王宮メイドは元聖女

夜風 りん

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女王の帰還

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 女王は久しぶりに玉座に腰掛けると、マリアンヌが嬉しそうに声を弾ませた。

 「母さま、父さま、おかえりなさいませ!」

 「ただいま、マリアンヌ」

 夫であり大公爵の地位を持つ王配のフレッドが優しく声をかけ、女王のアリューゼも満面の笑みを浮かべた。

 「ただいま、マリアンヌ。こちらの方は変わりないかしら?」

 シリウスが肩をすくめる。

 「規則違反で解雇したメイドの代わりに新たにメイドを雇いました」

 「それは電報を見たから知っているわ。でも、…一ついい?」

 「はい?」

 「電報にまで暗号を使うの、やめてちょうだい。解読に丸一日かかったのよ、あれ。確かに盗み見られる防止にはなるんでしょうけど、難解すぎていくつも辞書や参考書を開いたんだからね?」

 「難解、だったでしょうか? ごく普通のレベルだったのですが…」

 「…まあ、何度も転生しているあなたなら、そうかもしれないわね。けど、私たちからすると難しいのよ。というか、暗号解読のテンプレートを用意してくれるとありがたいんだけど」

 「わかりました、後で用意しておきます。――それと、個人的な話で一つ、お話したいことがあるので、夕食の後によろしいでしょうか?」

 「もちろん。可愛い我が子のためにならいくらだって時間を作るわ」

 アリューゼはフフッと笑うと、シリウスはフッと微笑んだ。

 「ありがとうございます、母上」

 「それって、もちろんアレでしょう? 子供ができたと」

 「え、違いますが。というか、なぜ結婚していないのに子作りに励むと思っているのですか?」

 「マリアンヌからの報告だとイチャイチャしまくっていると聞いているから、もうおめでたい報告を聞けるのかと思って」

 「…私は、結婚してもいないのに婚約者に手を出すような、そういう節操なしに思われていた…ということですか。…そう、ですか」

 少し落ち込んでいるシリウスにアリューゼはクスクスと笑った。

 「ごめんね。でも、ほら。私と夫は挙式前にあなたを賜ったから」

 「爺やから聞きました。出産の予定日がちょうど挙式と重なっていて、式の日取りを遅らせざるを得なかったとか。物凄く大変なことになったと聞いております」

 「うん、そうね。あなたたちにはそんなことになってほしくないわね」

 クスクスと笑った女王はポンっと手を打った。

 「あ、そうだ! 3人の新入りちゃんにも会いたいわ。今夜は疲れたからシリウスの話を聞くだけとして、明日にも呼んでみようかしら」

 マリアンヌが嬉しそうに声を弾ませる。

 「母さま、新しいメイドの中に元聖女様までいらっしゃるんですよ! とても美人さんで、優しそうな方でした」

 「…は?」

 キョトンとしたアリューゼに代わり、フレッドが尋ねる。

 「元聖女様? どういうことだい?」

 マリアンヌは小首を傾げた。

 「新聖女様が異世界より召喚されたことを知りませんの?」

 「南の大陸は八聖龍信者が多いから、教会がどうしたとか、聖女がどうだとか、そういうのはあまり聞かないんだ。北の大陸は3か国あるけど、正教会派が大多数だろう? けど、南の大陸は海峡越えが大変だからね。私たちも鉄の船を作れるようになったから、魔物のいる海域でも比較的安全に航海できるようになったのだけど」

 「そうですか。…父さま、教会は新聖女体制の下でガタガタになりつつあるようです」

 「我々のいない間にそんなことがあったのか…」

 「はい」

 アリューゼは小さく欠伸をした。

 「ごめんなさいね。ちょっと眠くなってしまって。色々と船の上でも公務に忙しく、あまり眠れなかったものですから…」

 「いえ、大丈夫ですか、母さま?」

 「うん。あ、そうだ。二人にお土産を買ってきたのよ。夕食までの間、仮眠をとるけど、お土産を見て時間を潰していてちょうだい? それと、二人ともありがとうね。おかげで帰ってからの公務量も少ないわ」

 マリアンヌが胸を張った。

 「私、次期女王の端くれですもの。――とはいえ、兄さまに手伝ってもらってしまったのですけど」

 最後の方は声のトーンを落としたマリアンヌを、アリューゼは立ち上がって歩み寄ると抱きしめた。

 「ご苦労様。でも、気負いすぎなくていいのよ。私は死ぬまで玉座を守って見せるから、ね?」

 「…はい」

 アリューゼはマリアンヌの泣きそうな顔を見ながら優しく目を細め、そして、頭を撫でた。

 「そうだ。あなたの専属の侍女も見つけないと、ね? もうじき、あなたの専属侍女も寿退社でやめてしまうのだから、ね」

 「…はい」

 丁寧に最敬礼をして玉座の間を退室していった我が子たちを見送り、女王は夫を振り返った。

 「さて、明日は忙しいわね」

 「そうだな」

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