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過去編 フェリシアとカミル
#13
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フェリシアはカミルとミストの声がして目を覚ました。
「…ったく、何百回シミュレーションに付き合ったと思っているの? それで上手くいったからって余裕失くして失神って…」
「すみません、姐さん」
「まあ、あの子を他の女の子にしたみたいにドキドキさせられたんだからよかったじゃない?」
「それはまあ、とてもよかったんですけれど、俺だって頑張ったんですよ。誰かを本当に好きになったのはすごく久しぶりでしたし、そういう子を口説くのって緊張しちゃって」
「あんたはそこまで初心じゃないんだから、緊張する方が失礼ってものだわ」
「それは酷いですよ、姐さん」
フェリシアが寝ぼけ眼で顔を上げると、カミルが柔らかく微笑んだ。
「あ、起きたのか」
優しい声でそう言われ、頬を撫でられてドキドキしながらフェリシアは視線を泳がせた。
「お、おはようございます。くすぐったいですよ」
その手を押しやると、ミストがニヤリと笑っているのが見え、フェリシアは慌てふためいた。
「く、黒、何ですか!?」
「ううん、いいことだなって思ってね。切り替えるのはいいことよ」
ミストがうんうんと頷いているので、フェリシアはそれがアレンからカミルへ乗り換えたと言っていることに気が付いてムスッとした。
「そういうことじゃないです! ただ、…」
「アレンの生まれ変わりがカミルだったらいいのにって? 700年くらいの間に、何度、彼の魂が輪廻転生を繰り返したと思うの? 最低でも2回くらいはしているでしょうよ?」
「…うっ」
フェリシアがうつむいてしまったのを見てカミルがそっと彼女の頭を撫でた。泣きそうな顔で彼の顔を見上げた彼女のその顔を見つめながら微笑む。
「大丈夫。泣かなくてもいいよ」
「カミルさん…?」
「一生かかってもその、アレンって男には勝てないかもしれないけれど…君が想ってくれるような男になれるよう頑張るから、キチンと見ていてくれると嬉しい」
カミルの言葉に余計に泣きそうな顔をしたフェリシアをオロオロしながら見ているカミルに、ミストが呆れ顔を向けて肩をすくめた。
「まあ、あんたも元気になったことだし、さっさと荷物をまとめて帰りなさいな。おちおちしていると、料金割り増し請求になるわよ?」
「は、はい」
「それと、一晩中付き添っていたフェリシアにもお礼を言いなさいな。いつの間にか眠っちゃったみたいだけど、それでも夜遅くまで飽きずに看病していたんだから」
カミルがフェリシアを振り返ると、彼女は照れたように笑った。
「…それは、せっかく恋人…ですし?」
カミルはハッと息をのんだが、慌てて首を横に振って手をバタバタとさせて彼女から身を引いた。
「ちょっと待った。それ以上はダメだ」
「え?」
キョトンとしているフェリシアに、カミルがちょっと待ったと手で示しながら顔をひきつらせた。
「可愛すぎて襲いたくなるからダメだ。俺は君が想っているほど聖人君子じゃない。エスケープする以外に煩悩を抑える方法なんて考えられない」
「えっと…?」
「君のことは傷つけたくないし、嫌われたくない。でも、性欲だってあるし、そういうことをしたいって考えてしまうこともあるわけだし…」
カミルが慌てふためいている様子を見て、フェリシアはクスッと笑った。
「きちんと考えてくれているんですね。カミルさんはいい人です」
その笑顔を見ながらカミルは複雑そうな顔をしたが、小さく頷いて力なく笑った。
「いい人、か。…そう、だよな…」
カミルは落ち込んだような顔をしていたが、フェリシアの笑顔を見て力の抜けた笑みを浮かべ直し、一緒に帰り支度を手伝ってくれているフェリシアへ感謝を告げた。
「ありがとう、フェリシアさん」
「どういたしまして!」
フェリシアは満面の笑みでそう言うと、カミルはフェリシアがシーツのことを聞きに病室を出て行ったあと、一人で身もだえしていたが、シーツと枕カバーも必要かどうか聞きにすぐ戻ってきたためにものすごい恥ずかしい思いをしてしまったのはまあ、別の話。
「…ったく、何百回シミュレーションに付き合ったと思っているの? それで上手くいったからって余裕失くして失神って…」
「すみません、姐さん」
「まあ、あの子を他の女の子にしたみたいにドキドキさせられたんだからよかったじゃない?」
「それはまあ、とてもよかったんですけれど、俺だって頑張ったんですよ。誰かを本当に好きになったのはすごく久しぶりでしたし、そういう子を口説くのって緊張しちゃって」
「あんたはそこまで初心じゃないんだから、緊張する方が失礼ってものだわ」
「それは酷いですよ、姐さん」
フェリシアが寝ぼけ眼で顔を上げると、カミルが柔らかく微笑んだ。
「あ、起きたのか」
優しい声でそう言われ、頬を撫でられてドキドキしながらフェリシアは視線を泳がせた。
「お、おはようございます。くすぐったいですよ」
その手を押しやると、ミストがニヤリと笑っているのが見え、フェリシアは慌てふためいた。
「く、黒、何ですか!?」
「ううん、いいことだなって思ってね。切り替えるのはいいことよ」
ミストがうんうんと頷いているので、フェリシアはそれがアレンからカミルへ乗り換えたと言っていることに気が付いてムスッとした。
「そういうことじゃないです! ただ、…」
「アレンの生まれ変わりがカミルだったらいいのにって? 700年くらいの間に、何度、彼の魂が輪廻転生を繰り返したと思うの? 最低でも2回くらいはしているでしょうよ?」
「…うっ」
フェリシアがうつむいてしまったのを見てカミルがそっと彼女の頭を撫でた。泣きそうな顔で彼の顔を見上げた彼女のその顔を見つめながら微笑む。
「大丈夫。泣かなくてもいいよ」
「カミルさん…?」
「一生かかってもその、アレンって男には勝てないかもしれないけれど…君が想ってくれるような男になれるよう頑張るから、キチンと見ていてくれると嬉しい」
カミルの言葉に余計に泣きそうな顔をしたフェリシアをオロオロしながら見ているカミルに、ミストが呆れ顔を向けて肩をすくめた。
「まあ、あんたも元気になったことだし、さっさと荷物をまとめて帰りなさいな。おちおちしていると、料金割り増し請求になるわよ?」
「は、はい」
「それと、一晩中付き添っていたフェリシアにもお礼を言いなさいな。いつの間にか眠っちゃったみたいだけど、それでも夜遅くまで飽きずに看病していたんだから」
カミルがフェリシアを振り返ると、彼女は照れたように笑った。
「…それは、せっかく恋人…ですし?」
カミルはハッと息をのんだが、慌てて首を横に振って手をバタバタとさせて彼女から身を引いた。
「ちょっと待った。それ以上はダメだ」
「え?」
キョトンとしているフェリシアに、カミルがちょっと待ったと手で示しながら顔をひきつらせた。
「可愛すぎて襲いたくなるからダメだ。俺は君が想っているほど聖人君子じゃない。エスケープする以外に煩悩を抑える方法なんて考えられない」
「えっと…?」
「君のことは傷つけたくないし、嫌われたくない。でも、性欲だってあるし、そういうことをしたいって考えてしまうこともあるわけだし…」
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フェリシアは満面の笑みでそう言うと、カミルはフェリシアがシーツのことを聞きに病室を出て行ったあと、一人で身もだえしていたが、シーツと枕カバーも必要かどうか聞きにすぐ戻ってきたためにものすごい恥ずかしい思いをしてしまったのはまあ、別の話。
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