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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-39.追放者オークのガンボン(37)「暑いじゃなくて熱い! 」
しおりを挟む「熱ッ! 熱ッ!」
暑いじゃなくて熱い!
何これ、何なのこれ!?
何か地面の下から穴掘って、でっかい火を吹く蟻とか出てきてんだけど!?
フローズンゼリーを調子に乗って食いすぎだせいでか、やや緩くなったお腹の具合にトイレへと籠もっていたときに、レイフからの緊急の警告。
慌てて外へ出て見ると、食料庫の中に不穏な気配と物音が。
恐る恐る近付くと、ぶわっ、と火が吹き出て来てひっくり返る。
ふへ、何か燃えてる!? あー、大蜻蛉だ……。
中を覗くと視界にはいるのは犬くらいの大きさの赤黒い蟻。
そいつらが、俺が解体して持って来ていた岩蟹、双頭オオサンショウウオ、巨大デンキウナギこと亜水竜の肉を、食いちぎり運び食いちぎり運びの、盗人現行犯!
ぬわ! ぬわぬわぬわ!?
これは……許されンよ!?
しかし……ぐむむむむ。どうすりゃいいのか。
あんな火炎放射みたいな攻撃食らったら俺もタカギさんも即焼豚だ。豚トロだ。香ばしい脂の焼ける香りでよだれズビッ! だ。
指を咥えて俺の食材を盗まれるのを見過ごすのはとても出来ないが、こいつらをやっつける方法がちと浮かばない。
どーする!? ああ、また! そこは双頭オオサンショウウオの中でもかなり美味しい尻尾の肉!
どうにも我慢ならなくなり、蟻の流れが少し途切れた隙に中へと入り、一番良い双頭オオサンショウウオの尻尾肉と岩蟹の大ハサミを持ち出す。
見つかってない……よし、次だ!
岩蟹の脚を数本……あ、調味料は確保しとかないと……んーーもう一本尻尾肉を……あ。
ゴウッ! と尻を焦がす火炎放射。
見つかった!
てか泥棒はあいつらなのに、もはや居直り強盗か!
俺は尻尾肉と蟹脚を両脇に抱えてどすどす逃げる。階段を上がり、まるで質量があるかにまとわりつく、むわっとした外の空気の中へと突っ込んで走る。
後ろからは火を吹く蟻がカサカサカサカサ追いかけてきて、時折ぶわっと火を吐きかけてくる。
だから熱いって! やミれ!
タカギさんも大蜘蛛も火には弱い。水属性の聖霊獣であるケルっピなんかも弱い。
厳密には、ケルっピは存在自体が水属性の魔力そのものなのだとかで、火炎放射に対抗する為の結界を出すのは文字通りに身を削る行為。
で、あまり消耗しすぎると物質世界に存在を維持出来ず、精霊界とやらに帰還せざるを得なくなるらしい。
「ちょ、ガンボン! 何で連れてきちゃってるの!?」
やや上の方でレイフの声。視線をやると、ダンジョンハート区画の周りに建てた壁の上にホバー椅子ごと待避して、蟻の放つ火から逃れてる。
連れて来た、とは心外な! 勝手についてきたんだもん!
……いや、やっぱそうかな、うん、ゴメン。
俺は壁に開いたアーチを潜り抜け、素早くその陰に隠れる。
追ってきた蟻達はそのままアーチを潜り抜けようとして……その足元を狙いすまして“双頭オオサンショウウオの尻尾肉”を一振り。
ものの見事に脚を取られ、重なり合って倒れる。
そこへもう両手に持った“岩蟹の脚”でもってボコボコに殴る。
あ、割れた。岩蟹の殻、結構硬いのになあ。
あまり効いてなさそう……逃げろ!
いつもの棍棒はどうしたかというと、あいにく下に置いてきてしまった。
いざという時に武器よりも肉を優先してしまうのは、生きる上では仕方のないこと。
周りを見るとレイフが召喚したらしい骸骨兵士がわらわら沸いてて、二カ所ある階段周りで蟻達を追い返そうと囲んでいる。
状況的には、地表部分に三匹程の赤黒い蟻が俺を追い回してて、地下室への出入り口を骸骨兵士が封鎖してる。そう言う意味では分断出来た。
この空間全体に、うっすらと霧のようなものが漂っているが、これは多分ケルっピの霧の結界だろう。
小さなそれは、ここの熱気除けとして常時使っていたけども、今はその効果範囲をダンジョンハート区画をすっぽり覆うくらいに広げている。
魔力で作られた火炎放射は普通の炎とは少し違う。同様に魔力で作られた霧も普通の霧とは少し違う。
ケルっピの霧のお陰でか、赤黒い蟻の放つ火炎放射の威力は心持ち軽減されているように見える。……見えるだけ? かな?
「ガンボン! あれ!」
レイフの声に視線をやると、ありゃりゃ、これは……一回り、いや、二回りばかしデカいのが出たぞ?
「兵隊蟻だ! 気をつけて!」
てことは今までのは平民蟻とかそーいうの?
その兵隊蟻とかいうのは威嚇するかにガチガチと顎を噛み合わせ、大きく頭を振るうと、押し合いしていた骸骨兵士をなぎ倒す。
うげぇ、パワーが全然違う!
ぶんぶん顎を振り回して、骸骨兵士をガンガンなぎ倒しまくる。
あらヤバい、せっかく囲んだのに突破されちゃう。
そちらを手伝おうにも、追いかけてきてる小さい方にすら対処出来てないのでどーしょーもない。
蟹脚と尻尾肉以外で何か武器になるものは……と、探して見つけたのは……。
「むおぅッ!!!」
臍下三寸、それは丹田という力の集まる身体の中心。そこへとぐっ、と力を込めて、気合いの声と共にそれを両手に構える。
あ、前が見えない。見えないけども奴ら芸もなく俺を追ってるし、多分大丈夫オッケー問題ナッシング!
高さは2メートル程で、幅1メートル未満。
そして厚さは10センチにまでは満たないか?
石造りのそれは、“工房”区画で熊猫インプ達によって造られていた“石の扉”。
現時点でのその形は、採掘で掘り出された石を原料に、土魔法で変形圧縮強化した一枚の大きな石版である。
工房区画の作業台に置かれていたそれを抱えると、腰の力で振り返り、俺はそのまま倒れ込んだ。
ぐちゃ、という嫌な音。
俺を追いかけてた赤黒い蟻は、見事にその“大きな石版”に潰される。
よっしゃ! やったぜ! 誇らしげにガッツポーズ! ……としたところにまたもや火!
ヒィ! 火、火! 熱ちちちち!
追いかけてきていた三匹のうち、きちんと潰せていたのは二匹まで。
一体は危うく難を逃れたらしく、再びカチカチを顎を噛み合わせて火を吐く為の予備動作。
やばい、距離取れてない! しかも気合い入れて重い物持ち上げた直後で、ちょっとばかし疲労で反応が鈍い。
尻餅状態で立ち上がれないままばたばたと後ろへ逃れようとしているところへ、再度の火炎放射。
熱ッ……いや、いやいや、何処へ向けて?
赤黒い火を吹く蟻は、まるで見当違いの空中に向けて火炎を放つ。
ばたばたばたっ、と、その隙に距離をとる俺。
先程のように素早く追いかけ詰めてくるかと思いきや、まるで俺を見失ったかほようにじたばたしながら、明後日の方向へと火を吹いている。
何だ……? 訝しげにその様子を見ると、移動がバタついているのは前脚を半分潰されてたから。
そして……あーーー! そうか!
俺はそいつの何にダメージを与えたのかが分かった。
「レイフ! 触角! 弱点、触角!」
大声で、ホバー椅子の上で隠れているレイフに伝える。
そう、三匹目の赤黒い火吹き蟻は、前足の半分だけではなく、頭部の触角まで傷つられていた。
何でも蟻というのはその頭部に大きな目を持ってはいるものの、実はその視覚情報にはあまり頼っていないらしい。
言い方が正しいかどうか分からんけど、要するに「目が悪い」。
まあ、人間や俺みたいなオークなんかとは視覚、目の役割そのものが全然違うということだろう。
それより重要なのは触角で、蟻は外部の情報のほとんどをそこから得ている。
匂いはもとより、温度湿度光量等々、あらゆる情報を感知するセンサーなのだ。
……と、後になって教えてくれたレイフも、このときになって初めて、
「そうか! 触角だ!」
と、その事に気がついたらしい。慌てすぎてて忘れてたようだ。
ふんぬ! と再び石扉を持ち上げて、俺はにじりにじりと残った一匹に近づいて再びバタン! と倒して叩き潰す。
しかしこの手は、大きさが中型犬並みの小型相手だから出来た。今包囲を突破しつつある大型の兵隊蟻には使えない。
レイフは兵隊蟻含めて触角狙いに作戦を切り替えたいところだろうけど、ただの召喚魔物の骸骨兵士には【憑依】でも使わないかぎりそこまでの精密な指示は出せないし、【憑依】しても骸骨兵士じゃ先にやられる可能性の方が高い。
それに【憑依】してる最中にその使い魔や従属魔獣等が殺され、破壊されたりしてしまうと、これが結構キツいらしい。
殺される、破壊されるという感覚が術者自身にフィードバックされて、肉体的にはともかく精神的にはダメージを受ける。
たまに、あまりに使い魔へと同調しすぎた術者は、【憑依】した対象の死と同時にショック死することとかもあるのだとか。
そこまでいかずとも、この近距離で【憑依】を行い死のフィードバックを受けてしまえば、かなり大きな隙を生む。
だからここではそれを出来ない。
どうする?
骸骨兵士を除いたこちらの戦力は、ケルっピ、蜘蛛っ子、タカギさん、そして俺。
みんな火炎放射への耐性はない。
防ぎ得るのは、ケルっピの霧の守りだが、それもやや心許ない。
「ガンボン!」
レイフが辺りを見回しながら呼び掛けて来る。
「……取れる?」
取れるか? 何を?
……いや、聞くまでも無い、取れるし、取る。
俺はレイフを見返して、コクリと頷く。
「ケルっピ! 霧の守りをガンボンに集中させて!
蜘蛛っ子アラリン! 蟻の足元に粘着糸!
タカギさん───」
ブギィ! と高く跳ねつつ俺の目の前に着地するタカギさんの勇士。
俺は素早く跨がり、再びタカギさんは跳躍。
その跳躍力はかなりのもので、骸骨兵士たちの頭を飛び越え、蟻の群の頭も飛び越える。
「ガンボン!」
レイフの声を聞きつつ、俺は空中でタカギさんから飛び降りる。落ちる先には例の大きな兵隊蟻。
顔を上げて俺を察知した兵隊蟻は、カチカチと顎を噛み合わせての火炎───。
熱い!
けど、耐えられる!
霧、として広範囲に拡散させていたケルっピの守りを、俺一人に集中させたことで、その水属性魔法での守りの効果は倍増、いや、何十倍にも上がっていた。
それでも兵隊蟻の火炎放射はそれを打ち破り、俺の皮膚を舐めるようにして焼き焦がす。
だが、弱い。皮膚までは焼けても、肉までは届かない。
そして俺に使える数少ない簡易魔法の【自己回復】で、その火傷も僅かずつ修復していく。
そして俺は右手を伸ばし───兵隊蟻の触角を掴んで、そのまま千切って捨てる。
そりゃあ向こうの世界では国体レベルの柔道選手相手に組み手争いを練習させられていたのだから、巨大蟻の背後からデカい触角を掴み取るのなんか屁でもない。
いや、蜘蛛っ子の糸である程度拘束が出来てなかったら危なかったけどね!
そのまま飛び跳ね、別の働き蟻の触角も3つ程むしり取ると、勢いのままに前転して包囲の隙間を抜ける。
ギチギチギチ、と顎を怒らせ唸りを上げる蟻達は、それぞれに敵を見失い、互いに近くの気配へ攻撃をし始めた。
同士討ちだ。
「よし、ガンボン! 場所を空けて!」
レイフの合図でスタタッと(実際にはドデデデッと)駆け抜けて、俺はそのまま反対側の地下への入り口に向かう。
こちら側にも蟻達が押し寄せてるが、例の兵隊蟻がまだ登って来てない分骸骨兵士の方が優勢だ。
骸骨兵士の間をすり抜け、火炎放射をかわして再び触角に手を伸ばす。
一回目は掴みそこね、しかしそのまま右手を内側へ曲げて蟻の頭部を引き寄せると左手で触角をむしる。
そいつを蹴り飛ばし二匹目、三匹目とむしり続けると、こちらも同士討ち大会が始まった。
そのとき背後から、どう、と大きな音がして振り向くと、反対側の階段でケルっピが大きな魔法を使ったらしく、地表階まで上がってきていた蟻達の姿は見えない。
そのまま此方へとやってきたケルっピは、再び魔力を増幅させ嘶くと、その頭上に巨大な渦巻く水の固まりを作り出して、階段入り口で押し合いへし合いしている蟻達へとそれをぶつけ、そのまま地下へと流し去った。
……うわぁ、おっかねえ。“水の迷宮”のときに直接戦わなくて済んで良かった。
◆ ◇ ◆
後始末はかなり面倒なことになった。
地下階の生活居住空間は辺り一面びちょびちょのぐしょぐしょ。濡れ濡れの大洪水だ。
とは言え、寝室辺りにはそんなに濡れて困るモノは無い。
俺が持ち込んでた毛皮や革製の鞄、厚手の布地の小物入れ袋とかくらいで、そんなに私物も無い。
困ったのは食材だ。
これで、塩を含めた各種調味料に、芋の粉、ドライフルーツに干肉等は、全部台無し。
味の濃いもので唯一残ったのが酸味の強い塩漬け野菜の入った壺と、蜂蜜の壺のみ。
発酵した塩漬け野菜の酸味と、蜂蜜の甘味。それのみだ。
これでは……味のバリエーションがっ……!!
なんということだ! なんということでしょう!
肉はある。ついでに言えば、蟻肉も茹でたら意外と美味しい。
味の方向性としてはエビ、またはシャコと言ったところか。
ただ腹の中に毒腺があったので、それは取り除く必要あるけれど。
が! それでは、ダメなのだ!
魔物料理の第一人者としては!
全く不十分なのだ!
ぐむむむぅ~、と唸る俺。
その俺に、やはりぐむむむぅ~、とした渋い顔で横に並びながらレイフ。
「ガンボン、良い?」
コクリと頷く俺。
「今回は速攻で行こう」
と、んん? ちょっとそれはレイフにしては珍しいくね?
いつもは慎重派なレイフが、速攻で行くと言う。
「こんな糞暑いところでじっくりのんびり、なんてやってたら、まず精神がヤられる。
スパンと終わらせて、次へ行こう……!」
賛成! 超賛成!
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