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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-78.J.B.(52)Let It Whip.(激しく動かせ)
しおりを挟む戦線復帰してきたイベンダーのオッサンは、相変わらず無茶な策で無茶な役を割り振ってきやがる。
無茶でヤベえが、それを出来る可能性があるのは確かに俺だけ。
「ああ、分かったよ糞ったれ! やってやるってーの!」
こうなりゃ自棄だ。いや、とにかくグダグダ文句なんざ言ってられる余裕もねえってとこか。
まずは“猛獣”ヴィオレトと“狂乱の”グイド、スピード&パワーのスーパータッグを相手に踊りの時間だ。
一度肩を外したってーのに、そんなのを感じさせないかに素早い猛攻。
その連撃をかいくぐって避けると、すかさずグイドの拳が追撃してくる。
デカくなった分さらに大振りだが、まずその範囲が広すぎる。何よりヴィオレトの爪とは異なり、急所を守っても当たりゃ吹っ飛ばされちまう破壊力だ。
右へ左へ、上へ下へと、とにかく飛び回る。飛び、旋回し、避け、防ぎ、反撃。
ヴィオレトの二手、三手にグイドの強撃。その隙間になんとか反撃の一手を滑り込ませる。
こっちの手数が圧倒的に足りてねえ。良いタイミングで【風の刃根】を撃ち込み撹乱するが、間違えてグイドに当てちゃあマズい。
グイドは奴曰くの“呪いのような魔術”の支配下にあり、受けたダメージを魔力に変換。さらにはその魔力で巨大化してパワーが上がる。
同時にパワーに反比例して知能も下がり、そのため「獣を支配する」ヴィオレトの魔術により操られちまってる訳だが、まあいくら知能が下がったとは言え獣になったワケじゃねえだろうに。相性みてーな問題なのか、そもそもヴィオレトの魔術は「獣を支配する」能力じゃあ無かったのか。まあその辺はよく分からん。
よく分からんが、そこはどうでも良い。良くはねえけどよ。
問題はダメージ受けることで強くなるはなるんだが、別にダメージそのものを相殺しているワケじゃねーってこと。
ダメージを受ける、怪我を負う事で大きくタフで怪力になるが、蓄積されたダメージはいずれグイドを死に追いやる。
なので極力グイドへの“誤爆”は避けなきゃなんねえが、その辺を踏まえてなのか、ヴィオレトはグイドを自分の盾のように使っている。
文字通りに人間の盾ってヤツだ。敵の仲間や、無関係な第三者を弾除けに利用する。
こっちが魔法を使いそうな素振りを見せると、即座にグイドに隠れやがる。
仲間の“鉄塊の”ネフィルを殺された意趣返しってか? まあそりゃ仕方ねえ。
だがちっと妙ではあるな。聞いた話じゃ“三悪”連中はそれぞれバラバラな魔人集団のボス達で、最近になってボーマ城塞襲撃の為に集結したらしい、ってな話だろ。
元々殺し殺されの賊たちの争いの中で集合離脱を繰り返していたとかも聞いている。
ネフィルが殺されたってことにそんなに感情を高ぶらせるほどの関係だったとも思えねえ。
「魔人のわりにゃあ随分“仲間思い”なこったな、ええ?」
グイドのぶっとい腕をかいくぐり、でかい声を張り上げヴィオレトを挑発する。
「ちょっと前まで殺し合いの縄張り争いしていたんじゃねーのか?
即席チームが仇討ちたぁ笑わせるぜ」
癇を逆撫で、俺の言葉はかなりヴィオレトのド真ん中を突いたようだ。それも、予想以上に。
「分カ……るカ……!!
オ前ラに、アタシ達ノ……何ガ……分カるッ……!?」
勢いの乗った一撃は、鋭く顎下を掠めて頬を抉る。挑発から雑な攻撃を誘ってカウンターを決める……ってのは、流石に立て続けには通じないか。余裕無い程ギリギリだ。
「分かるかよ、イカれ殺人鬼共のトモダチごっこなんざよ!」
上に飛んでから背後へ回り込んで一撃。ヴィオレトはそのまま沈み込むようにしてグイドの背に回る。
「アタシ達は……特別だ……!
もう……何人モ……残ッて無イ……!
皆……死ンダ……!! 居ナク……なッた……!!
残ッて居ルのハ……アタシ達ノことヲ……覚エて居ルのハ……もう、アタシ達しか居ナイ……!!!」
だから、自分達の関係は特別だった───。
糞ったれ、挑発のつもりで放った言葉が、こうも見事に自分に跳ね返ってくるとはな。
前世のこと。生まれ育った村のこと。 犬獣人の奴隷として過ごした数年間に、反乱。死なせてしまった妹のこと。
アルバが言っていた。三悪と呼ばれている魔人達は「特別」だったのだ、と。
膨大な魔力を持つアルバの血を利用して生み出された魔人達で、その実験中意識を失いながらも苦しみや感覚などを共有してしまっていたのだと。
そのことでアルバが奴らに特別な感情移入をしてしまっていたのと同様に、奴らは奴らで同じ苦しみや感覚を共有していた“仲間”として、ある種の精神的な繋がりを持っていた───。
そうだとしたらそれは───ああ、分かっちまうぜ、糞ッたれが。その気持ちは、俺にも十分に分かっちまう。
だが───。
グイドの背後から近付く影。さてようやく登場か、イベンダーのオッサンに、抱えられてるマーランだ。
その向こうの一角では、アダン達残りの面子が毒蛇犬の群れを相手に奮戦してる。本調子じゃ無さそうだが、ハコブも復帰しての立ち回り。数が多いがまだまだ行けるだろう。
ぐるり回り込み俺の背後へ。それからマーランによる詠唱からの───【閃光】。
瞬間的に光で奴らの意識を奪う。その一瞬。一瞬だけで良い。その時間だけで、ここまで使えなかった大技が出せる。
俺の“シジュメルの翼”に使えるもう一つの攻撃魔法、【突風】だ。
ちょっとした竜巻程の強風の渦を叩きつけるこの魔法は、使用の際に両方の羽根を打ち合わせる動作が必要なため、乱戦の最中に使うには隙が大きいし巻き込み被害もでやすい。なので使えるタイミングが限られる。
その上効果はあくまで「突風を叩きつける」ものなので、体重が重い相手にはさほど効き目が無い。
今で言うなら当然グイド。巨人の如き巨体と化したグイドにとってはそよ風程度のこの魔法も、その後ろに隠れている“猛獣”ヴィオレトにとってはそうじゃない。
グイドの陰なら安全だ、というヴィオレトの油断に【突風】が叩きつけられ、その身体を引き剥がす。
剥がしたそこに急加速で突撃し、そのままグイドから離れて飛び去った。
さてこれでイベンダーのオッサンによる無茶な注文の内二つ。
オッサンとマーランの準備が出来るまで二人を引きつけておくことと、準備が出来たらヴィオレトを引き剥がし、分断させること、までをクリアした。
ここからがさらなる正念場。
ヴィオレトを抱えて高く飛び上がる。この状態だと“シジュメルの翼”の防護膜が機能しないので、相手の攻撃にはさらに気をつける必要がある。
正面から両腕を掴み拘束するが───糞、噛みつこうとしてきやがった。
“猛獣”の二つ名に恥じぬ攻撃だ。繰り返しガチン、ガチンと歯の噛み合う音。組み合い押し合い、身体をなんとか引き離すが、飛行の制御が疎かになり錐揉み状態で墜落する。
ダメージはそこそこ。これは防護膜で軽減は出来るが、肺の空気が全て吐き出されるかの衝撃に咳き込じまう。
その隙を、俺より先に体勢を整えたヴィオレトがのし掛かるようにして組み伏せる。
無防備な状態で上に乗られ、その両手の鋭い爪が俺を捉えるが───ヴィオレトは瞬時に飛び退き柱の陰へ。
ヴィオレトの居た空間をニキの放ったボルトが通過する。
「オルァ! 覚悟しろや!」
そう、どチンピラ丸出しでやってくるのはアダン。
毒蛇犬達の群れはまだまとわりついているが、その数は着実に減っている。
墜落した場所はアダン達の居た壁際からさほど離れて居ないから、毒蛇犬達を蹴散らしつつ合流出来た。
ヴィオレトは再び巧みに壁や柱を利用して跳躍して回避。
集まって来たチームは再び別の壁際で陣を組む。俺はかつてのポジションに……じゃあなく、再び飛び上がって旋回。
「JB! ヴィオレトを逃がすな! こっちへ引きずり出せ!」
魔法薬の効果か、やや張りの戻った声でハコブが叫ぶ。
勿論承知だ。ここで取り逃がせばさらに厄介なことになる。
ヴィオレトは身を隠しながら跳躍と移動を繰り返し、毒蛇犬や他の魔獣達を呼び集めて再攻勢を仕掛けてくる。
ヴィオレトのこの「猛獣、魔獣を操る魔力」の効果範囲や限界が分からねえから、どれだけ倒せばけりがつくのかも分からねえ。
例えば支配上限があるとして、倒したらその分空きが出来、有効範囲内にいる魔獣を自動的に支配出来る……とかなら、こりゃきりがねえ。
少なくとも「呪い同然の魔術」のせいで知能の下がったグイドを支配するときに、直接的な接触は無かった。
空気感染するウィルスみてーにそれが広がっている、と、そう考えておく方がしっくりくる。実際のシステムはどうあれな。
やや低空で飛びつつ全体を見回す。駆けつけてくるのはほぼ魔獣で、主力は毒蛇犬だが、大蜻蛉に魔蠍や火焔蟻なんかの魔虫も居る。地理的にボーマ城塞と違って水辺が周囲にないためか、岩蟹、鰐男なんかは少ない。
数頭程、豹やマダラミミグロのような野獣も混ざっている。豹あたりなんかは単純な戦闘能力としちゃ毒蛇犬よりも強いはずだし、そもそもクトリアの荒野じゃめったに見かけることはない。てか、俺も前世の知識でなんとなくあの模様は豹だろうなと思ってるだけで、全然違うかもしれねえ。この世界じゃ今まで見たこともなかったからな。
何人か、人間だか魔人だかの手下も居るが、魔獣魔虫の群れに気圧されてか、端っこに固まって攻めてはこない。
ヴィオレトには人間や獣人やらのいわゆるヒトの手下は居ないというから、連中は城塞の防衛に残されたクークかアウレウムの手下なんだろう。
クークもアウレウムも本陣、指揮官のニコラウス・コンティーニを攻撃しているハズ。伝令が行って引き返してくる前にある程度はケリをつけなきゃならねえ。
ヴィオレトの姿を探しつつ、魔獣達の群れへと【突風】を撃ち込む。大きな魔獣が少ない為、ある程度が吹き飛ばされ混乱し戦列が乱れる。
ニキを除けば遠距離攻撃出来るのは俺とハコブのみ。
そのハコブの魔法攻撃は強力だがそうそう連発出来ない。その代わり軽弓を補助武器として持ってきており、こちらも群れに向かって弧を描くように撃ち込んでる。
前衛をアダン、スティッフィで固めて、陣形を崩さず待ちの体勢で迎え撃つという戦法は変わらずだが、マーランという補助役が抜けているのでややバランスが悪い。そのマーランは今、イベンダーのオッサンとグイド相手に奮戦中だ。
前衛2人は、遠距離攻撃をかいくぐり接近して来た魔獣を撃退している。ボーマ城塞の奥にあった古代ドワーフ遺跡からの遺物の武器防具は、まだ手に入れて間もなく慣れているとは言えないが、それでもかなり有効的に使えてる。
特にアダンとスティッフィの前衛がかなり上手く連携している。こりゃ見事だわ。
俺は上空から全体を見渡しつつヴィオレトの急襲を警戒しているが、どうにも魔獣達の群れに紛れているのか見つからない。
マズいな、まさか逃げられたか? そう心配になってきたが、そうそう離れて探しにいくワケにもいかねえ。
付近を旋回し飛び回っていると、今まで見掛けなかったある姿が視界に入る。
巨漢。しかしグイドのような筋骨隆々のマッチョ野郎というよりは、デブの肥満体。
ビヤ樽みてえな腹をしたデカい男で、ほぼ半裸に近い格好。部分的に鎧甲を身に着けているが、それより目立つのは身体のあちこちにあるケロイド状の火傷痕だ。
全体として酷いものから軽度のものまで、三分の一くらいは火傷を負ってるか?
頭髪もほぼ無い。禿げているのでも剃っているのでもなく、火に焼かれて毛根から失っているんだろう。
ただそれら以上に異質なのは、そいつが背負い抱えているもの、だ。
赤黒く硬質で、やや鈍い光沢がある。全体は三つの丸っぽい部位に別れていて、肩口から垂れ下がり、脇の下に顔がある。
顔。そうだ、顔だ。
両脇に抱えたその赤黒い物体。それは脚をもぎり取った火焔蟻だ。脇の下から見えるのは、牙を生やした火焔蟻の頭。
その火焔蟻の牙を、そいつは何らかの仕掛けでガチガチと噛み合わせさせ……巨大な火を吹き出させさせる。
「───マズい!
ハコブ! アダン! 魔法の守りを固めろッ!!!」
轟音一閃。吹き出された炎が大きく膨らむと、まるで双頭の竜のようにうねり絡み合いながら、壁際のチームに向けて突進する。間に居る魔獣、猛獣を巻き込みながら。
大慌てで【突風】を打ち込み威力を相殺、軽減しようと試みるが、どう見ても負けている。
見るまでもなくその双頭の炎の竜は、今さっきまでチームの仲間が居たその場所を焼き払っていた。
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