龍騎士の花嫁 Extra

女スパイと幹部くん 【ディアナ編】

ep1

　白い天井に白い壁、ベッドと戸棚くらいしか置かれていない無機質な一室で彼女は目を覚ました。

　点滴から規則正しく落ちる水滴の音だけが部屋に広がり、静寂が深まるその部屋で小さく呻き声が漏れる。
　雑音のようにその微かな声が静寂をかき乱し、虚ろ気な瞳に光が迸った。

　「い、かな、きゃ…」

　彼女は点滴のチューブを引きちぎるように抜き、思ったより力の入らない手で這うようにベッドを進もうとし、転がり落ちるようにベッドから転落した。
　彼女が落ちた音で大きな音が鳴り、ドアが勢い良く開けられてカルテを抱えた女性の看護師が慌てて駆け込んできたところだった。

　「大丈夫ですか、ルルカさん？」

　彼女がそう声を掛けられ、小さく頷いたものの一歩も動けないようだった。
　「う……あ…」

　かすれ声で何かを言おうとしたが、それよりも前に彼女の腹の虫が盛大に鳴り響いた。しかし、恥ずかしがる素振りすらする元気がないのかぐったりとしている。

　「今、先生を呼んできますから、ご飯はちょっとだけ待ってくださいね」

　優しくそう言われ、彼女はこくんと頷く。

　看護師が彼女を苦労しながらベッドに戻すと、パタパタと走って部屋を出て行った。ルルカと呼ばれた彼女はゆっくりと目を閉じると、しばらく無気力にベッドで寝転がっていた。


　数分後、やってきた医師が彼女の容体をチェックし、ホッと胸を撫で下ろす。

　「ルルカさん、一人でご飯を食べられそうですか？」

　億劫そうに目を開けた彼女はゆっくりと首を横に振る。

　「そうですか。では、誰かに手伝わせますね」

　彼女はゆっくりと頷くと、手動式のリクライニングで起こしてもらい、先ほどの看護師に手伝ってもらってほとんど食べられないものの食事をした。
　おかゆ程度しか口にできなかったが、お腹がいっぱいになった彼女はスヤスヤと寝息を立て始める。



　しかし、夜明けごろ、彼女は唐突に目を覚まして自力でバネ仕掛けのごとく起き上がった。

　そして、素早く周囲を見渡すと胸を撫で下ろし、手を止める。己の手元を見やり、皮肉気に顔を歪めて泣きそうな顔をしながら天井を仰ぐ。

　「あぁ、私は…失敗したんだわ」

　掌に残る嫌な気持ち悪い感覚と、耳の奥に残る断末魔を思い出して彼女は顔を両手で覆った。


　「私だけが生き残るなんて、嫌な女…ね」


　点滴の接続口が外れ、設置してあった警告音を鳴らすタイプの魔法具が激しく音を鳴らしていた。
　バタバタと走る音が聞こえ、彼女はそれさえも遠いものに感じながら外を見やり、どこまでも青い空に皮肉気な笑みを向けた。

　「なんで、私の空はこんなにも青いのよ？」

　その空は曇り一つない快晴だった。