遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-83.ダンジョンキーパー、レイフィアス・ケラー(10)「天丼すぎだろ!? 」

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 またか……。
 そう思わざるを得ない。
 またなのか……!!
 またこうなるのか……!!??
 
 天丼すぎだろ!?
 あ、いや、天ぷらを乗せた丼の天丼じゃなくて、お笑い用語で言う「同じギャグを敢えて繰り返す笑い」の意味の天丼、ね。
 てか天丼食いたくなってきた。うーん、穴子とちくわの天ぷら……あー、かき揚げも良いなー。抹茶塩で食べる天ぷらも良いけど、やっぱ天つゆだよね。
 ……うん、話が逸れた。
 現実逃避しすぎか。
 
 分かってるよ。現実を……認めなきゃいけないんだ。
 今のこの現実を……。
 
 ◆ ◇ ◆
 
 でへへ~……なんてな感じで何やらにやけた顔でちらちらと上目遣いにこちらを伺っている、おさげでそばかす、丸顔の少女。
 そしてその横で、警戒心と不信感丸出しにこちらを睨みつけてる別の黒髪短髪の少女。肉付きの良いもう一人の少女と違い、痩せぎすだが筋肉質な体つき。顔立ちは卵形の輪郭に小さなつぶらな瞳と大きめの丸い鼻。ウォンバットとかカピバラみたいだ。いや、この世界に居るかどうかは知らないけどさ。
 
 この二人は、“土の迷宮”のキーパーだったドリュアスから管理権と魔力溜まりマナプールの支配権の委譲を受けたときに、突然上から……というか、“外”から落ちてきた二人だ。
 突然のことだけども知性ある魔術工芸品インテリジェンス・アーティファクトの“生ける石イアン”からの報告もあって、使い魔の大蜘蛛アラリンへと指示を出して蜘蛛の網で素早くキャッチ……したまでは良いものの、勢い余ってそのまま落ちてきた二人とぶつかり、またもや“一方通行の転送門”を意図せずに潜り抜け……今に至る。
 
 最初に闇の森の地下遺跡からこの“ダンジョン”へと来てしまったときと同じだ。
 あの時は、仔地豚のタカギに蹴り飛ばされて、ガンボンと共に転送門を潜ってしまった。
 それは一方通行のものではなかったのだが、元々が壊れかけだったためか、僕らの移動直後に壊れてしまい戻れなくなった。
 その後僕とガンボンは、知性ある魔術工芸品インテリジェンス・アーティファクト である“生ける石イアン”と出会い、人為的な魔力溜まりマナプールの支配権を手に入れ、その魔力で“ダンジョン”を制作し、そして“敵ダンジョンキーパー”と戦うという、まるでゲームみたいなバトルを繰り広げて来ていた。
 
 
 で、今。
 移転した先であり四つ目の攻略対象であるハズの“風の迷宮”のダンジョンハート、司令室の魔力溜まりマナプールを挟んで、僕とその二人が対峙している……という格好だ。
 ダンジョンハートは今回も完全な密閉空間のホールで、装飾と強化の施された石壁に囲まれている。
 その中心にはやはり僕、つまりダンジョンキーパー用にと用意された人為的魔力溜まりマナプールがあり、そこからの柔らかで色とりどりの光が部屋を照らしている。ちょっとしたミラーボールみたいだ。
 
 その光に照らされている目つきの悪い短髪の方の少女はというと、恐らくは古代遺跡探索を生業としている、いわゆる“探索者”と呼ばれる人達の一人だと思う。
 探索者ってのは古代トゥルーエルフや古代ドワーフの遺跡からお宝を見つけては売るという、まあ分かり易く言えば文字通りにトレジャーハンターな人達。僕らエルフの立場からすると、古代トゥルーエルフの地下墳墓とかを荒らすのはむしろ墓荒らしと呼びたくなる存在でもあるけど、鈍い金色に輝くドワーフ合金の兜に胸当てをしている彼女は、おそらくそれ、特に古代ドワーフ遺跡を専門とする探索者に違い無い。
 けどその横の……何ていうかこう……変な表情のおさげの娘は……何だろ?
 探索者にも見えないし、魔術師にも研究者にも見えない。
 一応革製の胸当てなんかはしているけど、着こなしてる感じがなく、“着られている”って感じ?
 まあとにかく板に付いてない。
 
 
 けっこう、そこそこな時間の沈黙。どうしたもんか。何か話しかけた方が良いのは分かるけど、どう話し掛けたら良いもんなのか。
 何せ、僕は滅多に人間と会わない。この世界の人間とはほんの数人としか会ったことがない。
 数少ない面識のある人間は、疾風戦団の数人に、闇の主トゥエン・ディン、その弟子や類友の魔術師達。
 この世界の魔術師なんてのは基本的には奇人変人ばかりなのでサンプルデータとしては使えないし、戦団の人達とはほとんど交流してない。
 要するに「この世界の平均的な人間」を知らないし、何よりも「人間の少女」なんて……いや、もうそりゃ異次元でしょ!?
 
 そんな感じで気まずい空気で話しかけあぐねていると、意を決したようにおさげのそばかす娘が何事か話しかけてくる。
「───な、もし──けど、シャ、シャーイダール───ん?」
 うわ、半分も分かんない!?
 そうだよ、相手普通の人間だもん! ダークエルフの僕とは言葉の壁あるよね!?
「──! 違───だろ!? 大きさとか全然違うじゃねーかよ!?」
 あ、隣の探索者っぽい短髪の子の方が聞き取れる。
 
 僕は帝国語は少しだけ分かる。その帝国語に似ているんだけど、ちょっと違う? のかな?
 と言うことはもしかしてクトリア語あたりかな? 確かクトリア語は、元々はもっと帝国語とは異なる言語だったらしいけど、第一期クトリア王朝が滅びた後の内戦状態から第二期クトリア王朝を打ち立てたザルコディナス一世が帝国貴族の後ろ盾の元に新体制を作ったことから、徐々に言葉や文化も帝国寄りに変化して行ったとかのはず。
 この“ダンジョンバトル”の装置が古代ドワーフ遺跡に存在しているらしいことからも、地上はクトリア周辺なんじゃないかと予想はしていたけど、もしそうならそれは大当たりといったところか。
 
 よし、それなら───。
 
「あの───」
「ひゃーーーー!? ───った!? ────ちゃ─、しゃ───く───った!?」
「うるせーぞ、───!!」
 ひやっ!?
 何々、何そんな騒いでるの!? 何か悪いこと言った!?
 ビクリと驚くと、使い魔の大蜘蛛アラリンと水の精霊獣ケルッピさんが、僕を庇うように位置を変える。
 
 その動きに探索者っぽい短髪の子が反応し短剣の柄に手を回すが、そばかすおさげ娘が慌ててそれを抑えつつ、
「ご──なァ、───ちゃ─、───してェ─。驚かせ─────なかっ───た──」
 頭を下げるような仕草で言う。この辺のジェスチャーは帝国民とも変わらないはず。前世の日本でもそうだったように謝罪の仕草だ。
 うん、よし、一旦落ち着こう。深呼吸深呼吸。スゥーーー、ハァーーー、スゥーーー、ハァーーー……。ん、よし。
 で、改めて、
「私、は、帝国語、少し、話せます」
 I can speak English a little. ……てな感じ?
「あなたたちは、クトリア人、ですか?」
 さてどーだ? 通じる?
 
 二人は顔を見合わせつつ何かをごにょごにょ。
 そばかすおさげ娘は何故か妙に興奮気味。それに呆れたような毒づくような態度で返す探索者っぽい短髪の子。
 そして代表してか探索者っぽい短髪の子が、やや堅苦しくぎこちない帝国語で返して来る。
「そうだ。クトリアの探索者だ。お前は何者だ? シャーイダールを知ってるのか?」
 シャーイダール? 誰それ? さっきも言ってたけど、名前なのかな?
「私は、闇の森の、ダークエルフで、レイフと言います。
 シャーイダールとは、誰ですか?」
「クトリアの邪術士シャーイダールだ。探索者の親玉。知らないか?」
 うーん、知らん!
 闇の森出身なら知られててもおかしくはないけど、邪術士と呼ばれてるくらいなんだし、何かちょーヤバい事をやらかして記録から抹消されてるかもしれない。
「その人のことは知りません。誰ですか?」
「私たちのボスだ」
 え? 何それ怖い!? この子達そんなヤバい奴の手下なの!?
 
 その気持ちが顔にでてたのか、そばかすおさげ娘が
「───、そんな───奴───! 何か───仮面した───奴───!」
 と、慌てた様子でまくしたてくる。何かフォローのつもりっぽい……のかな?
「ああ、まあ。あいつはたいした奴じゃないぜ。小さくて変な奴だけどな」
 何だか部下から評価の低い親分みたいだ。何だろう、むしろ悲しくなるな……。
 
 とにかく、この子達はそのシャーイダールとかいう邪術士の部下で、探索者らしい。
 そばかすおさげ娘はまったくそうは見えないけど。
 あそこで落ちてきたのも、その探索の最中に何かトラブってしまったからだろう。
 まあその先で……こんな形で転移門を潜ることになるとは思っていなかっただろうけどね。僕だって思ってなかったし。
 
 何にせよ、この子達が今ここに居るのは僕の転移に巻き込まれた形。
 短髪の子はそうでもないっぽいけども、そばかすおさげ娘の方は明らかに遺跡探索なんかに慣れてる感じはないし、この先僕がダンジョンバトルをするにしても二人の安全は守ってあげなきゃならない。
 なんだかんだ言ってもオークならではの頑強さと怪力で、直接戦闘の出来ない僕の代わりに前面に立ってくれていたガンボンが居ない今、全ては僕にかかっているのだから。
 
 ……あ、ガンボンに関しては特に今は心配はないと思ってるけどね。
 “土の迷宮”は僕の管理下にあるわけだし、ドリュアスさんも居る。
 何か無茶なことをやろうとしたり、行き当たりばったりで外へ出たりしない限りは、そうそうトラブルも起きないだろう。
 ……あれ、やりそう。ちょっと不安になってきた。
 
 
 それから暫く、お互いにそんなに巧くない帝国語でやり取りをしてみる。
 分かったのはそばかすおさげ娘の名前はアデリアで、もう一人の短髪の子はジャンヌという名前だと言うこと等々だ。
 彼女達の話を聞きつつ、僕はとにかくひとまずは魔力溜まりマナプールを支配して、ダンジョンハートを起動する。
 それから、彼女たちは所々に火傷を負っていたので、【大地の癒し】を使って回復をさせてあげる。
 何かをする度にアデリアという子はかなりのオーバーリアクションでひゃーひゃー騒ぎ、ジャンヌという子に呆れられたり毒づかれたり。
 まるで漫才でも見てるみたいだ。

 
「レイ───、これ、何して──ん?」
 いつもの重厚な机に向かいセットアップを開始すると、これまたキラキラした目でこちらを見つつ聞いてくる。
 むーん。このアデリアという子は、なんだろう、好奇心旺盛な子犬みたいな感じだなあ。
 逆にジャンヌという子は、元々捨て犬だったため人間を信用しないギラギラした野犬、みたいな感じ。
 どっちも犬かい!? と突っ込まれそうだけど、うん、どっちも犬っぽい。二人のやり取りとか見ていると、仲間としての意識が強い雰囲気があるからね。所謂自由奔放で独立独歩な猫的なイメージはどちらにも感じない。
 なんてまあ、そんなの人間が勝手に投影してるイメージでしかないけどもさ。
 
 で、まあその問いには、やっぱきちんと答えなきゃならないよなあ……と、思うワケ。
 だってまあ、この子達にとってもここから先のことは重要だもの。
 恐らくは、僕がダンジョンバトルを勝ち上がって“クリア”しないことには、住んでた元の場所へと戻ることは出来ない。
 今までは僕自身が闇の森へと帰還できればそれで問題無かったワケだけど、これからは違う。
 何よりもこの子達を無事に送り返してあげなきゃならない。
 
「聞いて下さい。大事な、話、あります」
 
 ◆ ◇ ◆
 
「───ら、その敵キーパー──言うの─倒───外に出───、──────?」
「らしいな」
 うーん。だいたい何となく何言ってるか分かってきたな。
 というかアデリアの言葉、クトリア語だから分かり難いと言うより、クトリア語としてもさらに訛りが強くて早口だから分かり難いんじゃないかと思う。二人で話していても、ジャンヌの言葉の方がなんとなく分かり易い。
 今、一応“再読の書”でクトリア語辞書を読みながらなんだけど、やっぱクトリア語と帝国語にはそんなに大きな違い無いんだよね。少なくともエルフ語とオーク語くらいには近い。いや、もうちょっと近いかな?
 話していても、ジャンヌという子のクトリア語は、帝国語で話しているときとそんなに違わない。
 アデリアという子のクトリア語は───んー、何だろう。語調といいテンポといい、何かこう……あ! そうだ、関西弁っぽいんだ!
 いや、実際に関西弁を喋ってるワケじゃないよ、当然。ただテンポや抑揚のつけ方、言い回しの雰囲気とかが近いってこと。
 なんかそう考えると、ちょっとアデリアの言ってることが分かり易くなるかも。……ないかな?
 
 何にせよ、二人に一通りこれまでの経緯とこれから僕がここで何をするのかの説明をした。
 正直、ちゃんと伝わったかどうかの自信はない。
 アデリアは相変わらず妙にはしゃいでるし、ジャンヌは多分まだ僕のことを警戒している。僕のことを、というより、世の中の全てを警戒しているのかもしれないけど。
 ジャンヌはジャンヌなりにこのダンジョンハートの周りの壁や床を調べて出口が無いかと探ってはいたものの、当然あるわけがない。
 このダンジョンハートから外に出るだけでも、僕が熊猫インプに穴を掘らせ通路か区画を整備して行かないとならない。そういう構造になっている。
 それがこのゲームの“ルール”だ。
 
 何にせよ今日は、ダンジョンハート周りの居住空間を整備して、壁を強化し、警備のための戦力を増強。
 熊猫インプを召喚してはうひゃあ、穴を掘らせてはむひぃ、区画整備をし家具やら何やらを設置してはふはぁ、と毎度毎度アデリアのリアクションがデカい。
 そしてしばらく作業に没頭していると、周りでうろちょろしながらこちらを見ていたアデリアが何やらもじもじとしはじめ、
「あの……あんな、その……」
 と話しかけてくる。
「どうしました?」
「ダ、ダークエルフちゃんは、──へんかも───けど、その、人間は、な、こう、食べたものとか、飲んだものとかを、下から───」
 あー、はいはい。
「ダークエルフも、排泄は、しますよ。
 トイレは、あちらの角のむこうに、浴室と、並びで、あります」
「え、そう──?」
 てか、何故にエルフは排泄をしないと思っていたのかこの子は……? アイドルか?
 
「当たり前だろ、お前本当に馬鹿だな」
「ああー! すぐ言うー! そんなん言うの──アホな───ね!」
「だいたいさっき説明されてたろ。食い物と風呂と便所に寝床作ったってよ」
「え、うそ? そ──?」
「アタシはもう済ませたしな」
「えーーーー!? 先言う───!」
「何でお前に便所の報告しなきゃなんねーんだよ」
「そん……、あ、あ──! はよ行──!!」
「おい、そっちじゃねえぞ、逆だ」
 
 それからまた暫くして。
「あのー……、言う──食べ物って、これ──? この、何か、変な──」
「旨くもねーし不味くもねーぞ。てか味がねえ」
「うそ、うわ、ほ──に食う────!! うわ、うわ、動いとる!?」
 
 勿論例の魔物の餌として育てられる魔造チキンの実だ。
 実のところ食料問題はけっこうな課題で、今まで食べ物についてはほぼガンボンにお任せしていた。
 そして今までの迷宮で確保してきた様々な食材等々は、今回こちらへはほとんど持ってこれていない。
 持ってこれているのは、少量の岩塩の塊、ローストナッツ類、蜂蜜漬けのベリー、ドライフルーツ……まあ、作業中につまめる“おやつ”程度。
 なので暫くは魔造チキン暮らしになるだろうなあ……。
 
「うるせえなあ。いやなら持ってる保存食を食えよ」
「もう───んもん」
「無ぇのかよ……食いすぎだろ……」
 どうやらアデリアの方はけっこうな食いしん坊キャラらしい。
 そんこんなでぶつくさと文句を言いつつ、嫌そうにしながら魔造チキンをちみちみと食べていると、何やら顔色が悪くなり始める。
「何や───ぽんぽん、痛なって──」
 
 ……あーーーーー!! 忘れてた!
 慌てて僕はエアチェアーごと移動して、部屋の隅っこで座りながら魔造チキンを食べていたアデリアに近付き様子を見る。
 かけていた眼鏡の術を作動させて、【診断】。この眼鏡には幾つかの魔術付与がされていて、そのうちの一つ、病気、怪我、体調不良などの詳細を見て取ることの出来る術だ。
 で、結果は予想通り。
「ごめん、これ、魔力で造られた魔物用の、食べ物だから、普通の、人間が、食べると、お腹壊す」
「ええええええぇぇぇぇぇ~~~~ったたたたたた!!」
 
 所謂“魔力あたり”。
 魔力耐性の無い一般人が、急に体内に魔力を取り込んだときに起きる不調の中でも、魔獣肉等の飲食によるものだ。
 普通の───普通の? まあ、そこら辺に居る魔獣の肉でもちゃんとした残留魔力抜きの下処理をしないと普通の人間には毒になるのだけども、特にこの魔造チキンはそもそもが大地の魔力を擬似的なチキンのようなものへと変えて作られているので、言い換えれば魔力の塊。
 それを魔獣でもなければエルフでもオークでもドワーフでも無く、魔力循環を体得した魔術師でもない人間が食べれば即座に腹を下す。
 なので、まあ……後はお察し……。
 【大地の癒し】は体力回復とある程度の傷の治癒は出来るけど、病気に関してはあまり効果が無いし、何より魔力中りは残留魔力の浄化が必要なので尚更だ。
 彼女らの持っていた魔法薬を少し飲んで症状を緩和しつつも、しばーらくジャンヌの付き添いでトイレに籠もりっきりになっていた。
 
 ただ───んんー? 何か変だなー、妙だなー、おかしいなー? と。
 不思議に思い、またも眼鏡に付与された術を切り替えて【魔力感知】を使う。
 これはある程度の魔力を光のようにして可視化させるもので、熟練のダークエルフ呪術師なら呪文を唱えることもなく意識を切り替えるだけで使えるけど、僕はまだ全然そんなレベルには達してない。
 で、それでアデリアを追って歩いていくジャンヌの後ろ姿を見てみると───えええ? どういうこと?
 
「ね、ちょっと、イアン?」
『何だ、キーパーよ?』
「今、アデリアやジャンヌ達のステータスとかって参照出来る?」
『ある程度ならば』
 
 ステータス。
 このダンジョンバトルという限定された空間、条件下でのみ、内部に居る敵や味方の相対的な能力を“生ける石イアン”の査定によって数値化、ランク付けされたもの。
 それによって敵味方の戦力をある程度データとして比較できる。まあちょっと特殊な鑑定の魔法、といったところ。
 気になったのはジャンヌの総魔力値と魔力耐性。
 アデリアが魔造チキンを食べてぽんぽん痛い痛いになったのと同様、普通の人間ならばジャンヌだってそうなるのが当然なのに、彼女は「もう食べた」と言っていた。つまり、魔力中りを起こしてない。
 机のパネルから味方の項目。既に彼女たちは“生ける石イアン”の分類としては中立ではなく味方カテゴリーらしい。いや、僕の認識が、ということかもしれないけど。
 
 で、そのパネルによると───うわ、凄いなこれは。
 ジャンヌの魔力耐性はかなり高い。魔力自体もだ。
 人間でこれだけの魔力耐性と魔力を持っているとしたら、長年訓練された魔術師か魔人ディモニウムか、或いは……幼い頃から魔獣肉を食べ続けて、強引に耐性をつけたか。
 クトリア在住……いや、クトリア生まれならば幼い頃からスラム暮らしか、周辺の荒野で放浪している集団に居たかもしれない。
 魔人ディモニウムでないことはステータス表示を見なくとも確かだし、訓練された魔術師でないことも確か。
 幼い頃から荒野で魔獣を糧にして暮らし、結果的に魔力と魔力耐性を得るに至る……。
 とんでもないサバイバルスキルに元々の頑強さ、そして運と巡り合わせ。それらがあれば、有り得ない事じゃない……か。
 
『他にもそれを成り立たせ得る要素はあるぞ、キーパーよ』
 “生ける石イアン”が、考えている僕にそう思念を送って来る。
『血筋だ。遠い祖先、血縁にエルフか魔術師が居るか』
 ───成る程、確かに。
 生来的に魔力耐性を持つエルフや、後天的な修練や何かで魔力耐性を高めた者の子孫には、遠縁であってもある程度素地としてそれらの性質が残る。
 例えば僕はハーフエルフだが、後にまた人間と子供を設けた場合、身体的な特徴などは殆ど受け継がれないし、見た目も寿命もまるっきり“普通の人間種”と変わらないようになるのが殆どだが、魔力耐性などには少しの適正が残る子供になることがある。その子、孫でも同様だ。
 生まれつき魔力を持つ……というほどに影響が残ることは少ないらしいが、魔術師としての訓練を積むような場合、適正のある分かなり下駄を履ける。
 まあその辺の出自をあれこれほじくり返してつついたりするつもりはないけども、だ。
 もし本人がそれを望むのなら、その魔力耐性と魔力量を巧く活用する方法を僕にも教えてあげられるかもしれない。
 生来的に魔力循環の出来るダークエルフである僕のそれが、人間のジャンヌにそのまま使えるかは分からないけども、もしそうなれば彼女達の安全な帰還にも役立つだろうしね。
 
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