遠くて近きルナプレール ~転生獣人と復讐ロードと~

ヘボラヤーナ・キョリンスキー

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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~

2-80.J.B.(54)You Know How We Do It.(俺たちのやり方は知ってるよな)

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「うぇっへっへ、ヒーローは遅れてやってくるッ……てな!」
 相変わらずキモい笑い方でそう言うアダンは、マーランの横で“破呪の盾”を得意気に掲げる。
 先程の無数に分裂し全方位から撃ち込まれたクークの火焔槍。その半分を引き受け防いだ【魔法の盾】は、アダンの“破呪の盾”によるもの……と言うことだろう。
 
「あー、キモい。何でアダンの笑い方っていつもキモいわけ?」
 そう言って現れるのは“魔通しの弩弓”を持つニキ。
 魔力属性をボルトに帯びさせることである程度の魔法効果を持たせられるそれは、土属性の魔力を付与してボルトを地面に撃ち込むことでひび割れや地割れ、ちょっとした崩落を引き起こせる。
 クークの足場回りを囲むように撃ち込まれたそれの起こした地割れひび割れにクークは脚を取られつんのめり、その隙をついてハコブが剣を突き刺す。
 不意をついた一撃。見事な連携プレーだ。
 
「ハ、ハコブ! スティッフィは!?」
 ふんぞり返ってるアダンを押しのけてハコブへと走り寄るマーランに、無言で顎をしゃくって背後を示すハコブ。
 “雷神の戦鎚”を半ば杖代わりにして立つスティッフィ。
「スティッフィ! よ、良かった……!」
「声でけーよ、マーラン」
 珍しくも憔悴しきったような声で返す。
 
 見れば全員、結構な怪我に火傷を負っている。ストックの魔法薬を使ったのは間違い無い。恐らくその前はもっと酷い有り様だったろう。服は半分焼けてボロボロ。鎧も革部分が焼け焦げ壊れかけてもいる。
 にしてもあの巨大な炎の塊が直撃したのなら、その程度で済むとは思えない。勿論ハコブやアダンの魔法での防御も加わったのだろうが、だとしたらその後はどこに居た?
 
「壁の向こうサ」
 ニキが指し示す先にあるのは壁に開いたアーチ状の門。クークが居た場所の少し後ろ側に開いているそれだ。
「ハコブはオメーの警告より少し先にクークがこっちを狙ってんのに気付いてたんだよ。
 んで、ニキに左側の石壁へとボルトを撃ち込ませてひび割れを作らせてよ。
 俺とハコブは【魔法の盾】をそれぞれに準備。
 スティッフィが“雷神の戦鎚”でおもくそ壁をぶっ叩いて穴を開けて、ギリギリの所で向こうへ逃げ込めたんだわ」
 
 熱気と埃と煙のはれたとき、幾つかの焼け焦げた魔獣の死体の他に、瓦礫の山が見てとれた。そのときもちっとばかし違和感は感じたんだが、マーランの慌てぶりに意識がもってかれて深く考えなかった。
 
「向こうの通路にも魔獣がけっこう居てサ。そいつら倒しながら移動して、あのアーチからこっち側に戻って来てクークの後ろに回り込んだの。で、後は見ての通り」
 そういや確かに、クークと対峙した辺りから他の魔獣の姿をあまり見てなかった。
 クークの炎の巻き添えを危惧してヴィオレトが壁向こうの通路側に退避させていたのかもしれない。
 
 が、その当のヴィオレトはと言うと、クークの情け容赦ない火焔攻撃の巻き添えでもはや半死半生。
 俺としては身代わりになってもらって助かった形だが、とは言え気分の良い助かり方じゃあねえよな。
 そしてその死にかけのヴィオレトはというと───。
 
 ごろり、と固く重い物体が石畳の上に落ち、転がる音。
 そのバスケットボール大程の塊をひょいと拾い上げて顔の辺りまで持ち上げてまじまじと見ている。
 ヴィオレトの……いや、さっきまでヴィオレトだったものの生首を睨み付け、それから軽く唇を歪め何事か呟くハコブ。
 
「お、おいハコブ……」
 何と声をかけて良いか分からねえが、ただ口をついて出たその呼び掛けに、
「……あ、ああ、すまんな。コイツはお前の手柄だったな。
 だがまあ、さっさと首級をあげたことを宣言しないとこの城塞の奪取が遅れる。取りあえず先に落とさせて貰ったぞ」
 と、そう返す。
 
 いや……確かにそうだ。
 こっちは敵の首領格二人を打ち倒した。
 ティエジの話じゃ“黄金頭”アウレウムが手勢を率いて本陣への攻勢に出ているという今、“猛獣”ヴィオレトと“炎の料理人”フランマ・クークを打ち倒したなら、この城塞に残るのは雑魚ばかり。
 しかもヴィオレトの支配下から抜けた魔獣や猛獣はただの野生に戻るだろうから、既に逃げ出すか、ものによっちゃあ防衛に残っている手下たちを襲ってるかもしれない。
 そこに首領格の首を掲げて見せつければ、志気は完全になくなり瓦解するだろう。
 
 ハコブの判断は正しい。だがまあやっぱり、首を切り落とすとかってのには、どーにもまだ全然慣れねえわ。
 
 続いてハコブは、床に倒れ喘いでいるクークへと近付く。手にした剣を振りかざそうとしたその直前に、
「待ーった、待った待った待った! 両方殺しちゃマズい! こいつにはまだ色々聞かなきゃならんことが山ほどあるだろ!?」
 割って入るのはイベンダーのおっさん。
 王国駐屯軍に引き渡したところで死刑には違いないだろうが、確かにこの城塞のことやら含めて、捕虜にして聞き出せる事は聞き出したい。
「ふん……まあ、そうだな。縛り上げて少し魔法薬と回復魔法で生かしておくか。
 マーラン、いつまで遊んでる! まだ気を抜いて良い状況じゃないぞ!
 こいつを縛り上げて、尋問出来る程度に回復させておけ。火は絶対に使うな。
 それと、一応“印”をつけておけ」
 
 そう指示されてバタバタと駆け寄るマーラン。
 気を抜くどころじゃなくだるそうなスティッフィと共にクークを縛り回復をさせる。
 
「JB、動けるか?」
「あ、いや……歩けはするが、ちとキツいな」
 よろよろと、という程度に動けはするが、正直火傷が引きつりかなり痛い。
「よし、マーランとスティッフィとでここを確保しててくれ。
 イベンダー、アダン、ニキは俺について来い」
 左手にヴィオレトの首をぶら下げつつハコブが歩き出す。
 アダンは意気揚々と、ニキは警戒心を途切れさせず後に続く。
「んむむ……こっちじゃいかんか?」
「JBが動けない以上あんたに来てもらわんと困るぞ。上からの偵察が必要だ」
「おいおいオッサン、もうお疲れかー? 年にゃあかなわねーってかー、おい?」
 何故か渋るオッサンに、それをにやけつつからかうアダン。
「歩くのはしんどいが、飛んでついて行く方が逆に楽だぜ。脚使わなくて済むしな」
 “シジュメルの翼”へと魔力を通しふわりと浮く。
「そうか。なら来て貰うか。だが、ここで無理はするなよ。
 勿論油断も無しだ。まだ完全に戦いが終わったわけじゃない」
 
 言われて、俺達四人は階段を上がり吹き抜けホールの上階へ。
 そこから外のバルコニーへと出ると、ハコブは高々とヴィオレトの首を掲げて宣言する。
 
「賊徒ども、見よ!
 “猛獣”ヴィオレト、フランマ・クークは共に我らが討ち果たした!
 この城塞は我らが制圧した! 貴様等にはもう勝ち目はない!」
 
 その大音声と共に、ティフツデイル王国軍による王都解放から五年にわたり、クトリア周辺の不毛の荒野ウエイストランドを荒らし回り、災厄と死をまき散らしていた魔人ディモニウム達のうち二つの集団が壊滅し瓦解した。
 

 ■ □ ■
 
 そこから先はほとんどやることはなかった。
 元々マヌサアルバ会の攪乱工作として城塞内で暴れていたドゥカムによるドワーベン・ガーディアンに端を発し、ヴィオレトを失い逃げ出すか暴れるかしていた魔獣猛獣にと、防衛のために残っていた手下たちはもはやまともに機能をしていなかった。
 そこにヴィオレトの首を掲げた“敵”が現れ勝利宣言をする。
 中には自棄になり暴れ出すものや、“炎の料理人”フランマ・クークの健在を信じ、また捕縛されているのなら奪い返そうとこちらへ襲いかかるもの達も居たがやはり少数。それぞれに返り討ちに合い倒されるか捕縛されるか。大半は大慌てで逃げ出し、その中でも今逃がせば後々厄介になりそうだと判断された者達は重点的にマヌサアルバ会からの追撃を受けた。
 
 そのマヌサアルバ会はというと、既に混乱に乗じて城門を開いており、いつでも挟撃可能な体勢を整え合図の狼煙も上げてはいたのだが、こちらは目論見通りには行かなかった。
 頭数に関しては想定よりも残っていた手下、特に魔獣の数が多くこちらが苦戦を強いられたが、個々の兵の強さとしては“黄金頭”アウレウムの率いていた本陣への急襲部隊の方が上だったらしく、身動きとれない程の激戦となったらしい。
 なんでもアウレウムはドワーフ合金製のフルフェイスの兜を被っている巨漢なのだが、全身をその兜同様のドワーフ合金と同じ性質に変えられるという魔力を持っているとかで、斬撃も矢も投げ槍もまるで刃が立たず、その上魔力耐性を持つドワーフ合金の特性同様に魔法まで防いでしまう。
 その状態でこれまたドワーフ合金製の大きな戦鎚を振り回し敵を寄せ付けない、文字通りに無敵と思える無双ぶり。
 下手すりゃニコラウスの命もここまでか、ってな所まで突き進んだアウレウムの足を止めたのは誰かというと、トムヨイの狩人チームの一人、猫獣人バルーティのアティックだ。
 
 後になりこの話をしてくれたカリーナが楽しげに言うに、
「だって信じられる? あのとんでもない金ピカ化け物に、網だよ、網!」
 と。
 そう。アティックは以前巨大魔蠍退治の時に使った網による捕縛作戦を再びやってのけた。
「ふんふん、しかもな。今回は改良型だ。細いが鉄鎖を編み込んでおるのだな。これなら魔蠍のハサミでも容易くは切れんのよな。まして普通の人間にはもっと無理なのよなーう」
 御本人も得意気でよろしいこったが、まあただそれでも僅かに足を止められた程度。
 何と言ってもこちらの攻撃の殆どは通じない。アティックも投げナイフと曲刀が武器なので尚更だ。
 
 が、そこでの時間稼ぎは有効だった。
 その間に本陣へ共に攻めて来ていたヴィオレトの魔獣達に異変。てんで軍としての動きをなさなくなり瓦解していく。勝手に逃げ出したりアウレウムの手下たちを襲いだしたりと大混乱だ。
 その状況から、俺達が“猛獣”ヴィオレトを討ち取ったと察したニコラウスがアウレウム達に高らかに「別働隊が城塞を陥落させ、“三悪”残り二人も討ち取った」と宣言。勿論ハッタリだが、丁度良く城塞からはマヌサアルバ会の上げた合図の狼煙もあった。
 半信半疑ながらも、ヴィオレトの異変がなければ魔獣部隊が混乱することも無い。
 そこでアウレウムもたいしたもので、魔法剣を持つ手下の一人に素早く網を切断させ即座に撤退。
 撤退時には残っていた魔獣達に別の手下が術をかけてさらに暴れさせ混乱を拡大。その隙に見事逃げおおせたらしい。
 
 何にせよ、アウレウムとその側近とも言える部下たちには逃げられたものの、奴を中心とした魔人ディモニウム大連合とそれによるボーマ城塞への攻撃は未然に防げた形になる。“三悪”と呼ばれ、クトリア周辺の不毛の荒野ウエイストランドで恐れられていた魔人ディモニウムのうち二人は死亡、残り一人も捕縛されその命も風前の灯火。
 モロシタテムでの戦いも含め被害は決して軽微とは言えないが、それでも戦果としては大勝利と言って良いだろう。
 
 少なからぬ犠牲。
 本陣では“悪たれ”部隊を始め、ボーマ隊や狩人達にもけっこうな死者、負傷者が出た。
 しかし俺達が事前に配っていたシャーイダール(のふりをしたナップル)の魔法薬のお陰もあり、死んでもおかしくないだろう重傷を負ったもの達もけっこうな人数が一命を取り留めたらしい。
 狩人達のまとめ役をしていた方術士のティエジ、そしてその弟子であり方術士見習いのカリーナも治療に務め、ニコラウス曰わく「これだけの衝突としちゃ奇跡的な程」に死者は少なかったと言う。
 トムヨイはかすり傷程度。グレントの奴はけっこう酷い怪我を負ってしまったらしいが、魔法薬とティエジの術の効果もあり命に別状は無いらしい。ただ暫くは回復のため休む必要がある。ま、全治数週間……てなところだろうな。
 
 俺たちの方はと言えば勿論死者はゼロ。
 本陣で待機、というかボーマ隊で下働きでもさせておいてくれと残してきたアデリアとジャンヌも、言いつけ通りに危険な真似はせずに居た……らしいが、ヴィオレトの支配下にあった魔獣、猛獣数頭に襲われた。
 その多くはジャンヌにより倒されたのだが、やはりまだスタミナ不足という弱点を露呈させ、疲れて鈍ったところを一頭のマダラミミグロに噛み付かれ引き倒され、そこにさらなる追撃を受けたところで、アデリアに「助けられた」のだという。
 
「はあ? 逆だろ?」
「逆ちゃうもん! あたしがこう、おっきな棒もってこう……な? んで、こう……でな?」
「いや、全然分からん」
 何やら自分の活躍を身振り手振りで演じてるようだが、何の動きかさっぱりだ。
「こいつがむちゃくちゃに棒振り回したらよ。天幕の一部に引っかかってな。
 それで天幕自体がぐっちゃぐちゃになって、支柱の柱がアタシに食らいついてたマダラミミグロの上に倒れたんだよ。
 群れの他の奴らも潰れた天幕の下敷きで身動きとれなくて、そこを最終的にホルストに助けられた」
 ジャンヌのなかなか簡潔な説明で、絵に浮かぶように状況が分かった。
「なんだよ、結局ホルストじゃねーかよ」
「はァ!? 何言うとん!? ちゃんと聞いてたー!?」
「おう、そーだぞ! めっちゃアデリアちゃん活躍しとったやろ!」
 ムキになるアデリアに、アデリアの訛りを半端にまねしながら擁護するアダン。実にウザい。
 
 こんなバカ話をしてはいるが、アデリアはこう見えてわざと気丈に振る舞っている。ボーマ隊は数名の死者を出していて、中には古くからヴォルタス家に仕えていた船乗りなんかもいる。それこそ子供の頃から家族同然に過ごしていた者も、だ。
 目元には既に泣きはらしただろう涙の跡がある。けれども彼らの勇敢な死を、悼みつつもきちんと受け入れる覚悟は既にあったようだ。
 
 他に、と言えば囚人部隊にドゥカムとその護衛たち。そしてマヌサアルバ会の面々だが、マヌサアルバ会は順当に死者無し。数名の怪我人が出た程度。
 ドゥカムとその護衛も怪我人数名。あの通路を通り抜け、ドゥカム達の方へも魔獣の群れが襲撃してきたらしいが、この時ばかりはドゥカムも守りの魔法を使い撃退した。
 囚人部隊には残念なことにまた死者が出た。
 デレル達と別行動をしていたマルメルス一派の一人が毒蛇犬の毒を受けたショックで即死したのと、もう一人が突進してきた大角羊の体当たりで壁に挟まれ頭蓋骨が砕けた。どちらも即死。魔法薬を使う暇もなかった。
 マルメルス自身は捕虜達と残った囚人部隊の中では獅子奮迅の働きをし、潜入前の吸盤粘体スライムサッカーとの戦いで受けたダメージも残る中でかなり猛獣魔獣相手に奮戦したらしい。しまいには集団で噛み付かれ引き倒しになり、ジャンヌと似たような状況で危機一髪となっていたのが、やはりギリギリのタイミングで魔獣達がヴィオレトの支配下から脱したための混乱がおき、命ばかりは助かったようだ。
 アデリアといいこいつといい、中々悪運の強い奴らだ。
 
 
 本陣含め、今は一旦全部隊がセンティドゥ廃城塞へと集まっている。
 残党狩りに出ている部隊や警備についてる部隊もあるが、とりあえず俺達は休憩だ。何せ敵の魔人ディモニウムのボス二人を撃破したんだからな。後の事は他の奴らでやってくれ、と丸投げしてても誰も文句は言えない。
 廃城塞にある物資は“悪たれ”部隊の連中が回収して回っている。
 俺達はあくまで「深部にある古代ドワーフ遺跡」の優先的探索権を保証されているだけで、表側のセンティドゥ廃城塞は違う。廃城塞の武器庫、宝物庫には、アウレウム達が発掘してきただろう古代ドワーフの遺物もそこそこ置かれていたが、そこら辺も連中が持って行くことになる。
 アダンなんかは納得いかねー! って文句たらたらだがまあ仕方ない。そういう契約にしちまったんだしな。
 とは言え単純に金のことで言えば、報奨金だけでもけっこう貰えることになる。“三悪”全員の討伐をしたことになっているワケだからな。
 
 だがまあ、そんなのは先の話。
 視線を向ける先には一人の縛られた男がいる。
 
 ふてぶてしい顔で尻をつき、柱に寄りかかって脚を広げ座って居るのは“炎の料理人”フランマ・クーク。それを取り囲む俺達だが、ま、どうにもいやな空気ではある。当然の話ではあるけどな。
 特にアデリア。今目の前で縛られ座っているのは、父親の仇張本人だ。
 自ら仇討ちなどは出来はしないと言ってはいたが、ここでこういう対面となるとそりゃ心穏やかにはしてられない。
 
「……なあ、おい」
 クークは魔法薬とマーランによる治療効果で一応は腹の傷も塞がっている。内部まで完治とはいかないから、下手に激しく動けばまた傷口は広がるだろうが、話をする程度なら支障はない。
「うるッせえぞクソ野郎。こっちが何か聞くまで口開くな」
 吐き捨てるように返すアダンに対し、苦しげながらも嫌らしい笑みを浮かべ、
「良いから聞けよ、なあ。お前らにとっちゃ悪い話じゃねえ。
 お前ら遺跡の遺物が欲しいんだろ? ここにゃまだ隠されたそれがたんまりあるぜ。何せ俺達じゃ先に進めない仕掛けのある区画が沢山ある。
 その場所までの行き方を教えるからよ……俺を見逃せ」
 
 ……この野郎、この期に及んで取り引きをしようとして来やがる。
「……な、何言うてん、こいつ!?」
「ざけんなよボケが!」
 絶句するアデリアに罵るアダン。
 実際、隠された区画があるにしても、こいつの案内なんか無くても俺達ならたいした問題じゃない。
 
「いいのかよ、おい。
 お前ら俺の情報なんか無くても大丈夫だと思ってんだろうけどよ。ここの奥はけっこう厄介だぜ?
 区画の数もそうだが、壊れてる床だの壁だの山ほどありやがるし、仕掛けも罠も生きている。
 事前にそれを知っているのとそうじゃねえのとじゃ、かかる時間もリスクも段違いだ。
 それにな……」
 
 もったいぶった口調で言いつつ、そこでいったん言葉を区切る。
 
「“黄金頭”アウレウムの逃げた先やら隠し宝物庫やら……。お前たちだけに先に教えてやれるネタはいくらでもあるぜ?」
 
 確かに……そりゃあネタとしてはでかいかもしんねえな。
 勿論だからって逃がしてやるなんてのは論外。隠し持ってる情報ってだけなら、例のクランドロールの“客人”に使った“素直になりたくなる魔法薬”である程度引き出せる。まあ全て確実にとはいかねえが、それを言えばこいつが本当の情報を話すとの保証もねえ。
 
 だがそこでのハコブの反応は、ちょっばかり予想と違っていた。
 
「案内するというなら今すぐにだ。
 “悪たれ”部隊の連中が戻ってきたらもう引き渡す必要が出るからな」
  

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