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しおりを挟むフェリシアは一週間キッチリと休まされ、店に復帰していた。
「やっぱり、フェリシアちゃんのお薬じゃないと効き目が薄いのよね」
腰痛持ちのご近所さんであり、常連のリオナ婆さんがそういうので、フェリシアはニッコリと笑った。
「そう言って頂けると嬉しいです!」
フェリシアはリオナ婆さんにふと、尋ねた。
「そういえば、リオナさんは銀龍ってご存知ですか?」
「銀龍? そういえば、昔話であったわね」
のほほんとそう言ったリオナ婆さんにフェリシアは頷いた。
「はい。時を戻してカミルさんの記憶をどうにかしてあげたいなって、そう思っておりまして」
「記憶、戻らないの?」
心配そうなリオナばあさんにフェリシアはちょっと寂し気に頷いた。
「えぇ」
「…そう。でも、今の旦那様じゃあダメなの? それなりにうまくやれているんでしょう?」
「…そう、でしょうか?」
フェリシアが俯いた後、曖昧に微笑んだ。
「そう、だといいのですが…」
その時、店の棚を見ていた老紳士が振り返った。
「そういえば、先日、銀龍の転生者を見たという噂を聞きましたよ?」
フェリシアが身を乗り出して嬉しそうに声を弾ませた。
「え、本当ですか!?」
フェリシアが身を乗り出すと、老紳士が頷いた。
「あくまで噂ですが、時を戻してもらった人がいるのだとか」
「え? あ、あの…その人のお話を聞けませんか?」
「もちろんです。繋ぎをつけておきますから、お店が終わった後にでもいかがでしょうか?」
「ありがとうございます!」
フェリシアが嬉しそうに目を輝かせていると、リオナ婆さんも嬉しそうに顔を綻ばせた。
「よかったねぇ、フェリシアちゃん!」
「はい!」
フェリシアは満面の笑みを浮かべ、リオナ婆さんと手を取り合って嬉しそうにしていた。老紳士はそっと目を細めて帽子を目深にかぶりながら密かに口元を歪める。
「それでは、明日、お店が終わった後に」
フェリシアは大きく頷いた。
「はい!」
☆
路地裏に老紳士は入っていくと、そこで不機嫌そうに顔をしかめている化粧の派手な美女に声を掛けた。
「首尾は上々ですよ、ミリアさん」
ミリアと呼ばれたその女が振り返ってさらに眉間に皺を寄せる。
「名前で呼ばないでくれる? 誰かに聞かれたらどうするの?」
「失礼しました、依頼主さま」
恭しく、そして慇懃にそう言った老紳士にミリアがものすごく嫌そうな顔をする。
「ちゃんとうまくエスコートして、さっさと魔物の餌にしてやってよ? あいつがいると、カミルに会えないし、せっかくの玉の輿のチャンスなのに、邪魔くさいったらありゃしない」
「さようでございますか」
老紳士はミリアが差し出してきた封筒を受け取った。
「中を確認させていただきますね?」
「どうぞ」
「…ふむ、30万きっちりとあるようですね。では、前金は頂戴いたします。白の社跡地に捨ててくるだけでいいんですよね?」
「あんたみたいな信用できないジジイに頼むのもどうかとは思うんだけど、捨ててくるまでに自分が死ぬのは嫌なのよ」
「さようでございますか」
老紳士は封筒を懐に入れると、ミリアが煙草を取り出して火をつけた。
そして、ふぅと深く息を吐き出す。
「ったく、さっさとくたばってくれればいいのに、最近なんて元気になっちゃってさ? しかも、カミルってば、あの女に入れ込んじゃって」
「さようでございますか」
老紳士は笑顔を張り付けてそれを聞き流していたが、言葉が切れたタイミングでそう言うと、再び恭しく頭を下げた。
「とりあえず、明日に予定を入れさせたので、後は予定通りに連れ出しますよ。――では、明日に残りの900万を頂戴しに参りますので」
「…わかっているわよ、ったく」
ミリアが立ち去って行ったあと、老紳士は深くため息を漏らした。
「…そんなんだから、カミルさんに相手にされないっていうのがわかっていないんでしょうねぇ…。やれやれ、可哀相な人だ」
そうぼやいて、老紳士も歩き出した。
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