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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-55.J.B.(31)Fire Doesn't Burn Itself.(炎は自ら焼き尽くさない)
しおりを挟む【左上、ハコブ、右上、アリック、左下、アダン、右下、マーラン】
根回し、根回し、交渉、折衝……yes, yes, y'all!
とにかく。ああ、とにかく、だ。
とにかく、やたらと、面倒くせえ!
ボーマ城塞で本業である探索稼業の拾得物を整理し箱詰め。
そして結局はボーマ城塞と繋がった遺跡であり、探索では城塞内に宿舎を借りることになったことから、契約の見直しと更新。
ま、端的に言えばショバ代を上げて、個別交渉で発掘品の中から幾つかをヴォルタス家へと譲り渡すということになった。
これらの素案は事前に作ったブルによるものなので、まあ後で文句を言われることもない。
それよりも、問題はボーマへ来る途上に俺達を襲ってきたものの、呆気なく返り討ちにあい捕虜となった脱走囚人達のもたらした情報だ。
一つは俺らの本業に関わる、未探索の遺跡の可能性。
もう一つは、魔人達の企み。
俺達としては、未発掘のドワーフ遺跡が確かならば、是非とも手を着けたい。
仮にそこが脱走囚人や魔人、山賊野盗たちの根城になっていたとしても、そいつらには見つけられない、開けられない仕掛けや階層を見つけ出せる可能性はある。
ただ、脱走囚人やただの山賊野盗ならまだしも、魔人を中心とした賊だとしたら、正直俺達では手に余る。
ハコブ、マーラン、そして俺とイベンダーのオッサン。
魔導具、魔装具混みで言えば、魔法を利した戦力がこっちには4人居る。
普通の山賊野盗の群には、まずそんな戦力はいない。
魔法を使える戦力が居ると言うことの強みは、単純に火力だけの差じゃあない。
何よりも、戦略の幅が全く変わってくるところにある。
例えば俺の“シジュメルの翼”がその良い例だ。
空からの攻撃。岩を落とすでも、風魔法でも良い。空から攻撃されると言うことは、それだけで一方的になる。平面のフィールドが立体になるからな。
しかも俺の“シジュメルの翼”は、風の層が周りを包む防護の役割もしてる。
つまり、ショボい投石や弓矢程度では身体にすら届かない。
その点で言えば、魔法を含め何らかの対空手段を持たない相手には例え100対1でも「負けること」はねえワケだ。……「勝てる」かどうかは、まあ別な話な。
他にもある。まず大きいのは治癒系の魔法。これが使えれば、多少の怪我なら戦闘不能にならない。
実際、人間……生き物同士の戦いでは、敵の戦力を減らすのには何も殺す必要はない。手足の一本を動けなくさせればそれで十分に戦線離脱をさせられる。
もっと言えば激しい痛みを与える傷でも、相手をビビらせる勢いでも良い。
マーランがよく使う所謂補助魔法も戦略を広げる。
武器を鋭く、壊れにくくするとか、逆に相手の武器をなまくらにするとかもある。
マーランは特に派手な攻撃魔法は使えないがトリッキーな魔法が得意だ。
一見すると弱そうに思えるし、実際1対1で戦うならマーランはウチの探索班でもかなり下位だ。
けど、チームとしてなら是非に仲間に居てほしい。
何にせよ今の俺達のチームは、地下の探索以外の戦いでも、ちょっとした山賊野盗共相手に後れをとるような事はない。
魔人を除けば、だ。
魔人───。
本来、生まれながらに魔法属性を持たない人間に、強制的に術式を埋め込んで造られた魔導兵。
魔力による改造強化人間、とでも言うべき存在。
クトリアの旧商業地区で情報屋をやってる“腐れ頭”。あいつも魔人の一種だ。
死霊術士の実験により、生者でありながら不死者の如き特性を与えられた“半死人”達は、老化もなけりゃ痛みも感じねえ頑強な肉体と、食事睡眠水排便も必要とせず戦い続けられるタフネスを与えられたが、その多くは結局イカれた人喰い亡者同然になッちまった。
理性と知性の両方を残したままだった“腐れ頭”みたいな「成功例」も、見た目は完全に腐った死体のように醜くただれている。
さながらB級ゾンビムービーみたいだ。
ただ、“半死人”達で、魔術の行使まで出来る奴はそんなに居ない。
それでも、連中の身体能力と、痛みを感じず幻惑が効かないなどの特性は結構な脅威だ。
例えばもし、クトリア郊外の不毛の荒野で“半死人”と揉めたとするだろ?
その場は逃げ切れたとしても、その後がヤバい。
奴らは寝たり、飯を食ったり糞をしたりする必要がねえ。厳密には、“腐れ頭”が酒を飲むように飲食をすることは出来るが、しなくても脱水や飢え死にをするワケじゃあない。魔力循環で生き続けているからだ。
だからそれこそ四六時中活動可能で、こっちが休んだり飯食ったりしてるときすら、奴らは休まず付け狙っていられる。
これもまた、戦略の幅の違いになる。不眠不休、兵糧いらずで戦える兵士、なんてのは、それで部隊を作られればとんでもないことになる。
とは言え、“半死人”は、クトリアで最も多く見かける魔人だが、驚異度としてはさほど高くない。
特に見た目の異様さに反して、意外と理性的な奴が多いというのも理由の一つだ。
厄介なのは、特定の魔術、魔力が埋め込まれた上に、知性を残しつつ理性を失った………つまりイカれちまった連中だ。
例えば火属性の魔力を埋め込まれた魔人は、呪文を唱えずに炎の魔法を発動出来る。
それこそ、火焔放射器のトリガーを引くように、【火炎弾】を連続的に放つようなことも、だ。
火縄銃とマシンガンの差みてえなもんだ。
普通の魔術師が、呪文を唱え魔力で術式を構築し、一発の【火炎弾】を放つ間に、トリガーひきっぱなしで何発も連射してきたりする。
魔人とは、生きる魔導具だ。或いは、魔導具化された人だ。
詠唱も術式の構築も糞もねェ。付呪された魔法の剣みてえに魔術を行使する。ただし、魔法の剣同様に付呪された術しか使えねえ。
元々クトリア王朝が魔力属性を持たない一般兵士を魔術師並の戦力に出来ないかと考えてやってた人体実験が由来らしい。
そして成功率が低く、成功しても精神に異常をきたすことが多かったから、普及しなかった。
とにかくまあ、魔人ってのはそういう存在だ。
イカレていて、極端だが強力な魔術を使う可能性が高い。
何よりクトリア周辺の不毛の荒野を根城にしている奴らは、札付きの糞悪党どもばかり。
俺達だけで出向いてどうにかなるような連中じゃない。
だもんで、 根回し、根回し、交渉、折衝……yes, yes, y'all! ということだ。
ああ、面倒臭ェ!
◆ ◇ ◆
まずはボーマ城塞で一部屋借りてのハコブ達との話し合い。
基本としては何よりも「未探索の遺跡」のことだ。
今回の「初遠征探索」が思った以上の大成果だったことから、スティッフィはかなりの乗り気。ハコブも表向き慎重な態度を保ちつつも、腹は既に決まっていそうだった。
魔人の存在を警戒して、マーランとダフネはやや慎重。
とにかく遺跡を確認して、魔人達と戦わねばならないのかどうか。
「魔人と戦う……のは、ちょっとリスクが高すぎる……んじゃ、ないかな?」
まるで机に這いつくばるかのうつむき加減で、上目遣いにそう言うマーラン。
「名のある魔人は、王国駐屯軍がお尋ね者として手配してるんでしょ?
だったら隠れ家を調べて通報して、王国駐屯軍に討伐して貰ったその後に遺跡探索すれば良いんじゃない?」
ダフネも同様。魔人との直接接触は極力控えたい、ってな立場。
そりゃあな。俺だって出来りゃあ連中とはコトを構えたかない。
問題さえなきゃ、だがよ。
「けどよォ~、王国駐屯軍に先越されたら、遺跡探索なんていつ出来っか分っかンねェぞ~?」
長椅子にそっくり返り頭を掻きつつぞんざいに言うのはスティッフィ。
「まあ、そこだな。
俺たちの第一の目的は魔人と戦うことじゃなくて遺跡探索だ。
けど全くそこに噛まずに、後から遺跡だけ探索させてください、てなのが都合よく通るたァ思えねえ」
王国駐屯軍だってドワーフ遺跡の遺物は欲しい。お宝の山だからな。
ただ遺跡探索のノウハウも、そこに割ける戦力余力も無いからしていないだけで、未発掘の遺跡を占領出来れば、少なくとも最初のウチは独占しようとするだろう。
「何にせよ、遺跡の実在と魔人達の目的がはっきりしないことには、な」
ハコブが皆の意見を纏める。
確かにそこが重要だが……と、その前に、だ。
いつもなら余計なこと含めてやんや口を挟むハズのイベンダーのおっさんが、妙に渋い面して黙りこくってやがる。
一体どうした?
「おっさん、どーした? やけに大人しいじゃねえかよ。食い過ぎか?」
軽く茶々を入れて突っ込んでみると、やや間があってから整えられた口髭を撫でつつ、
「うむ、まあ魔人魔人と言っとるが、実際そいつがどんな奴か……で、また対応は変わるよな?」
むむ? まあ確かに言われてみりゃあその通りだ。
「そりゃそーだが……詳しくは脱走囚人共に聞くか、王国駐屯軍を当たるしか無さそうだな。
脱走囚人どもの方はどれだけ分かってるかは微妙だがな」
◆ ◇ ◆
「奴らの話からすると、襲ったのは間違い無く“炎の料理人”フランマ・クークだ」
「ほ……炎の料理人?」
元王国剣闘士で、現ボーマ城塞警備隊長であるホルストの言に、俺たちはアホみてえに口を開けて驚く。
いや、魔人の詳細が分かった事だけでなく、その異名にもだ。むしろそっちだな、うん。
「王国駐屯軍の最重要手配魔人の一人で、もっとも得意とする料理は人間の丸焼きだそうでな」
「あ~……」
スティッフィとダフネが、嫌~な顔をして納得する。マーランは最初から顔色が悪いので特に変化した風には見えない。
「聞いたことがあるな。
確か、炎の魔法を使うんだったか?」
ハコブがそれを受けてそう返すと、
「厳密には違う。
奴は“炎を操る”んだよ」
どうちがうんだ? と思うのは俺とダフネにスティッフィ等、魔術理論に疎い面々。
「それは……厄介だな」
魔術理論に関しての理解が深いハコブが眉根を寄せる。
「悪ィ、それがどう厄介なのか俺にも分かるように教えてくれ」
「炎を起こす、というのと、起こした炎を自在に操る、のでは、操る方がはるかに難しいんだよ」
今の補足はマーランによる。
「例えばこれ……」
マーランが呪文を唱えると、右手の先から小さな火が吹き上がる。
「火属性魔力を使うもっとも初歩的魔法の、【発火】だ。
ただ火を起こす。それだけの呪文で、使う魔力も少なく術式も呪文も難しくない。
魔法を習おうとするときには一番最初に学ぶやつだね」
勿論、それとて俺ら才能適正に乏しい奴らにゃ修得は難しい。
「この次の段階が、【火炎】だな。【発火】で生み出した炎を大きく長くして噴射し、攻撃に使う。
飛距離は白兵戦の範囲程度だから、実用性には乏しい。
その次が【火炎弾】。だいたいこのくらいの大きさの火の固まりを飛ばして的にぶつける武器とする」
マーランの言葉を引き継いだハコブが、拳を突きだしてその大きさを示す。
「その次は【火球】。【火炎弾】から威力と大きさ、飛距離を変える。
つまり、“火を作り出す”、“それを動かす”、“大きさや熱を調整する”という流れで、呪文や術式がより高度で難しくなり、それに応じて必要な魔力も多くなり、呪文も複雑になる」
「動きを操る……ていうのは、それらより難しいんだ。
それが出来れば、まず“大魔術師”と呼ばれる程の実力者だと周りからも認められるくらいには、ね」
魔力属性は多いが高度な術を使えないマーランは、ある種の羨望と一抹の寂しさを感じさせる声で言う。
まさに、求めども届かぬ領域だ。
「ただな、“炎の料理人”フランマ・クークは、その点では“失敗作”だったんだろうな」
ハコブ達の魔術講座を引き継いで、ホルストはそう続けた。
「クークは、“炎を操る”ことは出来るが、“炎を生み出す”ことが出来ない」
「なに? どういうことだ?」
「聞いたとおりだ。
そこに存在する炎は操れる。けれども初歩の魔術である【発火】に相当する能力を持っていない」
……そりゃまた、偏った能力の魔人だな。
「そんじゃ、そいつってばいつも片手に松明でももってんのかい?」
「居たね、そういう大道芸人」
口に含んだ可燃性の高い油を霧のように吹きかけて、松明の火を巨大な炎にする奴だ。
「近いが、違う。クークが操れるのは濃い魔力を帯びた魔法の炎だけだ。ただの火は操れない」
答えるホルストは、何だか遠い目をして思い出すようにして続ける。
「クークにはパートナーが居た。
そいつは【発火】の魔術だけが使える、同じく出来損ないの魔人だが、その【発火】の効果がとにかくでかかった。
両手を広げたくらいの大きさの炎を作り出せたんだ。
そいつの作った炎を、クークが操る。
それぞれに一人では半端な魔人だが、二人合わさることで驚異的な破壊をもたらした」
全てのジャックにゃジルが居る。どんなダメ男にも、それにピッタリハマる女が居るように、半端な能力の二人が見事にかみ合った……。そう言うことか。
「ちょっと待ってくれ、ホルスト。
今、パートナーが“居た”……と言ったな?」
ハコブが気づいて、そこに突っ込む。
そうだ、確かに過去形だ。
「ああ。
アニチェトを“殺した”のが、クーク達だ。
その相棒と相討ちになってな」
ボーマ城塞を襲撃して居た魔人たち。
その一人、 “炎の料理人”フランマ・クークの相棒を殺したのがかつてのボーマ城塞のリーダー、アニチェト・ヴォルタスだというのならば、奴らの“狙い”も……ほぼ明らかってことか。
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