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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-49.J.B.(30)HEY you! What your name?(誰なんだお前は?)
しおりを挟む“狂乱の”グイド・フォルクス。
かつてティフツデイル王都の闘技場で“金色の鬣”ホルストと並び双璧を成した剣闘奴隷。
剣闘奴隷から勝ち上がり、その後自由市民となってからも暫くは王者として剣闘士の頂点に君臨し続けていたホルストが、言うなれば「善玉のトップ」であったとすれば、“狂乱の”グイド・フォルクスは完全なヒール、つまり悪役レスラーならぬ悪役剣闘奴隷だった。
ホルストが剣闘士をしていた当時の剣闘試合は、かつての帝国全盛期のように「どちらかが死ぬまで戦わせる残酷ショー」というよりは、前世にあるような総合格闘技大会やプロレスの試合に近かったらしい。
勿論大怪我や死ぬ可能性は前世のそれらより遙かに高いが、審判がつき殺さずとも決着はある。事後のフォローもちゃんとあり、重大な欠損などへの保険や治癒魔法での回復もあったとか。
別に人道主義的な理由ではなく、何より大きいのは人材不足。
要するに毎試合毎に誰かを殺していたら、とてもじゃないが興行を続けていられないからだ。
ただしそれは、剣闘奴隷の主人がその新たなお約束をきちんと了承しているか、非奴隷の剣闘士でそれらを了承しているかの場合。
“古き良き時代”を愛し、殺し合い前提の試合をやらせたいという奴隷主も、そういう試合を観たいという客層も少なからず居た。
その中で、“狂乱の”グイド・フォルクスは、まさにその殺し合い専門の剣闘奴隷で、初期には多くの剣闘奴隷達を、そしてもはや強すぎて戦う相手の居なくなった後期には、猛獣、魔獣との殺し合いをし、その手の筋から絶大な人気があったらしい。
“狂乱”の二つ名に相応しい残虐な戦い方への期待に、そのグイド・フォルクスが今度こそ魔獣に食い殺され、惨たらしい死に様を見せてくれるのではないかという期待。その二つを背負って彼は戦い続けた。
「主殺しだ。俺が知っている範囲の話ではな」
奴隷による主殺しは大罪だ。それを許せば奴隷制の根幹を覆すことになる。
“狂乱の”グイド・フォルクスの罪状がまさにそれなら、処刑されずに居るのはちょっとおかしい。
そう疑問に思っていると、補足するようにホルストが続ける。
「ただし……その主が禁じられた邪術の使い手で、それまでもグイド・フォルクスを使い邪術や薬物で強引な強化や狂暴化を行っていたことが判明して、罪を減じられた。そう聞いている」
聞き伝えの又聞き、みたいなもんだが、“血の髑髏事件”以降、ティフツデイル王国では所謂“邪”術士に対してはかなり強硬な姿勢らしい。
とは言え“邪”術士なんてのも定義は曖昧だ。
所謂禁呪とされるものを使う魔術士を指し、その大元も魔術師協会が定める定義に依っている。
そのため、王国は魔術師協会との繋がりが深い。政治的に言えば、同じく帝国の後継を主張する神聖ティフツデイル教国が聖光教会との繋がりが深いことへのカウンターでもあるらしいが、何にせよ「邪術士の犠牲者であり、その邪悪な主を打ち倒したこと」により、グイド・フォルクスは処刑だけは免じられた。
これはつまり、政治的に「奴隷の主殺し」と、「邪術による支配、洗脳、人体実験等々」の、どちらをより社会悪と見なすか、という話だ。
結果、王国は後者をより悪であると示し、そのためにグイド・フォルクスを利用した。
ただ───結局詳細は藪の中だ。
「ほう! 邪悪な主を殺して、自由を勝ち取った元奴隷とな!?」
その話に妙に食いついたのは自由を愛する猫獣人のアティック。
「おぬしは面白い上に見所があーるぞい!
良い良い、良いぞーう、おぬし、実に良いのだぞう!」
猫獣人は大概奴隷制が嫌いで、どんなに好待遇にしても奴隷身分にされればほぼ必ず刃向かい、また逃亡しようということで有名だ。なので結局、人間も犬獣人も、猫獣人を奴隷化するのを諦めた。
それどころか、時間制の拘束が伴う雇用ですら嫌がるので、猫獣人と何らかの取引をする場合、出来高払いか買取でやるしかない。彼らには時間労働という概念すら存在しない。
「人間も犬獣人も、奴隷制等という愚か極まりない制度を続けているのが甚だ疑問であるなーう。
あんなものは全てのもの達を愚かな怠け者へと変えるものだ! 愚かの山盛りであるなーう!」
前世においても奴隷の子孫で、今世においては犬獣人の奴隷となり、そこで反乱を起こして逃げ出した俺としても、心情的には奴隷制は全く許容していないが、とは言え今はあまり関係ない。
問題は、グイド・フォルクスを筆頭とした囚人捕虜達の扱いについて、だ。
「悪いが、俺としてはグイド・フォルクスも含めた囚人達を城塞内に入れることを許可は出来ない」
ボーマ城塞の警備隊長としての立場からも、かつてのグイドの行状を伝聞含めて知っている立場からも、ホルストはそう断言した。
「うーむ、それになあ。
流石に、わしらとしても王国軍からの脱走囚人を、それと知って中に入れるというのは、ちと拙いかもわからんしなあ~」
そう言いつつ薄くなった頭を掻くのは、ボーマ城塞サブリーダーにして実務や取引のまとめ役、ジョヴァンニ・ヴォルタス。
現時点でクトリア全土をを実行支配をしている勢力は無いに等しい。
邪術士を討伐し王都を解放したのはティフツデイル王国軍だが、その後彼らの兵力で支配できたのは転移門があるマクオラン遺跡と、魔力溜まりのあるアルベウス遺跡のみ。他、幾つかの駐留野営地はあるものの、“ジャックの息子”と多様な勢力のひしめき合う王都内を支配するには至らなかった。
そのことも含めて、クトリア人の殆どは彼らをこの地の支配者だとは認めていない。
王国軍が全戦力を傾ければクトリアを完全に掌握することも可能なんだろうとは思う。
しかし王国を取り巻く現状がそれを許さないし、また魔力溜まりを除けば不毛の荒野だらけのクトリアにはそこまでする価値は無い。
結局は多数の独立勢力がひしめく現状に落ち着いている。
その現状において、王国の法、王国の“逃亡囚人”がどういう立場になるのか?
要はクトリア人、クトリアに住む俺たちが、それらをどう遇するのが“正しい”と見なされるのか?
そういう話に繋がっていく。
ジョヴァンニとしては、現在ボーマ城塞としてもヴォルタス家としても、王国軍が課している交易税を無視している以上、これ以上には問題になりそうな事には関わりたくない。勿論王国軍の庇護下にない彼等に交易税を払わなきゃならない謂われはそもそもない。
しかしそれと、脱走囚人と知ってそれらを匿うというのはまた別の話になる。
彼らの庇護下に無いので税を払わないことと、彼等が罪人であるとした囚人を、一時的とはいえ匿う形になるのとでは全く違う。
城塞内に入れてしまえば、囚人自体の危険性とは別に、立場上後々厄介事の種になるかもしれない。
「取りあえず荷車も運ばせたんだしよう。こいつら面倒臭ェし全員縛り首にして吊しちまおうぜ。魔人や山賊共への良い見せしめになんだろ」
狩人チームの荷運び役ゲラッジオが吐き捨てるように言う。
経緯はどうあれ連中が俺達を襲った事実は覆りようは無く、たまたま俺たち側にそれを簡単に……それこそ、直接的には殺すこと無く撃退できるほどに実力差、体力差があったから誰も死なず、殺さずに捕縛出来たが、普通に慣習として考えれば不毛の荒野で襲ってきた山賊野盗の類なんざ撃退して皆殺しが当たり前で、見せしめに吊すというのもまた当然の感覚の一つではある。
「王国軍に引き渡しゃあ少しは金になるんだろ? 別に今殺さなくても良いんじゃねえ?」
グレントの言い分も最もだ。クトリア人として積極的に王国軍に協力する気が無くても、利益になるならやぶさかではない。
「ゲラッジオっていつもそれね。口ばっかしで、殺すのブッ殺すの」
「あぁ!? ンだとこのアマ!?」
「ちょ、落ち着く、落ち着く!」
カリーナの言にキレだすゲラッジオを、小太りのコナルムが宥める。
「はっ! てめェだって覗き見以外何の芸もねえだろーよ!」
「その覗き見すら出来ない誰かさんよりはるかに貢献してますけど~?」
「てめ……!」
カリーナの言うとおりではあるが、まあ言い方だ。
「だめよぉ~、そんな事言っちゃ~。
チームはねえ、それぞれが出来ることをちゃーんとやるのが大事よぉ~。
カリーナにはカリーナの、ゲラッジオにはゲラッジオの役割があるんだからねェ~」
まとめるトムヨイはこれまた真っ当など正論だが、逆の意味で言い方がアレだ。気が抜ける。
「だいたい、縛り首にしろってさ。あの巨大魔蠍を素手で捻り殺すような大男の首に、一体誰がどうやって縄をくくりつけるつもり?」
カリーナにそう言われると、これまた当然ながらゲラッジオもグレントも気まずげに口ごもる。
実際本当にそうしようと思うなら、象でも寝込むような睡眠薬でも盛る必要があるだろう。
大男、グイド・フォルクスとやりあってそれなりに勝ち目のありそうなのは、アティック、トムヨイ、ホルストくらいか。
俺は“シジュメルの翼”があるので負けることはないが、勝てるかというと怪しい。
今そうならないのは、何を考えてかグイドの方に戦う意志がないからだ。
「フフン、わしはな、気に入ったぞ、あやつをな。
王国軍に引き渡すのはもったいないぞい!」
猫獣人であるアティックにとって、彼らが囚人である、罪人であるということは、「引き渡せば金になる」こと以上の意味はない。
罪と罰、という概念が無いわけじゃあない。ただ「罰として拘束する」ことを好まない。
簡単に言えば「盗みの罰として数年間の禁固刑を課す」よりは、「取りあえずそんな奴指か手を切っちゃえば?」というのが猫獣人らしい罪の報いであり倫理観。まあそれ以前に猫獣人の多くは、盗みと狩りには大差ないと見なしてる方が多いらしいそうだが、その辺はまた別の話。
なので身体欠損を抱えた猫獣人はよく見かけるそうだ。もちろん罪の罰としてのみならず、命知らずとも思える無茶な行動でそうなりやすいからでもある。
いずれにせよアティックは、「王国の罪人であり囚人であること」を理由に「王国軍に引き渡すべきだ」とは考えていない。
彼自身が王国軍と契約をしていたり所属していたりすればまた別かもしれないが、今のアティックにそんな義理はない。
引き渡せば金になる、ということも、予想外に錬金素材として優秀な魔蠍の毒腺を大量に狩れたことから、今回はそれだけでも大幅黒字になるのであまり重要じゃあ無くなった。
俺達にはシャーイダール……のふりをしたナップル、彼らには東方人の秘薬仙薬を作れるティエジが居る。魔蠍の毒腺はかなりの収入に繋がる薬作りにもってこいで、おそらくは荷牛の弁償代金なんぞは軽く越えるだろう、と。
こうなってくると、今更囚人引き渡しの報奨金などの端金、わざわざ出向いてまで貰う方が面倒だ……ともなる。
アティックにとっては彼等が罪人であり囚人であることにたいした意味はなく、単純に自分達を襲った賊であることと、その1人のグイド・フォルクスが非常に興味深いということにのみ意味がある。
カリーナとトムヨイ、そして小心者のコナルムは、少なくともゲラッジオのように今すぐ殺せとは考えていないが、アティックに同調しているという感じでもない。強いて言うならグレントと同じ、「あとで引き渡せば良いんじゃない?」くらいの感覚か。
「まあ、後の処遇は今すぐ決めなくても良いだろう。
それより、JB。さっきの話なんだがな」
ボーマ勢、狩人達の意見が出尽くしてからそう口を挟むのは俺達探索班の班長ハコブ。
「連中の持ってた遺跡の情報はどこまで正確だと思う?」
囚人達が逃げるときに隠れ場所としてた何カ所かにあったという“遺跡らしきもの”。
それらが新たな探索につながるかどうか。
もし繋がるなら、俺たちからすれば是非とも詳細を確認したい。
「正直、聞いた範囲じゃあまだ分からんぜ。
場所も曖昧だし連中に古いクトリア様式と古代ドワーフ遺跡の区別がつくとも思えねえしな」
クトリア王朝初期の遺跡と古代ドワーフ遺跡は、俺達探索者からすれば一目瞭然。しかし素人には簡単に見分けはつかない。
「もっと細かく聞いて、それと出来りゃあ現場まで案内してもらわんとな。
しかも、その現場には魔人か他の脱走囚人が隠れ潜んでるかもしれねーわけだから、正直厄介だ」
脱走囚人ならまだマシだが、魔人の隠れ家になっていたら厄介どころの話じゃあない。
「何にせよ……暫くは連中につきあう必要はありそうだな」
腕組みとため息で正門前の水堀の脇で野営用の簡易テントを立てて寝かされてる囚人達を見ながら、ハコブはそう言う。
「まーな。
それが幸運に繋がるか、無駄足に終わるか……」
「シジュメルの導き次第……か」
砂漠の嵐シジュメル神は、ときとして砂に埋もれた真実へ人を導き、ときとして砂嵐に巻き込み破滅させる、気紛れな暴神でもある。
一通り、脱走囚人達の処遇をどうするかの意見が出揃った。
結局、連中を城塞内には入れない。
現状として連中の管理は俺たちと狩人の共同で行う。
正門前の一部に簡易テントを建てて寝泊まりをさせる。
数日はこれでなんとかすることになる。
連中の中では、グイド・フォルクスと、借金の踏み倒しで囚人になった優男。そして俺が薬を与えて魔蠍の毒で死にかけていたり脚の怪我で動けなくなっていたのを助けた三人が、かなり従順で協力的だった。
正門の前なのでボーマ城塞の見張りは居るものの、野外の野営である以上危険はある。連中同士での見張りやなにやらをその5人中心で仕切らせることにして、後は申し訳程度の簡易結界をカリーナが張っておく。
敵意ある野生動物程度ならば「いやな気配を感じて」入ってこなくなるし、魔獣ならば結界内に立ち入ると「軽い痛み、痺れ」を感じる。完全に立ち入りを防ぐまではいかないが、気後れをさせ時間を稼ぐことは出来る。
彼等を置いて、俺達は城塞内へ。
一応簡単だが柵で囲い、縄で杭に繋げているので簡単には逃げ出せないし、ボーマ正門の門兵が見張っている。
結界も逃亡防止の効果もあるが、まあ本気で逃げようと思えば逃げられ無くもないだろう。
なんだかんだ言いつつ、狩人達も俺達も、連中を捕虜にしておくことに強い拘りがあるわけでもない。
逃げたら逃げたでそれまでだ。多分、荒野で死にたいなら逃げた方が簡単に死ねるだろうが。
戻り際、俺はホルストとジョヴァンニへと向き直り、昼間に連中から聞いた話を告げる。
「連中を最初に襲った魔人の勢力は、『もう一度あそこを襲うには戦力が必要だ』と言って囚人どもを手下にしようとしたらしい」
2人は顔を見合わせて、眉根にしわを寄せる。
「俺が奴らの話を聞いてもこれ以上の事は分からないが、アンタらが聞けばもっと詳しく魔人達の思惑が見えてくるかもしれねえ。
もし、想像通りの事だったら……これから結構ヘビィな選択を強いられるかもしんねえぜ」
守るか、攻めるか。
どちらにせよ、こればかりは誰も死なせず済ませることは出来そうにない。
◆ ◇ ◆
広い。
最初の感想はそれだ。
とにかく広い。
全体がどれくらいの空間なのか、見当もつかない。
ざっくりと言っても、高さは1、2アクト(30、60メートル)近くあるし、体感でも既に1ミーレ(1.6キロメートル)は飛んでいる。
全体としては鍾乳洞窟のようだったが、所々に明らかな人工物が建てられている。
オベリスクのような石柱は、高さとしては1パーカ(3メートル弱)程度。頭頂部近くに丸い飾りがあり、その中心に据えられた魔晶石がぼんやりとした光を放っている。
これはただの街灯のようなものではなく、ドワーフ遺跡の中でも度々見かける魔力の中継点だ。
古代ドワーフの都市管理に使われていたものらしいが、具体的な利用方法はよく分かって居ない。
その中継点の近くには、白色オオサンショウウオや双頭オオサンショウウオ、岩蟹といった魔獣や地下生物が居る。
植物のようなものが生えている部分があり、それからぱっと見動くクリスマスターキーみたいなものが生えてきて、地面に落ちては連中に貪り食われている。
暫く進んで突き当たり、再び人工的な区画が見えてくる。
“シジュメルの翼”を引っ込めて島に降り立ち、そこから見える入り口を潜ると、内部はきれいに成形された空間。
このタイプのものは、魔法で建造された地下都市のものだ。
中はさほど広くなく、簡単な居住区のようだった。
地底湖の水が注がれている水路を抜けるとやや曲がりくねった通路が続き、その後は綺麗な区画割りのされた小部屋の数々。
炊事場だったと思われる部屋に、例の動くターキーの成る植物の部屋、トイレや風呂に、寝室……。
それと、やはり人工魔力溜まりの設置されたホール。
この人工魔力溜まりが中継点含めた諸々の施設を管理している中心なのは分かる。
しかし、何なんだ? これは。一体何を管理する為の魔力溜まりなんだ?
罠もないし、ドワーベンガーディアンも居ない。
そして何より、先に戻って来てアダンが言っていたこと。それが事実なんだってことが、よく分かる。
ここは新しい。
つい最近作られた。
そして、つい最近まで何者かが居た。
そうとしか思えない生活感がありありと残っている。
俺は幾つかのものを収穫してから帰還をする。
粗方偵察は済ませたし、結論は俺1人では出せそうにない。
そして何より───こいつはどーにも解釈が難しい事実が一つある。
この世界の言葉は、前世のそれとよく似てる。
厳密に言うと、この世界の人間の言葉は、だ。
帝国語、北方人語、クトリア語、西方語はそれぞれに変化がありそのままでは上手く伝わらない程度の差はある。
けど、物凄く大まかに言えば、全てラテン語属の言葉の変種、と言っても良い。
そもそも名前にも前世の言葉と共通点がある。
クトリア人の多くはヒスパニッシュ系の名前とよく似てる。
帝国人はややイタリア寄りか。西方人、北方人は西欧北欧、そして英語圏のそれと近い名前。
完全に一致するとも限らないが、所々で重なり合っている。
俺たち南方人の言葉はどうかというと、こっちに関してはちょっとよく分からない。
スワヒリ語とかアラビア語みたいな言葉に似てるのかというとそうでもなく、名前などは独特なものの、少なくとも俺の村なんかのクトリアに近い村々では、ほぼクトリア語が公用語化していた。
古代ドワーフ遺跡の最下層からの隠し階段。
そこから真っ直ぐ降りた先にあった最初の空間にも、人工魔力溜まりがあった。
こちらの方もまた新しく作られた区画であることは良く分かる。ただし造りは乱雑ででたらめ。突き当たりにあった整った居住区とはまるで違う。
で、そのホールの岩肌そのままの壁に、真っ平らに削って整えられた壁が一カ所あり、そこに「奇妙な壁画」が彫り込まれている、と。
そう聞いていた。
古代ドワーフ遺跡にある壁画は、壁画、絵というよりは、複雑な文様のようなレリーフであることが多い。
レリーフでありながら、同時に神話や歴史を絵物語り風に彫り込んだものでもあるという。
じゃあこれは何だ?
最初にそれを見たときに、俺は自分が狂っちまったんじゃねえかと思うくらいに驚いた。
そこにはこう、大きく書かれていた。
「I'll be back(また戻ってくるぜ)」
完全な英語表記。しかも、コミックの様なキャラと吹き出し付きで。
……誰なんだお前は?
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