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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-85.ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(12)「───急に難易度上がりすぎじゃない!!??」
しおりを挟む「ほ、ほんまに、これ……や、やらなあかんのん?」
「必要、です。そうしなければ、アデリアは、いずれ、死にます」
む、この場合「死ぬ」はちょっと直接的過ぎるか? 弱る、衰弱する……辺りの方が良かったかな?
「うぅ……せやけどォ~~」
「お前ほんとうるせぇなあ。こんなん簡単だろ、サクッとやれ、サクッと」
「あぁッッ!!??」
ざっくり、だ。ざっくり。
見事的確に喉をかっ切り、それでもじたばた動くのをそのまま腹の方へと切り開いて解体。テキパキと作業を進めて息の根を止める。
「うああぁぁ、ぬろぽんが、ぬろぽんがぁぁ~~!!」
「何だよそれ」
「名前~~……」
「いつつけたよ? 早ェよ。てかつけんなよ名前なんか」
そうだぞー、つけるなよー。
これは最初から食料として召喚したんだからさー。
まあ本気かどうかも分からないけども、アデリアはたった今ジャンヌの手で命の終焉を迎えたシロオオサンショウウオの“ぬろぽん(命名、アデリア)”の亡骸の前でションボリ顔。
まあ確かに召喚した直後には「えー? なにこれなにこれ、ぬろっとしてぷるぷるで、結構可愛いやんー!」とかはしゃいでた。うん、なかなか独特の感性。ていうかそういう感性のアデリアに、ちょいちょい「レイちゃん超可愛ええなー」と言われてる僕なのですが……どーなん!? それ!?
シロオオサンショウウオは最初に支配した“水の迷宮”に居た原住生物で、ちょっとした大型犬並みの体長の大きな白いサンショウウオ。
恐らく魔獣であった双頭オオサンショウウオと近い生き物なんだろうけど、これ自体は魔獣ではない。つまり体内に魔力が残留していない。
なのでまあ、残留魔力の多い魔獣肉への耐性が無いアデリアでも問題無く食べられる食料源となる数少ない食材の一つ。
僕は“生ける石イアン”を介して、支配下にした今までの迷宮から従属化させた魔獣、魔虫、生物諸々を召喚することが出来る。
今の一つ前、“土の迷宮”からも様々な生き物を召喚出来るけど、魔獣ではなくかつ難なく処理できそうなのはシロオオサンショウウオくらいしかいなかった。
豹とか大角羊とかも呼べたかもしれないけど、魔獣じゃなくても力のある生き物は魔力を介しての制御が難しいし、こちらが食肉として処理しようとすれば抵抗してくるだろうから、シロオオサンショウウオはその中では一番処理しやすい生き物だ。
ジャンヌのナイフを操る動きは手慣れたもので、設えられたら調理台の上で各部位ごとに切り分け並べていく。
その見る間に積まれた肉の山に思わず感嘆の声を漏らす僕。
「ジャンヌ、とても手際、良い。お見事です」
不慣れな帝国語でそう言うと、
「別にたいしたこっちゃねーよ。ガキの頃からよくやってたッてだけだ」
と目も合わせず吐き捨てられる。あらま。
そんな調理場の空気を、ぐぅぎゅるるる、と言う音がかき回してくる。
腹の虫。その主は当然アデリア。
顔をやや赤らめて素知らぬ風を装い誤魔化しているが、魔力の塊のような魔造チキンを一人食べられず、僕とジャンヌの持っていた保存食を少しずつ食べていただけのアデリア以外犯人は居ないだろう。
まあ現金なもんだけど仕方ないね、うん。
彼女らが食べたことあるかは分からないけど、シロオオサンショウウオの肉は結構美味しいのだ。
さて、調理に関してだけど、確かに今までずっとガンボンにお任せしていたものの、僕が全く料理が出来ないという訳じゃない。
前世の自炊を含めてそれなりの知識経験はある。あるが……まあ素材も調味料もめちゃ少ない。
何せシロオオサンショウウオの正肉、内臓、骨等々の他は岩塩の塊に瓶に入った蜂蜜漬けのフルーツ、ドライフルーツと乾燥させたハーブ、ローストナッツ等々。魔造チキンは僕とジャンヌは食べられてもアデリアには食べられない。
なのでまあ……実にシンプルなものしか作れない。
シロオオサンショウウオ肉に塩と乾燥ハーブを擦り込んでの炙り。骨を煮込んで作ったスープは小分けにして魔造チキンとその茎などを入れたスープとシロオオサンショウウオ肉のミンチのみのスープを別々に。
内臓は……あんまり使い勝手良くないので大蜘蛛アラリンにあげたけど、そんなに喜んでない。むむむ。もう一体別のを召喚して食べさせた方が良いかな。大蜘蛛アラリンは魔造チキンだけでも何の問題もないんだけど、“狩り”をあまりしていないとストレスが溜まり不機嫌になるのだ。
ストック含めて諸々用意。残りは冷蔵保存。
その間にアデリアとジャンヌは二人でストレッチやトレーニングをしている。
アデリアは(多分無理だけど)魔術師になれるかも!? との希望を胸にし、ジャンヌは数日アデリアのお付き合い気分で参加していたのが、やってみたら自分でも実感できるくらいに魔力循環が向上してきたらしく、表向きの態度は「仕方なしに」という態ながら、結構熱心にやりだしている。
身体的にも魔力の方も、なんというか回復度というか成長度がかなり良い。
これには、ダンジョンによる魔法の補正効果もある程度加味されてるらしい。
◆ ◇ ◆
で、その“生ける石イアン”による査定、つまり能力値について、なんだけども。
「前からちょっと疑問だったんだけどさ」
『何だ、キーパーよ』
「“運”ていうの。それどういう基準で査定してるの?」
ダンジョンハートにて一人作業しながら、“生ける石イアン”へと質問をする。
“力”とか“知性”とか“素早さ”は、数値化出来るのもまあ分かる。
パネルによると“力”は僕、ジャンヌ、アデリア共にドングリの背比べ。ジャンヌが少しだけ高いけど全体的には低い。
“素早さ”はジャンヌが図抜けてて、“知性”は僕。で、“魅力”の数値はアデリアが飛び抜けている。
この“魅力”てのもなかなか難しいところだけど、“運”に比べれば数値化は分からなくもない。
外見だけでなく、社交性や話術も含まれるだろうし、その点見た目的にも社交性としても、またやかましい割に妙に憎めないところのあるアデリアの“魅力”の評価が高いのは納得出来る。
で、そのアデリアが、“魅力”と同じくらいに高いのが“運”。
ぶっちゃけアデリアのステイタス評価は“魅力”と“運”だけがずば抜けていて、“力”、“直感”、“体力”辺りがやや低め。“素早さ”、“知性”はかなりの低めになっている。
ジャンヌはそのアデリアとは対象的。“素早さ”、“直感”辺りが高く、“力”、“魅力”、“知性”は中央値前後。“体力”が低いのは長患い後だからだろうけど、それより何より“運”が低い。
因みに怪力頑強を地で行くガンボンは、ああ見えて“生ける石イアン”の査定では、“知性”も“魅力”もそんなに低く無かったりする。“素早さ”と“運”はやや低めだけど、その“素早さ”も僕やアデリアほど低くはない。意外と大きな弱点が無いのだ。
とにかくまあ、これらの中で一番数値化の根拠、基準が分からないのが、“運”というステイタスだ。
そもそも「運が良い」とはどう言うことか? てのが難しい。
ギャンブルなんかじゃ「引きが良い」とか「流れが良い」とか言うけれど、そもそも数学的には同一条件下での確率は万人に平等で、人により「良い手札が来やすい」みたいなことは有り得ない。あるとしたらそれは単なる偶然の積み重ね。
運、引きが良いとか悪いとかは、その偶然を人がどう解釈するかという話でしかないと思う。
よくある命題で、「コップに水が半分あるときに、“まだ半分もある”と考えるか、それとも“もう半分しかない”と考えるか」みたいな話だ。
「まだ半分もある」と考える人は、その事を「幸運だ」と思う可能性が高いし、「もう半分しかない」と考える人は、それを「不運だ」と思う可能性が高い。
同じ状況、同じ手札でも、それを「良い」と捉えるか「悪い」と捉えるかには個人差がある。
で、たとえばその解釈、捉え方の違いはそれを受けての行動にも影響を与える。
「まだ水が半分もあるから、ツイてる」と考える人は、そこから更に行動的になるかもしれないし、その結果さらに何かを新しく獲得する可能性も出てくる。そこで得たものをさらに発展させる……例えば「自分はツイてると確信したことで行動に出て、新たな人との縁が出来、その縁によりさらに多くのものを得られる」みたいな流れも出来うる。
そしてそれを本人も傍目にも、「幸運に恵まれた」と評する……かもしれない。
「もう半分しかない。自分はツイてない」と思う人は、恐らくはより慎重叉は弱気、無気力になり、「新たな何かを獲得する機会を自ら減らす」ことが増え、発展も成長もし難く、そしてやその結果「やっぱり自分はツイてない」と自己評価することにもなる。
別にこれは胡散臭い自己啓発本のように「とにかくポジティブになり行動することが成功の鍵だ! 運は自ら呼び込むのだ!」てな話ではなく、運というのはまず自己評価ありきで、その評価により人は行動を変え、その行動の結果を再び自己評価して運不運を語る、ということだ。
積極的で大胆な行動が必ず成功に結びつくか? 慎重で消極的行動が必ず失敗の元か?
そんなのは「人によりけり、状況によりけり」でしかない。
ただそれらの結果、例えば「行動したら良縁が出来て成功した」「特に得られたものは無かったが損もしなかった」「損失を被った」というそれぞれの状況に対して、やはりまた「自分(あの人)は幸運/不運だ」という評価がなされ、またそれが行動に影響を与える。
兎に角そういう事の繰り返しがあり、それらをまた含めて「運不運」を語るわけだ。
と。
そんなことを長々考えつつ“生ける石イアン”へとぶつけてみたところ、彼の回答はやや予想外かつシンプルだった。
『キーパーの言う諸々の事情も含めるが、最も大きいのは“霊的加護”だ』
あ、分かり易い。
「つまり───神とか精霊とか?」
神、精霊、魔神や魔獣に妖精、精霊獣だの幻獣だのと、まあとにかくこの世界にはそういう、人間やエルフやらとは次元の異なる存在が無数にいる。
エルフなんてのは人間よりかは遥かに精霊に違い存在だけども、例えば妖精などと比べるともはや完全に物質世界に囚われている。
そしてそういう超越的存在が与える、齎す“加護”にも様々なものがあるが、最もシンプルなのは「幸運をもたらす」というものだ。
「加護……加護かァ~……。
あの娘に誰がそんな強い加護を?」
『一番大きいのは、どうやら守護霊のようだ』
うしろの!? ワンハンドレット太郎的な!?
『あの者の亡き父自体がまず何者かの加護を受けていた。
そして死の際に自らの霊力と共に残された妻子へとその加護を分けた。
あらましとしてはそのようなことだろうな』
へー、と思いつつ、いや何でそんな詳しいのさ? と聞くと、
『あの娘とその仲間の部族たちは“水の迷宮”の上に住んでおり、現在ある程度キーパーの支配領域に重なっている』
「ええ~~!? ち、ちょっと待って! てことは最初の迷宮クリアした後、やろうと思えばそのまま外に出れたってこと!?」
『……そうだな、キーパーよ』
マジか!? ちょっとちょっと、聞いてないよ!? てか何かちょっとそらっとぼけてない、今!?
……まあ過ぎたことだし!? 今は今で一応目的あってやってるから良いけどさ!?
それよりも……だ。
「じゃあさ。ジャンヌの“不運”も、そういう霊的、超越的存在による影響なの?」
『───』
おお、黙秘? それとも“考え中”?
『あの娘は───もう一人よりも複雑で解析し難い』
ふぅむ、複雑……ねえ。
なんだかこれでもかってなくらいにヤヤコシイ背景が見え隠れしてるなあ。
『“呪い”も“加護”も受けているが、どちらも───そうだな、あの娘を死に至らしめる程のものでは無いが───』
何だか妙に歯切れが悪いなあ。
「何なのさ、ねえ?」
問い詰めるもしばしの沈黙。
それからまたさらに妙な重々しさを纏わせながら、
『運も不運も様々な要因で決まり、運命もまた同様だ。
しかし───あの娘が此処に“落ちて”来て、キーパーと共に歩むことになったのも又、一つの運命であり、因縁であろう───』
えー、ちょっとちょっと何なのその予言者みたいな物言い? 意味深過ぎじゃん!
ま、運命だの何だのを言い出したら、例えばガンボンとの出会いだってそうだろうし、転送門を誤って潜り抜けてこちらへ来てしまった事もそうだろう。闇の主製作の例の“星詠みの天球儀”でもあれば何か分かったかもしれないけど、今は無いしね。
運命の糸車の紡ぎ出す布地は緻密にして壮大な織物のようなもので、その一つの上を歩み続ける我ら定命の者にはその全容は分からない。それこそウィドナのような神の視点でもなければ。
そう言えば我らダークエルフの守護神の一柱でもある運命の女神ウィドナは、蜘蛛の化身とも言われて居るんだよな。そう考えるとここに来て最初に従属魔獣としたのが大蜘蛛アラリンというのも、それはそれで運命的……なのかな?
そんな風に運命に導かれしスリーウィメンズ達の共同地下生活にも新たな展開が訪れる。
ま、要は「外に出る」のだ。
壁の向こう側に空間があるかどうか、その空間がだいたいどういったものか、というのはダンジョンハートのパネルで確認するとおおよそのことが分かる。
今現在拡張を続けてきた区画は全体としては二重螺旋状にして造られている。
これはダンジョンハートを中心に外へと向かって作っていったから、というのと、それを一本道の渦巻き状にしてしまうといざというときの退路が無くなるからそれを避けた、という理由。
とは言えルール上このダンジョンハート区画及び魔力溜まりを敵方に支配されてしまえばこちらは負けになるので、僕自身にとって退路が重要かは微妙。でもジャンヌやアデリアには必要になるかもしれない。
ダンジョンハートを中心とした居住区画があり、その外側に訓練室や工房を配置。そこからそれぞれに伸ばした道の途上に監視所やら罠やら諸々を作り、今の所の終点にそれぞれまた監視所と中継点を作る。
で、もうその先は……外部、新たな別の空間だ。
最初の“水の迷宮”では、巨大な地底湖のある洞窟へと繋がり、二番目の“火の迷宮”は最初からこれまた巨大な溶岩溜まりの上の岩場が舞台。で、三番目の“土の迷宮”では自然豊かな盆地。
それぞれにユニークだったけども、今度はどんなところか。
ま、順番的には風だけどね。
ただまあ……過酷なことは間違い無いだろう。
一見豊かな自然に囲まれて過酷ではなさそうだった“土の迷宮”だって、敵戦力も豊富だったという点では過酷だった。
まあ敵対キーパーが対話の出来る精霊だったからなんとかなったけど、あれが戦闘狂みたいな奴だったりしたら相当ヤバかったよね。
あ、ちなみに今回はドリュアスさんを擬似的な使い魔化させる、というところまではいかなかった。まあ当然な話で、ドリュアスくらい高位の精霊は自我も強い。精霊獣のケルピーや魔虫の大蜘蛛アラリンみたいにそうそう簡単に影響されたりはしないもの。
けれども“土の迷宮”の魔力溜まり、ダンジョンハートを僕が支配下においたのは間違い無く、その点で言えば“土の迷宮”の主とでも言うべき樹木の精霊ドリュアスさん他魔獣達も、システム上は僕の管理下にある。
ドリュアスさんともある程度の精神的つながりは保たれてるので、ある程度は念話でやりとりしたりも可能。
そしてさらには、“土の迷宮”から魔獣達をこちらに召喚し、従属魔獣とすることも当然出来る。
「ひやぁあああ、ほんまごっついやん、これー」
恐る恐る、かつ好奇心丸出しでそれを見ているのアデリアだが、視線の先には一体の巨獣。
鼻面から背にかけて、岩のような鱗で覆われた熊だ。
闇の森にも生息するこの魔獣、岩鱗熊は、魔獣界でも攻守に優れたパワーファイターとして有名である。
とにかく力強いし、タフで頑強。そして見かけによらず素早い。
攻撃的な魔法の能力は無いものの、そのストロングスタイルの戦闘能力は地表の魔獣の中でも相当高ランクで、ダークエルフレンジャーでも不意に遭遇したなら逃げの一手だ。逃げて、戦力を整えてから集団で罠と魔法でしとめられるかどうか、な相手。
───ほぼ単独で立ち向かえる母ナナイが異常なのだ。
で、外に向けての戦力として、かなーーーり高コストではあったけども、彼をスカウトして来たわけですよ、ええ、ええ。
何せ僕らには今、パワーファイターが居ない。ガンボンが抜けて、ジャンヌとアデリアがチーム入りしたわけだけど、ジャンヌは素質素養に優れてても、魔力循環もまだ訓練中で身体的にも病み上がり。アデリアに関しては期待できるのはラッキーのみで、基本戦力には数えられない。
水の精霊獣ケルッピさんは搦め手での魔法能力は高くても馬力は少ないし(馬のくせに!)、大蜘蛛アラリンはさらにそう。糸による拘束も毒牙も、どちらかと言えば補助的。罠と不意打ち、クラス的には暗殺者タイプ。
つまりこのレギュラーメンバーの中には「敵の攻撃を正面から受け止める」役が居ない。
今の所敵キーパーが何なのか、ここがどんな場所かも分かってないけど、どんな状況でもそういう「攻守の要」となる存在は必要。
なので、なんとか頑張って召喚したのだ。
他にも召喚したのは居る。
お馴染み低コスト使い捨て兵の白骨兵。脆いけど数で押すのにオススメ。
偵察部隊は大蜻蛉を初めとする空飛ぶ巨大魔虫たち。大蜻蛉のつもりで召喚しても、けっこうちょいちょい蠅やら蚊、蜂みたいなのが交じるようになってきた。ちょっとした上位互換、みたいなもん?
巨大蚊とか、ちょっと怖いよ? だって直径1センチくらいのぶっとい管ぶっ刺して血を吸ってくるんだよ? 巨大蜂も確かに怖いけど、巨大蚊の方がリアルに怖いかも。
地上部隊で主戦力の岩鱗熊のサポートには毒蛇犬や火焔蟻も居る。
部隊編成して部隊長を決めておくとすげー管理し易くなるので、防衛は大蜘蛛アラリンを部隊長にして主力を白骨兵と岩蟹。
偵察部隊は猫熊インプを部隊長にして空飛ぶ魔虫を。
んで前面に立つ主力部隊は火焔蟻、毒蛇犬、そして岩鱗熊等を従えてるケルッピさん。
ジャンヌとアデリアは……まあ、遊軍? なるべく僕の近くに居て貰う事にしている。
「ふわー、何やのこれ、もう魔獣の軍団やん!? しかもダンジョンまで作れてまうなんて、“猛獣”ヴィオレトなんかよりめっちゃ凄いやん!?」
誰と比べてるのかはよく分からないけど、実際には僕が凄いのではなく、“生ける石イアン”と“ダンジョンバトル”のシステムが凄いのだ。僕の力ではない。
「これは、あくまで、この“生ける石イアン”の力を、利用してるだけ。私の、力では、ないです」
「せやけどそれ使えるのって結局レイちゃんだけやろ? せやたら同じことやーん!」
そのキラキラ目やめて!
反して、やはり警戒気味にふてくされ顔のジャンヌ。多分頭の中ではここでこの魔獣達と戦うことになったらどうするかをシミュレーションしてるっぽい。まあそれは僕も考える。何せ従属魔獣はこちらがキチンと世話をしないと普通に裏切るからねえ。そういう意味でも岩鱗熊あたりはハイリスクかつハイコストなのよ。餌代が特にだけど。今までの倍以上は餌である魔造チキン用意しなきゃならない。食べ物が足りないとすぐ不機嫌になるのだ。
とまあ、軍団OK! ダンジョンOK! 罠も扉も隠し通路もOK! 食料に生活居住区の整備も問題無くOK!
で、心の準備を済ませたら、後は「外」への出入り口を繋げるだけ、でスタンバイ。
総員配置につく。
僕とジャンヌにアデリアはダンジョンハート。
大蜘蛛アラリンと白骨兵等は監視所と巡回。
最前線、外へと繋げる為の出入り口の部屋に、水の精霊獣ケルッピさん率いる岩鱗熊や毒蛇犬等の主力部隊。
これは、開けた直後に襲撃をされたり、近辺に危険な敵が居た場合に備えてのもの。
で、穴掘り役の猫熊インプ達が、ツルハシ担いでエンヤコラ。
今まであまり使ってこなかった機能だけど、その様子をダンジョンハートの机に備えられたパネルに映し出している。
僕以外にも二人居るから、一緒に確認できるようにケルッピさんの視界をそのまま投影させているのだ。
「うひゃー、何や猫熊インプがお尻振ってるー、可愛ええやんー」
む、目の付け所が悪くないな。確かに可愛い。お尻振りながらキンコンカンコン穴掘りだ。ナイス僕デザイン。
「そろそろ、開き、ます」
さーていよいよだ。
今回はアデリア達のこともあったしガンボンも居ない。四番目のダンジョンでより過酷になると予想して、かなり念入りに下準備をしてから外部、別空間へと進出する。
どれほどの敵、どれほどの環境が待ち受けてるか分からないけど、出来るだけのことはしてある。
ジャンヌとアデリアにも、そうする必要性と、それでも危険があるかもしれないとの説明を重ねて言っておいたものの、アデリアは特に、どこまで真剣に受け止めてるかちと分からない。分からないけどもそれでも万全……に近いまで諸々を整えて、いざ……!
───開いた!
揺れるッ……───!?
画面が揺れる! いや、つまりは精霊獣のケルッピさんの身体、視界が揺れている。何だ!? 地震!? 違う違う、これは───。
「うわ、めっちゃ突風やん!?」
そう、風だ。しかもかなりの突風、暴風。
猫熊インプや毒蛇犬なんかの小型のもの達は立っているのも容易でない。
あ、一頭、いや二頭の毒蛇犬が風に吹き飛ばされ───うわ、開いた穴の向こうへ飛んでった!?
穴の向こうに見えるのは断崖絶壁、ごつごつした岩場の急斜面。
しかも距離は比較的近い。
つまりここは───なんというか切り立った崖……いや、渓谷……いや、巨大な裂け目の中腹……と言ったところか?
視界の中で風にもたつくこともなくどっしり構えているのは唯一巨体の岩鱗熊のみ。他はもうてんやわんや、上へ下への大騒ぎだ。
特にケルッピさんは精霊獣なので身体の半分は魔法の水で構成されてるみたいなもの。なので強い風には散らされ易く、実体をうまく保てなくなる。
「これは、拙い! とにかくいったん、風の影響を受けない位置まで下がっ……」
そう指示だしをしていた瞬間───。
ぐおぅ!? っとの雄叫び、いや悲鳴は唯一どっしり構えていた岩鱗熊のもの。
一瞬、ほんの一瞬の隙に、その2メートルはある巨体を“掴み上げ”て、そのまま空高く舞い上がる……翼のあるさらなる巨体……。
絶句、とはまさにこのこと。僕やジャンヌは当然、とにかくやかましくはしゃいでいたアデリアすら言葉が出ない。
一部しか。一部しか見えなかったもののあの姿あの大きさは多分10メートルは越すだろう巨大鳥。
多分……あれは、嵐の霊鳥……ルフだ。
前世の世界では『シンドバッドの冒険』にも登場し、ロック鳥ともまたグリフォンと同一のものとも言われ、巨象三頭を軽々と抱えて飛び去るとも言われてる伝説の鳥。
この世界にも似たような伝承があるが、その存在を明確にした記録は多くは残って居ない───。
いや、いや、待て待て待て、ちょっと待て、待ってって!?
あれがまさか今回の敵キーパー!? それとも……普通にあのレベルがゴロゴロしてる場所!?
どっちにしても───急に難易度上がりすぎじゃない!!??
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