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第二章 迷宮都市の救世主たち ~ドキ!? 転生者だらけの迷宮都市では、奴隷ハーレムも最強チート無双も何でもアリの大運動会!? ~
2-34.-J.B.(20)I Know You Got Soul(“ソウル”を感じるか?)
しおりを挟む光る……消える……光る……消える。
明滅を繰り返す灯りと、変わった香りのする室内。
クトリア地下街の遺跡内部の隠し部屋だが、ここも含め俺達“シャーイダールの手下達”が利用している隠れ家の一つでもある。
その中で、椅子に縛られうなだれている痩せた男は、例のクランドロールのボス、サルグランデの“客人”だ。
呻き声はするものの、抵抗したり逃れようとする気配はない。
一つに、事前に飲ませた例の酒。そしてこの部屋に漂う香り。
今回酒に混ぜてて使ったシャーイダール……の仮面を被ったコボルトのナップル……特性魔法薬には、心の中の思いを素直に吐露したくなる効果がある。
つまりは自白剤みたいなものだ。
そして漂わせている香りには、緩やかな眠気と多幸感を齎す、いわばダウナー系ドラッグの様な効果。
以前イベンダーのオッサンが着けられていた魔導具の隷属の首輪を填めてやることが出来ればもっと確実なんだが、アレは誰にでも簡単に扱えるようなお手軽アイテムじゃない。まあ、あんなもンがお気楽手軽に扱えてたらとんでもないことになる。
隷属の首輪の元になった古代の魔導具に、服従の首輪というものがあるらしいが、これはあくまでもある程度反抗心や敵対行動をある程度抑制するだけで、例えば殺されそうになる等の本人の危機に関わる場面では効果を発揮しない。
元々は古代ドワーフやトゥルーエルフの文明時代に、犯罪者や粗暴犯への矯正用具として使われていたらしい。
で、それを元にした隷属の首輪はというと、クトリア王朝末期に北に住む巨人族を支配し奴隷兵士とするために開発されたのが始まり。
首輪を起動させた対象への攻撃が出来なくなり、また命令に反すれば魔術による痛みを与えられるという、行動への強い制限が組み込まれている。
ただ、そのためにはまずは使用者が魔力を注ぎ込む必要があり、俺みたいに自分自身の魔力を使えない奴は他人にはめることは出来ない。
オッサンに着けられていたそれは、シャーイダールの魔力に反応するようカスタマイズされていたため、例の“呪われたシャーイダールの仮面”を被れば出来なくもなかったかもしれないが……まあ、アレを被るのは止めておきたい。
で、それだけではやや心許ないので、複数の薬だけでなく光の明滅を利用した催眠効果まで乗せている。
我ながら実に念入りだ。
『お客人……お客人……』
隣の部屋から小窓で様子を見つつ、穴を通してくぐもらせた声で語りかける。
「う……うぅ……何……だ」
『ボスが、仕事の方は何処まで進んでるのか、聞いてくれと……』
「……うるさい……黙れ……」
不機嫌そうに顔を歪めて、そう吐き捨てる。
薬の効果で“正直”にはなっているが、こちらの望む反応を必ずしてくれるワケでもない。
俺は少し考え、話の矛先を少し変えてみる。
『ボスが新しい女を用意したんですが、進み具合が確認出来ないことには渡せないと言ってまして』
そう言うと、目に見えて嫌そうな顔をし、
「糞が……ふざけるなよ……俺を……誰だと思ってん……だ?
てめーら能なしの……糞馬鹿共だけで……“ジャックの息子”を倒せるとでも……思ってるのか……ええ?」
ぞわりと怖気が立つ。
あの部屋にあった、動かない状態の“ジャックの息子”が警備兵として使っている特別なドワーベンガーディアン。
その他メモや走り書きからも推察できた、「奴ら」の目的……。
それらのいやな感触を振り払い、俺は男へと「質問」を続ける。
『ええ、全くですわ。ボス達はお客人の偉大さを、全く分かってねえんですよ。
真にすげえのは、ボスでもクランドロールでもねえ、お客人ですわ』
意識明瞭なら鼻につくほどの安いおべんちゃら。しかし今は薬の効果で正直かつ単純な思考しか出来てない。
男はへらへらと薄ら笑いをしながら、
「へっ……あたりめえだ……。
ドワーベンガーディアンの“改造”だけじゃ、ねぇぞ……?
毒に……爆破陣……他のファミリーと、“ジャックの息子”……全部まとめて……皆殺しにしてやる計画は……俺が居るから……だろうが……」
ヒヒヒ、と下卑た笑いをしながらの告白は、ふざけた程の謀略陰謀。
全く、こんなもんを聞かされるはめになるとはね。
クランドロールのボス、サルグランデの企み。その概要はこれで分かった。
証拠はあの部屋のガーディアンやその他の研究品にメモの数々。
問題は、この事実をどのように扱うか、だ。
陰謀は言うまでもなく明らかな協定違反だ。
これが発覚し、他のファミリーや“ジャックの息子”に先手を打たれれば、クランドロールは三大ファミリーの地位を追われ、あくまで刃向かう残党は皆殺しになるだろう。
俺個人の立場で言えば、まあそんな「内輪もめ」の事なんざ知ったこっちゃない。
が、今ここに「そんなの関係ねえ」とは言えない男が1人居る。
「はァ~~~……。
馬鹿だ馬鹿だたァ思っていたがよ、ここまで馬鹿だたァね~~~。
こりゃあ、どーしたもんだかねェ」
俺の横でそう禿かけた頭を掻きつつボヤくのは、クランドロールの実務を担うナンバー3、クーロ。
口調は相変わらずのすっとぼけた感じだが、実際これは爆弾級の話だ。
俺はわずかに“シジュメルの翼”に魔力を通し、薄く風の防護膜を身体にまといながら慎重に言葉を連ねる。
「実際問題、クーロの旦那。
今この段階で、“完全な証拠隠滅”は可能だと思うかい?」
この男を殺し、サルグランデと“鉄槌頭”のネロスを殺し、ゲストルームのドワーベンガーディアンと資料やメモを破棄する。
そうすれば、あたかも初めからそんな陰謀なんか無かったように出来る……と、そう思える。
「……さあて、な。なんとも言えねえや」
腕を組み、右手で顎髭を撫でながら、憮然と答えるクーロ。
「今の段階じゃ証拠や関わってる幹部の全てが分かってるってなワケでもねぇし、それを特定するにもどーしたもんだかねェ……」
「このまんまこいつに話を続けさせても必ずしも全てを明らかにするとも限らねーし、サルグランデしか把握して無い証拠や人員、計画が隠れてるかもしんねーしな」
「……あァ~、糞!」
ガシガシと頭をかきむしるクーロ。ますますハゲが進行しそうだ。
「それにまあ、今回は成り行き上たまたま俺がこの陰謀を暴く結果にはなりゃあしたが、逆に言やぁ、俺程度に分かっちまうって事は、“ジャックの息子”やプレイゼスあたりにゃ見透かされててもおかしかねェ。
実際、昨日の入札の時の“気取り屋”パコの奴も、入札そのものにはさほど感心無さそうで、“鉄槌頭”ネロスを監視してる素振りだったしな」
これらの“憶測”は、はっきり言えばデタラメだ。
成り行き行きがかりとは言うが、攫われた孤児の女1人を助け出すためにクランドロールに喧嘩を売ることになり兼ねない危険な橋を渡るようなバカはそうは居ないし、今まで内部でサルグランデと軋轢のあったクーロに見破れても居なかった陰謀が、そうそう見抜かれるなんてことはありゃしないだろう。
勿論、今確認出来ていない陰謀や証拠が後から出てくるかもしれない、ってーのに関してはマジな話だが。
けどまあ、俺がここでそんな事をベラベラくっちゃべってンのは、「さらなる陰謀が発覚して、クランドロールが窮地に陥ること」を心配しているのではない。それこそ俺には「そんなの関係ねえ」の話。
俺にとって重要なのは、今ここでクーロが短絡的に「俺や仲間達諸共皆殺しにして、全ての証拠と証人を消して無かった事にしてやろう」等と考えないように牽制する、ということだ。
そして思惑通り、クーロはこの件に対してどう対処すべきか瞬時に判断つけられずに居る。
陰謀の存在は明白でも、その底が見えない以上どうあっても簡単に闇へ葬る事は出来ない。
ここで、俺が助け舟を出してやる。
───いや、ある意味これは悪魔の囁きか?
「なあ、クーロの旦那。
ここは───あンたが“英雄”になるしか、手はねえんじゃねーのか?」
◆ ◇ ◆
「おう、どーだい調子はよ?」
見舞いのていで持ち込む食い物をガキ共に渡し、隅で横になってるジャンヌと、その横にちょこんと座っているメズーラの向かいに座る。
「……ま、昨日よりゃマシだ」
憮然としたまま答えるジャンヌに、横で座っていたメズーラが、
「ジャンヌ、もう、お、起き、あがれる」
嬉しそうにそう言う。
昨日の夜に、例の「客人」を気絶させ、辺りのメモやら何やらめぼしい物をポーチにしまい込んでから、さてどうしたもんかと一思案。
二人いっぺんに運ぶ……のは流石に骨が折れる。
メズーラはガリガリだし「客人」も痩せて居るから、無理をすれば出来なくも無いかもしれねーけど、無理してバランス崩して落っことしてもたまらない。
結局はまず一番の目的だったメズーラを運び出してここに届けて、とって返してから厳重に縛り上げた上に、鼻の側で例のダウナー系ドラッグお香を焚くことでへろへろにしておいた「客人」を運び出す。
これがまた、意識が無い人間てのは、全体重の負荷がかかり、えらく運びにくい。
そして隠れ家の一つへと運び込み、椅子にくくりつけてもう一度お香を焚きしめ、再びとって返してクーロを呼びに戻る。
カストを含めた子飼いの護衛数人と共にやってきたクーロ達を地下へと通し、例の「客人」を閉じ込めた部屋の隣に入る。
ここには念のため、他の手下を待機させ俺とクーロだけ。
護衛達を外で待たせながら「客人」から陰謀の中身を聞いた後に、「客人」はそのままクーロへと引き渡して、ようやく俺は帰路へと着く。
とにかく疲れた。
ボーマ城塞から戻ってこちら、死にかけジャンヌの治療に、メズーラの誘拐。
その調査をするため策を練って牛追い酒場に酒を卸し、その噂で貴族街三大ファミリーを誘い出して狩人チームに依頼をして動向を探り、入れ札での取引後にカスト達に襲われ返り討ちにして締め上げる。
そして今日は、三大ファミリーの幹部に「取引」を持ちかけて、挙げ句に陰謀を暴いて、ようやくメズーラを助け出す。
頭使いすぎだし、動き回りすぎだし、働き過ぎだ。
しかも貴族街三大ファミリーの幹部クラスと立て続けに会って、駆け引きだ何だと、精神もガリガリ削られている。
傍目には堂々としてるように見えただろうが、そりゃ半分以上は演技だ。そう見えるよう振る舞ってただけでしかねえ。
何にせよ、だ。
やるだけのこと、出来るだけのことは全てやった。
後はもう兎に角寝て、結果を待つだけだ。
とは言え、油断は一切出来ない。
少なくとも今夜は事が動き出すことにはならないだろう。
すぐには、だ。
だが、明日……。
最悪の結果としては、クランドロールの刺客が剣を手にしてこちらへとやってくる事になるかもしれない。
勿論連中だって、名の知れた“邪術士シャーイダールのアジト”に、無策で突っ込んで来て喧嘩を売るほど馬鹿ではないだろう。
それに、“ハンマー”ガーディアンの件以降、シャーイダール……の、仮面を被ったナップルには、マルクレイと共にアジトの防衛設備の補強をさせている。
そのため、仮にクランドロール200の構成員が全て突撃して来たとしても、魔法、魔法の罠等への対抗策をそう持たないであろうクランドロールならば、少なくとも一刻近くは侵入させずに膠着状態を保てる。
そしてその隙に、ナップルだけが知っていた「秘密の抜け穴」を使い外に出て身を隠しつつ、幾つかの証拠と共にプレイゼス、マヌサアルバ会、そして“ジャックの息子”を動かしてクランドロールを潰させる……と、そこまでのプランは、考えてはいる。
巧く行くかどうかは別として、な。
裏にここまで厄介な陰謀が絡んでいるとは思ってなかったとは言え、俺の“個人的”な問題でブルやマルクレイをはじめとした仲間達全員に迷惑をかけかねない事態にまでなってしまったことには申し訳ないとは思う。
まあそうなったら、まずは他の連中を逃がす為の時間稼ぎ役くらいは引き受けるつもりだ。
流石にこれで、自分だけさっさと逃げ出すような真似は出来ない。
疲れ果てていたこともあってかなりグッスリと寝ていた俺は、日も昇り遅くなってからブルに蹴飛ばされて起こされる。
そして飯を食い歯を磨き顔を洗い……とやってから、こうしてジャンヌとメズーラ達の様子を見にやってきた。
ジャンヌの様子は特に大きく変わっちゃあいない。容態は良くはなってるっぽいけどな。
メズーラも……まあ詳しい話を聞いてるワケじゃねーけど、閉じこめられていた他は特に何かをされたわけでも無かったようで、思っていたよりは大丈夫そうだ。
勿論、ショックを受けて無いなんてワケは無い。
けれども今回程度の事ならば、メズーラが今まで生きてきた上で経験してきた多くの悲惨な出来事の山に埋もれ、いずれは思い出される事もなくなるだろう。
それは決して、幸運なことでは無いだろうけどもな。
「今回は───助かった」
横を向いたまま、小さく呟くようにそう言うジャンヌ。
「礼はツケ払いで良いぜ」
「うるせーよ、ボケが」
そう毒づくものの、その声には以前ほどの力もない。
全く、細けーこと気にすんじゃねえよ、と言い掛けたが、
「そんな小せえ借りじゃねえだろうがよ……」
と続けられ、どーにも調子が狂っちまう。
「ジ、JB、ね……」
その横から、メズーラがやや遠慮がちに袖を引いて話し掛けて来る。
「ん? 何だ?」
「また、そ、空……飛ぼう、ね?」
へらっとはにかんだように笑いつつそう言ってくるメズーラ。
「───ああ、そうだな。今度は昼にでも飛んでみるか?」
そう返すと再び、にへらと無邪気に笑った。
【若き頃のサルグランデ】
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