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新人メイドたちの日々
ep5
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アリシアとダンスを踊って彼女を更衣室の前まで送ったギュスターヴは、彼女が嬉しそうに顔を綻ばせていたので安堵していた。
「送ってくださってありがとうございます、ギュスターヴ様。お仕事中、お邪魔してしまってごめんなさい」
申し訳なさそうにするアリシアに、彼は首を横に振った。
「気にしなくていい。俺も、踊れて楽しかった。君も楽しんでくれたならいい」
「はい、楽しかったです」
そう言った直後、アリシアのおなかがキュルルッと音を立てた。
「あっ…」
お腹を押さえて顔を真っ赤にした彼女は背を向けると、恥ずかしそうにうつむいて照れ笑いを浮かべた。
「だ、ダンスパーティを逃げるようにして出てきたので、晩御飯を食べ損ねちゃったんです。安心したらお腹が空いてきちゃいました…」
ギュスターヴはそんなアリシアを見て頬を緩めた。
「一緒に飯でも行くか?」
「え?」
キョトンとしたアリシアに見据えられ、彼は少し視線を揺らした。
「いや、その…美味しい飯屋を知っているんだ。城下町でよければ、なんだが…一緒にどうかと」
少し自信なさげな彼の声に、アリシアは目を輝かせて身を乗り出した。
「是非! ちなみに、どういうお料理ですか!?」
「ピザの店だ。店内に設置された石窯で焼き上げた焼きたてのピザは美味いし、ワインも飲める。スパークリングワインも美味いし、店内の内装も綺麗だし」
「わあ、ピザ! いいですね、ピザ。チーズをたっぷりと乗せて、一口食べた時にチーズがとろーり伸びて、たまらないですよねぇ」
幸せそうに笑ったアリシアのおなかがさらに鳴き、アリシアは余計に赤くなった。
「メイド服でも大丈夫です?」
「ああ、構わない。さすがにそのカクテルドレスで行くと目立つだろうけど」
「寒いので無理ですよ」
「そうか。まあ、とりあえず後のやつと交代してくるから、玄関ホールで待っていてくれ」
わかりました。と、アリシアが更衣室に入っていくのを見届けたギュスターヴは視線を感じて振り返ると、一人の騎士が佇んでいた。
「ギュスターヴ。あなたが世話を焼くなんて珍しい」
そう声を掛けられてギュスターヴは呟くように声を出した。
「…セルヴォ」
ギュスターヴと同じくマリアンヌの護衛騎士であるその男はアリシアの最初のダンス相手であり、また、彼女が逃げ出してしまった騎士でもあった。
「マリアンヌ様のことだから、お前とアリシア様を踊らせるのかと思ったんだが、踊らなかったのか?」
「踊るはずだったんですがね、一人でドタバタして、ものすごい勢いで逃げて行ってしまいました。パーティの主役の一人に逃げられては困りますから、探しに来たのですが」
「残念だが、この後に彼女と城下で飯を食いに行く約束をしている。引き下がってもらおうか?」
「おやおや、あなたが入れ込むなんて珍しい」
「…気分だ。それと、入れ込んでいるわけではない。ただ、マリアンヌ様は別として、黄色い声を上げてこない、しつこくない女といると少し落ち着くってだけで」
「マリアンヌ様は時として悪ふざけで黄色い声を上げてきますからね。しかも、黄色い声を上げた女性の便乗で。中々にえげつないですね」
「マリアンヌ様はいいんだよ。好きな人がはっきりしているからな。…まあ、想われている方は気が付いていないというか、鈍いというか…考えたこともないんだろうが」
「でしょうねぇ。――おっと、アリシア様とお食事でしたね。楽しんでくるといいでしょう。けど、後でマリアンヌ様に謝った方がいいですよ。パーティをドタキャンしたことで怒っていらっしゃいましたから。それに、本当はあなたとアリシア様を踊らせたかったそうですし」
「…一部は叶ったんだから許してくださってもいいんじゃないか? …とは、言えないな」
ギュスターヴはそう呟くと、セルヴォがニヤリと笑った。
「おや、踊ったのですか?」
「そういう気分だったんだよ」
そっぽを向いたが、セルヴォの楽しそうな視線を受けて居心地が悪そうに視線を泳がせた。
「その、…すごい、いい匂いがした。肌も柔らかかったし…」
「そういうのを世の中ではむっつりスケベというのですよ?」
ギュスターヴはキッとセルヴォを睨みつけると、下段蹴りを放ったが身軽にかわされた。
彼は舌打ちを漏らすと、交代してもらうために騎士の屯所へと足を向けた。
「そういう目で見たわけじゃない。単純な感想だ。俺は別に恋人なんか欲しくないからな。――友人として。…そう、友人としていい人だとは思うが」
「まあ、そういうことにしておきましょうか」
まだ楽しそうな顔をしている同僚に、ギュスターヴは恨みがましい目を向けると、思い出したようにセルヴォがポンッと手のひらを打った。
「ああ、そうそう。これをアリシア様に返しておいてくださいね?」
「? それは?」
「ネックレスですね。ただ、大きなエメラルドに何かのお守り用の術式が刻まれていますから、お守りとして持ち歩いていたのでしょう。転んだ際に落としてしまったようですから、どうせ一緒に出掛けるあなたが渡しておいてください」
「…わかった。――が、断じて俺はむっつりスケベじゃないぞ」
「さようですか」
セルヴォは半ば聞き流し、優雅に一礼をして立ち去った。ギュスターヴはその態度に少しだけ苛々しながら王宮内に設置してある屯所へと向かった。
「送ってくださってありがとうございます、ギュスターヴ様。お仕事中、お邪魔してしまってごめんなさい」
申し訳なさそうにするアリシアに、彼は首を横に振った。
「気にしなくていい。俺も、踊れて楽しかった。君も楽しんでくれたならいい」
「はい、楽しかったです」
そう言った直後、アリシアのおなかがキュルルッと音を立てた。
「あっ…」
お腹を押さえて顔を真っ赤にした彼女は背を向けると、恥ずかしそうにうつむいて照れ笑いを浮かべた。
「だ、ダンスパーティを逃げるようにして出てきたので、晩御飯を食べ損ねちゃったんです。安心したらお腹が空いてきちゃいました…」
ギュスターヴはそんなアリシアを見て頬を緩めた。
「一緒に飯でも行くか?」
「え?」
キョトンとしたアリシアに見据えられ、彼は少し視線を揺らした。
「いや、その…美味しい飯屋を知っているんだ。城下町でよければ、なんだが…一緒にどうかと」
少し自信なさげな彼の声に、アリシアは目を輝かせて身を乗り出した。
「是非! ちなみに、どういうお料理ですか!?」
「ピザの店だ。店内に設置された石窯で焼き上げた焼きたてのピザは美味いし、ワインも飲める。スパークリングワインも美味いし、店内の内装も綺麗だし」
「わあ、ピザ! いいですね、ピザ。チーズをたっぷりと乗せて、一口食べた時にチーズがとろーり伸びて、たまらないですよねぇ」
幸せそうに笑ったアリシアのおなかがさらに鳴き、アリシアは余計に赤くなった。
「メイド服でも大丈夫です?」
「ああ、構わない。さすがにそのカクテルドレスで行くと目立つだろうけど」
「寒いので無理ですよ」
「そうか。まあ、とりあえず後のやつと交代してくるから、玄関ホールで待っていてくれ」
わかりました。と、アリシアが更衣室に入っていくのを見届けたギュスターヴは視線を感じて振り返ると、一人の騎士が佇んでいた。
「ギュスターヴ。あなたが世話を焼くなんて珍しい」
そう声を掛けられてギュスターヴは呟くように声を出した。
「…セルヴォ」
ギュスターヴと同じくマリアンヌの護衛騎士であるその男はアリシアの最初のダンス相手であり、また、彼女が逃げ出してしまった騎士でもあった。
「マリアンヌ様のことだから、お前とアリシア様を踊らせるのかと思ったんだが、踊らなかったのか?」
「踊るはずだったんですがね、一人でドタバタして、ものすごい勢いで逃げて行ってしまいました。パーティの主役の一人に逃げられては困りますから、探しに来たのですが」
「残念だが、この後に彼女と城下で飯を食いに行く約束をしている。引き下がってもらおうか?」
「おやおや、あなたが入れ込むなんて珍しい」
「…気分だ。それと、入れ込んでいるわけではない。ただ、マリアンヌ様は別として、黄色い声を上げてこない、しつこくない女といると少し落ち着くってだけで」
「マリアンヌ様は時として悪ふざけで黄色い声を上げてきますからね。しかも、黄色い声を上げた女性の便乗で。中々にえげつないですね」
「マリアンヌ様はいいんだよ。好きな人がはっきりしているからな。…まあ、想われている方は気が付いていないというか、鈍いというか…考えたこともないんだろうが」
「でしょうねぇ。――おっと、アリシア様とお食事でしたね。楽しんでくるといいでしょう。けど、後でマリアンヌ様に謝った方がいいですよ。パーティをドタキャンしたことで怒っていらっしゃいましたから。それに、本当はあなたとアリシア様を踊らせたかったそうですし」
「…一部は叶ったんだから許してくださってもいいんじゃないか? …とは、言えないな」
ギュスターヴはそう呟くと、セルヴォがニヤリと笑った。
「おや、踊ったのですか?」
「そういう気分だったんだよ」
そっぽを向いたが、セルヴォの楽しそうな視線を受けて居心地が悪そうに視線を泳がせた。
「その、…すごい、いい匂いがした。肌も柔らかかったし…」
「そういうのを世の中ではむっつりスケベというのですよ?」
ギュスターヴはキッとセルヴォを睨みつけると、下段蹴りを放ったが身軽にかわされた。
彼は舌打ちを漏らすと、交代してもらうために騎士の屯所へと足を向けた。
「そういう目で見たわけじゃない。単純な感想だ。俺は別に恋人なんか欲しくないからな。――友人として。…そう、友人としていい人だとは思うが」
「まあ、そういうことにしておきましょうか」
まだ楽しそうな顔をしている同僚に、ギュスターヴは恨みがましい目を向けると、思い出したようにセルヴォがポンッと手のひらを打った。
「ああ、そうそう。これをアリシア様に返しておいてくださいね?」
「? それは?」
「ネックレスですね。ただ、大きなエメラルドに何かのお守り用の術式が刻まれていますから、お守りとして持ち歩いていたのでしょう。転んだ際に落としてしまったようですから、どうせ一緒に出掛けるあなたが渡しておいてください」
「…わかった。――が、断じて俺はむっつりスケベじゃないぞ」
「さようですか」
セルヴォは半ば聞き流し、優雅に一礼をして立ち去った。ギュスターヴはその態度に少しだけ苛々しながら王宮内に設置してある屯所へと向かった。
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