王宮メイドは元聖女

夜風 りん

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女王の帰還

ep6

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 女王アリューゼの態度の変化にぽかーんとしている3人を見ながらマリアンヌはやれやれと首を横に振った。

 「母さま、お仕事があるのですから手短にお願いしますよ。それより、兄さまの件は終わったのですか?」

 「うん、とっくに。あの子が珍しくデレまくっていたくらいですもの。よほど惚れているってわかったわ。まあ、マチルダ嬢に対するスタイラー侯爵家の後ろ盾なんて飛んで吹く程度のものだから、しがらみも少ない。そして、元々は跡取り様だったわけだし、お家柄や身分的にもそこまで悪いものではないと考えると妥当よね」

 アリューゼは娘を振り返ってそう返した後、3人を振り返って楽しそうに笑った。

 「いやあ、嬉しいわ。また、男漁りに来た、貴族の道楽程度にしか考えていない花嫁修業気取りの雌犬どもだったらどうしようかと思っちゃった」

 カンナが顔をひきつらせた。

 「雌犬って…」

 「あら、ごめんなさい。つい、うっかりしてしまったわ。この前クビにした奴らの顔を思い出して我を忘れてしまったわね」

 アリシアの手を離すと、女王はにこりと笑った。

 「お仕事に慣れてきたころに3人に割り当てを発表するわね。みんな違う部署に配属されることになるでしょうけれど、まあ、これからも同期を大切に頑張ってね」

 そう言い残し、老騎士を従えて楽しそうにスキップしながら去っていった。
 呆けたように3人がそれを見送っていると、マリアンヌは苦笑した。

 「ゴタゴタに巻き込んでしまって悪かったわね。お仕事に戻っていいわよ。――それと、配属の話は気にしすぎないようにね。3人ともきちんと仕事をしてくれているし、特にアリシア…さん、にはそれ以上の仕事までお願いして申し訳ないわ」

 「そ、そんな! 気にしないでください。私の得意分野ですし!」

 「そう言ってもらえるとありがたいですわ」

 にこりと笑ったマリアンヌはハインツを振り返った。

 「非番なのに悪いわね、ハインツ」

 「いや、その、例の王子には手を焼いているんで…」

 気まずそうに視線を背けたハインツに、マリアンヌは優しく微笑む。

 「お互い様よ」

 レーゲンがそそっとアリシアたちの方に来ると、そっと囁いた。

 「お邪魔するといかん。持ち場に戻った方がいいってな」

 ギュスターヴやネイラたちもそっとマリアンヌを守れて、且つ声があまり届かないところに離れていく。


 「え、ちょっと!? あなたたちは何で離れているの!?」


 マリアンヌの戸惑ったような声が廊下に響き渡った。

 アリシアたちは持ち場に向かおうと踵を返した直後、ルピルが楽しそうにアリシアについて来ようとしてレーゲンにつかまった。

 「お前は厩だろぅ?」

 「そんなぁ」

 「ワシに力で勝てるとでも?」

 「滅相もございません。俺様、いや、私も星獣の端くれ。すべて仰せのままに」

 「おぅ、素直で聞き分けがいいのぅ」

 「姐さーん…」

 シクシクと泣きながら引きずられるように退場したルピルを見送ったアリシアはノリアとカンナと顔を見合わせてクスッと笑った。

 「そういえば、なんであの子はアリシアのこと、姐さんって呼ぶの?」

 ノリアの問いかけに、カンナも不思議そうに尋ねた。

 「そういえばそうだね。アリシアの場合、おっとり天然ちゃんって感じなのに」

 「え、私ってそんな風に見られていたんですか!? 違いますよ、もうっ! そこまで天然じゃありません!」

 カンナとノリアの二人はキョトンとしてお互いに顔を見合わせ、クスッと笑う。

 「いやいや、ありえない」
 「どこが天然じゃないの?」

 アリシアは拗ねたように口を尖らせた。

 「絶対、そんなんじゃないですって。ルピルとの出会いを聞けば、きっとイメージ、変わりますよ?」

 ノリアが満面の笑みを浮かべた。

 「じゃあ、期待してる!」

 「むうぅ…」

 アリシアたちは書斎に足を踏み入れると、掃除を始めた。
 掃除をしながらアリシアが話し始める。

 「私がルピルに出会ったのは聖女の試練の時でした…」

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