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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-92.追放者のオーク、ガンボン(44)「いやそこは『スカっと爽やか』と言ってよ!」
しおりを挟む……何故だ?
何故こうなった!?
あ、ありのままに起こった事を話すぜ?
俺は何故かイベンダーとJBと共に美食レストランの招待を受けたためにおめかしして食事をしに行ったら、いつの間にか料理を作ることになっていた……!!
Why? 何故に?
いや、イベンダーさん何言うてくれますねん!?
思わず嘘関西弁で突っ込みしちゃいますよ!?
しちゃいますよッッ!!??
しちゃってももはやどーしょもないけどッッ!!!
「よし、それじゃあ一旦アジトに戻って準備をするか!」
なーんて言って、イベンダーとそのままとって返す。
俺はもうあわあわしつつどーしたものかという感じ。一応、幾つかキープしてた食材諸々あるけど……なあ。
仕方なしにあてがわれた「見習い用の部屋」に置いておいたそれらを纏めて背負子に背負う。後ろから見ると荷物の山が動いてるみたいだ。
お留守番のタカギさんに挨拶とフルーツを差し入れていると、シャーイダールのアジトとやらの奥から両手で抱えられるくらいの木箱を持って来たイベンダー。
「なに? これ?」
「ふふん、まあ俺の秘密兵器だ。合間を見て地道に作ってたが、上手くいけそうだ」
と、ニヤリ。何ちょっと不安!
そして再び、それぞれに大荷物を持って貴族街へと戻りマヌサアルバ会の厨房へと案内される。
厨房ではけっこうな人数の料理人達と下働きの人達、そしてウェイターにウェイトレスと言った人達が働いてる。
白と黒を基調とした服は、それぞれの役職や階級ごとに決められたものだそうで、クトリアに来てから見かけた殆どの服装とは趣も高級感も違う。ここは何に関してもそんな感じだ。
うーん。改めてちょっと……ビビってきた……かも?
いやね。そりゃあ俺も、オークの平均からすればかなり高度な調理技能と手先の器用さがありますよ、ええ。
そこに加えて、前世を思い出したことによる豊富な料理の知識もある。
それにここ最近はレイフと共にダンジョン暮らしで、特に魔獣肉料理の経験をめっちゃ積んでる。
いやおそらくこんなにも短期間で様々な魔獣肉を料理した者が居るだろうか? いや居まい! そう思えるくらいには作ってる。
けーーーどーーーなーーーー。
ここってなんか、高級料理店? なんちゅーの? 三つ星レストラン的なところなんじゃないの?
いいの? いや本当に、いいの? 基本俺、ただの食いしん坊デブでしょ!?
昔の戦隊もので言うところのイエローでしょ? 最近(……ん? あ、そう。前世で死ぬちょい前くらいという意味での“最近”)のは全員痩せたイケメンと美女ばかりだけどさ。
とか、そんな俺の気も知ってか知らずか、ずんずんどこどこと平然と乗り込むイベンダー。
「おうおう、この辺いいか? いいな? よし使うぞ」
どっかと箱を空いている調理台へと下して広げ出す。
「ガンボン、お前はそっち側な」
てきぱきと箱の中の装置を取り出し設置しつつ、諸々の材料を並べて整理。
俺はうろうろしつつキョロキョロしつつ、なんとはなしにその場所辺りに荷を降ろす。
どーしたもんか。イベンダーはもう三種類の材料を機械にセットしている。俺はまだ全然、何をどうするかも考えられてない。
「おい、そこのちびオーク」
不意にそう話しかけられ、びくりとしながらまたもキョロキョロ。
「こっちだ、ちびオーク。お前の助手をするよう仰せつかっている」
見ると、これまた背の低い痩せた白装束の者。背はだいたい俺と同じくらいか? たしか、マヌサアルバ会の準会員とかいう人達の服装だ。
「私は順位が低いから、お前のようなくだらぬ者の手伝いをせねばならん。実に不本意だが何でも申し付けろ」
やだ何この子、言ってる内容と言いっぷりの落差ありすぎ!
「おう、それじゃグラスを持って来てくれ」
「へんてこ鎧ドワーフの手伝いは言い付けられておらん」
「むう? 良いではないか、減るもんじゃなし」
「言われておらんことはやらん」
あらま。イベンダー相手にはまた何やら素っ気ない。
「ふーん? グラスを持ってきてくれれば、真っ先に味見をさせてやろうかと思ったンだがなー?」
「へんてこ鎧ドワーフのへんてこ料理など味見しとうないわ」
「おおっと、俺は料理はせんぞ」
そう、あくまで料理をするのは俺……と言うことになっている。イベンダーは料理では無く別のものを売り込むつもりらしいのだ。
「へんてこ鎧ドワーフはへんてこな事を言うな。料理をせんのなら何をするつもりだ」
ニヤリと笑いつつ、その小さな助手を手招きして呼び寄せ、持ってきた装置の前でごにょごにょと……。
助手君は大急ぎでどこかへと消え、しばらくしてカートにグラスを幾つも乗せて戻ってくることになる。
「で、何を作るかは決まったか?」
既に準備万端なイベンダーにそう聞かれるも、正直考えあぐねている。
テーマは「立食や遊興の際に気軽につまめるもの」らしい。つまり本格的な料理というより、簡単なスナック感覚のもの……と言うことだろう。となれば例えばポテトチップスとかおにぎりとかチーカマとかピザとか肉まんとかそんなやつ……ぽいの? そいういのが良いんだろうかな。
テレビ観たりゲームやったりしてるときに食べるもの、とかだ。
ただそれ……ジャンク過ぎるよなあー。
それに材料が無い。
俺が持ってきたもの以外でも、ここに常備してる食材、調味料、調理器具などは自由に使って良いらしい。
けどやっぱり米とかジャガイモとかトマトみたいなのはない。
芋はある。けどジャガイモよりタロイモに近い。タロイモ系のチップスてのもまあ美味しい。前世の柔道部仲間に、「ほとんどの根菜類をチップスにして食う男」というのが居て、よくそういうチップス食べさせて貰ってた。レンコンとかゴボウとかも美味いし、サツマイモもタロイモ、京芋なんかもなかなか美味い。人参と大根は水分が多いのでカラッと揚げるのは難しかった。
チーズはある。けっこう臭いが強いのもあるけど、所謂カッテージチーズ系の癖のないやつも置いてあった。ただ、イマイチイメージが湧かないし、ピザにするにはやはりトマトソースが欲しい。
何より米が無い。ダークエルフ郷で雑穀を米粒に見立てて溶かした芋の粉をつなぎにしたインチキ味噌焼おにぎりを作ったりはしたけど、アレを出すわけにもいかないよね。それにやはり、前世の日本で品種改良の末作られたあの米と同じ様な食材なんて見つかりようがないと思う。
逆に何があるのか? そっちで考えてみる。
まず小麦粉はある。クトリアでは王国領からの輸入だのみでけっこうな贅沢品らしい。
モロシタテムというところでもインドのナンみたいな薄焼きパンがあった。贅沢品ではあるが、それをどう使うか……。
サンドイッチ風? やはりチーズでピザ風? いや、もっと薄焼きにすればクレープ風も出来るかな?
うーんむ。色々浮かんでは来るけどまとまらない。
「何もそんな悩む事もあるまい。単純に、自分が食ってみたいもんを作ればよかろうよ」
「お前の料理になんぞ誰も期待しとらん。好きに作れ」
イベンダーも助手君も評価辛い!
と、そうこうしていると、別の場所で調理を終えたらしい例の猫獣人の狩人だというアティックさんが食堂広間へと数人の助手にカートを押させながら向かう。
いやー、猫獣人って存在は知ってたけど、間近で観るとけっこうビックリするね! だって、マジで直立する人間大の猫だったもの!
「アティック殿はなかなかの料理人だ。総料理長は厳しいことを言うが、私は敬服する。
ああ、お前のようなけったいなちびオークではなく、アティック殿の助手をさせて貰いたかった……」
あらま。評価高いのねアティックさん。猫なのに。
「あいつは何を作ったんだ?」
「肉料理だ。というかアティック殿はいつも肉料理しか作らない。毎回な。肉の処理や調味液の工夫は素晴らしい」
猫なのに? 猫なのに魚じゃなくて肉なの?
と、そこでふいに思いついた。
そーいえば……と。
◆ ◆ ◆
「ようようよう、お集まりの紳士淑女にお兄さんお姉さんおじいちゃんおばあちゃんの皆々様方、これよりけったいなオーク、ガンボンによる考案メニューを試食を始めさせて頂こう!」
食堂広間へと入るや何故か口上を始めるイベンダー。やめて何か気恥ずかしい。
「……が、まあその前に一つ。
食前酒ならぬ食前の爽やかクールドリンクを振る舞わせて貰おうと思う」
イベンダーの運んでるカートには、例の装置といくつものグラス。
装置の大きさはだいたい一抱えくらい? 縦60センチに幅と奥行きは30センチくらいの木の箱で、前面は横に三等分されたように区切られていて、それぞれにレバーと蛇口がついている。端的に言えば、ドリンクバーにあるようなサーバーだ。
「おいおい、ちょっと待て何だそりゃ?」
JBが目を剥いてそう聞いて来る。クトリアに来てからのイベンダーの変な装置や何かを一番間近で見ていたのは彼らしいので、気になるのも当然か。
「ふっふーん、驚くぞ? というか特にお前を驚かせてやろうと思って作ったんだからな!」
ニヤケるイベンダーだけど、うん、正直俺も驚いた。あと助手君も驚いた。てか誰もが驚くだろうけど、俺の驚きと他の人の驚きはちょっと意味合いが違ってると思う。
「あいや暫く。イベンダー殿のその……貴殿の飲み物の試飲は、予定にはありませぬぞ?」
総料理長とかいう白装束のお偉いさんがそう割って入る。
「ああ、だが問題なかろう? 何てッたってもう“オークの料理番”の試食をすることになってるンだ。ま、成り行きとは言えな。
ドワーフが酒以外の飲み物を作ったくらいで驚くこともない。
それに、出来に関してはこの助手君が保証してくれる」
急に話を振られた例の助手君がやや驚いて、皆の注目に顔を赤らめつつコクコクと小さく頷く。
「本当か?」
「あ、はい、総料理長。その……イベンダー殿の飲み物は……なんとも言えぬ、その、驚きに満ちておりました……」
先ほど調理場で試飲をさせられてから、助手君は完全にイベンダーの言うなりだ。
まあ、ねえ。初めてだものねえ。
集まった一堂、かなり興味津々という感じ。こうなったらもう止まらないだろう。
「さーて、ご異存なければ始めさせてもらうが……実は三種類あってな。
まず、一応身内になるJBにその3つを試飲してもらって、それから各々の好みのものを選んでもらう、という事にしたい」
「おいこらオッサン、人を勝手に毒味役扱いすんなよ」
「ふふふ、毒かどうかは……」
グラスをセットし、レバーを倒す。
「コイツを試してみりゃ分かる…!」
プシュー、という空気の抜ける音と共に注がれる赤みがかった黒い液体。その液体は注がれると同時に小さな気泡を大量に沸き立たせ、グラスの上部に泡でできた層を作り出す。
「お、おい、オッサンちょっと待てこりゃ……」
「ヌカっと爽やか!」
「……は!?」
いやそこは「スカっと爽やか」と言ってよ! 何で“ヌ”なのよ?
まあ、それでもコレはまさにそのキャッチコピー通りのもの。
赤系の黒と独特の香り。いや、香りに関しては前世で知るそれとは違っている。ただそれでもそのヴィジュアルだけでももう「コレダ!」と思う。
つまり、炭酸コーラだ、ということを。
「マジかよ……」
呆然とした顔つきでグラスを見つめるJB。そりゃそうだ。ぶっちゃけ知らない人からすればかなり毒々しい。
「おい、それエールか? エールか何かじゃねーのか?」
ぱっと見まるでゾンビみたいに見える外見のターシャという人がそう聞いてくる。考えようによってはスパークリングワインとか? そういう風にも見えるか。
「いいから飲め、JB!」
「お、おう……」
せっつかれたJB、意を決したようにグラスに手を伸ばして口を付ける。それから一気にゴクリ、ゴクリと二口ほど。
「……っ! くぁ~~~~~~!
マジかよ、染みるわ~~~!!」
おお、意外にもというか、即座に高評価?
さっきの助手君なんかは最初の数口はかなりのおっかなびっくりで目をパチパチさせてたのに。
俺らが前世で知ってるコーラは、現在はほぼカラメル色素と企業秘密のレシピであの味、色、香りを生み出しているが、元々は“コーラの実”と言われるカフェイン含有量の多い真っ赤な木の実を使ってたという。イベンダーはそれと似たような木の実を手に入れ、このコーラそっくりの炭酸飲料を作り出した。
「……炭酸泉水か?」
「うむ。半分アタリだ。この装置は空気を圧縮し水の中に炭酸を注入する術式を組み込んである。ま、炭酸泉水を魔法で作り出してるって所だな」
睨み付けるような総料理長の視線に怯みもせずそう言ってのける。
自然のわき水の中には炭酸が溶け込んでるものがある。シュワシュワ泉だ。そして前世でのいわゆる炭酸水、炭酸ドリンクの多くは、それと同じ様なものを機械で作り出し販売してたわけだけど、イベンダーはそれと同じ様なものを魔導具として作り出したわけだ。
「だが今回は三種類、と言ったろう?」
言いつつ、後の二つの蛇口の下にまたグラスを置き、レバーを下ろして注ぐ。
「……良かろう、よこしたまえ!」
何故か妙に鋭い目つきと語調で、なかばひったくるように一つを手に取る総料理長。
「おー、アタシも飲むぜ!」
ターシャさんももう一つを取り、一気に飲む。
「ふは!? こりゃ、おおう、こりゃ、いいな!」
好評なターシャさんだが、彼女が飲んだのはコーラではなく、ジンジャーエールだ。厳密にはハニージンジャーエール。蜂蜜とショウガのシンプルな炭酸飲料。これは、他二つに比べると至って「フツー」だと思う。
「ぐふぁっ!?」
強い炭酸に癖のある臭いと味に咽せたのは総料理長の方。こちらもコーラではなく……一番近いのはルートビア、だ。
「JBが飲んだ黒いやつは、元々は南方諸島で採れる木の実のエキスを中心にしたレシピだ。これは錬金薬なンかじゃ一時的な興奮作用を齎すような薬の素材にもなってる。
ターシャのはシンプルなショウガ味。これも錬金薬素材としては身体を温める効果があるな。
最後、総料理長のは主な材料はサルサ百合の根……に似た薬草の根っ子をベースに色々と……だな。お馴染みの“夕焼けのサルサ根ソーダ”とまではいかないが、まあやや近い感じには出来た。薬効としては滋養強壮に体力増強……てところか」
そのサルサ百合の根の香り……というのが、まー一番分かり易いのが“湿布薬”。肩こりや捻挫の時に貼るアレだ。そして実際、この世界でもそういう薬としても使われる。
つまりまあ総料理長は「炭酸入り湿布薬」を飲んだのと同じよーなもの。けど別にハズレを一本用意した、てワケじゃない。実際前世の世界でもこれとほぼ同じ素材同じ風味のものがルートビアとして市販されてたんだし。……俺は遠慮する。前世の柔道部地獄の夏合宿思い出すし。
それぞれにお好みの味を確認してもらい、わーわー言いつの試飲が続く。
咽せはしたものの総料理長はルートビアそっくりの湿布薬味の薬草ソーダを気に入ったらしい。
JBはコーラ。ターシャさんは炭酸のシュワシュワがかなり楽しいらしく三種類全部お気に入りのようだ。
グレイティアさんとカリーナさんはハニージンジャーエール。アティックさんは炭酸を舐めただけで「ぶみゃあ!」てな顔つきをしてその後は全く口をつけなかった。炭酸苦手みたいね。
会頭であるというアルバさんは、というと、ハニージンジャーエールとコーラの二種類が気に入ったらしい。
しかしこのアルバさんという人、何か全身黒いふわふわなゴスロリ的ドレスを着ていて、この世界の感覚ではかなーり異質な雰囲気。
顔は半分マスクで隠れてるし、布が多いから体つきもはっきり分からないけど、なーんちゅうかこー……ね?
セクシー感すげいある!
というかこの人が名指しでJBとイベンダーと俺を招待してくれたわけだけど、他二人はともかく何故に俺も? 謎だ。
「あー、素晴らしい! まさかこんなものまで飲ませて貰えるとはな!
イベンダー、これにはかなりの報奨を与えねばならんのう」
「ほほ、そりゃあな。もとよりこの装置を売り込んでみようと思ってのことだからな!」
え、そうだったの?
「ふぅむ……それは魅力的な提案よ。しかしいかほど払えば良いものか……」
「ま、そいつはおいおい話を詰めよう。それより……な?」
ちらり、とこちらへ視線が集まる。
あ、はい。そうですね、ええ。
てか、イベンダーさん無闇にハードル上げてくれちゃってません!?
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