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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-100. 【ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方:改訂22版】
しおりを挟む●はじめに
さて、王国の紳士淑女諸君。クトリア観光を楽しまれるのには何が必要かご存知だろうか?
大量のお金? 勿論そうだ! 心強い護衛? それも当然。
しかし何よりも大切なのは情報。つまりはこの『ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方』が必要だ。
多くの観光、遊興目的の王国市民、叉は貴族の方々は、まず何よりも貴族街へと向かいたがるだろうけれども、クトリアにはそれ以外にも多くのものがある。
ただ通り過ぎるだけの旧商業地区にも見所はあるし、また当然危険な場所もあり、商取引を望む商人にも大いなるチャンスが見つけられる。
それらを適切に見極める為にも、この『ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方』は必読の書であり、必ず手に取るべき一冊である。
なお、常に新しい情報へと刷新されているため、再びクトリアへと来られた際は、南門市場の売り子か、西地区の『ミッチとマキシモの何でもそろう店』でお買い求めされたし。
【クトリア市街地の概要】
クトリア市街地は内側と外側の大きく二つの地区に別れ、かつてはクトリア王宮があり(今は無残な残骸が残るのみだ)、今はその支配の象徴として高くそびえる妖術師の塔のある、やや小高い丘の上の内城壁内を貴族街と呼び、その外側にあり、外城壁に囲まれた場所を旧商業地区と呼ばれる。
この外城壁内の旧商業地区は完全に貴族街をぐるりと囲んで居るわけではなく、北側を除くほぼ三方を囲う形になっている。
外から来るものの多くは南外城門、または西外城門から旧商業地区へと入り、大路を抜けて南内城門から貴族街へと向かうことになる。
もしそれ以外の経路をお望みなら……少なくとも命の保証は不可能だろう。
●旧商業地区
【旧商業地区・南地区】
旧商業地区は外城門をくぐり、貴族街への内城門をくぐるより前の地区全体を指す。
その中でも大まかに、南門をくぐってすぐの市場、職人街を含む『南地区』、商店街と自警団本部を含む『西地区』、そして外から来られ方々がまず行く必要のない『北地区』があり、また一般に『東地区』と呼ばれるのは、外城壁外にいささか離れて独立している地域にある。
まずは南地区だ。
南地区は城門前に様々な露天のある市場がある。
端の方にあるのはオオネズミの串焼きや牛糞団子、クズ物なんかを扱う地元貧民向けの露店ばかりなので立ち寄る必要はないが、中央近辺の露店には見所のあるものも多い。
特におすすめは狩人の出している串焼き屋で、南方人の二人組、ゲラッジオとコナルムの出す店だ。
ここはクトリア一の狩人である“腕長トムヨイ”の狩ってきた獲物をこだわりの料理人アティックが調理した肉を出しており、何せこの“腕長トムヨイ”のチームは、あのマヌサアルバ会へも獲物を卸して居るほどなのだ。
たまに売り子で現れる女性たちもなかなかの美人揃いだが、変なちょっかいを出すことはお勧めしない。彼等はクトリアで猛獣魔獣を狩っている凄腕達だ。
また、この市場はクトリア旧市街の自警団、王の守護者が取り仕切っていて、もしあなたが特定の物を求めている場合、ここを仕切っている王の守護者の者に有料で依頼を出すことで、入手の代行をしてくれる者を見つけることもできる。
もしかしたらお望みのものが意外な安値で手に入るかもしれないが、勿論投資した分に必ず見当った見返りが得られる保証はないのでその点には覚悟は必要だ。
なお、これまた有料だが、王の守護者には市街地での護衛を頼むこともできる。安全はただではないことをご理解している皆様には、この重要性を分かって頂けるだろう。
南地区ではまた、『黎明の使徒』のクトリア本部もある。
何かしらの不測の事態で治療や医薬品が必要になったときは訪れると良い。
ただし地元の貧民に対しては無償だが、王国市民や富裕層には有償、または寄付を求めるので、あまり無理な要求はしないように。
慈愛に満ちた団体ではあるが、ここの警備兵達も強者揃いだ。特に代表のグレイティアの護衛をしている半死人のターシャには要注意。また、もしあなたがクトリアで半死人を見るのが初めてだとしても、態度には気をつけられることをお願いする。彼等を敵に回すような振る舞いは致命的だとだけお伝えしよう。
そして何よりもこの南地区で一番の見ものは、『ミッチとマキシモの何でもそろう店』だ。
ここは地元の職人たちが作った様々な小物類の他、遺跡から発掘された古代ドワーフによる工芸品や雑貨にちょっとした自衛用の武器防具類等、滞在中や帰路に必要となるものや、商取引に有益なもの、またはお土産等々、様々な王国市民のニーズに応えている。
勿論この『ミッチ・イグニオのクトリアの歩き方』最新版もお忘れなく!
また、南地区には酒と薬品の密売人もうろついていることもある。特に観光客をカモにしようと狙っているが、彼らの売り物は出来損ないの粗悪品ばかりなので、購入はお勧めしない。
【旧商業地区・西地区】
西地区は南地区を抜けて内城門前へと向かう大路と、そこから西方面の比較的損傷の少ない地区を指す。
ここでの見ものは主に三つだ。
シャロン・ファミリーの経営する居酒屋件宿屋の『牛追い酒場』及びその周辺の旧商業地区歓楽街。
古代ドワーフ遺物を含む魔導具や魔装具、魔法の武器などを取り揃えている『銀の輝き』。
そして王の守護者の本部だ。
貴族街での遊興や飲食、お楽しみはなかなか経費がかさむ。少しは節約が必要だ……というときには『牛追い酒場』やその周辺をお勧めする。特に『牛追い酒場』には最近上物のヤシ酒が入荷されていて、やや割高だが絶品の味わいだ。
またちょっとした賭事やお楽しみも得られる。
路上での闘鶏や、地下のラットレース等もあるが、慣れない王国市民には余りお勧めしない。行くのであれば必ず王の守護者の護衛を雇うこと。
それと、路地裏や地下の病気持ちの花売りにも気をつけるように。怪しいと思ったら、『黎明の使徒』の本部へ行こう。割増料金で治療を受けられる。
せっかく古代ドワーフ遺跡の迷宮都市へと来たのだから、何かしらの魔導具等が欲しい、というのであれば、『銀の輝き』に行くしかない。クトリア旧商業地区で魔法用品を買えるのは唯一ここだけだ。
(我が『ミッチとマキシモの何でもそろう店』が、店の名前に反して魔法用品が買えないじゃないか、という苦情は受け付けない)
ただしこの店で買い物をしたいのなら、礼儀と支払いには十分な注意が必要だ。
忘れてはいけないのは、ここの店員は全て魔法の武器防具で武装しているということだ。
そして何かしらトラブルにあったら、王の守護者の本部か詰め所へ行くと良い。
勿論あなたが何等かの不正や不法行為に手を染めていない限りにおいては、だが。
また、彼等は本部で時折ショーを演じることがある。
これは商売としてではなくリーダーである“キング”が昔から仲間のために行っていたものを受け継いでいるある種の儀式のようなものらしいが、運が良ければ見せてもらうことも出来るだろう。
彼らの歌と独特なダンスは、ある意味では貴族街のプレイゼスのものをもしのぐものかもしれない。
【旧商業地区・北地区】
北地区は西地区から一旦東へ向かい、城壁沿いに北へと向かった辺り一帯を指す。
この近辺は「滅びの七日間」での損傷が最も激しく、吐き溜まりのようになっている為、観光や遊興目的の旅行者は決して立ち寄るべきではないと断言しておく。
ただもし貴方が、地下遺跡を探索し一攫千金を狙うとか、叉は現在様々な形で勢力を伸ばしつつある探索者集団である“邪術士シャーイダール”と接触、取り引きを願うのならば、立ち寄る必要が出て来る。
もちろんこれらには危険が伴い、その結果に関して我々は一切の責任は負えないが、もしどうしてもと言うのであれば、この地区へと立ち寄る前に必ず我が『ミッチとマキシモの何でもそろう店』で装備を整えてから行くべきだろう。
●城壁外の各所
【城壁外市街地近郊・東地区】
東地区は外城壁外、交易商宿舎よりもさらに東へと向かった近辺にあり、邪術士達の専横時代から細々と生活を続けていた人々の住処だ。そして北地区以上に余所からの来訪者が立ち寄るべき場所ではない。
決してこの地区の住人が悪質であるというわけではないが、彼らは独立心に警戒心、そして結束力が強く、また野盗などの襲撃をたびたび受けており、危険な地域であることは間違いない。
一応この地区には『黎明の使徒』の支部があり、またここの地下には、南地区の狩人達ともまた異なる魔獣狩りのグループが居て、魔獣を利用した賭事等もしているという。
【城壁外市街地近郊・交易商宿舎】
南門から西側にやや進んだ辺りにある大きめの建物は交易商達の詰め所であり宿舎だ。
交易商達の組合があり、ここで取り引きも出来るが、小口の取り引きはあまり歓迎されない。
もしあなたが王国から大きな取り引きの為にクトリアへ来たのであれば、この組合に加入するのは必須だと言える。
【城壁外・王国駐屯軍共有耕作地、ガブガブ休憩所】
転送門のあるマクオラン遺跡駐屯基地とクトリア市街地の中間にある農場は、王国駐屯軍用の食糧作りの為に開拓された。転送門から来た王国市民は立ち寄って休息することもできる。
同様に“ガブガブ休憩所”は、王国駐屯軍とも取り引きをしている牧場主が経営しており、旅行者や交易商人などに飲み水と串焼きなどのちょっとしたつまみを提供してくれる。
【城壁外・王国駐屯軍立避難所】
マクオラン遺跡駐屯基地の南にある避難所は、クトリアに来たものの諸々の理由で行き場を無くしてしまった王国市民向けに開かれている。もしあなたがギャンブルの散財や追い剥ぎにより全財産を失ってしまったら、まずはここを訪れよう。クトリア市街地、郊外での野宿に比べれば安全に夜を過ごせるはずだ。
●不毛の荒野の幾つかの居留地、危険地帯
あなたが観光や遊興を求めてきたのならば、マクオラン遺跡駐屯基地とクトリア市街地への途上にある各施設に立ち寄ることもあるかもしれないが、この項目はそれらとは異なる、クトリアの不毛の荒野にある幾つかの注目すべき場所について軽く触れておく。
もしあなたがクトリアで何かしら新たな事業に挑戦するつもりがあるのなら、これらの場所についてより深く知っておく必要があるだろう。
(その場合は、『ミッチ・イグニオのクトリア不毛の荒野生き残りガイド』 の御購入をお勧めする)
【ノルドバ】
ノルドバはクトリア市街地、マクオラン遺跡から南へと向かった先にある居留地で、近くに幾つかの古い遺跡やその廃虚がある。
ここの住人の多くは農作、畜産、狩り、そして遺跡やその周辺でのゴミ漁り等で生計を立てており、また王国駐屯軍の定期巡回の兵士達やグッドコーヴ(後述)とクトリア市街地との交易商隊向けの休息、宿泊所としても機能している。
特にこれと言った見所はないのだが、街の西側にある巨大な地竜の石像だけは圧巻だ。
尚、近くに火焔蟻の餌場があるとの報告もあるため、十分な注意が必要になる。
【グッドコーブ】
西カロド河の河口東側付近にある漁港でありかつての交易港でもある。
現在は塩づくりと漁で生計を立てており、やはり王国からの旅行者にとっては取り立てて見るべきものの無い居留地ではあるが、マヌサアルバ会でも使われている魚醤の生産地でもあり、クトリアで素朴で新鮮な海の幸を食べられる町と言えばここしかない。
尚、クトリアの魔獣として有名な鰐男、岩蟹などは、河には多く棲むが海には少ないため、船で外洋へ行かない限りは比較的魔獣の危険の少ない地域でもある。
ただし季節にもよるが、近くの岩場に生息するオオヤモリには要注意。大きく成長した個体や魔獣化した個体は様々な能力を持ち、人間を頭から丸呑みにすることすらあるという。もっとも海岸沿いには幼生しか居ない事が多いそうだが、産卵期には成長した個体が現れることもある。
【モロシタテム】
東カロド河を渡る際の船着き場があり、またかつてクトリア北を塞ぐ大山脈“巨神の骨”を東に迂回して帝国領方面や、東方のディシドゥーラやシムルシュ藩国等との陸路交易路の出入り口としても機能していた宿場町。
しかしマクオラン遺跡の転送門が発見、活用されて以降はその存在価値を失い寂れて行った。
まだ確証のとれていない最新情報によると、最近の魔人討伐戦の結果解放されたセンティドゥ廃城塞の奥に、なんと自然豊かな精霊の恵み多き盆地が発見されたらしく、その地域への中継地としてにわかに注目を集めている。
【ボーマ城塞】
西カロド河を越えてさらに進むところにある山岳城塞。
かつて邪術士の専横極まりし時期はこの地に多くの避難民が集まって居たと言うが、王国軍のクトリア解放後には殆どが市街地へと移住し、もはや人の住まなくなった廃城塞……と、思われていた。(前回までの拙著でもそのように記載していた)
しかし、狩人達からも“亡霊の住む城塞”と噂され、また残っているとしてもごく少数の山賊くらいであろうとみなされていたこの城塞に、実はかなりの人々が住んでいたことが最近になり判明した。
しかもそこを指揮しているのはクトリア王朝後期に海運業で知られていたヴォルタス家と、かつての王国闘技場で名を馳せた剣闘士、 金色の鬣ホルストだというのだ!
彼らは何艘かの帆船、魔導船等を所有し、今でも海路交易を続けており、またなんと最近市内で流通し始めた極上のヤシ酒を生産しているともいう!
ボーマ城塞にまで行くのはかなりの危険を伴うため筆者としては決してお勧めしないが、貴族街の各店、また西地区の『牛追い酒場』などでその酒を味わうことは是非にとお勧めする。
【東方、赤壁渓谷近辺】
東カロド河を超えて、“巨神のつま先”近辺にある赤土の渓谷には、決して近づくべきではない。
聞いた話ではこの付近にはジャーヴィー侵攻軍に随伴していたカーングンス遊牧騎兵の残党が居留しているという。
彼等の恐るべき騎乗技術と騎射の腕前はかつての帝国精強歩兵すら恐れさせたものであり、万が一にも出くわすことは避けたい。
【北方、巨神の骨盤】
北をぐるりと囲む大山脈“巨神の骨”の中でも一番の標高を誇る“巨神の骨盤”付近は、特に人食い鬼が多く生息しているという噂が絶えない。
オークと巨人の混血であると言われる人食い鬼は、その巨体と凶暴さで広く知られており、出くわして帰った者は居ないと言われる。
とにかく“巨神の骨”には決して近寄ってはならない。
●貴族街
さて、お待ちかねの貴族街についてだ。
貴族街では様々な娯楽、お楽しみが味わえるが、そこでのお遊びには注意が必要になる。
これは王国市民または貴族の方々全てに共通していること。
残念なことに現在のクトリアは、王国とは違い法秩序が行き渡っているわけではなく、貴族だからというだけで安全が保証されるとは限らない。
貴族街を取りまとめている謎多き“ジャックの息子”は、古代ドワーフのガーディアンを復活させ治安維持の警備兵として利用するほどの術士ではあるが、それでも完璧な目を持っている訳ではない。
また“三大ファミリー”と呼ばれるクランドロール、プレイゼス、そしてマヌサアルバ会もそれぞれに自前の兵力を持つが、彼らもまた王国市民を守り王国貴族に仕える存在ではなく、あくまで自己の利益のために動いている。
基本的にクトリアでは「王国の法による守り」の庇護はなかなか得られない、と覚悟しておいた方が良いだろう。
【貴族街北区・王国大使館】
さて、まず先に紹介したいのは三大ファミリーの貴族街南区ではなく北区だ。
ここには王国駐屯軍も駐留している大使館がある。
先も述べたとおり、クトリアでは王国の法の庇護は万全ではないが、万が一のときにはこの大使館へ向かうことをお勧めする。
そのため、初めてクトリア貴族街を訪れた王国市民及び貴族の皆様方は、まず第一にこの大使館への道順を確認しておこう。
【貴族街北区・宿屋“死の罠の地下遺跡”】
とんでもなく不吉な名前の宿だが、実はここはクトリアで唯一“ジャックの息子”の直接の庇護下にある宿泊施設で、快適安全な地下遺跡でもある。
三大ファミリーの経営する施設に比べればみすぼらしくも思えるが、宿賃もさほど高くはなく、また古代ドワーフ遺跡を改築した宿泊施設というのも趣があり、大使館がすぐ近くというのも安心感がある。
なおここでの名物お土産は、古代ドワーフのローブ。古代ドワーフ達が着ていたとされる小さめのローブであり、そのままローブとして着てしまえば横幅はぶかぶかで縦丈は短すぎるのだが、他の服と合わせて着てみるのも面白いだろう。
【貴族街南区・クランドロール“大神殿”】
重厚堅牢なこの建物は、貴族街三大ファミリーの最武闘派として知られるクランドロールの娼館である。
濃厚な夜のお楽しみを求めるのならばここしかない。娼婦、男娼はもとより、クトリア人帝国人のみならず、金髪碧眼の美しい北方人、 漆黒の肌も魅惑的な南方人、赤毛で小柄な西方人や、滑らかな黒髪の東方人も居るし、なんとエルフやドワーフ、ハーフリングに獣人、オークと、様々な需要にお応えできると言う。
最近、ボスのサルグランデが右腕のネロスと共に引退をし、実務を請け負っていたクーロが団長の座を受け継いだ。
これにより曰わく「様々な改革」が行われ、サービスの向上が得られると宣言しているが、それがどのようなものかはまだ分かって居ない。それがどう変わったのかは、後の改訂版で触れられることになるだろう。
【貴族街南区・プレイゼス“大劇場”】
クトリア王朝後期に盛んであった様々な芸術演芸活動を復活させたことで名を馳せているプレイゼスの劇場は、やはり必ず訪れるべき名所なのは間違いない。
会食や酒、サボテン煙草等を楽しみつつ、ゆったりとした優雅な演奏に身を委ねても良いし、軽業師や芸人の様々な芸を楽しんでも良い。
また副支配人のパコによれば、今後は演劇、歌劇等にも力を入れていくとのことで、今はなんとあのニコラウス隊長による対魔人討伐戦を歌劇にして上演する準備中だそうだ。
完成した暁には女房を質に入れてでも見に行かねばならないことうけあいである。
【貴族街南区・マヌサアルバ会“白亜殿”】
美食で名高いマヌサアルバ会は、豪華な食事とゆったりとした浴場に、さらには美容に良いマッサージ等を提供する。
かつての帝国貴族でも味わえただろうか、と思えるそのサービスの数々は、わざわざクトリアまで来たことが大正解であったと真底思えるだろう。
彼らの“白亜殿”は他のファミリー以上に美しく手入れの行き届いた複合施設で、その建物、庭園の美しさだけでも眼福ものだが、やはり一番の売りは美食である。
料理人達の創意と技術に加え、クトリアで手に入る最高級の素材は、他の追随を許さない。
また、ボーマ城塞で作られていたという最高級の熟成蒸留酒を飲めるのもここだけだ。
彼らは多くが魔術の使い手であり、見た目の優美さに反して、決して侮ってはいけない相手でもある。
食にこだわる彼らに対して口さがない中傷も絶えないが、筆者としてはそれらの全ては根も葉もない噂であると思っている。
【貴族街南区・妖術師の塔】
内城門から比較的近くに建っているこの高い塔についても触れねばならないだろう。
この塔こそが貴族街の支配者である“ジャックの息子”の居城だ。
この中に入ったことのある者、そして“ジャックの息子”に会ったことのある者は一人も居ないとされており、それは貴族街三大ファミリーですらそうなのだと言う。
クトリアで最も謎に包まれた術士であり、また恐らく最大の実力者でもある。
そして彼の支配するドワーベンガーディアン警備兵は、他のどの武装勢力よりも恐ろしい存在なのだ。
かつてこの塔へと侵入を試み、その地位やなぞめいた知識に財宝の類を掠めとろうと試みた者達の哀れな末路については、ここで改めて書き記す必要もないだろう。
【最後に】
クトリア不毛の荒野の安全度は、先日王国駐屯軍対魔人部隊ニコラウス・コンティーニ隊長の指揮による対魔人討伐戦の結果かなり向上したと言える。
これは精強なる王国駐屯軍に、我々クトリアの狩人やボーマ城塞、またシャーイダールの探索者達までが参加したことでなし得た偉業であり、後世へと語り継ぐに足る一大転機と言えよう。
しかしとはいえそれでもクトリア近郊の不毛の荒野が、どの王国領よりも危険な地であるという事には代わりはない。
そして同時にまた、様々な魅力に溢れた土地であることも。
クトリアを訪れる王国市民または貴族の方々は、そのことを十分に心に留め置いて頂き、またこの拙著を熟読し、改訂版が出た際には必ず新しい情報を入手して頂きたい。
それでは、良い旅を!
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