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序章 捨てられた令嬢とスイーツの邂逅
閑話 迷子の子豚ちゃんと私
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遠い昔、まだあの人と出会う前。こちらの世界に迷い込んだばかりの頃。
ある占い師に出会った。その占い師は私を見るなり目を細めて優しく微笑んだのだ。
『きっと、あなたは”導き手”となるでしょう。大いなる名を遺す存在をこの世に導く”大いなる師”。それがあなたの定め。星が示していますよ』
その当時、私はこの世界の言葉を知らなくて、必死にどういう意味なのか知ろうとしていた。そんな頃、私の知っている、私の母国の言葉で優しく話しかけてきたその占い師は占星術師をしているという人だった。
どうして私の世界の言葉を知っていたのか、それはわからない。でも、言葉がわからないのに、師匠なんてなれないと泣き言を漏らした記憶がある。
すると、その占い師は旅を共にする気があるなら、この世界の言葉を教えようと言った。
私も占い師も戦えるわけじゃないから必死に逃げることも多かったけれど、占い師の終の棲家を見つけてやることができ、そして、その占い師の最期を看取って私は一人、その街で感傷に耽りながらなんとか見つけた花屋の仕事をさせてもらっていた。
そして、行き遅れてしまったころに妻を失ったという男に後妻として捕まり、子ができなかったのをいいことに、なのか…それともヤケを起こしていたのか…。それはわからないけれど、溺愛の海に沈められた。
そうして男の子と女の子、二人の子供に恵まれ、私は大好きだった料理をして見せるとなぜかデザートでとても感動されてしまった。
聞けば、この世界。まだデザートの技術が未熟だというのだ。そして、調菓学校で習った程度の私のデザートはこの世界にない技術であり、革命とも呼べるものだそうだ。
本当は学校の教師にならないかと言われたけれど、そういう器じゃないことはよく知っている。
導き手なんてありえない。 …そう、私には無理だ。
でも、この家で働く料理人のみんなに菓子の作り方を教え、私のデザートは王家にも献上されるほどの領域にまでなぜか周囲から押し上げられてしまった。
王家にまで食べていただけるなんてとても光栄だと思っていたのだけど、食べ方が…その、汚い。
さすがに国王夫妻の手前、それを指摘するのは不敬すぎて無理だけど、着飾りまくってカササギみたいに品位のない――コホン。見た目を指摘するのは、それこそ不敬だわ。うん。
宝石で着飾りまくって成金のダサい格好をした、香水臭すぎる国王夫妻が苦手で、しかも食べ方が汚いから余計に嫌いになっていたけど、そんな私を癒してくれたのは第二王子の存在だった。
その子はディナーでも食べるように上品にケーキを食べ、嬉しそうに顔を綻ばせては丁寧に私にお礼を言い、こんな平民から貴族の夫人に成り上がった私にも頭を下げられる立派な子だった。
特に、その子が好きだったのはミルクプリン。
ミルクプリンを食べるときに遠い目をして、少し寂しげに笑う理由はわからなかったけど、第二王子は本当にそれが好きで、作るたびに――ある程度成長してからも――何度でも喜んでくれた。
そんな幸せはある日、壊れた。
第二王子が投獄されていた要人を逃がし、王宮から脱走して国際手配されたのだ。
市民への課税が次第に重くなり、各地で火種がくすぶり始めたこのご時世。土台が腐り果て、統一王朝末期と呼ばれたこの時代。
私の夫となった伯爵が菓子の貢献によって侯爵に格上げされ、領民への課税は少し軽くなったはずだったのに、再び元の税金に戻り、そして、さらに役人の干渉で重くなり始めた頃――彼と再会した。
それも、反社会勢力に堕ちた、ギャングスターの一人として。
彼が無事ならそれでいいと思い、胸を撫で下ろしていたある日、長い間、病を患っていた夫が亡くなって私の足元が崩れ落ちるまでは。
それからは、もう、思い出の詰まったその家にいられなかった。
だから元々占い師の相棒で、そして、私を選んでその後は私の相棒となってくれたリッカードと共に家を出て、森に引きこもりながら悲しみに暮れていた。
森の動物たちと触れ合い、哀悼の意を込めて菓子を作りながら一人寂しく、自分の殻に閉じこもって10年も森の中で暮らしていたのだから。
でも、そんなとき、迷子の子豚ちゃんと出会った。
お姉ちゃんに置いて行かれ、帰る場所のないというふっくらとしている可愛い女の子。確かに太っているのだけど、目はパッチリとしているし、笑うと笑顔が可愛いその子は娘を彷彿とさせたのかしらね?
どうしても、遠くに行ってほしくないって思ってしまった。
だから、ちょっと一休みだと言ってケーキを食べさせて、晩御飯を食べさせて引き留める時間をできる限り作ろうと思ったら――この家になんと、居ついてくれた。
それも、私の大好きな菓子製作の技術を学びたいと願って。
その時、私には本当に雷に打たれたような衝撃が走った。
『ああ、私は彼女を導くためにこの世界にやってきたんだ』って。そう、悟った。
愛されないで育ったという彼女は驚くほどあっさりと彼女の育ての親が生きているのを確認して手放し、私の元で一緒に暮らすことが決まった。
ただ、貴族としてではなく、たんなる平民として見放されて。
彼女にその説明はわかるかな…と思いながら説明してみたところ、ちゃんとわかっていた。
彼女はやっぱり努力家で、ワガママだと言っていたけれど本当は素直で優しくていい子だ。そして、悲しいほどに聡い。
ちゃんと置かれた立場をわかっているし、親がどういう道を選んだのか理解していたから。
私は聡いこの子を導き切る自信はない。けれど、私の知っているすべてをこの子に託そうと思う。この世界であの子が実家を見返せるほどの大物になると確信している。
だから、私はこの、私の可愛い子豚ちゃんをきちんと、立派なレディに仕上げる。そして、彼女が一人でもしっかりと生きていけるように。
たとえ、この国が滅びて別の形に変わったとしても。
ある占い師に出会った。その占い師は私を見るなり目を細めて優しく微笑んだのだ。
『きっと、あなたは”導き手”となるでしょう。大いなる名を遺す存在をこの世に導く”大いなる師”。それがあなたの定め。星が示していますよ』
その当時、私はこの世界の言葉を知らなくて、必死にどういう意味なのか知ろうとしていた。そんな頃、私の知っている、私の母国の言葉で優しく話しかけてきたその占い師は占星術師をしているという人だった。
どうして私の世界の言葉を知っていたのか、それはわからない。でも、言葉がわからないのに、師匠なんてなれないと泣き言を漏らした記憶がある。
すると、その占い師は旅を共にする気があるなら、この世界の言葉を教えようと言った。
私も占い師も戦えるわけじゃないから必死に逃げることも多かったけれど、占い師の終の棲家を見つけてやることができ、そして、その占い師の最期を看取って私は一人、その街で感傷に耽りながらなんとか見つけた花屋の仕事をさせてもらっていた。
そして、行き遅れてしまったころに妻を失ったという男に後妻として捕まり、子ができなかったのをいいことに、なのか…それともヤケを起こしていたのか…。それはわからないけれど、溺愛の海に沈められた。
そうして男の子と女の子、二人の子供に恵まれ、私は大好きだった料理をして見せるとなぜかデザートでとても感動されてしまった。
聞けば、この世界。まだデザートの技術が未熟だというのだ。そして、調菓学校で習った程度の私のデザートはこの世界にない技術であり、革命とも呼べるものだそうだ。
本当は学校の教師にならないかと言われたけれど、そういう器じゃないことはよく知っている。
導き手なんてありえない。 …そう、私には無理だ。
でも、この家で働く料理人のみんなに菓子の作り方を教え、私のデザートは王家にも献上されるほどの領域にまでなぜか周囲から押し上げられてしまった。
王家にまで食べていただけるなんてとても光栄だと思っていたのだけど、食べ方が…その、汚い。
さすがに国王夫妻の手前、それを指摘するのは不敬すぎて無理だけど、着飾りまくってカササギみたいに品位のない――コホン。見た目を指摘するのは、それこそ不敬だわ。うん。
宝石で着飾りまくって成金のダサい格好をした、香水臭すぎる国王夫妻が苦手で、しかも食べ方が汚いから余計に嫌いになっていたけど、そんな私を癒してくれたのは第二王子の存在だった。
その子はディナーでも食べるように上品にケーキを食べ、嬉しそうに顔を綻ばせては丁寧に私にお礼を言い、こんな平民から貴族の夫人に成り上がった私にも頭を下げられる立派な子だった。
特に、その子が好きだったのはミルクプリン。
ミルクプリンを食べるときに遠い目をして、少し寂しげに笑う理由はわからなかったけど、第二王子は本当にそれが好きで、作るたびに――ある程度成長してからも――何度でも喜んでくれた。
そんな幸せはある日、壊れた。
第二王子が投獄されていた要人を逃がし、王宮から脱走して国際手配されたのだ。
市民への課税が次第に重くなり、各地で火種がくすぶり始めたこのご時世。土台が腐り果て、統一王朝末期と呼ばれたこの時代。
私の夫となった伯爵が菓子の貢献によって侯爵に格上げされ、領民への課税は少し軽くなったはずだったのに、再び元の税金に戻り、そして、さらに役人の干渉で重くなり始めた頃――彼と再会した。
それも、反社会勢力に堕ちた、ギャングスターの一人として。
彼が無事ならそれでいいと思い、胸を撫で下ろしていたある日、長い間、病を患っていた夫が亡くなって私の足元が崩れ落ちるまでは。
それからは、もう、思い出の詰まったその家にいられなかった。
だから元々占い師の相棒で、そして、私を選んでその後は私の相棒となってくれたリッカードと共に家を出て、森に引きこもりながら悲しみに暮れていた。
森の動物たちと触れ合い、哀悼の意を込めて菓子を作りながら一人寂しく、自分の殻に閉じこもって10年も森の中で暮らしていたのだから。
でも、そんなとき、迷子の子豚ちゃんと出会った。
お姉ちゃんに置いて行かれ、帰る場所のないというふっくらとしている可愛い女の子。確かに太っているのだけど、目はパッチリとしているし、笑うと笑顔が可愛いその子は娘を彷彿とさせたのかしらね?
どうしても、遠くに行ってほしくないって思ってしまった。
だから、ちょっと一休みだと言ってケーキを食べさせて、晩御飯を食べさせて引き留める時間をできる限り作ろうと思ったら――この家になんと、居ついてくれた。
それも、私の大好きな菓子製作の技術を学びたいと願って。
その時、私には本当に雷に打たれたような衝撃が走った。
『ああ、私は彼女を導くためにこの世界にやってきたんだ』って。そう、悟った。
愛されないで育ったという彼女は驚くほどあっさりと彼女の育ての親が生きているのを確認して手放し、私の元で一緒に暮らすことが決まった。
ただ、貴族としてではなく、たんなる平民として見放されて。
彼女にその説明はわかるかな…と思いながら説明してみたところ、ちゃんとわかっていた。
彼女はやっぱり努力家で、ワガママだと言っていたけれど本当は素直で優しくていい子だ。そして、悲しいほどに聡い。
ちゃんと置かれた立場をわかっているし、親がどういう道を選んだのか理解していたから。
私は聡いこの子を導き切る自信はない。けれど、私の知っているすべてをこの子に託そうと思う。この世界であの子が実家を見返せるほどの大物になると確信している。
だから、私はこの、私の可愛い子豚ちゃんをきちんと、立派なレディに仕上げる。そして、彼女が一人でもしっかりと生きていけるように。
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