20 / 28
第二章 出会い
ep5
しおりを挟む
入学式が終わり、教室に戻る途中で青い顔をしながら足早に教室へ戻ろうとしていたシャルロットの腕が後ろから掴まれた。
「!」
振り返ると、姉であるアリエッタが2年を経てさらに美人に磨き上げられている様子を見ながら、微かに息をのむ。
「あんた、やっぱりシャルロットじゃない。久しぶりね」
リッカードの前で見捨てられた時とは違い、優しい口調にシャルロットは小さく息を吐いた。
(やっぱり、何かの間違いだったんですよ。…そう、姉さまが私のこと、考え直してくださったんですよね)
両親はともかく、姉だけはあの日以外、優しかった。
だからこそ、もう一度だけ信じたいと願ったシャルロットはアリエッタに笑顔を向けた。
「ひ、久しぶりですね、姉さま。あの後、森の魔女さんに助けてもらって、学校にまで通わせてもらえたんです!」
溌剌とした調子でそう言ったが、自分の心の変化に内心で戸惑っていた。
(あれ? 嘘はついていないですけど…でも、どうしてでしょう? 全部本当のことを話さないほうがいいって考えてしまうのは…やっぱり、姉さまのこと…信じられないのかな)
そんなことを考えていると、エイナに声を掛けられた。
「シャル、早く教室に戻ろうよ」
「あ、はい。で、では…姉さま。また後で」
「うん、そうね。あたしは別荘から通っているけど、そこまでの距離じゃないし、いいわ。あとで会いに行ってあげる」
「は、はい…。えと、食堂でお待ちしています」
シャルロットは戸惑いながら、エイナと共に教室へ戻る途中、エイナにそっと囁かれた。
「あの貴族女と知り合いなの?」
貴族クラスの一つに入っていったアリエッタを見やったエイナにシャルロットはキョトンとした。
「へ? あ、その、親戚のお姉さん、なんです。私は除籍されているので貴族ではないのですけど」
話すとややこしくなりそうなので、親戚のお姉さんと言うことにして説明をしておくと、エイナはケッと声を漏らした。
「貴族って、そういうところが面倒」
やれやれと首を横に振ったエイナは遠い目をした。
「平民はやれ敬えだの、やれ頭を垂れろだの…クソ面倒くさいことこの上ない」
「え、エイナ…?」
エイナの口調の変化に戸惑っていると、ニールの呆れた声がした。
「そのティク娘の今の言葉遣いがノーマルだから気にしないほうがいいよ。そいつ、族長の娘だっていうけど、ティクなんてマフィアみたいなもんだから」
「ブリガンテこそ、海のクズよろしく。でしょ?」
ニールが眉間に皺を寄せると、ヴィクターが二人の間に割って入り、トントンと肩を叩いた。
「はいはい、そこまで」
エイナもニールもフイッとそっぽを向きながらヴィクターに肩を押されて歩き出す。シャルロットはキョトンとすると、ヴィクターが振り返った。
「ロッティ、早く」
「あ、はい」
「それと、…僕に胃に優しいデザートか何か作ってくれると嬉しい」
勇気を振り絞って冗談めかしながらさりげなくおねだりをしたヴィクターにシャルロットは笑顔で言った。
「では、ミルクプリンを用意しますね」
「…それは怖い人が飛びついてきそうだからやめてくれる?」
「では…胃薬入りのデザート、とかですか?」
「…それ、美味しくなさそうだけど…ロッティは作る自信ある?」
「ないですね。では、ちょっと時間がかかりますけどプリンを」
「うん、お願い」
すると、エイナが身を乗り出した。
「シャル、デザートを作れるの!?」
ヴィクターが少し得意そうな顔をしながら教室に戻る方へと彼女を押しやりつつ進んでいく。
「うちのばあ様仕込み、だからね」
「? おばあ様、そんなにすごいの?」
「…そ、そうだよ…」
急に自信がなくなったのかうつむいたヴィクターにニールはフンッと鼻で笑い、エイナを見据えた。
「クティアルトと言うと有名な話があるからね」
エイナが再びニールを睨んだので急いでヴィクターが二人の背を押して進む。その様子を見ながら、シャルロットは先ほどまでの不安が嘘のように溶けだして思わずクスッと笑ってしまった。
「…ありがとうございます、ヴィクター君」
ヴィクターが目だけでちらりと振り返った。
「ん、何か言った?」
聞き取れなかったのか聞き返した彼にシャルロットは満面の笑みを向ける。
「ホイップクリームを追加しますねと言ったんですよ」
「うん」
ヴィクターもちょっと笑ってそう言うと、教室に二人を押し込んで自分も入っていった。その背中を見送りながらシャルロットは胸の奥にちょっと温かいものが広がるのを感じていた。
「プリン、頑張って作らないとですね」
そう、気合を込めて。
「!」
振り返ると、姉であるアリエッタが2年を経てさらに美人に磨き上げられている様子を見ながら、微かに息をのむ。
「あんた、やっぱりシャルロットじゃない。久しぶりね」
リッカードの前で見捨てられた時とは違い、優しい口調にシャルロットは小さく息を吐いた。
(やっぱり、何かの間違いだったんですよ。…そう、姉さまが私のこと、考え直してくださったんですよね)
両親はともかく、姉だけはあの日以外、優しかった。
だからこそ、もう一度だけ信じたいと願ったシャルロットはアリエッタに笑顔を向けた。
「ひ、久しぶりですね、姉さま。あの後、森の魔女さんに助けてもらって、学校にまで通わせてもらえたんです!」
溌剌とした調子でそう言ったが、自分の心の変化に内心で戸惑っていた。
(あれ? 嘘はついていないですけど…でも、どうしてでしょう? 全部本当のことを話さないほうがいいって考えてしまうのは…やっぱり、姉さまのこと…信じられないのかな)
そんなことを考えていると、エイナに声を掛けられた。
「シャル、早く教室に戻ろうよ」
「あ、はい。で、では…姉さま。また後で」
「うん、そうね。あたしは別荘から通っているけど、そこまでの距離じゃないし、いいわ。あとで会いに行ってあげる」
「は、はい…。えと、食堂でお待ちしています」
シャルロットは戸惑いながら、エイナと共に教室へ戻る途中、エイナにそっと囁かれた。
「あの貴族女と知り合いなの?」
貴族クラスの一つに入っていったアリエッタを見やったエイナにシャルロットはキョトンとした。
「へ? あ、その、親戚のお姉さん、なんです。私は除籍されているので貴族ではないのですけど」
話すとややこしくなりそうなので、親戚のお姉さんと言うことにして説明をしておくと、エイナはケッと声を漏らした。
「貴族って、そういうところが面倒」
やれやれと首を横に振ったエイナは遠い目をした。
「平民はやれ敬えだの、やれ頭を垂れろだの…クソ面倒くさいことこの上ない」
「え、エイナ…?」
エイナの口調の変化に戸惑っていると、ニールの呆れた声がした。
「そのティク娘の今の言葉遣いがノーマルだから気にしないほうがいいよ。そいつ、族長の娘だっていうけど、ティクなんてマフィアみたいなもんだから」
「ブリガンテこそ、海のクズよろしく。でしょ?」
ニールが眉間に皺を寄せると、ヴィクターが二人の間に割って入り、トントンと肩を叩いた。
「はいはい、そこまで」
エイナもニールもフイッとそっぽを向きながらヴィクターに肩を押されて歩き出す。シャルロットはキョトンとすると、ヴィクターが振り返った。
「ロッティ、早く」
「あ、はい」
「それと、…僕に胃に優しいデザートか何か作ってくれると嬉しい」
勇気を振り絞って冗談めかしながらさりげなくおねだりをしたヴィクターにシャルロットは笑顔で言った。
「では、ミルクプリンを用意しますね」
「…それは怖い人が飛びついてきそうだからやめてくれる?」
「では…胃薬入りのデザート、とかですか?」
「…それ、美味しくなさそうだけど…ロッティは作る自信ある?」
「ないですね。では、ちょっと時間がかかりますけどプリンを」
「うん、お願い」
すると、エイナが身を乗り出した。
「シャル、デザートを作れるの!?」
ヴィクターが少し得意そうな顔をしながら教室に戻る方へと彼女を押しやりつつ進んでいく。
「うちのばあ様仕込み、だからね」
「? おばあ様、そんなにすごいの?」
「…そ、そうだよ…」
急に自信がなくなったのかうつむいたヴィクターにニールはフンッと鼻で笑い、エイナを見据えた。
「クティアルトと言うと有名な話があるからね」
エイナが再びニールを睨んだので急いでヴィクターが二人の背を押して進む。その様子を見ながら、シャルロットは先ほどまでの不安が嘘のように溶けだして思わずクスッと笑ってしまった。
「…ありがとうございます、ヴィクター君」
ヴィクターが目だけでちらりと振り返った。
「ん、何か言った?」
聞き取れなかったのか聞き返した彼にシャルロットは満面の笑みを向ける。
「ホイップクリームを追加しますねと言ったんですよ」
「うん」
ヴィクターもちょっと笑ってそう言うと、教室に二人を押し込んで自分も入っていった。その背中を見送りながらシャルロットは胸の奥にちょっと温かいものが広がるのを感じていた。
「プリン、頑張って作らないとですね」
そう、気合を込めて。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,339
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる