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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-120.追放者のオーク、ガンボン(54)「いやしかし……どーなん!?」
しおりを挟む「正面右斜め! 小型から中型五体に、上級……あー、“ハンマー”二体接近!」
どえーーー、っとまたもやあの金ピカロボット軍団。馬鹿でかい戦鎚をブンブン振り回すやつを巨人達が数人で羽交い締めにし、残りの小さなのは他の巨人達でやっつける。
その間に俺はJBとドゥカムさんに教わったロボットの“核”とかいう場所を見つけ出して外装を引っ剥がして強引に取り外す。これで一応一丁あがり。
こう書くと簡単そうに聞こえるけど、いやいや、とんでもねーですよ? 巨人軍団の平均3メートルは超す体格と超怪力があっての強引な力業。大巨人軍団vs.金ピカロボット軍団の超絶バトルの中を、なんとか這い回りうろちょろしつつ解体処理。これ、マジ、心臓に悪い!
上空から指揮しているのは“シジュメルの翼”の魔法で空を飛ぶJBと、その背に跨がる……背負われてるドゥカムさん。
“苔岩の巨人”が言うところの“悪しき者”とやらにより攻撃されている俺達は、大筋はドゥカムさんの計画に従いつつも、けれども「戦いとかよくわかんねーし面倒だからやりたくねーッスわー」というドゥカムさんのご意向によって、具体的な作戦はJBによる指示で動いている。
元々15人ほど居た巨人軍団も今は少なくなっている。縛り上げ拘束した“闇の巨人”たちと怪我をした数人はこの第二層の入り口前のホールで待機。三人ほどの巨人がさっきドゥカムさんが支配した魔力中継点の防衛に残り、巨人達の中で最も瞬足な巨人は集落への伝令。
で、今はニルダムさん、ズルトロムさん、キーンダールさん、そしてリリブローマさんの四人が残っている。
そして勿論JB、ドゥカムさんの他にグイドさん、タカギさん、俺。
───見事なまでにむさ苦しいっ!! いや、今更だけどさ!?
キーンダールさん他“夜の者達”への“悪しき者”の洗脳支配魔法をどうするか? については一悶着あったのだけど、ドゥカムさんがリリブローマさんの麦わら帽子にある光魔法の付呪効果、【聖なる加護】を複製する、という方法でキーンダールさんたちへ付与するというなかなかアクロバティックな方法を使って対処することになった。
これ、何でもかなり高度で特殊な魔術らしい。
自分自身の適正等の不足により本来ならば使えないような魔術を、その術式を解読して他の対象に転写するという魔法なのだそうだ。
ドゥカムさん自身はあまり光属性魔法の適性が無く、本来なら【聖なる加護】は使えない。けど研究家らしい彼の資質は術式の解読には長けている。なので付呪であれそうでないものであれ、現在発動している魔術ならばそれを複製し転写する事が出来る。
100パーセント確実にでもないし、効果もどうしても元のものよりやや低くなりやすいそうだけど、それでもたいていは再現出来る。
元々は古代ドワーフの遺物を研究するために習得したものの、正直そんなに使い勝手も良くは無いのだそうな。
何にせよ、そのおかげでキーンダールさんはやや苦痛や不快感は残るものの、少なくとも洗脳支配されて突然敵対する、みたいな状況にはならないで済む。
で、今はどこへ向かい何をしようとしているか、と言うと、魔力中継点を辿り、“悪しき者”の力の出所を探っている。
魔力中継点を通じて様々な魔力の行使を広範囲に広げているらしい“悪しき者”の力を削りつつ、その居場所、力の源を特定する……という方針だというのだけれども……。
これ、レイフがやってるダンジョンバトルと基本同じじゃね?
支配している魔力溜まりやらダンジョンバトルに特化された魔術具である知性ある魔術工芸品の“生ける石イアン”に相当するものが無いから、全てのことをドゥカムさん自前の魔力で色々やってて、色んな施設を建てたり魔獣を召喚、従属させたりってのはないけども、「魔力溜まりの奪い合いとしての陣取り合戦」というところは同じ。
てことはもしかして、その“悪しき者”っていうのがこの遺跡の敵キーパーだったりするのんかしらん?
……なーんて事も思いはするけど、本当にそうなのかはさっぱり分からん。
何となくその辺のことをドゥカムさんに聞いてみようかともしてみたけど、俺自身そのレイフのやってるダンジョンバトルのことをきちんと理解してるわけでもないのでうまく言葉にして説明出来ず、何ともお互いもやもやしたやりとりで終わってしまった。
ていうか俺のコミュ力……!
ただまあその辺のことも踏まえて、とりあえずこのドゥカムさんのプランで進めていけば、もしかしてレイフとうまく再会出来るのかも? とも思い、そのまんま乗っかって行くことにはしている。
時折現れる金ピカロボット軍団や不死者、そして“狂える半死人”達との戦いは、上空からJBが指示を出すことでなんとか大きな損害無く戦えている。
一番やりにくいのは例の“闇の巨人”、つまりザルコディナス三世とかいう昔の悪い王様の陰謀で闇魔法による術式を埋め込まれ、その為“悪しき者”の洗脳支配を受けてしまっている巨人達との戦いだ。
まず彼らは理性的な戦い方は出来ないが、その分巨躯を利した獰猛で破壊的な攻撃をしてくる上、闇魔法で姿を隠したりも出来る。
それに洗脳支配さえ何とか出来れば敵対状態を解除出来ることを知っているから、こちらの巨人達が本気で戦うことが出来ない。どうしても出来るだけ傷つけずに無力化したいと思ってしまう。
なので“闇の巨人”が来た場合、2人以上で何とか1人を拘束し動きを止め、その隙にドゥカムさんが【聖なる加護】を複製転写して抵抗力を増して洗脳支配の効力を弱める……というような回りくどい戦い方になる。
こちらが二倍以上ならまだ良いけど、同数くらいのときはどうするか?
はい、誰かが囮になり数人を引きつけて時間稼ぎをするのです。
えー、誰かなー、その大変な役やるのーーー……て、俺かァーーー!! 俺だよねェ~~~やっぱぁ~~~!!!!
厳密にはタカギさんwith俺、ですけど!?
そりゃね? 俺もタカギさんも普通の人間よりはターフネース! ですよ!? けど巨人に比べたら……ねェ? 子供っスよ、子供! 一発殴られたらオシマイケルな可能性ぜんぜん余裕でありますよ!? しかも偶に、壊れた金ピカロボットの破片とかを棍棒代わりに持ってる巨人も居て、いやマジそんなん殴られたら脳汁ブッシャーーー! でしょ!?
必死ですよ、ええ、ええ。ヤクだって使いますよ! 何かあの、反射速度上げられるとかいうシャーイダールさんの魔法薬!
そんでまあ何とか無力化した“闇の巨人”の人達は、まだ意識が朦朧として呆然自失ってな感じで、自律的な行動や会話が出来る状態にまではなかなかならないので、これまた一応間に合わせの小部屋をドゥカムさんが【石の壁】で作って中に入れておく。
巨人が本気を出せば壊せる程度の強度だそうで、【聖なる加護】の効力が続いた状態で意識がはっきりと戻れば、どこまで現状を把握できているかは分からないけれども、なんとかなるだろうと。
で、その日は新たにもうニヶ所の魔力中継点をドゥカムさんが敵から奪って、一旦休憩。
ドゥカムさんは自分の支配している魔力中継点間では様々な魔法の行使が出来るため、後続の巨人達に新たな魔力中継点へ移動して防衛にあたるようにとか、途中に【聖なる加護】を複製転写した巨人達が居ることとかを指示したり伝えたりする。
この辺、“生ける石イアン”とかいうものの力で、結構自由に召喚獣や従属魔獣をコントロール出来てたレイフよりも不便と言えば不便。全員インカム装備で指令を受けられるレイフチームと、あくまで拠点間でのみ通信が出来るだけのドゥカムさんチーム。指示系統としては明白にレイフチームの方が上だけど、巨人軍団の圧倒的戦力は侮れない。
食事をして交代で睡眠、休息を取る。キーンダールさんやリリブローマさんはそれぞれ別の理由で先を急ぎたいと文句を言っていたが、ドゥカムさんとしては疲労による魔法の精度や魔力の低下を防ぎたいのと、情報の整理と分析をしておきたいとのことで、やはり小部屋を作って閉じこもる。
道中かなり険悪だった者同士も居るなんとも言えない取り合わせ。
さすがに手の込んだ料理は無理だけど、薫製肉とドライフルーツ入りのビスケットを振る舞う。巨人軍団は当然そんなんじゃ物足りないので、道中それぞれに狩った魔獣の肉なんかを焼いて食べてる。ううーん、ワイルドライフ。一応、特製ハーブソルトを少しだけ使わせてあげた。
ドゥカムさんの結界や交代の寝ずの番のおかげで、休息中のちょっとした襲撃は軽々撃退。
その規模も相手も小規模で、JBやドゥカムさん曰わく、相手方にも戦力がなくなって来てるのではないか? とのこと。
んー。しかし、どうかなあ。そう簡単なもんじゃ無いのは、経験上分かってるしねえ、俺は。
◆ ◆ ◆
翌日……なのかどうなのか。地下洞窟内なので正確には分からない。とにかく全員交代で休息し、ドゥカムさんも魔力と疲労を回復させ、軽めの食事をして準備をしていると、後続の巨人達がやってくる。
昨日の内に集落にまで増援を送るように連絡をしていたとかで、ドゥカムさんが支配している魔力中継点にそれぞれ四、五人程度の巨人達が防衛につけるよう配置させているとのこと。
レイフのときもそうだったけど、魔術師、またはキーパーのこのダンジョンバトル的な戦いでは魔力中継点の支配数、位置関係というのは重要で、その繋がりが切られたり配置が悪くなったりすると効果が下がるし、範囲も変わる。
つまり再び奪い返されたりしたら劣性になる。
攻めも守りも重要なのだ。
「魔力中継点の配置や、抵抗の具合から見て、あと二、三ヶ所だろうな」
「そりゃー……アレか。敵の支配している魔力中継点が……てことか?」
「他に何がある?」
「ねえな」
その二、三ヶ所を攻略すれば、例の“悪しき者”の魔力が支配的になれる領域は殆ど無くなるだろう、と予測しているみたいだけど、とは言えそもそもこの遺跡全体の広さも分からないのに何故分かるのか、というと、“悪しき者”が支配している状態での魔力中継点に通っている相手の魔力の状態やら何やらである程度分かるらしい。
ただ何か、ちょっと冴えない感じというか、何かが引っかかってる……みたいなことをちょっとボヤいてる。んーむ。
「それでドゥカム殿。“悪しき者”がどのような者かは分かりましたか?」
食後のお茶……ならぬ食後の臭い乳を飲みながらニルダムさん。例の巨人族に伝わる超臭いスタミナドリンクだが、あれ、確かに栄養価高くて効果もある。なので俺も少し分けてもらって、温めたヤシ酒で溶かした蜂蜜と混ぜて小樽に入れて持ってきてある。ちょっとアルコール分も強くなっちゃうけど、酔って支障が出るほどでもなく、JBと二人で行動開始前に飲むことにしてる。
で、聞かれてドゥカムさん。口の横に立てた人差し指を当てながら口をへの字に曲げつつ思案顔。
「ふぅ~~~~むむむ……。
まず魔術師……邪術士か。とにかく魔術の心得があり、魔力も多い。基本的な属性は闇。エルフ、巨人、人間その他……」
うんうん、と俺は頷く。基本的にダンジョンバトルでは自分の魔力か魔力溜まりの魔力を使うので、ある程度の魔術的素養は必要。俺みたいなノー魔力ノー知能なヤツでは出来ないはず。
「だが、 必ずしもヒトに類するものとは限らんだろうな。……というか、多分恐らくは違う」
「それは何故だ?」
「闇属性の強力な魔力を持っているが、戦略戦術にあまり知性を感じん。何と言うか、事前に決められた手順通りにやっている……そんな感じだな」
またもうんうん、と頷く。レイフのときも、最初は精霊獣のケルピー、次は火焔蟻の女王。所謂ヒトに近い知性を持っていたキーパーは樹木の精霊ドリュアスだけ。
「お前、すげー分かった風に頷いてるけど、本当に分かってるのか?」
不意にそう突っ込んでくるのはJB。おおっと、失敬ですな、チミィ? 僕ぁね、こう見えてもダンジョンバトルの経験はなかなかあるのだよ?
「精霊獣、とか、そういうの、かも」
精霊獣は普通の獣よりは知能は高い。けどことこういう戦略戦術を求められる戦いに向いてるかというと、必ずしもそうではない。
「ふーむ……まあなかなか悪くはない推論だ……」
「おお、マジかよ?」
ドゥカムさんの高評価に驚くJB。
「魔力は高く、魔術の行使にも慣れてはいるが、ヒトの考えるような高度な戦略は出来ない。闇属性で精霊獣なら闇の馬辺りが有名だし、幻魔妖魔の類ならさらに増える。何にせよその手の手合いという可能性はあるな」
「しかし闇属性で、しかも実体を持たぬものであれば、我々には不利ではないか?」
「まあなあ~~。やるならばニルダム、君の付与魔法を私が増幅して……というのが順当なところか。……面倒臭いがな!」
怪力巨躯の巨人軍団は実体のある敵には無類の強さを発揮するが、精霊獣みたいに実体の無い敵には手を出せない。白雪猿のときのようにニルダムさんが魔力を付与してくれないと手も足も出なくなる。
しかも白雪猿のときは火属性が弱点だったけど、闇属性に対して最も効果のある光属性の使い手が居ない。
「ま……光属性の魔力に関しては、利用出来そうなアテがまるでないワケでもない」
なんだか形容しがたい妙な顔をしながら、ドゥカムさんがこちらを見る。
え? 俺? と、驚いてキョロキョロ。
するとドゥカムさん、さらーに形容しがたい妙ォ~~~な顔で、
「あの豚だ。アレはああ見えて聖獣だからな。光属性の魔力は高いぞォ~~~」
プヒッ!? と驚くタカギさん。
え、そうなの? と驚く俺とJBと皆々様。え、そうなの!?
魔力がある、ということと、魔法、魔術が使える、ということは別のことだ。
例えば俺は魔力そのものは多少ある。というかオークという種族は元々エルフと祖先が同じなので、魔力自体は一応あるのだ。
ただ、その魔力は身体能力の強化と魔法への耐性に使われているし、魔術を行使する為の魔術理論を学ぶ者も学べる者も少ない。
俺は【発火】と【自己回復】という簡易魔法だけはなんとか学べたけど、それ以上はぜんぜん無理だった。
魔獣とかの中である種の魔法を行使できるモノも居るが、彼らの多くは理論ではなく本能的なもので魔法を使う。
人々は魔術を行使する際、魔力により術式というものを組み立てる必要があるのだけど、その術式が生来的に備わっているのだという。
まー……ゲームっぽく言うと、「デフォルトのスキル」みたいな感じ?
鳥に羽根があり飛べるように。魚にヒレがあり泳げるように。蜘蛛が糸を作り巣を張れるように。
魔獣やら何やらは自然と自らに備わった魔法の能力を行使できる。
ではタカギさんは?
タカギさんの場合、後天的に魔力溜まりにより聖獣となった。そしてその際に多分何らかの術式が……えーと、刻まれている? みたいな? 感じ……のはずなのだ。
ただ単に賢くて神々しくて馬鹿でかくて愛らしい地豚ちゃん……というだけではなく。
ただ、それが何なのかは俺たちには分からない。
んで、ドゥカムさんは術式を解析して発動中の魔術をコピーする【魔法の複製】という呪文が使える。コピーしたり増幅したりというのが得意らしい。
なので、タカギさんが何らかの魔法を発動していれば、それを複製して使うことが出来る。
問題は……タカギさん自身がその事に気付いているか、能動的に使えるのかどうか……ということ。
魔獣にしろ聖獣妖獣にしろ、また後天的先天的にしろ、本人……じゃなくて本獣? が、その力を認識してないとうまく発動出来ない。
中には無自覚かつ自動的に発動する魔法というのもあるけど、まあたいていはそう。
むむ? もしかしたらアレかな? 自動発動する【魅了】とかそういうやつか? 何せタカギさん、めっちゃ愛らしいしな!
───とかなんとかぼんやり考えていられるのは、出発してこちら小一時間……いや、それ以上にもっと長い間、特にこれと言ったイベントが起きてないからだ。
暇だ。いや、暇、全然OK! てかここんとこ連日バトルに次ぐバトルで、ちょーめちゃくちゃしんどい日々でしてね、ええ。
ノーモアウォー! アイホープピースフルライフ! てなもんで、平和が一番! てなのは正直な心情ですが、ええ。
ことここ、このタイミングのそれは……ちょぉっと、先行き不安。
だって、ドゥカムさんの言が正しいなら、今、俺らは敵の“悪しき者”とやらを追い詰めているハズなのよ。
なら、猛烈な反撃あって当然なわけでさ。
で、昨日まではそうだった。多分。
なのに今日。
全然襲撃のしゅの字も、反撃のはの字も見えてこない。
凪、ですよ、凪。無風状態。なーーーーんも無い。
追加人員たる巨人軍団も、昨日休息をとった魔力中継点と、新しくさっき支配した魔力中継点にそれぞれ防衛要員として配属されてはいるが、同行しているのはニルダムさん達含めて20人ほど。
大戦力。
ドゥカムさんの見立てではあと一ヶ所か二ヶ所ぐらいでケリがつくかもとのことで、そこに置いていく防衛&連絡要員を5人としても、10人以上は残る。
むーー。よほどでないと負けそうには思えない。
「その“悪しき者”とやらも我らの威に恐れをなしたのだろう」
ふん、と鼻息荒く右手に装備した“死爪竜の爪”を見ながらキーンダールさんが言う。
「或いは最終決戦に向けて兵力を一ヶ所に集中しているのかもしれんな」
魔法の杖、というよりはほぼ丸太のような棒を持ちつつ、警戒を解かずにニルダムさん。
「どうあれ、目的は変わらぬ。我らの同胞を害し、試練を妨げる“悪しき者”を滅ぼすべき」
普段は言葉少ない、巨人族の中でも特に一回り大きいズルトロムさんが宣言するかに言う。
それぞれに、今まで以上に高ぶり、目に見えぬ士気も上がっているようでもある。
元々、俺達が探索に来たことで始まった“狼の口”の遺跡内部の調査は、今まで行方不明だった“闇の巨人”たちの存在と、大いなる巨人の一人である“苔岩の巨人”による啓示から、正体不明の“悪しき者”を打ち破り、支配されている“闇の巨人”達を解放する戦い、というものになりつつある。
その事が、曖昧だった巨人族達の目的意識を明確にし、また彼らの間で共有されることで一体感が強まっている。
ただ一人、リリブローマさんを除いては。
「うーーん、何だかおかしいねぇ、何だかおかしいんだよ」
進むにつれ、今までとは異なりそんなことを小声でつぶやき始めるリリブローマさん。
周りの巨人達はそれを特に気にもせず、また今までなら邪険にし食ってかかっていただろうキーンダールさんですら無視をしている。キーンダールさん的にはもう気持ちは最終決戦で、今更リリブローマさんの事など構っていられない、ということなんだろう。
けれども……う~~~んむ。何だか、ちょぉっと……気になるんだよねェ。
ぶつぶつと呟くリリブローマさんに、どーにも落ち着かなくなった俺は、タカギさんの歩を少し緩めさせて、隣へと並び小さく声をかける。
「何、が、変?」
するとリリブローマさんは、暫くは声をかけられたことに気がつかないかに独り言を続け、それからちょっと驚いたみたいにこちらへ顔を向けると、
「ねえ、変だよねえ? おかしいんだよ、さっきからさ!」
と返してくる。
「だってねえ、デジーちゃんの魔力が、こっちでもあっちでも感じるんだよ。まるで、デジーちゃんが増えちゃったみたいなんだよ。変だろ? おかしいだろ?」
変───と言うのはその話の内容か、それともリリブローマさんの言っていることか。いや、そもそも……んん?
そもそもリリブローマさんはその、30年以上前に親しくしていたというデジーさんの魔力を、ここにきてずっと感知してたってこと?
まてまてまて、まってまって。もしそうなら、リリブローマさんは「過去の出来事を現在の出来事だと認識してしまっている」からこの中にデジーさんが居ると言っていたというだけではなく、「この中にデジーさんの魔力を感じていた」からその存在を確信していたということ?
何だ何だ? それ、ちょっと色々な前提が変わってこないか? いや何がどう変わるのかはよく分かんないけど、凄く何かが変わってきそう。
疑問は出るが、それがどう関係するかは分からない。分かるとしたら多分ドゥカムさんだ。
俺は上を向いて“シジュメルの翼”で宙を飛び、上空から索敵をしているJBとその背に乗ったドゥカムさんを見る。そしてあまり大きくなりすぎない声で呼び掛け、その新たな情報を伝えようとするが、その俺より先に大声で呼び掛ける声がする。
後ろからどすんずしんと走ってくるのは、先程新たに支配した魔力中継点へ残してきた巨人の一人。
一同歩みを止め、上からJBとドゥカムさんも降りてくる。
「何だ? 何かあったのか?」
ドゥカムさんはレイフのと違い魔力溜まりと“生ける石イアン”の力で全体を管理したり従属支配させてるわけでもないから、細かな連絡ややりとりは人力でしなきゃならない。特に移動中なら尚更だ。
走って来た巨人は、追い付いてから一息。そして息を大きく吸い込んでから、
「“狼の口”の、入り口の内側外側に建てた、二つの魔力中継点……。その二つが、奪われた」
と告げる。
え? それ、もしかしてヤバくない?
「ちょっと待て、そりゃどう……どうなるんだ?」
JBが勢い込んでそう聞きつつも、その結果どうなるのかがイマイチピンと来てない様子。
よくよく考えると、俺もちょっと分からない。いや、レイフの場合は支配領域やトータルの魔法効果に関係するからある程度分かるけども、ドゥカムさんの場合に関してはちょっとイマイチだ。
問われてドゥカムさん、
「被害と敵戦力、その他の状況は?」
と短く詰問。
「外の仲間は一時撤退。負傷者は多いらしい。内側にはそのとき誰も居なかった。外に応戦に出たからだ。その隙に大蜘蛛達が入口を大量の魔糸で封鎖した。外に居るのは例の白雪猿の群れだが───やはり少し様相が前とは違っている」
ええ? とさらに驚く俺。その……大蜘蛛の糸を使った防壁や封鎖は、レイフもよくやる戦術だ。
「蜘蛛だと? この辺りに居る奴らか?」
「いや……見たこともない、真っ黒で背に瘤のようなもののある無気味な奴だ」
ニルダムさんの問いに伝令がそう返すと、それを聞いたドゥカムさんは顔をしかめて、
「……黒背大蜘蛛だな。
別名首狩り蜘蛛だ。背にあるのは瘤ではなく、刈り取った獲物の首よ。奴らは脳みそが好物で、刈り取った首を糸でくるんで背負い保存する」
「うえぇぇ、マジかよ。えれェキモいなそりゃ」
「魔虫の大蜘蛛の中でもかなり厄介な部類だが、クトリアではあまり見ない。基本的に闇の魔力の強い地域にのみ生息し、闇の森の地下奥深くや、北のオーク城塞近辺に生息している……とかいうが……ふぅーーーんむ」
そこまで言ってから一思案するドゥカムさん。
「で、その、何だ? そりゃ状況的にはヤベェのか?」
「……“闇の巨人”達と、他の“夜の者達”はどうなっている?」
JBの問いに答えず、伝令の巨人へさらに質問をする。
「今のところ特に何もないが?」
「───そこまで……の、手ではない……か。だが……ふーーーーむ……」
「おい、どーなんだよ、なあ?」
「あーーー。
まずそれぞれ待機してる、叉は防衛している“闇の巨人”と“夜の者達”を……そうだな、二番目の門から一番近い、昨日最初に落とした魔力中継点へ集めろ。一応あそこが位置的にも構造的にも一番守りやすい。
それから……外側に一番近い魔力中継点は固守。後は……どーしたもんかなァ……」
「なあおい、ドゥカム。どーいう状況だよ?」
食い下がるJBに、苛立たしげにドゥカムさんが、
「閉じ込められた! そして我々の魔力中継点はおそらく敵の魔力中継点により囲まれた形になっている! つまりどーいうことかって? 袋の鼠、だ!」
「何だァ!? マジかよ!?」
「おうおう、マジだマジだ、大マジだ。はははー、のはっ!」
自棄になったのか急に笑い出すドゥカムさんだが、え、笑ってる場合じゃ無いよね、それ? でも、何で?
「何やら妙な感じはしていたが、これで分かったわ。
この遺跡内部の壁部分に、恐らくさほど大きくはないが実用には足る程度の魔力中継点が定間隔に隠して設置されておったようだな。道理で途上の魔力中継点を悉く支配しても、敵の魔力の流れが微妙に分散し広がり途切れなかったはずだ。
で、その微かな繋がりの延長上として、私が入り口付近に建てて置いた魔力中継点を奪い、強力とまではいかないが、この遺跡全体を覆う結界として完成させた。
なので、今は私の魔力中継点を繋げ通じてる力より、奴の方の力がやや強い。完全に封じられてるわけでも無いが、そうだな、次にどこか一つ奪われれば完全に逆転されるかもしれんなァーー! はっはっ、はーーー!」
つまり、かなり押せ押せで攻めて押し込んでいたつもりが、次の一手でひっくり返されるかもしれない……と。
「ならば、我らも戻って防衛するか、その奪われた魔力中継点の奪還に向かうべきでは?」
ニルダムさんはそう聞くが、ドゥカムさんはぶるりと顔を振り、
「いーや、むしろ……こうなればスピード勝負だ」
「速攻だな?」
「当然」
ニヤリと笑うドゥカムさんと応じるJBの考えは一致してるらしい。
「敵が我々を閉じ込め、魔力中継点で囲むという手に出たのはやはり追いつめられているからだ」
「だろうな。仮に一番奥に敵の親玉が居ると仮定するなら、一番遠くに戦力注ぎ込んで起死回生の一手を打つってのは、逆に言えばこれ以上攻められちゃヤバいってことだし、それに戦線が伸びてる分あっちの戦力も分散してるって事だ」
「我々はこのまま全力進軍だ。ああ、その前に……囲まれた分魔力の流れなどから、力の源の位置は計算しやすくもなったな。少し時間を貰うぞ。おおよその位置を特定したら出発だ」
「分かった。あー……あと他の連中はどうする? 特に外はよ?」
「任せる。時間を稼がせろ」
「仰せのままに」
芝居がかった大仰な仕草と声音で応じるJB。
いやしかし……どーなん!?
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