通風口らしい壁の上の方の穴から聞こえてきた、どこか離れた場所でのイベンダーとハコブさんとの会話。
その内容の急展開ぶりに、出始めた俺のビッグ・ベンもリターン・トゥ・ミーですわよ?
それで……お前さん? お前さん、て、えーと……つまりこの場合、イベンダーと話をしている……ハコブさん?
一体……ドユ話!?
「……カスト? あれは事故死だろ? 出来損ないのヤク入りの酒なんぞを飲んだからだ」
「ああ、いい、いい。正直な話、その事で糾弾したいワケじゃないし、カストにゃ悪いが、奴が死のうが生きようがそれ自体は俺には関係ない。
俺が気になったのは……まぁ、タイミングだ。
あのタイミングで奴を殺す必要のある者は誰か? 何のためにか?」
正直な話、あのときの話はあまり覚えてない。どういう経緯で殺人事件という疑いが出て、どういう経緯でその疑惑が晴れたのか、さっぱり覚えてない。
「それが俺だと?」
そう、それが……ハコブさん?
ハコブさんの問いに、イベンダーは少し間を取ってから返す。
「カストの過去の背後関係は正直全く意味がなかった。というよりむしろ良いめくらましだ。
色んなところで揉め、色んな奴らに少しずつ恨みを買ってる。殺すほどとは思えなくとも、あれだけ数があればどれかは本命かもとなる。
それを知ったからこそ、こいつを始末しても安心だと思えた。例え魔力痕が残っていても、自分が疑われる事はないだろう……と」
「───フ。確かにな。あいつほどくだらん恨みを方々で買いながら、無駄に逃げ延びてるような奴は珍しい」
「普通ならとっくに殺されてる」
軽く笑い飛ばすハコブさんに、それと合わせるイベンダー。
「要するに───奴を殺すに足る動機は、結局のところ奴が『シャーイダール殺しの陰謀』を立ち聞きしちまったということ以外ありゃしないワケだ。随分と念の入った口封じだがな」
───え?
聞き間違い? 何、それ? 何の話?
「……イベンダー、慎重に答えろよ?
つまりお前は───」
「ああ、そうだ。
ドゥカムの奴が半端に修復した暴走"ハンマー"ガーディアンをジョス達が回収するよう仕組み、アジト近くで再起動するように仕向けてシャーイダールの暗殺を目論んだのは、当日“たまたま”外出してその場に居なかったハコブ───あんただ」
◆ ◆ ◆
俺は大慌てで下履きを上げて立ち上がろうとする。立ち上がりかけて引っ掛けて、黒皮のゆったりパンツを膝まで上げた状態ですっころんで顔面を地面にしたたか打ち付ける。
痛い。いやそれどころじゃない。
そんな間抜けな有り様を一人で晒している俺とは無関係に、ぎりぎりと心臓が締め上げられそうになる言葉の空白。
そのしばらくの間の後に、再びハコブさんが問う。
「ふん、そうか。だがどういう理屈でそうなる?
それに、どうやってカストを殺したというんだ?」
その声には、もう少しの笑いも暖かみもない。
ただただ冷たく、そして無機質で感情がない。怒りも、疑念も、困惑も、悲しみも何も感じられない。
「───指輪だ。
最初のキッカケは、あんたのその古い守り指輪だ」
イベンダーもまた、感情の感じられない平板な声でそう続けていく。
「俺は何せ魔導具の見立てに関しちゃあ専門家だ。その俺からしても、お前さんのそれには違和感がある。
合理主義で不要なものを持つことなんかないお前さんが、そんな威力の薄い古ぼけた指輪をいつも外さずにいるのは不自然だった。
だがまあ、人にはそれぞれ思い入れのある品というのがある。その蜥蜴の意匠の刻まれた指輪がお前さんにとってはそうなんだろう。
問題は、どんな思い入れか……と言うことだ」
俺が自分の名を刻んだ安物のプレートの首飾りをしているように、価値や性能より意味のある装身具。
「つまり、既に遊牧民族のシャヴィー人達に征服され、亡国となったディシドゥーラ王家の紋章を刻印した指輪に、どんな思い入れがあるのか、だ」
ディシドゥーラ……。今は無き東方の国々の一つ。確か山岳地帯の農業と牧畜が盛んだった国で、また領土は狭いが強靱な精兵で知られていた戦士の国。昔はクトリアの海洋交易なんかでも繋がっていたとも聞く。
けれどもそれらの東方の国々の多くは、遊牧民族シャヴィー人の興した大帝国に飲まれ併合され、今はもう無い。
そのシャヴィー人の元大帝国も、西方ティフツデイル帝国にまで侵攻をしかけたものの、滅びの七日間と呼ばれる大変動で遠征軍は壊滅。また同時期に本国にいた大帝が病死したこともあり内部分裂が起きて、元大帝国の版図内もご多分に漏れずの戦乱状態だと聞いている。
その……ディシドゥーラ? の? 王家? って……何?
「そしてディシドゥーラ王家の紋章入りの指輪は、ただの守りの指輪じゃあない。
使い魔───いや、東方の方術で言う妖が封入されている。そうだろ?
お前さん自身は使い魔を持たない術士だから見過ごされてしまうが、その妖はお前さんにとっての隠し玉だ。
お前さんがそれを使えることを知らぬ周りの連中の目を欺き、偵察、収集、そして────安酒の瓶に致死量を越えた薬物を仕込むことにも使える」
確か……そう、確かJBとイベンダーが死因についてそんな話をしていたのは、ちらりと耳にした気がする。
「───唯一の」
しばらくの沈黙の後に、落ち着いた声音で続けたのはハコブさんの方。
「母が俺に唯一残してくれたものだ、この守り指輪は」
つまり……ディシドゥーラ王家の紋章入りの指輪は……お母さんの形見……?
「……くだらん、おとぎ話だがな。
『お前は二つの王家の血を引く、特別な存在なの』……と。
ふ……バカバカしい話だ。一つは俺が生まれるより前にとっくに滅びていたし、もう一つは俺がガキの頃に崩壊して、もはや瓦礫の王都にドブネズミみたいな連中がはびこり這いずり巣くう廃虚だ」
「ディシドゥーラ王家の娘が、シャヴィー人により奴隷として連れ出され、クトリア王ザルコディナス三世へと“献上”され、生まれたのがお前さん……そう言うことだな?」
「ああ」
え? ちょっと待ってさらに……え? ザルコディナス三世の……子!?
「よく分かったもんだな。指輪一つで」
「最初は分からんかったわ。
それとなく伝手を頼りにその紋章の由来を調べて貰った。戦団の中にそういうのに詳しい奴が居たんでね。
で、そいつがディシドゥーラでも特別な王家の直系にのみ許された紋章だってのと、かつてクトリア王ザルコディナス三世に嫁がされた姫が居るというのが知れた。ま、つい最近の話だが」
「───つい最近? なら……」
「うむ。これはまあ、一番最後に確証を得た、てな話だ。
それより前は、お前さんとグレタ・ヴァンノーニの関係性……それと、ヴァンノーニファミリーと“三悪”共の関係……密約、か」
「ヴァンノーニか……」
「俺がクトリアに来ることになった詳しい経緯は、お前さん達には話してはおらんかったが、そもそも最初はまあ、どうやら連れに背負われたかで転送門をくぐり、こっちの古代ドワーフ遺跡の中に来ちまった事らしい。俺はきちんとは覚えとらんのだがな。
そしてほぼ死にかけとった俺ともう一人は、紆余曲折あってセンティドゥ廃城塞で“三悪”連中の捕虜になる。
逃げ出して地下をはいずりお前さん等に見つかったが、蘇生されてすぐの頃はその時のことをあまり覚えてなかった。再びセンティドゥに行ったときにだよ、ようやくハッキリ思い出せたのはな」
センティドゥ廃城塞。俺とイベンダーが再会した場所。そして確かにあのときに、イベンダーからその話は聞いていた。
「“三悪”連中は捕虜の数人をどこぞへと売るつもりで生かしていた。中でも俺のツレは高値で売れる上玉だ。
その売り先がどこか……調べて辿った先に、お前さんの過去のしっぽがあった」
ここで言うところの“俺のツレ”というのは当然クリスティナのことだ。イベンダーは戦団やその他色々と連絡をとり行方を当たってみると言っていたけど、そのときにハコブさんの過去の情報も調べていたみたいだ。
「逃げられんもんだな、過去というやつからは」
「かもしれん……し、そうでないかもしれん。
何にせよ───辺境四卿一陰湿な“毒蛇”ヴェーナのお膝元、ヴァンノーニ本家の護衛兵団の中でもかなりの腕利きだったという過去を持つお前さんが、何故クトリアではグレタとはまるで旧知ではないかに振る舞っているのか?
その疑問をさらに突き詰めて行けば、そもそもお前さんが“シャーイダールの探索者”として居ること自体に裏がある……という仮定ができた。
で、そうなりゃ……カストのことを含めた他のピースが自然と埋まって行く」
「自然と……か。
全くよく言う。そこからこの全体像を描き出せる奴など、まず居ないぞ?」
「そうか?」
「ああ、間違いない」
「……何故無関係を装いつつシャーイダールの探索者として内部に居るのか? それは最初からお前さんはグレタ・ヴァンノーニの指示でシャーイダールを暗殺し、勢力の乗っ取りを仕掛ける機を伺っていたからだ。
誰もが恐れる邪術士シャーイダールの、その溜め込んだ財貨や知識に魔導具類、そして勢力としての基盤。つかず離れずで付き合いつつ、利用できる範囲では利用しながらも、機会があれば寝首をかく。いかにもヴァンノーニらしいイヤらしい手立てだが、まあ実際そのちょうど良い機会ってのもそうは無い。
それでも無理をして仕掛けに行ったのは、ドゥカムの改修したガーディアンが手に入ったことと、クークがボーマ城塞攻めにしくじり戦力バランスが変化したことで“三悪”連中の同盟がなんとか成立したのと、ヴァンノーニ家の他の兄弟姉妹たちとの競争に変化が起きて焦りが出たのと……ふむ、ちょいと理由が多いな、こりゃ」
ここで……会話がまた少し止まる。止まって……数呼吸。
切り出すのは今度はハコブさんの方だ。
「───この指輪はな。
確かにお前の言う通り、ディシドゥーラ王家の紋章が刻まれている。
だが実際のところ、母の言うとおりにこの俺がディシドゥーラ王家の血脈なのかは定かじゃない。母がただの気の触れた女で、たまたま手に入れた指輪から妄想を膨らませ、自分を王族だと思い込んでいただけなのかもしれないと、本当はただシャヴィー人が貢ぎ物としてザルコディナス三世に送ったはした女かもしれないと、何度も自問していた。今じゃ……どっちでも構わんとも思っているがな」
「この指輪を自分の出自の証明だと思って未だにつけているワケじゃない。むしろ───フフ」
ハコブさんはここでやや自嘲するように小さく笑い、
「……呪いの指輪だ。そう思ってつけている。俺自身の人生に掛けられた呪いの……な」
そう続けた。
イベンダーは何も返さない。普段の饒舌はなりを潜め、ただ静かにハコブさんの言葉を聞いている。
「グレタとは、強いて言うなら“腐れ縁”か。
子供の頃にクトリア王朝の崩壊を逃れ、母を含めた数十人とで流れた先の流浪生活。その中で俺は母の言葉……いや、呪縛を聞かされ続けて育ったさ。
お前は二つの王家の血を引く、特別な存在だと。だからいずれは王となるべき運命なのだと……。
剣を習わさせられ、魔術を学び、言葉や歴史、地理や戦術……偏っちゃあいるが高度な教育だったろう」
まるで物語にある亡国の王子そのものの生い立ちだ。
「没落した豪族とその使用人たち。そんなていで流浪しつつクトリアを離れ次第に新たな手下も増やし、俺が成人する頃にはちょっとした傭兵団にまでなっていた。その頃特に今の南方諸侯同盟の辺りじゃ小競り合いから何から戦働きの仕事はいくらでもあった。
母は病みつかれて死に、四卿を中心とした現体制が出来上がる頃には落ち着きだしたが───グレタとの出会いはその頃だ」
少し前にイベンダーに連れられて『銀の輝き』へと行ったときのことを思い出す。
「王族の血だの、クトリア王となるべきだの……そんな戯言と無関係に、ただそのままの俺を見いだし、価値を認めてくれた初めての女だ」
「その時からずっと……か」
「ずっと……だ」
恐ろしくもあり、苛烈で激しいが、同時に蠱惑的でもあったグレタ・ヴァンノーニ───。
俺からすれば、ただただ「おっかない」だけだったけれども、ハコブさんにとってはまた、全く違う存在だったようだ。
「だから……“三悪”との繋がりが許せんかったのか? お前さんと“三悪”どもを天秤に掛けたそのことが」
不意にイベンダーがそう話を切り替える。
「どうだかな。そもそも俺は“知らない”話だった」
「グレタは俺達が発掘してきて改修した古代ドワーフ遺物を奴らに流していた。厳密には“黄金頭”アウレウムに……か。
俺は自分が改修した遺物にはちょっとしたサインを入れておくんだ。術式を利用した、普通には見分けられないサイン。
センティドゥで見つかった幾つかの遺物にその、俺の改修したブツがあった。最初はヴァンノーニの荷が奴らに奪われたのかと思ったが、どうもそうじゃあなさそうだ。そして時系列を整理してとらえ直せば、そもそも“黄金頭”アウレウムの正体も見えてくる」
正直、全く話の内容についていけない。イベンダーやクリスティナがこちらで最初に捕まったのがその魔人達だとして、その魔人達と……あのおっかないヴァンノーニ・ファミリーが裏で繋がっていたというのは、どういう事なのか……?
「───あの図体がデカいだけのうすら馬鹿を、大物の魔人に見せかけるのにはグレタも骨が折れただろう」
「やはり、違うのか」
「当たり前だ。まあ確かに、山ほどの魔導具やら魔装具で嵩上げしてただろうがな。実際───討伐戦の後に見たジャンルカと取り巻きどもは、惨めの一言だった」
「そのときに、ヴァンノーニが“三悪”連中と繋がっていたことを知ったのか?」
「……はっきりと知ったのはな」
薄々は感じていたが……という含み。
イベンダーが言うには、ハコブさんは裏でグレタ・ヴァンノーニと繋がっていて、密かにシャーイダールさんを暗殺してその勢力を手に入れようと画策していたという。と同時に、“三悪”と呼ばれる魔人達とも繋がり……ボーマ城塞? とかいうところを乗っ取ろうとしていた……。
けど、ハコブさんはその事を知らずに……。
「“三悪”共もお前さんも、お互いがお互いともグレタの策略の上で動いていたことを知らぬままぶつかり合い、結果的にダメにしちまった───ということになるわけか」
うん、そうだ。聞いてる限りそういう話みたいだ。何か、ちょっと間抜け……?
「───元々、どっちでも良かったのさ」
けれどもその指摘に対し、何というか妙に乾いたような声でハコブさんはそう返す。
「グレタにとっちゃ、どっちが生き残ったところで結果さえ得られれば同じなんだよ。
俺が首尾よくシャーイダールを仕留めて“探索者”を纏め上げれば、グレタは俺ごとクトリア城壁内の古代ドワーフ遺物利権を手中に収められる。“三悪”共を焚きつけてボーマ城塞を手に入れれば、城壁外での勢力拡大が出来る。
城壁外の勢力が強くなれば、商売敵の隊商への襲撃もやりやすくなるし、治安の悪化で『銀の輝き』の売上も上がる。そして当然、ティフツデイル王国駐屯軍との取引もより大きく太くなる」
「“三悪”とお前さん達がぶつかり合い、お前さん含めた探索者側が多く死んだら、“邪術士シャーイダール”の勢力が弱まり、そこに付け入る隙が出来る……と」
つまり……。
「グレタはあらゆる方面に上手く糸を張り巡らせていた。誰が死にどこが潰れても、どう転んでも自分の利益になるようにな」
……間抜けな話、なんてもんじゃない。なんとも遠大で……酷薄な策略だ。
「───が」
と、ここでまたハコブさんが言葉を区切り、乾いた笑いをもらす。
「俺達はグレタの予想を遥かに越えて勝ちすぎた。何せ───」
ククク、という皮肉げな忍び笑い。
「“三悪”全部を討ち取っちまった! 弟のジャンルカに腹心達も、表向きは余裕ぶった態度は保てても手酷くやられてる。
ジャンルカの“黄金兜”は実際のところ身体を完全にドワーフ合金化するんじゃなく、ある程度の防御力を嵩まし出来る程度の魔装具みたいでな。だから話じゃ本陣に迫り追い詰めてはいるが、アティックの網にとらわれ身動きできなくなったときに殺されててもおかしくなかった」
そして……大きな笑い声。
「……ふうむ。そこがグレタの計算通りにはいかんかった……ということか」
「ああ、笑える話だ。グレタのあんな顔はめったに見れん。……いや、初めてかな。
長い付き合いだから分かるが、かなり取り乱していたよ」
愉しげな笑いの尾を引いて、けれどもなんだかその声は全く愉しそうには聞こえない。
「───ここらで巧いこと幕引きにする……というワケには……」
「いかなくなった」
「“三悪”という大きな手札を失って、城壁外で打てる策略の選択肢が減った。結果的にグレタの手札の中で最大の切り札は今やお前さんだけだな」
「……ああ」
「だが同時に───」
「“シャーイダールの暗殺と乗っ取り”は、是が非でも成功させなきゃならん。
もう棚上げにすることも後戻りすることも出来ない。いや───」
再び、小さく乾いた笑い。
「ブラス、ジョス、ポッピ……あいつ等を殺した策略を実行した時点で、俺にはもう選択肢なんか残っていなかったのさ」
諦めか、自嘲か、或いは決意か。どうともとれない、けれどもどうとでもとれるような、そんな独白。
「無理か」
「ああ、無理だ」
何だ。何だ何だ何だ?
何がどうして───どういう事だ?
俺は、レイフを救い、JBやジャンヌさんを救う。そのためにここに来た。来たはずだ。
けどイベンダーはそれを目的として動きつつ、水面下ではハコブさんの過去から手繰り寄せた様々な情報を元に、ハコブさんとグレタ・ヴァンノーニとの繋がりに、裏切りの陰謀を突き止めていた。
その上そのハコブさんの方は、それともまた異なる密かな計略の為に来ていた───。
「今更……たかがコボルトの首など必要あるまい」
コボルト? 不意に出たイベンダーのその言葉が、俺の混乱をさらに加速する。
「かもな」
それを受けてまたハコブさんもそう返す。
「だが、手遅れだ。あのコボルトはもう始末させた」
「……それじゃあ、その次の手もやるつもりか」
「そうだな。やめる理由はない」
仲間を殺してまでやろうとした“シャーイダール殺し”の陰謀。それをしくじり、まだ成し遂げなければならないと打った次の手が……コボルト殺し? そして……そのさらに次の手が……?
「闇の森のダークエルフは殺す。その死体をシャーイダールのものだとしてグレタに見せる。そしてダークエルフの成した魔力溜まりの循環、支配を俺の物にし───」
ぞくり、と全身の毛が逆立った。
「クトリアの王になる───結局は……呪いの通りにな」
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