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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-133. 追放者のオーク、ガンボン(62)「くっそー! って、文字通りにね!」
しおりを挟む「大まかに三方向。
この階段のある広間を拠点として、右をニキ、アダン。左をマーラン、スティッフィ。そして中央を俺とイベンダーで調べる」
拠点用の荷物を卸してから簡単に周囲を調査して、ハコブ班長による大まかな方針の説明。
「え? ちょっとそれ、偏りすぎじゃね?」
ややあわて気味に言うアダンさんに、
「闇属性魔力の濃度で分けた。アダンの行く右手は濃度が最も低い。つまり、隠された区画への入り口がある可能性は、正直一番低い。
逆に真ん中はその可能性が最も高いからな」
「だったらサ、最初から全員で真ん中攻めた方が良くない?」
ハコブさんの回答に、今度はニキさんがそう聞くと、
「恐らく最終的にはそうなるだろう。だがやはりその前に他の場所を確認しておいた方が良い。
お前達の調べる右と左の可能性をきっちり潰してからが本格的な調査開始だ。
それに、何かしら手掛かりも見つかるかもしれん」
なるほどなるほど……とか、いやそれよりちょっと待ってよ?
「お、俺、は?」
「お前さんはここでキャンプの設営と保全だ」
……えー、つまり……留守番ッッ……!? せ、戦力外通告っ……!?
「そりゃあガンボン、お前はドワーフ遺跡探索のノウハウ持っとらんだろ?」
……そうだけどっ! いや確かにそうだけど……!
「恐らくガーディアン含めた何らかの敵に遭遇する可能性は低い。出たとしてもせいぜい小型、蜘蛛型程度だろうし、よほどの数がこなければ2人で十分対処出来るだろう。
怪しげなところを見つけたチョークで印だけつけておいて、定期的にこのキャンプに戻り報告。
無理して突っ込まず、基本はそれらを昼か夜にすり合わせてから総合的に見て持ち越す。
ただ、ドゥカムによれば俺達が不自然にならず潜っていられるのはせいぜい3日程度だそうだ。
それを過ぎればエンハンス翁とその助手達が復帰するかもしれないし、元々ここの連中の潜っての調査や清掃もそのくらいまでで一旦は引き上げるのが常だそうだ」
実際、これだけ闇属性魔力が濃ければ、魔法の守りがあっても普通の人間にそれ以上の長期滞在はキツいだろう。
彼らエンハンス翁とその助手達の調査がそれほどはかどっては居なさそうなのも、この闇属性魔力の濃さが理由の一つなんだろうな。
要所要所に魔法で作られた光魔法による光源兼守りの魔導具が設置されていて、全体の闇属性魔力による負荷は軽減されるようになってはいるけど、それでも地上と同じ程度に活動するのはキツいはず。
ダークエルフやオークが居れば別なんだろうけどねえ。どちらも、あまり人間社会には居ない種族だ。
それから、イベンダーの手から全員に小さくて簡素な笛のついた首飾りを渡される。
「こいつは緊急連絡用だ。伝心の装身具があれば良かったが、それを用意する暇も余裕も無かった。
笛の形をしているから吹いても良いが、強い衝撃を与えるだけでも良い。
そうすると他の笛飾りがぶるると震えて、それがどっちの方で鳴ったかの大まかな位置も示してくれる。
これが震えたら、とにもかくにも一旦このキャンプに戻り、二組が戻っても戻らない組が居たら、そっちの方向へ救援に向かえ」
レイフとは当たり前に使ってたけど、実は人間社会の中では伝心の魔装具ってけっこうレアなんだよね。
何にせよ、そうして彼らはそれぞれの担当区画へ向かい、残された俺は一人キャンプの設営を始めるのであった……。
◆ ◆ ◆
ま、とは言えやること自体はそんなに大変でもない。
マーランさんが簡易結界で囲んだ区域内で大まかな位置ぎめをしたら石組みで簡単な焚き火を設置。
そのちょっと横に持参した水の小樽を置き、あとはそれを中心に人数分の携帯用寝床を置いて、風除けの仕切りを立てる。
後はまあ食材調理用具を用意して、取りあえずお湯を沸かしておくくらい。
で、もうやることもない。
……。
…………。
…………………。
いや、暇だ!
ちょっとちょっと、一応結構意気込んで来たんですよ、俺も!
なんて言うんですかね! 物語的に言うなら、一連の流れの中でのこの“悪しき者”の存在って、ぶっちゃけかなり“ボスキャラ感”あるじゃないですか?
何せレイフと共に転移して以降続けていたダンジョンバトルの第三ステージで一旦別れ、内と外とで攻めつつ邂逅した“巨神の骨盤”の第四ステージ。そこで明らかにされたこのダンジョンバトルの遺跡の成り立ちと本来の役割、そしてそれを歪めたとされる“悪しき者”こと死んだはずのクトリア王朝最期の王、ザルコディナス三世……。
うん、明らかにこれ、ラスボス戦じゃん!
そして第四ステージでもそうだったように、俺は又も“外から”レイフ達を支援し助け出するという立場役回りでここに来てる。
だと言うのに! ああそうだ、だと言うのにっ……!
「うほぉ~、沁みるなぁ~、この豆と薫製肉のスープ! なにこの絶妙なとろみと塩加減?」
「地下遺跡って冷えるからねぇ、けっこうサ」
「うへー、これで温めたヤシ酒でも貰えれば……」
「……それは一仕事終わってから!」
「わーかってンよ! 言っただけだ、言っただけ!」
数刻後に一旦戻ってきて休憩に入るアダンさん、ニキさん。
ウェルカムスープでのお出迎えである。
「うーあ、やることねェ~」
「や、やること自体は……あるんだけどね……」
「アタシが手ぇ出しても良いならやっけど?」
「いや、いやいやいや、いい、いいよ、うん。僕一人で出来るし、ね?」
「取りあえず肉だ、肉! うめー!」
「あ、そこの炭酸コーラ一瓶取って。あー、あと毛皮の腰巻きでもしてくかなあ……」
アダンさん達の行った後に暫くして休憩に戻ってきたマーランさん、スティッフィさん。
右と左をそれぞれ担当して調査してきた二組だけど、聞く限り今の所かんばしい成果は無いっぽい。
闇属性魔力が強くて長居できない場所とは言え、王国所属の研究者達が今まで調べ尽くして来てるはずなので、そりゃあ簡単に何か新しい発見があるわけはない。
ただ俺たちの強みは、確証はなくともこの闇属性魔力の原因を知っているという事に、その向こうのどこかにレイフ達が居るはずであると言うこと。それとまあ、研究者とは異なる、実利メインの探索者ならではの視点と経験があると言うことぐらい。
その辺の条件、前提の違い、知見知識経験が巧く生かされればあるいは……と言う希望がある。
しかし、その希望的観測からのこの調査に……参加すら出来ないもどかしさっ……!
ぐぅ~~~……と、そりゃ腹も鳴るわな! そうね、自分の無力感にさ!
二組ともが戻って再び調査に出た後にも、何も出来ない苛立ちともどかしさにやけ食いをだらだらもさもさ続けていた俺。
しかしそういう無軌道な欲望の発散には、相応のしっぺ返しが来るのが常と言うもの。
そう……第二ステージ火の迷宮でもそうであったように……だ。
水と砂の入ったそれぞれの袋に、そこそこの大きさの木桶。そして小脇に抱えた目隠し用仕切りや穴の開いた折り畳み椅子、海綿と棒その他諸々。
さてこの一式はなんぞ? と言えば、簡易トイレ設置セット。
いや、これが屋外ならこんなにはいらない。ぶっちゃけそこらに穴掘ってやるだけだ。しかしここは地下遺跡。掘れる穴などありゃしない。
レイフとのダンジョンバトル時にはレイフが、“巨神の骨”への遠征時はドゥカムさんが土魔法でトイレを作り設置してくれていた。
しかし今回は違うのだ。そんな便利魔法をホイホイ使える人材はいない。なのでキャンプ設置を任された俺が、それらを整えなきゃならない……というのをスッカリ忘れていたわけですよ!
くっそー! って、文字通りにね!
で、設置する場所をどうするか? の問題がある。
何せこのベースキャンプとした階段降りてきてすぐのホールはけっこうすかーんと広い。というか間に壁とかのない10メートル四方くらいの開いた空間。
せいぜい2日程度とは言えその中に簡易トイレを設置するというのは、ちょっといかがなものかと思える。
いやまあこの世界基準だとそれでもそうおかしくはない。けど……ねえ? 食事や寝起きする空間に簡単な仕切りだけのトイレとか……刑務所か!? て、つい思うじゃん? しかも換気もない地下の密室だし。
なので出来ればもうちょい……何かこう、良い場所ねえかしらん? と。そう思い通路の先を進んでうろちょろしてたのが、まずかった。
あの先とかどうかな? あ、あそこにちょうど良い窪みがあるな、いやいやあの小部屋はどうだ……とか行き来している内に、完全に方向感覚を失って、自分がどの辺りの位置に居るのかも分からなくなる。単にそれだけではなく、良い場所選びなんてしている間に、どんどんベンハー的なアレがこう……最後の関門へと迫り来る有り様。
心理的には……こう、ゴゴゴゴゴ……とエレキギターの重低音。
これは……かなりの……危険がピンチ!
いやもう選り好みなんかしてられんですよ!? と、取りあえず今視界に入ってる中でそれなりに密室感の感じられる、入口が崩れ半壊した小部屋へと駆け込む。
木桶セット! 砂セット! ほかの荷物を床に置き、穴の開いた折り畳み椅子を砂を敷いた木桶の上にセット! そして……黒皮の下履きを下ろしてからのシット・イン!
───てな、状態で、安堵の溜め息を吐き出しつつ、一安心かましていた、ら……ボソボソとした話し声が聞こえてきた。
あららん? えーと、この声はあれだ、多分イベンダーとハコブさんだ。
何かに反響しているみたいで、ちとばかし聞き辛いけど、多分そうだ。
てことはつまり、うろちょろしてるうちに真ん中方面の、けっこう先の方まで進んでしまったのね。いやん恥ずかしい。
その声は壁の向こう……いや、違うな、どこだ?
キョロキョロと周りを見回すと、小部屋の壁の上の方に穴がある。ちょっとした通気口みたいな感じかな?
で、声はどうやらそこから聞こえてくる。つまり実際にイベンダー達が会話をしている場所は多分ちょっと離れてる。
なので、「壁一枚隔てた向こうに人が居るのに気付かないままハイ・ベーン」、というなんともこっ恥ずかしい最悪のケースは回避されている! あー、良かった。
そうやや安心しつつ気張りつつしていると、ややくぐもってボソボソとした二人の会話、やりとりが次第に聞き取れるようになってくる。
いや、別に意図して盗み聞きをしようと思ってのことじゃあないよ?
ただこう、ひとりで自分以外誰もいないし何もない小部屋に居ると、自然と感覚が鋭く鋭敏になってきちゃうもんでしてね、ええ、ええ。
その中でも薄暗い……というか持ってきてた小さなランタン以外の光源のないほぼ闇の中だと、特に聴覚は細かい物音まで聞き取ろうとしてくる。
なので自然と、通風口らしき穴を通じて聞こえる遠くの会話もより聞こえやすくなる。
内容は途中からというのもあり、どういう経緯の話かはよく分からない。
主にイベンダーがべらべらとハコブさんのことを褒めているような、そんな流れのようだった。
それが……んん、と、思う間もなく、急転直下の展開になる。
「───カストなんぞ殺すからだ」
───え? 何の話?
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