遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-95.J.B.(62)My way.(我が生涯に一片の悔い無し)

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 ルイジアナ州生まれのマイケル・マクレガー。母子家庭の貧困層に育ち、小さな頃からロック好き。中でも祖父の持っていた古いロックスターのレコードを好んで聴いていた。
 短気で喧嘩っぱやいが根は臆病で、パーティー好きのお調子者。ハイスクールでは仲間数人とバンドを組みそこそこ人気者になるが、やはり短気が災いして喧嘩別れ。
 母親が事故死したことで天涯孤独となり、心機一転ベガスへと行き音楽で身を立てようと奮戦するもなかなか芽は出ない。
 そんなときに思い出したのが、子供の頃に祖父と聴いていた“キング・オブ・ロック”の名曲。
 自らの原点へと回帰して、物まね芸人としてステージに上がり、それなりの評価を得る。
 とは言えアメリカのショービジネス界では“キング・オブ・ロック”の物まね芸人なんてのは吐いて捨てるほど居る。層が厚くてライバルも山ほど。
 そこで自分なりの売りを作ろうと試行錯誤してやってみたネタがそこそこウケた。
 
「新しいロックナンバーやハードコアラップを、“キング”のコスチュームと物真似でアレンジしてカバーする、ってのをネットにアップしてみたらな、結構な再生数が稼げたんだよ」
 懐かしい思い出話を語る顔で笑う“キング”。
「それがまた面白いもんで、動画が日本のテレビ局にピックアップされて、ちょっとしたオファーが来た。
 日本大好きなアメリカ人という“設定”で、同じネタを日本のロックナンバーや歌謡曲でやってみないか、ってな」
 日本の音楽は良く知らないが、ギャラも出るし芸の幅も広がる、と、それを受けて飛行機に乗り東京へ。
 
「アレはテロだったのか単なる事故か、はたまた隕石でも墜ちてきて偶然激突したのか───」
 そこで一呼吸。フッ、と軽く息を吐くように笑って、
「今となっちゃ分かりもしないが、何にせよ俺の乗ってた飛行機は墜ち、俺達は死んだ。
 死んで───まあ、“こうなった”ワケだ」
 
 “キング”の語る“昔の話”の前半部分は、おおよそそんなところだ。前半、つまりは前世の部分は、だ。
「───OK、OK分かった。整理しよう。
 “キング”、あんたの前世はルイジアナ生まれの物まね芸人で、飛行機事故で死んだ後に───この世界へと“生まれ変わった”。
 そして─── クトリア旧商業地区の自警団、王の守護者ガーディアン・オブ・キングスのリーダーとなり、チンピラ連中をまとめ上げて今に至る───、と」
 何だよそりゃあ。頭が混乱してくるぜ。
「最高に“ロック”な人生───だろ?」
 確かに、とてつもなく“ロック”だ。
 
 が、しかし───。
「ふーん? てことはおまえさんも、ベガスの“キング物まね学校”に居たクチか?」
「はは、懐かしいな。だがそんなに長くは通ってねえ。せいぜい半年くらい……てとこか」
 俺はイベンダーのオッサンを見る。オッサンもまた自称ベガスの救世主。インチキ臭いが前世は科学者で運び屋で商売人。
 だがその後ろ、コーラの入ったグラスを手にしてポカンと口を開けているちびオークのガンボンは……?
 
「そこのオーク。アルバの見立てじゃあお前に“日本料理”をリクエストすれば、何かしら作ってくれるだろう……ってな話しだが、実際どうなんだ?」
 マイケル・マクレガー改め“キング”にそう言われ、ガンボンはコクコクと頷いて返した。
 ───マジかよ!?

 ■ □ ■
 
 その飛行機に乗っていたうち50人か100人か。正確なところは分からないが、かなりの人数がこの世界で“生まれ変わって”いる筈だ、と。
 “キング”曰わくそう言うことらしい。
 
「お前らはその飛行機に乗ってたんじゃない……んだよな?」
「ああ。俺はロスでギャング抗争の巻き添えになって死んだ」
「俺は詳しい事ァ覚えとらんが、まあ違うだろう」
 俺もオッサンも、そしてこの“キング”も前世はアメリカ人だが、このちびオークのガンボンだけはどうやら違うらしい。
「お、れも良く、分からない」
 前世では日本人で、高校の柔道特待生とかいうヤツだったとか。何だよ、ちょっとしたジョック(体育会系エリート)じゃねえかよ。キャラ的にはギーク(オタク)臭ぇのによ。
 
 そして一番違うのは、“キング”は飛行機事故で死んでこの世界へと転生する際、“神”に会っているらしい、ということだ。
 正確には“自称・神”の、気味の悪い老人だ、という。
「オフクロは敬虔なプロテスタントだったが、俺はそれほど神を信じちゃいねえ。
 それにそこで会った“神”を称する爺は、とてもじゃないが“神”とは思えない不気味で不吉で禍々しい───どちらかと言えば“悪魔”みたいな奴だったさ」
 
 その“悪魔のような老人”が、こう言ったそうだ。
「お前達の何人かは、新たな人生では特別な魔法の力を持つ者も居るだろう。その力があれば何でも自由に出来る───」
 ───と。
 
 いや、待て。ちょっと待て。
 覚えがある。覚えがありすぎる。
 俺のこととして、じゃあねえ。つい最近聞いた話の中で、だ。
 
「そいつは───いや、待ってくれ。じゃあネフィル───“三悪”連中もまさか……?」
「ああ、そのハズさ。特にアルバは奴等とは前世からの仲だそうだ。俺は違うけどな」
 
 今まで微かに引っかかっていた細かな違和感が繋がる。
 ネフィルは俺のことを“南方人ラハイシュ”ではなく“黒人”と呼んでいた。しかしこの世界ではその言い回しは普通使われない。
 死に際に奴は存在してない雪を幻視していたが、クトリアでは“巨神の骨”の山頂以外で雪が降ることはない。つまり、奴の前世での記憶が現れていた……?
 “猛獣”ヴィオレトの“仲間”への強い思い入れも、魔人ディモニウムの仲間、ではなく、前世からの仲間、ということだったのかもしれない。
 クークは……うん、まあ除外しとこう。あいつはただのゲスだということ以上の情報がない。
 そしてそいつらとアルバとの“因縁”が、単にその血を分け与えたことで魔人ディモニウム化させてちまったということだけではなく前世からのものだと言うのなら、アルバが連中に対して「助けたい」という気持ちを持ち続けて居たことも分かる。
 
 だが、それとは別に、だ。
「───アルバはいつ、どうやって俺達も前世の記憶を持ってるってことが分かったんだ?」
 そこは謎だ。
「具体的なことは俺にも分からんさ。というか、あの娘自身と直接会って交流してたわけじゃないからな。
 3年程前から何度か手紙をもらってやりとりをしてた。
 その手紙にはハッキリと英語で飛行機事故や老人のこと、クトリア近郊にもまだ数人前世の記憶を持つ連中が居るだろうこと、そしてその中には“三悪”と呼ばれるようになった魔人ディモニウム達も含まれてる事なんかが書かれていた」
 
 てことは、結構前から俺のことも? そう聞くと、
「血の因縁もある三悪なんかは別として、それ以外の“前世の記憶を持つ者達”に関してはそこまでハッキリとは分からないらしい。
 魔力感知の魔法ってのがあるだろう? あれと似たような能力で、かなりの広範囲の魂だか何だかを感じ取れるらしい。
 その中で俺達“前世の記憶持ち”連中は、そうでない奴らの魂とはちょっとばかし感触が違うんだと」
 何がどう違うかは多分本人にしか分からないんだろう。それを聞きガンボンのやつが叉ふはっ! と反応し、小さく「二重の……」とか何とか言っていたが、よく聞き取れなかった。
 
 “キング”は続ける。
「俺に関してもクトリア城壁内にその存在を感じ取ってから、諸々の行動や何かの情報で候補者を選び出し、最終的には手紙で確認をしたってな流れさ。向こうの言葉が読めて内容が通じるならアタリだ、って理屈でな。
 そして二年くらい前に別の奴を感じて、最近になってもう一人。そして先日の魔人ディモニウム討伐戦のときにまた一人感じ取った。
 確信が持てるまでは働きかけるつもりはなく、そしてその最終的な確信を得るために試食会にお前達を呼んだそうだ」
 
 おおよその見当はつけてたが、実際のところは分からない。その確認のために呼び出したら、その三人のうち一人はソーダマシンを作ってコーラを振る舞うし、もう一人のオークは、オーク文化はおろかこの世界の人間の料理文化をも超越したけったいな料理を作るしな。
 そりゃ確信も持てる。
 
「ふうむ。しかし慎重というか……なかなか回りくどいのう」
 イベンダーのオッサンの言うとおり、確かに回りくどい。
 そう言われると“キング”は再び小さく笑い、
「……俺へのプレゼントのつもりだったのかもな。
 同じ国に生まれた前世の記憶を持つお前らと引き合わせて、懐かしい味を味合わせて……。
 フフ……。死ぬ前に、楽しい思いが出来た」
 
 ───そこに話は戻る。“キング”はじきに死ぬ不治の病なのだというそのことに。
 
 
 恐らくは癌だろう、と“キング”は言う。
「グレイティアによると、身体中に“病の影”が転移してるらしい。
 まあ言われなくても出来ることは手を尽くして来たし、お前さん達の魔法薬も使わせてもらってみたが、一時的に復調しただけだった」
 シャーイダール……ナップルの魔法薬でも完治しないんなら、実際俺達に出来ることは何も無い。
「後は、文字通りに“神の奇跡”ぐらいしか手はねえが……どーもこの世界の神ってのは癖が強すぎらあな」
 
 また、小さく笑ってからこちらを見る。その瞳の色には恐怖も怒りも無い。
 それから、ゆっくりと壁の方を指差した。
 例のコスチュームの反対側。壁に掛けてあるのは変わった形の弦楽器、ウルダ───いや、半分に割った卵みたいな形が基本のウルダとはフォルムが違う。明らかに俺たちの前世で使われていたギターに似た形。
 
「誰か、ギターを弾ける奴は居ねえか?」
 
「ああ、まあ一応、少しはな」
「それじゃ、ちっとばかし頼みを聞いてくれねえか?」
 そう言うと“キング”はベッドの上でゆっくりと上体を起こす。
 
 ■ □ ■

「───“キング”!? ど、どうしたんだ一体……!?」
 パスクーレが慌てて駆け寄るが、ステージ衣装に身を包んだ“キング”はそれを制止、ガンボンとイベンダーのオッサンに肩を借りつつ歩き続ける。
 俺はその後ろに付き、壁に掛けられていた楽器、ギターの一つを肩から掛けている。
 
「パスクーレ、今居る奴らだけで良い。ステージのある部屋に集めてくれ」
「ちょっ、ま、まさか“キング”……!?」
「なあ……昔は良く2人でやったもんだよな。朝まで酒飲んで……歌って……踊ってよ……」
「あ、ああ、そうだけどよ……」 
「懐かしいなァ、おい。
 邪術士どもに飼われてるような境遇で、それでもなんとかやってこれてたのは、おめえや仲間達が居たからだ……」
 
 ステージのあるフロアは一階。入り口からゲートを潜ったすぐ次の部屋だ。
 次第に集まりだす本部にいたメンバーは50人くらいか。南門前市場の仕切りや、巡回警邏、各城門前や詰め所にいる奴等以外、だいたい全てが集まって来たらしい。
 ステージ上には椅子が置かれ、そこに“キング”が座る。一応両サイドでガンボンとオッサンが待機してるが、少なくとも今の調子は悪くはないようだ。事前に会ってたグレイティアが何かしら治癒術を使ってくれたのだろうか。
 俺はその“キング”の右手側に少し離れて立つ。
 なんとなくで適当に合わせろ、なんて言われても……まあ、やるしかねえ流れだけどよ。
 
 ざわめきつつも、“キング”の次の言葉を待つメンバー達。
 その目には不安と期待と尊敬がない交ぜになった複雑な光が映し出されている。
 
「───よう、兄弟達。わざわざすまねえな。
 ここんとこちょっとばかし調子が悪いもんでこんな様でステージに上がっているが、そこんとこは勘弁してくれ」
 マスターオブセレモニー。ステージに上がった“キング”には、物まね芸人とは言え前世でショービズ界に身を置いてきただけの貫禄がある。
 
「そんなことァねえよ、“キング”!」
「“キング”がステージに居るってだけで感激だ!」
 パスクーレを始めとして集まってるメンバーは既に異様な盛り上がりを見せ、目に涙を浮かべている者まで居る。
 なんつーか、ちょっとした宗教みてえだな。
 
 “キング”のMCは続く。
 
「クトリアの不毛の荒野ウェイストランドにゃロクなもんがねえ。
 昔の市街地で手に入る食い物なんざ臭ぇオオネズミかサボテンぐれえなもんだった。
 俺達ゃ毎晩夜中になると、下水を潜って外に出てはチョーク・サボテンを取りに行ってた。
 チョークサボテンのサラダ。
 チョークサラダだ。
 いいか、チョークサラダだ───」
 
 合図が入る。リズム。カウント、1、2、3───。
 

 ─── 南 南のノルドバの街 怖い 怖い鰐男が住んでいた
 タニーはイカした良い女で 鰐男だって黙らしちまう
 婆さんは鰐男に食われてた オフクロは盗みで捕まった 人買い野郎の手下だと
 
 毎晩谷間の廃墟の近く “チョークサラダ”を詰みに出掛けてた 
 背負い袋にゃ山ほどの量 タニーが作る“チョークサラダ”─── 
 
 
 
 軽快なリズムに、深く響く艶っぽく色気のある声。
 しかもこいつは歌詞も曲調も“この世界流”にうまくアレンジしている。いや、もしかしたら“キング”自身の“この世界”での人生を歌っているのかもしれない。
 
 
 
 ───オヤジは酒浸りの負け犬野郎 腰が悪いと嘘をつく
 タニーの兄貴はやさぐれて 盗みと脅しと喧嘩沙汰
 “チョークサラダ”・タニー バアさんは鰐男に食われちまった
 誰もが悲しみ嘆いていたさ オフクロはまたも捕まった
  
 ───“チョークサラダ”を食らわせてやろう 全部めちゃくちゃにぶっ飛ばしてやる
 ───“チョークサラダ”を食らわせてやろう 全部めちゃくちゃにぶっ飛ばしてやる
 ───“チョークサラダ”を食らわせてやろう 全部めちゃくちゃにぶっ飛ばしてやる…… 

 
 
「上がれよ、兄弟! パスクーレ! 俺の代わりにダンスってくれ!」
 
 勢い良く飛び上がってステージインするパスクーレは、そのまま華麗なステップで跳ね回る。
 驚いたな。ただの傲慢で頭の悪いチンピラとしか思ってなかったパスクーレだが、こいつは見事な“キング・オブ・ロケンロール”のツイストダンスだ。腰をくねらせる50'sロカビリーのロックダンス。その発展系とも言えるそれは、少なくとも元々のこの世界のダンスとは全く違う。
 
 
 
 ───看守の野郎の目を盗み 俺達ゃイカしたパーティーだ
 クトリア城壁の牢獄で 飛び跳ね手足をぶん回し 朝まで歌って踊るのさ
 ロック! 誰もが踊るぜロック! ブタ箱の蓋をこじ開けて
 牢獄揺さぶり 踊るのさ───
 
 
 
 ステージの下ではメンバー達もが踊り狂う。
 全くヤベえぜ。前世の俺の感覚からすりゃ、古臭いオールディーズのロックナンバー。親父やお袋どころじゃなくて、半ば爺さん婆さんの世代のそれだ。
 けどこの世界に来てからの感覚で言やあ、ある意味とんでもねえ“未来”の音楽でありダンス。
 この“キング”の名高い“カリスマ性”の一端は、前世の記憶にあるショービズ界でならしたエンタメスキルにもあるんだろう。
 確かにコイツは、クトリア人の脳みそを揺さぶロックするな。
 
 俺の演奏なんか殆ど無意味。だいたいそんなオールディーズのコードなんかたいして覚えちゃいねえ。言われた通りにおぼろげな記憶で「なんとなく適当に」合わせてるだけ、だ。
 俺自身がこの狂騒に飲まれてくってことは無い。ガンボンは相変わらずのとぼけた面でポカンとしてるし、イベンダーのオッサンは面白そうに眺めてる。けれども俺は───。
 
 何曲かのアップテンポの軽快なナンバーが終わり、“キング”が両手を挙げて次第に会場をトーンダウンさせる。
 熱狂と喧騒は徐々に落ち着いて、また再び全員の視線が“キング”へと集まって行く。
 
「───パスクーレ」
 深く落ち着いた呼び声に、今まで激しくダンスを続けて息も上がっていた細身のパスクーレがゆっくりと近づき、“キング”の脇にしゃがみこむ。いや、膝を着き傍らに侍るようなその姿は、王に忠誠を誓う騎士のようでもある。
「俺の、今日最後のナンバーだ」
 
 合図、スローなリズム。歌い出しは低く、そして───。
 
 
 
 ─── さあ もう終わりの時が来た 
 人生という名のステージに ゆっくりと幕は下りていく
 友よ お前に聞いてほしい 今ならはっきりと言えるのさ
 俺たちの歩いてきた道は とんでもなく苦難に満ちていた
 けれども 自分の道My wayから 逃げ出したりはしなかったよな
 
 後悔だってある 今更どうにも出来やしない
 だけど目を逸らさず するべきことをし
 遠回りだが 多くのことを成し遂げてきた
 中には願った以上の 素晴らしい成果もある───
 
 
 
 ───アメリカ人なら誰もが知ってるスローナンバー。本家の“キング・オブ・ロケンロール”もカバーしていたそれ。
 今までの“キング”によるカバーがそうであるように、これもまた彼自身の“この世界”での人生を歌っているかのようだ。
 
 
 
 ───俺は愛し 笑い 泣き 多くを得て そして多くを失った
 けれども今心に残っているのは 全てが美しく愛おしい思い出だけだ
 してきたことを振り返れば 誰もが褒め称えることだろう
 だがそれは 友よ お前が傍らに居てくれたからだ

 何をすべきか 何を求めるべきか 迷いは常にあった
 その迷いの中で自分を偽れば 神とて欺いちまっただろう
 祈りの言葉は 常にお前と共にあった
 俺が自分を信じ 我が道My wayを貫けたのは
 お前が第一に俺を信じてくれたからだ
 
 そう それこそが 俺の人生My way───
 
 
 
 ───静寂。その中に小さな波紋のように広がる嗚咽、むせび泣き。
 殆ど男だらけの薄暗い部屋の中で、何人もの屈強な男達が目に涙を浮かべてる様は、傍目には半ば滑稽でもある。
 けど誰もがはっきりと分かっている。今のラストナンバーは、それまでのようにただ自分の人生を振り返った歌じゃない。
 最古参としてずっと“キング”の傍らに居たパスクーレに向けての歌だ。
 
「“キング”、お、俺は───」
 嗚咽し言葉に詰まるパスクーレを遮り、“キング”はステージ上から全員に向けて言葉を発する。
 
「俺は今日をもって王の守護者ガーディアン・オブ・キングスのリーダーを降りる」
 はっきりとした引退宣言に、次第にざわめきが広がる中、続けて今度は、
「そして次のリーダーには“大熊”ヤレッドを指名する」
 と宣言した。
 
 ざわめきが、ぶわっと広がり大きくなる。

「キ、“キング”、それは───」
「な、何でなんスか!?」
 恐らく“パスクーレ派”の若手達がそう声をあげるが、
「パスクーレ、お前にゃ組織の頭は似合わねえ」
 とにべもなく返す。
「俺は───」
「お前は“組織”じゃなく、俺の“ ソウル ” を継げ。
 それが出来るのは、最も愛すべき唯一無二の友、お前だけだ───」
 
 再びのざわめき。しかしそれは次第に歓声へとなり、部屋の中を埋め尽くす。
 
 ああ、糞。うるさすぎて鼓膜が破れッちまう。
 俺は役目を終えたギターを壁に立てかけ、オッサン達を促し部屋の外へと向かう。
 ステージ上で泣きながら抱き合う男2人を後に残して。
 
 
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