5 / 64
5
しおりを挟む
カミルは定時通りに帰路につこうとした時、受付にネームプレートを返却するために手渡すと、受付嬢が思い出したように何かのリストを差し出してきた。
「お疲れ様です。あの、これをフェリシアさんにお渡しください」
「これは?」
「お薬のリストです。お店を開けるときに作っておいてほしいと頼んでいただければ、と。定期健診も忘れずに来るようにお伝えください」
カミルが怪訝そうな顔をしながら受け取った。
「…わかったが、薬を外注しているのか?」
「フェリシアさんの作るお薬はよく効くんですよ。我が社でも重宝しています。ただ、そこまで大量に作れるものではないので、もちろん我が社でも作っているには作っていますけれど」
「…そうか」
リストを鞄にしまい込み、「お疲れ様」と呟くように告げて帰宅する。
学生時代から仮加盟…つまり、アルバイトとして働いていた時の経路で家に帰る。でも、思い出せる道筋は一緒なのに、立ち並ぶ街並みは記憶にないが10年で変わってしまっていた。
そして、両親の持ち家は学生時代まで出迎える人すらいなかったはずなのに、今は明かりが灯る。
それが彼には不思議でならなかった。
そして、何より『妻』なる人がいる。
彼には結婚した記憶もなければ、愛した記憶も、そして、彼女に恋をした記憶もない。
けれど、追い出すような理由もなく、離婚するにも身の回りの整理だけでなく、記憶の整理すら曖昧であるというのに、実行に移すだけの気力もなかった。
店の方から入った方が正直に言うと早い。だが、裏口から入るのは、店に足を踏み入れると亡くなった両親のことを思い出して虚しくなる。――そんな気がするからであった。
それをこの前、病院から帰ってきたときに思い出し、裏口から戻ってくるようになっていた。
「おかえりなさい」
明るい玄関、優しい笑顔を浮かべた彼女が待っていた。カミルはわずかに視線を揺らす。
慣れていないとはいえ、面映ゆいのを示すことも何となく癪なような気がして、彼はぶっきらぼうに返すにとどめていた。
「…ああ」
でも、それでもフェリシアは優しく微笑む。
「お風呂の支度はできていますけど、お風呂にします? それともご飯にします?」
「…夕飯の方で…」
カミルとしては風呂にも入ってしまいたいところだったが、クローゼットはすべて脱衣所に収められており、シャワーを浴びてすぐに着替えるということもできるようになっている。
が、逆を言うと、そこ以外で着替えられないということなので、彼女に寝間着姿を見せないためには部屋に着替えをもっていかなければならないという手間が発生するのである。
だが、夫婦の記憶も持たないのに堂々と寝間着姿を見せるのはなんとなく恥ずかしいということで、そうせざるを得ないのだが。
「ご飯ですね」
そう言って微笑む彼女と一緒にリビングへ向かう。そして、それぞれ席へと腰を下ろすのだが、特に話す要件が見当たらなくて、カミルは無言で食卓についていた。
「お弁当の方はお口に合いましたか?」
フェリシアがそう尋ねてきたので、カミルは顔を上げると、先ほどと同じように穏やかな笑みを浮かべながら彼女がこちらを見ていた。
「え? あ、あぁ…」
フェリシアははにかみながら小さく胸を撫で下ろした。
「そうですか、よかった」
「……」
カミルはふと、あることに気が付いた。
(? 彼女も怪我をしたんだよな? 自分で治したと言っていたが、俺を見舞いに来て休んでいないんじゃないか?)
少し疲れているのか眠そうに目をこすった彼女の顔を見て目を細める。
「あのさ」
「はい?」
食事の手を止めて顔を上げたフェリシアにカミルは言った。
「明日から弁当、いらないから」
カミルなりに気を遣ってそう言ったつもりだったのだが、フェリシアはハッとし、そして寂しそうに微笑んだのだった。
「わかりました」
その表情の意味が理解できなくてカミルは戸惑っていると、フェリシアの表情がいつもの穏やかな笑顔に戻っており、その不意に垣間見せる表情の意味を尋ねる暇さえも与えないようだった。
だが、なんとなく胸の中でモヤモヤとしたものがこみ上げてくるのを感じていた。
カミルがモヤモヤと悩みながら眉間に皺を寄せて考え込みつつ食事に戻ったとき、フェリシアがこちらに声をかけてきた。
「あの、カミルさん。お店を開けてもいいでしょうか?」
「店を? 好きにすればいいだろう?」
そう尋ねる意味が分からなくてカミルはそう返すと、彼女はちょっとうれしそうに笑ったのだった。
「ありがとうございます」
ふと、受付で渡されたものを思い出してカミルはフェリシアに薬のリストを鞄から取り出して手渡した。
「これ、薬のリスト。頼まれたんだが、引き受けてもらえるか?」
「ありがとうございます、お受けしますね。――最近、お休みがちだったので頑張らなくてはいけませんし、それに、大切なお客様ですからね。カミルさんの会社さんも」
「そうなのか」
「ええ」
フェリシアは他にも何か言いたさそうな顔をしていたが、カミルはそれ以上に話す話題も見つからなくてうつむき気味に食事へと戻ってしまい、気まずい雰囲気と沈黙がリビングを覆っていた。
食事を進める音だけが静寂をより深め、カミルは息苦しさに耐えかねてさっさと食事を済ませると、皿を片付けて逃げるように風呂場へと向かったのだった。
「お疲れ様です。あの、これをフェリシアさんにお渡しください」
「これは?」
「お薬のリストです。お店を開けるときに作っておいてほしいと頼んでいただければ、と。定期健診も忘れずに来るようにお伝えください」
カミルが怪訝そうな顔をしながら受け取った。
「…わかったが、薬を外注しているのか?」
「フェリシアさんの作るお薬はよく効くんですよ。我が社でも重宝しています。ただ、そこまで大量に作れるものではないので、もちろん我が社でも作っているには作っていますけれど」
「…そうか」
リストを鞄にしまい込み、「お疲れ様」と呟くように告げて帰宅する。
学生時代から仮加盟…つまり、アルバイトとして働いていた時の経路で家に帰る。でも、思い出せる道筋は一緒なのに、立ち並ぶ街並みは記憶にないが10年で変わってしまっていた。
そして、両親の持ち家は学生時代まで出迎える人すらいなかったはずなのに、今は明かりが灯る。
それが彼には不思議でならなかった。
そして、何より『妻』なる人がいる。
彼には結婚した記憶もなければ、愛した記憶も、そして、彼女に恋をした記憶もない。
けれど、追い出すような理由もなく、離婚するにも身の回りの整理だけでなく、記憶の整理すら曖昧であるというのに、実行に移すだけの気力もなかった。
店の方から入った方が正直に言うと早い。だが、裏口から入るのは、店に足を踏み入れると亡くなった両親のことを思い出して虚しくなる。――そんな気がするからであった。
それをこの前、病院から帰ってきたときに思い出し、裏口から戻ってくるようになっていた。
「おかえりなさい」
明るい玄関、優しい笑顔を浮かべた彼女が待っていた。カミルはわずかに視線を揺らす。
慣れていないとはいえ、面映ゆいのを示すことも何となく癪なような気がして、彼はぶっきらぼうに返すにとどめていた。
「…ああ」
でも、それでもフェリシアは優しく微笑む。
「お風呂の支度はできていますけど、お風呂にします? それともご飯にします?」
「…夕飯の方で…」
カミルとしては風呂にも入ってしまいたいところだったが、クローゼットはすべて脱衣所に収められており、シャワーを浴びてすぐに着替えるということもできるようになっている。
が、逆を言うと、そこ以外で着替えられないということなので、彼女に寝間着姿を見せないためには部屋に着替えをもっていかなければならないという手間が発生するのである。
だが、夫婦の記憶も持たないのに堂々と寝間着姿を見せるのはなんとなく恥ずかしいということで、そうせざるを得ないのだが。
「ご飯ですね」
そう言って微笑む彼女と一緒にリビングへ向かう。そして、それぞれ席へと腰を下ろすのだが、特に話す要件が見当たらなくて、カミルは無言で食卓についていた。
「お弁当の方はお口に合いましたか?」
フェリシアがそう尋ねてきたので、カミルは顔を上げると、先ほどと同じように穏やかな笑みを浮かべながら彼女がこちらを見ていた。
「え? あ、あぁ…」
フェリシアははにかみながら小さく胸を撫で下ろした。
「そうですか、よかった」
「……」
カミルはふと、あることに気が付いた。
(? 彼女も怪我をしたんだよな? 自分で治したと言っていたが、俺を見舞いに来て休んでいないんじゃないか?)
少し疲れているのか眠そうに目をこすった彼女の顔を見て目を細める。
「あのさ」
「はい?」
食事の手を止めて顔を上げたフェリシアにカミルは言った。
「明日から弁当、いらないから」
カミルなりに気を遣ってそう言ったつもりだったのだが、フェリシアはハッとし、そして寂しそうに微笑んだのだった。
「わかりました」
その表情の意味が理解できなくてカミルは戸惑っていると、フェリシアの表情がいつもの穏やかな笑顔に戻っており、その不意に垣間見せる表情の意味を尋ねる暇さえも与えないようだった。
だが、なんとなく胸の中でモヤモヤとしたものがこみ上げてくるのを感じていた。
カミルがモヤモヤと悩みながら眉間に皺を寄せて考え込みつつ食事に戻ったとき、フェリシアがこちらに声をかけてきた。
「あの、カミルさん。お店を開けてもいいでしょうか?」
「店を? 好きにすればいいだろう?」
そう尋ねる意味が分からなくてカミルはそう返すと、彼女はちょっとうれしそうに笑ったのだった。
「ありがとうございます」
ふと、受付で渡されたものを思い出してカミルはフェリシアに薬のリストを鞄から取り出して手渡した。
「これ、薬のリスト。頼まれたんだが、引き受けてもらえるか?」
「ありがとうございます、お受けしますね。――最近、お休みがちだったので頑張らなくてはいけませんし、それに、大切なお客様ですからね。カミルさんの会社さんも」
「そうなのか」
「ええ」
フェリシアは他にも何か言いたさそうな顔をしていたが、カミルはそれ以上に話す話題も見つからなくてうつむき気味に食事へと戻ってしまい、気まずい雰囲気と沈黙がリビングを覆っていた。
食事を進める音だけが静寂をより深め、カミルは息苦しさに耐えかねてさっさと食事を済ませると、皿を片付けて逃げるように風呂場へと向かったのだった。
0
お気に入りに追加
585
あなたにおすすめの小説
転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。
餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!
4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。
無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。
日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m
※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m
※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)>
~~~ ~~ ~~~
織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。
なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。
優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。
しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。
それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。
彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。
おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。
異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!
東導 号
ファンタジー
雑魚モブキャラだって負けない! 俺は絶対!前世より1億倍!幸せになる!
俺、ケン・アキヤマ25歳は、某・ダークサイド企業に勤める貧乏リーマン。
絶対的支配者のようにふるまう超ワンマン社長、コバンザメのような超ごますり部長に、
あごでこきつかわれながら、いつか幸せになりたいと夢見ていた。
社長と部長は、100倍くらい盛りに盛った昔の自分自慢語りをさく裂させ、
1日働きづめで疲れ切った俺に対して、意味のない精神論に終始していた。
そして、ふたり揃って、具体的な施策も提示せず、最後には
「全社員、足で稼げ! 知恵を絞り、営業数字を上げろ!」
と言うばかり。
社員達の先頭を切って戦いへ挑む、重い責任を背負う役職者のはずなのに、
完全に口先だけ、自分の部屋へ閉じこもり『外部の評論家』と化していた。
そんな状況で、社長、部長とも「業務成績、V字回復だ!」
「営業売上の前年比プラス150%目標だ!」とか抜かすから、
何をか言わんや……
そんな過酷な状況に生きる俺は、転職活動をしながら、
超シビアでリアルな地獄の現実から逃避しようと、
ヴァーチャル世界へ癒しを求めていた。
中でも最近は、世界で最高峰とうたわれる恋愛ファンタジーアクションRPG、
『ステディ・リインカネーション』に、はまっていた。
日々の激務の疲れから、ある日、俺は寝落ちし、
……『寝落ち』から目が覚め、気が付いたら、何と何と!!
16歳の、ど平民少年ロイク・アルシェとなり、
中世西洋風の異世界へ転生していた……
その異世界こそが、熱中していたアクションRPG、
『ステディ・リインカネーション』の世界だった。
もう元の世界には戻れそうもない。
覚悟を決めた俺は、数多のラノベ、アニメ、ゲームで積み重ねたおたく知識。
そして『ステディ・リインカネーション』をやり込んだプレイ経験、攻略知識を使って、
絶対! 前世より1億倍! 幸せになる!
と固く決意。
素晴らしきゲーム世界で、新生活を始めたのである。
カクヨム様でも連載中です!
【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜
コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。
レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。
そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。
それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。
適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。
パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。
追放後にパーティーメンバーたちが去った後――
「…………まさか、ここまでクズだとはな」
レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。
この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。
それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。
利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。
また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。
そしてこの経験値貸与というスキル。
貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。
これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。
※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから
みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。
婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。
相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。
恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに
チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~
クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。
だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。
リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。
だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。
あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。
そして身体の所有権が俺に移る。
リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。
よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。
お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。
お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう!
味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。
絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ!
そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
【完結】友人と言うけれど・・・
つくも茄子
恋愛
ソーニャ・ブルクハルト伯爵令嬢には婚約者がいる。
王命での婚約。
クルト・メイナード公爵子息が。
最近、寄子貴族の男爵令嬢と懇意な様子。
一時の事として放っておくか、それとも・・・。悩ましいところ。
それというのも第一王女が婚礼式の当日に駆け落ちしていたため王侯貴族はピリピリしていたのだ。
なにしろ、王女は複数の男性と駆け落ちして王家の信頼は地の底状態。
これは自分にも当てはまる?
王女の結婚相手は「婚約破棄すれば?」と発破をかけてくるし。
そもそも、王女の結婚も王命だったのでは?
それも王女が一目惚れしたというバカな理由で。
水面下で動く貴族達。
王家の影も動いているし・・・。
さてどうするべきか。
悩ましい伯爵令嬢は慎重に動く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる