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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-118.J.B.(72)Hellraiser.( 地獄より来る )
しおりを挟む俺はこの感じを知っている。
もっと言えば、この目を知っている。
思考力があり、行動の取捨選択もできる。獣ではなく、人の持つそれをある程度には備えつつ、なのに人としてのあるべき理性を失って、ただ周りの生きる者への憎悪と狂気に支配された存在。
魔人。その中でも特に半死人と呼ばれる「生者でありながら死者同様の存在にさせられた者達」の中で“狂える半死人”と呼ばれる者達。
目に見えて分かる違いがその目。情報屋の“腐れ頭”に、“黎明の使徒”の警護人ターシャのような理性を残している半死人達の目は、ごく普通の、特に代わりばえのしない目をしている。だが“狂える半死人”達の目は、闇に濁った真っ黒な白目の中心に血を垂らしたかのような赤い瞳。
その焦点の合わぬ目に映し出されるのは狂気と憎悪、或いは深い苦痛と絶望。
だがその生まれの経緯や苦しみに引き込まれれば、瞬く間にこちらが新たな死者になる。
“狂える半死人”は、古代ドワーフ遺跡の奥や、クトリア郊外の不毛の荒野の一部、洞窟や廃墟なんかに隠れ潜み、通りがかり迷い込んだ旅人などを餌食とする。
俺が最初に出会ったのも、奴隷とされていた犬獣人の軍から反乱を起こし集団で逃げ出してクトリアへと向かう途上に寄った廃屋。その時はマジでB級ホラームービーのゾンビに襲われたのかと思った。
何人かの連れが殺されむさぼり食われている隙に逃げ出して、そこからは休みも取らず市街地へ。辿り着いたハナに外城門を仕切っていた王の守護者の下っ端達からそれらの話を聞いた。
結構なトラウマになったその経験をある意味払拭したかったというのも、理性を残した半死人である情報屋の“腐れ頭”と付き合い出したキッカケの一つだが、その辺は今は関係ない。
目下の問題は、今目の前にいる“闇の巨人”とでも言うような乱入者達だ。
第二の扉を協力して開けた後に現れた“苔岩の巨人”。その残したメッセージには「この遺跡は悪しき者に汚されている」との言葉。
その直後に現れた攻撃してきた黒い肌で“夜の者達”同様に闇魔術で姿を消せるこいつらの目が、“狂える半死人”達と同じだということだ。
俺はホール中央上空でのホバリング体勢で意識朦朧としたままのドゥカムを抱え全体を見渡す。乱入してきた“闇の巨人”達は恐らく10人前後。だが“狂える半死人”同様の凶暴さと猛烈な勢い、加えて時折使う闇魔法による姿隠しなどなどにより、数では勝るこちら側を圧倒する戦いぶりを見せつける。
その様は凄惨にして獰猛。武器らしき武器などは特に持たず、素手や噛みつき、拾ったドワーベン・ガーディアンの破片などを使い掴み、引き裂き、咬み、叩き、突き、刺し、それでも止まることはない。
「……父よ! 私だ、ニルダムだ! 覚えてないのかっ……!?」
常に冷静で、感情などほとんど表に見せてなかった呪術師のニルダムが悲痛なまでの声で呼び掛ける。その正面に相対している虚ろな狂気に蝕まれた“闇の巨人”は、すう、と周囲の暗さに溶け込み、歪みを残し走り出してニルダムへと襲い掛かる。
それを間に入り受けるのは“苔岩の巨人”の眷族、ひときわ体の大きな巨人のズルトロム。両腕を身体の前で合わせて闇の巨人の攻撃を防御する。
闇魔法の【姿隠し】は幻術に類する魔法だ。存在を「視認しにくくするだけ」で、消えてなくなるワケじゃない。動く先と軌道が分かれば攻撃をかわすことも受けることも出来る。
「既に正気ではない」
ズルトロムが言う通り、ニルダムが父のダドゥビザだと言う“闇の巨人”は、俺からすれば巨人版の“狂える半死人”そのものだ。
いや、他の乱入してきた巨人も含めて全てそうだ。
ズルトロムは振りかぶってハンマーのようなパンチを繰り出すが、空間の歪みは回り込んで横から体当たり。攻撃をかわされ体勢の崩れたところをそのまま倒されかける。
倒れそうなズルトロムを後ろから支えるのはニルダム。1対1での戦いに割り込むのは誇りに関わると言う巨人族の流儀も、この混乱した状況ではそうも言っていられないか。
ニルダムの父だというダドゥビザの他にも、やはりこちら側の旧知の巨人達が居るらしく、キーンダール含め数人の巨人達が口々に相手の名を呼び、戸惑いと驚きを露わにしている。
「……ばかな、お前は死んだはずだ!?」
「今までどこに行っていたのだ!?」
死んだのか、それとも闇魔法の術式により半分死んだような状態にされてるのか。
混乱、困惑に加えて、特にキーンダールをはじめとする“夜の者達”は苦しげで辛そうに見える。
「……うぬ……。くそ、何だ? 一体、なァ~にがどーなってるのだ?」
最初の衝撃で軽く混濁していたドゥカムが意識取り戻しそう聞いてくる。
「俺にもさっぱりだが、状況は混乱混戦。あの真っ暗闇みてえな巨人達が何なのか分かるか?」
「暗闇みたいな巨人? ははん、何を詩的な表現をして……ふむ? うむむむむ……?」
古代ドワーフ文明のみならず、魔術、魔法絡みの知識も当然俺よりはるかに上のドゥカムに、ここで頼らないって手はねえ。
「俺の見た感じじゃ、あいつら“狂える半死人”に似てる気がするんだが」
「うむむむむ……当たらずとも遠からず……か?
……そうだな、あの“半死人”のごちゃごちゃ汚い術式の在りように……似てると言えば確かに似てる。
そもそもアレらは出来損ないの魔人だからな。その点で言えば、こやつらは出来損ないの“夜の者達”とでも言うものなのか……いや、だがこの……待て待て、何だこの“尻尾”は……? 何かと繋がっているのか……? 」
一つを聞けば10を返すドゥカムの悪癖。その上今回特にこれまた一切俺に分からせる気がゼロと言わんばかりにぶつぶつと。
いかん、こりゃ埒があかん、と再び視線を下におろして状況を見ると、混乱きわまる乱戦の中で二つの動きが目に入る。
一つはガンボン。巨人同士の大乱戦の中、例の巨地豚に跨がり走り回り駆け回り。基本は逃げに徹して居つつも、この中ではひときわ小さいというその点をうまく利用して、主に闇の巨人達の死角から不意をついて足元を攻撃している。
おおう、今ものすげぇ闇の巨人のフルスイングの右腕を危うくかわしてその肘を棍棒で殴りつけてる。痛そうだな、アレは。
で、もう一つはリリブローマ。知り合い類縁らしき闇の巨人による突然の襲撃への困惑からうまく立ち向かえていない他の多くの巨人達と異なり、そこら辺による不利な影響は受けてなく、むしろ今までより大きな声と態度で暴れ回っている。
「なんだい!? お前達またあたしとデジーちゃんの邪魔をしようッてのかい!? いい加減におしよ、まったく!!」
記憶の混乱があるというのに、というか、むしろだからこそなのか、リリブローマの言動はここに来て全くブレていない。
「ふむ、デジー、デジー、デジー、デジー……。
あやつがかつてこの中にデジーとやらと共に入っていただろうことは間違いない。巨人族と“小さき者達”とで協力しない限り進めないここを、その二人か……まあ他にもクトリア兵は居たようだが、何人かで探索していた。30年以上前に、だ」
「ああ、そうだろうけどよ。けどあのリリブローマから話を聞き出すのは難しいぜ。デジーって奴に至っちゃあ生きてるかどうかも分からねえし、今ここじゃ特にどうしようもねえぜ」
デジーやリリブローマのことよりも、まずはあの“闇の巨人”達をどうにかしなきゃならねえ。
「いいか、ここには『巨人と“小さき者達”が協力しないと入れない』のだ。
ならばあの“闇の巨人”達はいつ、どうやってここに入った?
可能性はいくつかある。
我々の後を付けていた? しかし連中は“この先の区画”から侵入し襲ってきたのだろう? 背後ではなく?」
そうだ。仕掛けで開いた石扉の向こう。闇のさらに奥から現れた。
「それがいつか? 少なくとも我等より前、もしかしたら30年前からかもしれん。
どこから入ったか? “狼の口”以外の出入り口があるかもしれん。
しかしもし我々、そしてリリブローマとデジー同様の入り口を使ったのなら、奴らにも我々同様の“小さき者達”の協力者が居たはず。
で、これは推論だ。
デジーとリリブローマは斥候役で、内部に入る方法を探っていた。
その情報を元にして“本隊”としてここに来たのが、この“闇の巨人”達とその協力者としての“小さき者達”───」
筋は───まあ通る。だが、
「分からんでもねーけど、ちと飛躍しすぎじゃねえか? 何でそう思う?」
「“尻尾”だ」
「へ?」
「奴等には“尻尾”がある。実に……ふん! 不愉快で汚らわしい“尻尾”がな……!」
◆ ◇ ◆
「右だ。そうそう……あー、いや、行き過ぎか? もう少し修正が必要だ」
ナビゲーション宜しく俺の背でそう指示だしをするドゥカム。
高さのある広大な地下空洞の中を飛び回り、目指すべき場所への道標を辿る。
既にこちら側は建造物と呼べるものは殆どなく、自然洞の入り組んだ道に幾らか加工し掘られて出来た通路等があるだけだ。
その俺達の下を駆け、また暴走状態のドワーベン・ガーディアン達を粉砕し、さらには“狂える半死人”の群れを蹴散らしつつ追い掛けて来るのは巨地豚に跨がるガンボンに、幾らか傷つきある程度巨大化もしているグイド。そしてリリブローマだ。
ガンボンとグイドは分かるが、リリブローマは何故? とも思うところだが、「デジーと一緒に向かった方向は分かるのだな?」とドゥカムに聞かれ、「当たり前じゃないのさ! 任せときな!」と喜び勇んでついてきている。
ドゥカムは他の巨人や俺達と違い、リリブローマの記憶が過去と現在の混在したものであることに頓着していない。いや、厳密に言えば何というのか、そのこと自体をただそのまま文字通りのこととしてリリブローマに相対している。
つまりキーンダールのように「それは昔の話だ!」などと一々否定せず、「過去の事実を知っている情報源」としてのみ扱っている。
おそらくだからこそ、リリブローマとのやりとりに大きな齟齬が生まれない。
「ああ、違うよ、そっちじゃないよ!」
「いや、先にこちらに寄る必要がある。お前とデジーの邪魔するものがあるから、それを先に片付けるのだ」
「何だって? そりゃほうっておけないね!」
他の巨人達が肉弾大怪獣バトルを繰り広げているのを後目に、俺達だけその先へと進みかなりの勢いで進んでいるのは、ドゥカムの言うところの“尻尾”を断ち切るためだ。
もちろんその“尻尾”とは、ケツの先に実際に生えている尻尾じゃあない。
曰わく、魔力の“尻尾”なのだそうだ。
何等かの魔術により支配、叉は使役されたり、呪縛、洗脳されていたり……まあとにかく何らかの形で直接的に影響を受け続けている場合、術者や術具と魔力の繋がりがうっすらと残る。“魔力痕”と同じようなものだそうだ。それのことをドゥカムは“尻尾”と呼んでいる。
で、あの“闇の巨人”達にはその“尻尾”があり、それを辿ることで彼らに影響を与えているものが何かを突き止められる……と。
その辺りのことニルダム達に告げ、かなりの大急ぎで移動を開始。時折現れるドワーベン・ガーディアンと、そして元はクトリア兵なのか奴隷だったのか分からない“狂える半死人”達を退けつつだ。
俺はドゥカムを運びながら索敵をし、警告と【風の刃根】での牽制。小型のガーディアンは巨地豚やグイドが踏み潰し、中型大型は主にリリブローマが無理矢理ねじ伏せたところをガンボンの棍棒で叩き壊すか核を壊す。このスーパーヘビー級チームの中じゃガンボンの奴が一番小柄で小回りが効いて、核を狙うような精密な攻撃向きだってんだからちと笑えるぜ。
けど何よりも嫌でやりにくいのは“狂える半死人”に来られるときだ。
ガンボンなんかかりゃすりゃあ正にB級ホラーのゾンビ……しかも走るタイプのヤツに襲われるようなもんだし、“黎明の使徒”のターシャとかで半死人自体には面識があっても、この“狂える半死人”達はまるで勝手が違う。正に凶暴な手負いの獣じみた動きに形相。俺だってそんなのに暗闇で急に襲われたらマジでビビってチビっちまう。
何より、奴らがそうなった経緯や、こうして襲ってくるということ自体彼らの本意でもなきゃ悪意でもないという事実。それらを知っててそれでもこうなれば殺す以外に手はないってこと。それが後味を悪くする。
実際に一度死んじまってる不死者の化け物だってのの方がまだマシだ。
「んんーー、よし、あの辺りだ。ああ、そうそう、そこだ」
やや広い空間の中に、見覚えのある塔がある。高さは1パーカ半(4.5メートル)程度。ドゥカムがここまでで作ってきたそれと異なり基礎部分の小部屋のない記念碑みたいな飾り塔。魔力中継点というヤツだ。
勿論細かい意匠や見た目そのものは異なっているが、それが魔力中継点であるということ自体は古代ドワーフ遺跡内でもよく見かけていたからよく分かる。
で、その細かい意匠の違い……なんだが、なんというかこう、忌まわしいというかおどろおどろしいというか。なんだか知らないがとにかく不吉な雰囲気がしてやがる。
「うううぅぅ、醜い! なんとも醜く汚らわしい!」
怖気をふるうように分かり易い程の身震いをしてから、
「近づきたくもないが、取りあえず近くに下ろせ。ああ、その前に辺りをきちんと掃除しておけよ」
と言うドゥカム。
掃除、てのはまあその魔力中継点を守るみたいにうろついている“狂える半死人”や大小様々のドワーベン・ガーディアンに……んんー? あっちは死霊術の白骨兵や動く死体辺りか? 半死人の死体をさらに不死者化して使役してるのか……益々イヤな話だ。
まずは先制して【突風】を使い白骨兵やゾンビ状態の動く死体を倒れさせ、またよろめかせる。
そこへガンボン、グイド、リリブローマが仕掛けて次々打ち倒す。
その真ん中へ素早く降り立ち、魔力中継点へと手を伸ばすドゥカム。魔術の心得のない俺でも分かるくらいに魔力を膨らませてそれをその忌まわしい魔力中継点へと注いでいく。
いつもの余裕ぶったそれではなく、苦しげに眉根を寄せて鬼気迫る表情。まさにそこでも戦いが行われているようだ。
俺は上空から視覚と空気の動きを察知しなが警戒を続ける。
「あっちだ! 右前方! 小型、中型のドワーベン・ガーディアン!」
新たな増援の警告を発しつつそちらへ【突風】と【風の刃根】で先制。とは言えドワーフ合金製のガーディアンには、この二つじゃ決定打にならない。
俺に出来るのは索敵と警戒と軽い足止め程度。
しかし、こうなるとここのドワーベン・ガーディアンの“暴走状態”にも再検証が必要な気がする。
本来の機能を残している小型、中型が居ないことから、全てのドワーベン・ガーディアンが暴走状態なのかと考えていたが、もしかしたらそれら全てが何者かに意図的に“暴走状態”のような“侵入者を攻撃するもの”として修正されていたとしたら?
それがドゥカムの言う“魔力の尻尾”をつけたヤツ、にも繋がるのかもしれねえし、“苔岩の巨人”の警告していた悪しき者にも繋がるのかもしれねえ。
その“敵”の動きは明らかにこの魔力中継点を守ろうという動き。“狂える半死人”も白骨兵、動く死体、ドワーベン・ガーディアン……と、かなりの気配がこちらに向かって来てる。
「糞、後方からまた“狂える半死人”の一団だ! 10体近くいる!」
【突風】が比較的効きやすい相手なのが俺には幸いだが、集団で近接して取り囲まれるとかなりヤバい。
巨地豚がいななき飛び上がっては敵の囲みを分断し、その背に跨がるガンボンの雄叫びも響き、意外にも“半死人”をも怯ませてもいる。
白骨兵は数ばかりで手強いとは言えないし、動く死体は“半死人”と違い動きが鈍い。それでもこの場所で数押しで囲まれるってのは厄介。
そしてその中に小型でちょこまか動く蜘蛛型ガーディアンが混ざっているのがさらに効いてくる。
奴の電撃攻撃は、単体としては痛みがありちょっと痺れる程度の攻撃だが、そのちょっとのロスが動きの鈍い動く死体への対応の遅れになり、その遅れに素早く獣のように攻め立てる“狂える半死人”が躍り掛かる。
「しつこいよ、おまえたち! まとわりつくんじゃない、鬱陶しいね!」
巨人族としての怪力巨躯を持つものの、リリブローマの装備は毛皮と皮のエプロンにただの農具の鋤だ。力押しでなんとかなる相手ならまだしも、この数この相手は荷が重い。
グイドも同様。普通の人間に比べりゃ馬鹿強いが、実際には他の巨人よりも重い“呪い”を課せられていて、力は元より半減。傷を負えばその分強くはなるが理性も失う。
ここでこの持久戦は、はっきりと分が悪い。
「……よし! これで……ケリだ! は! はっはっはー!」
そこでようやく、別の戦いの方が決着したようだ。
「それで!? どーなんだこの状況!?」
「んん? まあ、取り敢えず気合い入れて戦いたーーまえ」
「ああ!? その魔力中継点をなんとかすりゃ良かったんじゃねーのか!?」
「これを手に入れたのは敵の拠点の一つを潰して、“尻尾”を断ち切って“闇の巨人”達を解放する為だ。ここを奪われたら意味がない。だから君らは必死でここを守るのだ!」
言いつつ、それでもドゥカムが何やら呪文を唱えて、まずは魔力中継点を中心にした周囲二面に【石の壁】を作り出して、攻め手の動きを分断。
そしてもう別の二面にやや低い、よじ登れば乗り越えられる程度の入り口のある壁を作り出した。
上から見ると、四角い壁に囲まれた部屋の相対した壁に二ヶ所、窓が開いている。そんな感じだ。
これで、グイドとリリブローマがかなりやりやすくなる。不死者も“狂える半死人”も、小型、中型のドワーベン・ガーディアンも、単体で【石の壁】を壊せるほどの破壊力はない。そして入り口があるのなら、壁を壊そうとなどせずそこへと群がり殺到する。
この窓が二つ開いた部屋の中へと入り込もうとし、連中はこぞって窓へ集まり押し合いへし合いになる。そこをグイドとリリブローマがぶん殴る。
これがたとえ山賊程度にでも考える頭のある敵なら、こうはならない。連中も生きてる以上命が惜しい。興奮して命知らずな蛮勇を見せる奴らも出てきたとしても最初のうちだけ。次には別の手を考える。
そうだな……例えば火を付けた可燃性の高い油瓶を投げつける……とかな。
この部屋の構造上それをやられれば負ける。だがこの相手にはそこまでの知恵はない。数と勢い任せで突っ込んでくるだけ。なのでこの簡単な防壁でかなり形勢が変わる。
「あとは君らでなんとかしてくれ。全く疲れた、何なんだこの汚らしい術式は……」
やれやれ、と言うかに小部屋の角に背をもたれかけさせ座り込むドゥカム。戦闘を嫌い、すぐに戦線離脱したがるのはいつもの通りだが、今回は疲労度もかなり高そうだ。
【石の壁】の防壁の中はグイドとリリブローマで、そしてその外側には騎乗した巨地豚の機動力を生かしたガンボンに上空からの俺。これで完全にけりが付くかと思っていたら……いや、これはかなりヤバいのがやってきた。
「おい、マズいぞ! 上位の大型ドワーベン・ガーディアンだ!
しかも……ああ、糞、マジか!? ハンマーに長槍騎兵に……ありゃ魔導兵だ!」
上位ドワーベン・ガーディアンスリートップが、横並びになってやってきやがった!
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