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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-128. 追放者のオーク、ガンボン(57)「うおぅ、燃えてるじゃーん!」
しおりを挟むあれから4日ほど経つ。
俺はアデリアという女の人とタンデムでタカギさんに乗り、結構な怪我をしてしまっていたドゥカムさんは途中までズルトロムさんやニルダムさん他の巨人達に背負われ、山を下りてからはグイドさんに背負われと言う形で、行きの経路を逆回しで下りつつも、来るときの半分の日程でクトリア市街地まで戻る。
それからドゥカムさんは即座に“黎明の使徒”本部に戻り治療を受け、そこにイベンダーとハコブさんを連れて大まかなあらましを説明して貰う。当然俺にしか分からない部分に関しては俺からの、アデリアさんにしか分からない部分に関してはアデリアさんからの補足込み、ではあるけど……正直どちらも別の理由で超説明下手なので、とりあえずメインはドゥカムさんでいくしかない。
「……それで、JBとジャンヌと、そのダークエルフは次の遺跡へと転送された……と言うことか?」
腕組みしかめ面と、もの凄く分かり易いリアクションしつつの疵面ハコブさん。
「転送したところを私は直接は見とらんがな」
こちらは話の内容にではなく、痛みに顔を歪めて、ベッドに腹這いで寝ているドゥカムさん。
何とドゥカムさん、どうやら最初に不意打ちであの馬鹿でかい無数の死体で造られた大巨人の強パンチをくらったことで両腕に脚、肋など何本かの骨を骨折、およびヒビが入るほどの大怪我を負っていたらしい。
様々な治癒魔法その他で痛みを抑えて無理やり戦い続けてはいたものの、骨折を瞬く間に治すような治癒魔法なんてのはもの凄くハイレベル。何せ“黎明の使徒”のリーダーで元聖女候補だったグレイティアさんですらそう簡単には使えないのだ。
その上結構無理して大急ぎで帰還したためもあり、怪我が原因の高熱まででていた。
クトリア市街地にまで到着したその日には半分程しか意識を保てず、翌朝からもほぼ自由に動き回るのは無理というもの。
そしてさらには腰まで痛めてのこの有り様。
本当に……申し訳ッ!
……で。
俺の方もその「レイフとJBが転移したところ」自体は直接見ていない。それは俺と共に戻って来たアデリアさんも同様。
あの時───つまりは死の巨人を倒し、その頭の部分にあった人間を核として造られた魔力溜まりを無力化すると同時にジャンヌさんが消失。その後場所を変えてレイフ、JB、アデリアさんに俺がレイフのダンジョンハートで一堂に会して居たときに現れた“大いなる巨人”最後の一人、“嵐雲の巨人”が、その内の2人……JBとレイフの2人を、バカみたいにでかい鳥に乗せて去って行ったあの時以降、誰もその姿を見ていない。
そう、誰も───だ。
◆ ◆ ◆
「───ガンボン、君は残って」
そう言われたその瞬間、そして数分ほど、一体何を言っているのか言われているのか、俺はまるで理解できなかった。
微妙ーーーな無言の間があり、全員の目が俺に注がれ「リアクション待ち」であることに気が付いてようやく、
「……聞いてないよ!」
と間抜けに返す。
軽く吹き出すように笑ってから、レイフは改まった調子に戻り、
「ガンボン、君が一緒に居てくれれば頼もしいことこの上ない。
けど、だからこそ君に頼みたいことがある。
まず何より彼女……」
そこでちらりと目線をアデリアさんに向けて、
「アデリアを無事にクトリアの彼らの本拠地へ送り届けて欲しい」
アデリアさん……JBが所属してる“シャーイダールの探索者”の見習いで、“土の迷宮”の転送門をジャンヌさんと共に誤ってくぐり、行方不明になっていた女の子。
聞いた話、彼女は見習いの中でも最も探索者に向かないタイプで、荒事に関してはJB曰わく「クソ雑魚ナメクジ弱い」という。
単独、独力ではクトリア市街地への帰還どころか、山を歩けば数歩で死ぬだろうと。……いやどんだけ~!?
それは分かる。けど……いや、だけどだからって……。
「あ、あの、も、戻るだけなら、グイドさんやドゥカムさんも、居る、し……」
しどもどとそう言う俺。このときは勿論、ドゥカムさんが実際にはまともに歩くことすら出来ないレベルの重傷だなんて知らなかったし、言いながらもそれが正しい判断だと言い切れる自信も無かった。
「あの巨人族の人に、エルフの魔術師の人だね。確かに彼らは腕も立ちそうだ。けど───」
ここでまた、少しだけ間を置いての一呼吸。
「今、僕がここで一番信頼出来るのは、やっぱりガンボン、君だけなんだよ。だから君にしか頼めないし、それの他に───やってもらいたい事があるんだ……」
───と、そう言われて俺とアデリアさんは不承不承引き下がり大急ぎで戻って来た。
勿論ここでのやりとりはエルフ語なので、詳しい内容はJBとアデリアさんには伝わってない。
それでも俺としては、帰還後すぐにそれらの頼まれた諸々に取り組んで───まだ全然全く一つも出来てないのだ。
◆ ◆ ◆
そして、今。
相変わらず何故かドゥカムさんの前ではフルフェイスのドワーフ合金兜を被って黙りっぱなしのイベンダーと、それもあって話の中心として取りまとめをしている疵面コワモテのハコブさん。そして言葉の問題に加えて「ぶっちゃけ本質的にコミュ力とかチョー低い系豚面オーク男子」な俺は、腰と背中に湿布薬を塗りたくられてるドゥカムさんの話を彼の自室で聞いている。
ドゥカムさんは元々ある程度の治療行為の手助けをする代わりに、クトリア市街地で活動している“黎明の使徒”本部の一部を間借りしている。
帰還後当初は病室で治療を受けていたのが、目を離すとすぐに自室へ戻り資料の整理や検証やらを始めてしまうため、やむなく助手付きで自室療養ということになった。
んで───その“助手(仮)”というのが……。
「はーい、持って来ましたー」
両手に抱える本に巻物。
全体的に薄い印象の細目っ子ダフネさんだ。
「ふ……んむ、ああ、これだこれだ。その上から二冊目の……紫の表紙の……そう、それだ。
それの16ページ目……そうだ」
うつぶせ寝のドゥカムさんに本のページを開いて見せる。
「ダフネは随分と役立っているようだな」
ややニヤリとした得意気な表情で言うハコブさんに、
「まあな。今まで使ってきた助手達の中では、かーーーなりマシな方だ」
聞いた話だと、ダフネさんは昔まだクトリアが邪術士達に支配されていた頃、とある邪術士の奴隷として身の回りの世話や書物、資料整理の仕事をさせられていたとかで、そう言うことは得意なのだそうな。
加えれば、当時の「気分を損ねればその場で殺されても誰も文句も言えない」環境でそれを続けていた経験からすれば、ドゥカムさんの傲慢かつ居丈高な態度なんてのはまるで気にならない、とも言う。
不自由なドゥカムさんの手助けと、恩を売りつつ情報を早くに収集したいというこちら側の意図から「貸し出した」形ながらも、本人としては得意でしかも好きなことをしてるだけという現状は、文句のつけようもない。
「───クトリア人の言葉は元々帝国語に近いが、特に第二期王朝の成立後交流が深まり言葉もどんどん近くなり、今や親戚というより兄弟ほどには近い。
が、大きく違うのはクトリア語には古代ドワーフ語の影響が多々見られるところで、遺跡の名などにはそれが現れている」
講義するかのいつもの口調。開いたページを参照しつつも、立て板に水でスラスラ出て来る。
「アルベウス遺跡───あれは変化した古代ドワーフ語が語源で、“ 魔力の終点 ”から来ている。
私が以前から、クトリアにはアルベウス遺跡以外にも魔力溜まりがあり、それらは四方に配置され循環を担っているはず、という説を唱えていたその最初の着想はこの名前にある」
アルベウス遺跡は、今現在王国駐屯軍が管理していてクトリアで稼働しているとされる、唯一公的な魔力溜まりだ。
厳重管理されたそこは、当たり前ながら俺達みたいな「不逞の輩」がほいほい立ち入れる場所ではない。
「因みに現在一般的には魔法に関わる力を表す言葉の総称として使われている魔力というのはトゥルーエルフ語由来で、類似の言葉にはマジカ、マギカ等もある。アールベもまた古代ドワーフのみの言葉という訳ではなく、例えば古いエルフを表す言葉はアールヴと言い、それは人間達にも伝わっている。その頃は人間達とエルフとの交流も少なく、小妖精なんぞとも同じ様な不可思議で神聖な存在と見做され……」
「分かった。それで?」
脱線し始めたドゥカムさんの講義を、やんわりと軌道修正するハコブさん。
「結論は───まあ変わらんなー。
JBに、ジャンヌとかいう新入りにダークエルフの行った先は、十中八九間違い無くアルベウス遺跡……そこの奥深くの、隠された未探索区画だろう」
断定されるその言葉に、俺は心の中でガッツポーズ。
これこそが、レイフに頼まれたことの一つ。外部からそこへ至る入り口、つまり今回で言う“狼の口”に相当する場所を特定し、そこから援軍を送り込むことに繋がる道筋だ。
ふんふん、と鼻息荒くなりはする。なりはするが……。
どうやってそこへ入れて貰えば良いのかだなあ、問題は。
「───それとな、ドゥカム。改めて聞くが……」
ハコブさんがそうしかめ面のまま話の流れを切り換える。
「その奥にいる“悪しき者”とやらがザルコディナス三世だという話……信じるに足ると思うか……?」
巨人族達と同行して“狼の口”から遺跡に入り、紆余曲折の末にその奥に潜んでいた“悪しき者”との戦いとなり、最終的にその遺跡内に居た敵は打ち倒すも、それを操っていた“悪しき者”それ自体には逃げられ……というか、元々そこには居なかったと言うことで決着がつかず。
で、その“悪しき者”の正体が、かつてクトリア王朝末期に暴政を行っていた“退廃王”ザルコディナス三世である……というのは、レイフから聞かされたこと。
そしてそのレイフは誰から聞いたのか? というのは、ドゥカムさんの推測によれば、例の人間を核として造られた人為的魔力溜まりの素材とされてしまったデジーさんからだろう……という。
デジーさん、という人もかなりのことが謎のままだ。
あのときジャンヌさんを守るためその身を盾にして、身体を溶かし焼く粘液を背中に浴びたことで死んでしまったリリブローマさんの友だったという女性。
ザルコディナス三世の巨人族への使者の中に居たというけども、その正体や、遺跡内部の調査をしてた理由に、魔力溜まりの核にされていた理由も分からない。
分からないが、これまたドゥカムさんの推測によれば、元々は裏向きの密命を帯びて居たものの、裏切るかしくじるかしてああいう事になったのではないか……という。
「この辺は通り一遍にしか知らないが、ザルコディナス三世は“災厄の美妃”と呼ばれる影の女諜報部隊を組織していたらしい。聞く限りではデジーがその一員だったというのは頷けるし、そのデジーが出所の情報だとしたら……ザルコディナス三世が何らかの方法で生きのびていたとしても有り得なくはない……」
ここでまたやや間を置いて、
「───叉は、死に損なっていたとしても、だ」
不老不死、または死んでも魂を現世に留めようとする様々な呪法、邪術。それらを研究し追い求めてきた者は少なくない。権力者ならば尚更だ。
「その件に関しては私に言えるのはそのくらいだ。私自身でデジーとやらの話を聞いたのでも無いし、ダークエルフめも私に釈明するより先に居なくなりおったからな。全く!」
憤然として鼻息荒くし、一呼吸。
「だが───」
ドゥカムさんは少し鋭く目を細めてハコブさんを睨み、
「君は本来なら、私なんぞより詳しくその点を知っているだろう者に仕えて居るのではないか?」
と言う。
そう、JB達のボスのシャーイダールさんとは、クトリア王朝末期から居るというダークエルフの邪術士。元々その正体や活動についてもあまり知られていない謎めいた人物だったらしいが、邪術士専横の暗黒時代に、王都解放後の混乱の時代も影に潜み生き延びたというから、ある意味でクトリアの生き字引みたいな存在とも言えるハズ。
そう言われて、ハコブさんはムム、としかめ面をさらにしかめて押し黙る。
俺も全く会わせてもらった事もないし、アデリアさんも一回お目通りしたくらいでめったに表に現れないらしい。
直接色々教えて貰えればかなりのことが分かりそうな気がするんだけどもなあ。
そしてここも、実はレイフに頼まれていたことの一つ。
実際に邪術士シャーイダールがどれほどの存在で、ザルコディナス三世とはどういう関係だったのか。そしてどの程度味方して貰え、或いは───敵対してしまう可能性はあるのか?
ザルコディナス三世は邪術士達の力を借りて独裁政治を行っていた。その中で重用されてた者も居ればそうでない者も居て、最終的に巨人族への支配が薄れて反逆されたのには、そういう邪術士間での格差や立場の違い、簡単に言えば忠誠心の差から来る裏切りがあったのではないか……とも言われている……らしい。
全部聞きかじりの受け売りだけどね。クトリアの歴史とか俺よく知らないし。
何にせよ、シャーイダールさんがザルコディナス三世に忠誠を誓っていたのだとしたらこちらの敵に回る可能性もあるし、何よりザルコディナス三世が生きてるか、何らかの方法で現世に意識を残していることに関係しているかもしれない。
逆に、そんなに重用されてなかったり、裏切り、反逆した側だったとしたら、むしろ力なってくれるかもしれない。
その辺をしっかりと見極めて、必要な対応をして欲しい……というレイフからの頼み事は、かなーーり難易度の高いミッションだ。
味方になってくれそうなら何の問題もない。けどもし敵対しそうだとしたら……? JBやジャンヌさんを助けるより、ザルコディナス三世を助けて再び彼の独裁政権を復活させようとしたりしたら……?
それを食い止める方法なんて、俺には浮かびそうにない。
だが───。
「ドゥカム、お前の言いたいことは分かる。しかし断言するが、シャーイダール……様は、王朝時代にもザルコディナス三世とは距離を置いていて忠誠心が高かった訳でもないし、専横時代にも他の悪名高い邪術士達の様な邪悪な実験を繰り返して居た訳でもない。
確かに魔術師協会や聖光教会、王国の基準からすれば禁呪や邪術に手を染めた邪術士だろうが、シャーイダール様が居なければ、クトリア王朝崩壊後の25年間は歴史にあるよりさらに悲惨なものになっていただろう」
やった! と、さらに心の中でガッツポーズを繰り返す。
ハコブさんの話が正しければ、少なくとも敵対はしないし、場合によっては大きな支援を得られる。
「そして断言するが、もし───もし、このガンボンやアデリアがそのダークエルフから聞いてきた話通りに、ザルコディナス三世が何らかの手段……邪術で生き延び、あるいは死から逃れて我らに仇なし、邪悪な計画を未だ企んでいるとするのなら───」
続くハコブさんの言葉は、思いがけずに強い意志と怒りが感じられる。
「我々は全力でそれを打ち砕き、退廃王が二度と我々に……現世に手出だし出来ないようにしてやろう」
うおぅ、燃えてるじゃーん! めっちゃ燃えてるじゃーん!
ハコブさん、今まで顔が怖いとか顔が怖いとか、あと顔が怖いとかばっかり思っててご免なさい!
こんなに……こんなに頼りになるパイセンだったとは……!
俺の中でのハコブさん株、爆上がりっスよ!
感激と感謝に打ち震える俺に反し、ドゥカムさんはやや曇った表情のまま、しばらく押し黙って考え事をするかに眉根をしかめる。
それからまたゆっくりと口を開き、
「さっき、クトリア語には古代ドワーフ語からの影響が多々ある、という話をしたな」
と、全く別な話を振ってくる。
「私の研究では、同様のことが巨人族達にもあり、特に名詞、固有名詞にはかなり古代ドワーフ語と同じか、そこから変化した言葉が使われている。
例えばキーンダール。キーンは古代ドワーフ語の爪を意味する言葉からの変化で、ダールとは王、または主、主人を表す言葉だ」
ほー。つまりあの夜の者達のリーダーだったキーンダールさんは、巨人族の言葉で「爪の王」とか「爪の主」か。だから死爪竜の爪を武器にして使っていたのかな? カッチョイイなあ!
「そして、シャーイダールだ。
この名前はエルフ語じゃあない。今のでもなければ昔のでも、な。
だが、キーンダールと同じく、古代ドワーフ語かその影響を受けた言葉だと解釈すれば、意味が通る」
不意にそう言うドゥカムさん。で、言われてみれば確かにそうで、シャーイダールという名前はエルフ語の名前じゃない。少なくとも俺の知っている範囲では。
「シャーイ……古代ドワーフ語由来の言葉で闇、または影を表す。ダールは先ほど言ったとおり王、主」
……ん? んんん? 何か……聞き覚えのある……言葉……だよね?
「つまり巨人族の言葉で“闇の主”───。
何故クトリアで“闇の主”を名乗るダークエルフの邪術士が、ザルコディナス三世に仕えていたのか。
それが些か───気にはなるのだよ、私としてはね」
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