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過去編 フェリシアとカミル
#6
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「…ん、んん…」
フェリシアはゆっくりと目を覚ますと、ベッドの傍に突っ伏して寝息を立てている男の人の姿が見えた。まだ薄暗い部屋の中ではよく見えないが、まだおぼろげにしか働かない頭を働かせて名前を呟く。
「…アレン?」
綺麗な胡桃色の髪の毛にそっと指を滑らせ、癖の少ない猫っ毛のように細くてしなやかな髪の毛を一束指でつまんだ。
そして、フェリシアは顔を綻ばせた。
「…ねえ、起きてってば、アレン」
その男の人がうーんと唸って顔を背け、フェリシアは目を細めて小首を傾げると、そのまま何度か髪の毛を軽く摘まんでみたり編み上げるように捻ってみたりといじってみた。
すろと、彼は勢いよくフェリシアの手を振り払って苛立たし気に顔を上げた。燃えるように青い瞳と視線がかち合い、全然別の人をそう呼んでいたことに気が付いて青ざめ、飛びのく。
それと同時に思考が次第に晴れ、フェリシアはそこでようやく、目の前にいる男性がカミルであることを思い出した。そして、同時に寒気が走り、思わず手のひらを擦り合わせる。
「…ご、ごめんなさい。私、寝ぼけていたみたいで…」
カミルは三白眼で彼女を睨むように見据えていたが、やがて崩れるようにその場に突っ伏し、寝息を立てて眠ってしまった。
しばらくして熟睡しているカミルに仕方がなく薄手の方の布団を掛けると、離れたところから柔らかく声を掛けられた。
「元気にしていたかしら、白?」
フェリシアが顔を上げると、ミストがドアを開けて佇んでいた。
「この気配は…黒…?」
「そうよ、久しぶり。カミルをアレンと間違うなんて、よほど好きだったのね。振られたくせに」
「…振ってなんかいないです」
ムッとしてフェリシアが言い返すと、ミストはニヤニヤと笑いながら小首を傾げた。
「それはどうかしらね? 単なる友人、じゃなかった?」
「…黒の意地悪」
ボソッと呟くと、ミストが顔をひきつらせた。
「あんたに罵られても、ちっとも良心は痛まないけれど腹が立つわね。ったく、あんたならとっくに眠りについたと思ったのに、アレンの魂でも探しに来たの?」
「…だって、返事を聞いていなかったんです。聞いてみたかったんです、あの人の声をもう一回だけ。…でも、でもそんなことはできないってわかっているはずなのに、出来なかったんです」
フェリシアはそう絞り出すように告げると、ミストはため息を漏らした。
「パートナーに会いたい気持ちはすごくわかるけれど、あいつは690年前の革命のさなかに死んだでしょ。とっくに魂なんて浄化されて、別の人間に生まれ変わっているわよ」
すると、フェリシアが慌てふためいた。
「ぱ、パートナーなんかじゃないです!! そんなの、…烏滸がましいです。私を外の世界に連れ出して、道具として開放してくれた恩人…ですよ」
最後は消え入りそうな声でそう言ったフェリシアは泣きそうな顔で膝を抱えた。同時に布団が引っ張られ、カミルが頭をこくんと動かす。
しかし、カミルは腕の下の布団を持っていかれても安らかな顔で熟睡しており、中々起きる気配がない。
「元奴隷を恋人にしようだなんて、…そんな人、いませんよ」
「そう?」
ミストとフェリシアがそんな会話をしていると、カミルの鼻提灯が割れてようやくおぼろげに目を覚ました。
だが、それに気が付いていない二人はのんびりと話をしていた。
「でも、アレンは一ミリも私のことなんて愛してくれていませんでしたし…私に色々な感情や気持ちを教えてくれたのに恋心だけは教えてくれなかったですし…」
「はいはい。あんたは昔から自信なさげね。でも、700年近く前の男をずっと追いかけるくらい一途で、頑固なところはいいと思うけど」
カミルは話の腰を折るつもりはなかったが、何気なく呟いていた。
「…700年?」
振り返ったフェリシアが慌てたように笑った。
「あ、違うのです。私たちは…その…」
ミストが逡巡するフェリシアを一蹴するように言い切った。
「聖龍伝説って知っているかしら? あたしたちはその聖龍の生まれ変わりって奴なの」
「…はい? いやいや、冗談はよしてくださいよ。聖龍伝説は授業で習いましたし、知っていますけれど…始祖龍とそれに連なる7匹の眷属をまとめて八聖龍と呼ぶんですよね? でも、人間に転生だなんて」
「したのよ。聖龍に戻っていた方が楽だけれども、人の愛おしさも、憎らしさも、知ってしまったから。それに、これは私たちが翼を捨てて罪を償い、贖うべくして取った姿」
「罪?」
小首を傾げるカミルにミストはニヤッと笑った。
「神様を殺したこと、かしら?」
「え?」
カミルが虚を突かれ、フェリシアがものすごく慌てた顔をした。
「黒! そんな語弊がある言い方をしないでくださいよ! 私たちはそうしなければ世界が壊れてしまうから、だから…」
「カミルに誤解されたって心は痛まないのに、弁明する必要はあるの? 許されて今を生きている。これがすべての証明に他ならないじゃない?」
「嫌われるのは辛いものです」
「もう二度と会わなければいいでしょ?」
「……確かに」
ハッとしたフェリシアだが、カミルがものすごく切ない顔をしていることに気が付いて、慌てたように言った。
「で、でも、カミルさんとはお友達なのです」
「友達、ね…」
やれやれと首を横に振ったミストはカミルの方を見やり、そしてホッと胸を撫で下ろしたカミルに小首を傾げて視線を投げかける。
「たいていの人間なら嫌悪して去っていくけれど、あなたは全部知って耐えきれるのかしら? あたしはよほどの器の人間じゃないと無理だと思っている。青並みに、愛した存在なら、どんな風になっても愛し通せるのならいいけれど、カミルはそこまでの器じゃないと思うのだけど?」
フェリシアは瞼を伏せた。
「…助けてもらったのに悪寒なんか感じてしまって申し訳ございません。でも、今、これ以上近づくのは無理なのです。カミルさんが優しい人だということはわかっていても、体が受け付けてくれません。本当にごめんなさい」
「……」
カミルは茫然としていたが、噛みしめるように呟いた。
「……わかった。それが、今の君の答えなのか」
「…はい。それでもお友達でいてくれるならお友達でいてほしいですが、無理だと思ったら仕方がありません。無理をして友達でいられた方が辛いですし」
カミルはゆらりと立ち上がり、か細い声で震える笑みを浮かべた。
「友達でいてほしい。その、君のことは今までの話であまりわからなかったが、その、何と言うか…ちょっと頭の中を整理したいから一度帰るよ」
「…ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「迷惑だなんてとんでもないよ。友達だから、さ」
カミルは笑顔を張り付けたが、フェリシアには気が付かれなかったらしい。彼は特に追及されることなく、ゆっくりと部屋を出て行った。
そんなカミルを見送ったフェリシアは申し訳なさそうな顔をした。
「…怒っていないでしょうか?」
「人間、心の整理をつける時間も欲しいものなのよ? まあ、あいつのことだから、図太く生きて行けるでしょう」
「図太くって…」
フェリシアが瞼を伏せると、ミストは大きく欠伸をした。
「それより、あんたの方が問題よ。転生限界領域に至っているくせに、無理をしちゃだめじゃないの」
「…それは…申し訳ないです」
シュンと落ち込むと、ミストは目を細めた。
「薬、作ったのね」
「あくまで発作を抑える薬です。本来ならば何か生き物の命を生贄にして生きながらえるべきなのでしょうけれど、そこまでして生きたい理由がありませんし、”彼”に近づこうと思っても、何も見えはしませんけれどね」
「アレンは薬師だったから、あんたもそうしたの?」
「ええ」
フェリシアは曖昧に笑った。
「…ちょっとだけおやすみなさい。喋りすぎて疲れちゃいました」
フェリシアが布団に潜り込むと、ミストは薄手の布団もかけてやり、「それじゃあ、ゆっくり休みなさい」と告げて部屋を出た。
そして、小さな声で呟いた。
「さて、あいつはどう出るかしらね?」
その声は少しだけ楽しそうだった。
フェリシアはゆっくりと目を覚ますと、ベッドの傍に突っ伏して寝息を立てている男の人の姿が見えた。まだ薄暗い部屋の中ではよく見えないが、まだおぼろげにしか働かない頭を働かせて名前を呟く。
「…アレン?」
綺麗な胡桃色の髪の毛にそっと指を滑らせ、癖の少ない猫っ毛のように細くてしなやかな髪の毛を一束指でつまんだ。
そして、フェリシアは顔を綻ばせた。
「…ねえ、起きてってば、アレン」
その男の人がうーんと唸って顔を背け、フェリシアは目を細めて小首を傾げると、そのまま何度か髪の毛を軽く摘まんでみたり編み上げるように捻ってみたりといじってみた。
すろと、彼は勢いよくフェリシアの手を振り払って苛立たし気に顔を上げた。燃えるように青い瞳と視線がかち合い、全然別の人をそう呼んでいたことに気が付いて青ざめ、飛びのく。
それと同時に思考が次第に晴れ、フェリシアはそこでようやく、目の前にいる男性がカミルであることを思い出した。そして、同時に寒気が走り、思わず手のひらを擦り合わせる。
「…ご、ごめんなさい。私、寝ぼけていたみたいで…」
カミルは三白眼で彼女を睨むように見据えていたが、やがて崩れるようにその場に突っ伏し、寝息を立てて眠ってしまった。
しばらくして熟睡しているカミルに仕方がなく薄手の方の布団を掛けると、離れたところから柔らかく声を掛けられた。
「元気にしていたかしら、白?」
フェリシアが顔を上げると、ミストがドアを開けて佇んでいた。
「この気配は…黒…?」
「そうよ、久しぶり。カミルをアレンと間違うなんて、よほど好きだったのね。振られたくせに」
「…振ってなんかいないです」
ムッとしてフェリシアが言い返すと、ミストはニヤニヤと笑いながら小首を傾げた。
「それはどうかしらね? 単なる友人、じゃなかった?」
「…黒の意地悪」
ボソッと呟くと、ミストが顔をひきつらせた。
「あんたに罵られても、ちっとも良心は痛まないけれど腹が立つわね。ったく、あんたならとっくに眠りについたと思ったのに、アレンの魂でも探しに来たの?」
「…だって、返事を聞いていなかったんです。聞いてみたかったんです、あの人の声をもう一回だけ。…でも、でもそんなことはできないってわかっているはずなのに、出来なかったんです」
フェリシアはそう絞り出すように告げると、ミストはため息を漏らした。
「パートナーに会いたい気持ちはすごくわかるけれど、あいつは690年前の革命のさなかに死んだでしょ。とっくに魂なんて浄化されて、別の人間に生まれ変わっているわよ」
すると、フェリシアが慌てふためいた。
「ぱ、パートナーなんかじゃないです!! そんなの、…烏滸がましいです。私を外の世界に連れ出して、道具として開放してくれた恩人…ですよ」
最後は消え入りそうな声でそう言ったフェリシアは泣きそうな顔で膝を抱えた。同時に布団が引っ張られ、カミルが頭をこくんと動かす。
しかし、カミルは腕の下の布団を持っていかれても安らかな顔で熟睡しており、中々起きる気配がない。
「元奴隷を恋人にしようだなんて、…そんな人、いませんよ」
「そう?」
ミストとフェリシアがそんな会話をしていると、カミルの鼻提灯が割れてようやくおぼろげに目を覚ました。
だが、それに気が付いていない二人はのんびりと話をしていた。
「でも、アレンは一ミリも私のことなんて愛してくれていませんでしたし…私に色々な感情や気持ちを教えてくれたのに恋心だけは教えてくれなかったですし…」
「はいはい。あんたは昔から自信なさげね。でも、700年近く前の男をずっと追いかけるくらい一途で、頑固なところはいいと思うけど」
カミルは話の腰を折るつもりはなかったが、何気なく呟いていた。
「…700年?」
振り返ったフェリシアが慌てたように笑った。
「あ、違うのです。私たちは…その…」
ミストが逡巡するフェリシアを一蹴するように言い切った。
「聖龍伝説って知っているかしら? あたしたちはその聖龍の生まれ変わりって奴なの」
「…はい? いやいや、冗談はよしてくださいよ。聖龍伝説は授業で習いましたし、知っていますけれど…始祖龍とそれに連なる7匹の眷属をまとめて八聖龍と呼ぶんですよね? でも、人間に転生だなんて」
「したのよ。聖龍に戻っていた方が楽だけれども、人の愛おしさも、憎らしさも、知ってしまったから。それに、これは私たちが翼を捨てて罪を償い、贖うべくして取った姿」
「罪?」
小首を傾げるカミルにミストはニヤッと笑った。
「神様を殺したこと、かしら?」
「え?」
カミルが虚を突かれ、フェリシアがものすごく慌てた顔をした。
「黒! そんな語弊がある言い方をしないでくださいよ! 私たちはそうしなければ世界が壊れてしまうから、だから…」
「カミルに誤解されたって心は痛まないのに、弁明する必要はあるの? 許されて今を生きている。これがすべての証明に他ならないじゃない?」
「嫌われるのは辛いものです」
「もう二度と会わなければいいでしょ?」
「……確かに」
ハッとしたフェリシアだが、カミルがものすごく切ない顔をしていることに気が付いて、慌てたように言った。
「で、でも、カミルさんとはお友達なのです」
「友達、ね…」
やれやれと首を横に振ったミストはカミルの方を見やり、そしてホッと胸を撫で下ろしたカミルに小首を傾げて視線を投げかける。
「たいていの人間なら嫌悪して去っていくけれど、あなたは全部知って耐えきれるのかしら? あたしはよほどの器の人間じゃないと無理だと思っている。青並みに、愛した存在なら、どんな風になっても愛し通せるのならいいけれど、カミルはそこまでの器じゃないと思うのだけど?」
フェリシアは瞼を伏せた。
「…助けてもらったのに悪寒なんか感じてしまって申し訳ございません。でも、今、これ以上近づくのは無理なのです。カミルさんが優しい人だということはわかっていても、体が受け付けてくれません。本当にごめんなさい」
「……」
カミルは茫然としていたが、噛みしめるように呟いた。
「……わかった。それが、今の君の答えなのか」
「…はい。それでもお友達でいてくれるならお友達でいてほしいですが、無理だと思ったら仕方がありません。無理をして友達でいられた方が辛いですし」
カミルはゆらりと立ち上がり、か細い声で震える笑みを浮かべた。
「友達でいてほしい。その、君のことは今までの話であまりわからなかったが、その、何と言うか…ちょっと頭の中を整理したいから一度帰るよ」
「…ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
「迷惑だなんてとんでもないよ。友達だから、さ」
カミルは笑顔を張り付けたが、フェリシアには気が付かれなかったらしい。彼は特に追及されることなく、ゆっくりと部屋を出て行った。
そんなカミルを見送ったフェリシアは申し訳なさそうな顔をした。
「…怒っていないでしょうか?」
「人間、心の整理をつける時間も欲しいものなのよ? まあ、あいつのことだから、図太く生きて行けるでしょう」
「図太くって…」
フェリシアが瞼を伏せると、ミストは大きく欠伸をした。
「それより、あんたの方が問題よ。転生限界領域に至っているくせに、無理をしちゃだめじゃないの」
「…それは…申し訳ないです」
シュンと落ち込むと、ミストは目を細めた。
「薬、作ったのね」
「あくまで発作を抑える薬です。本来ならば何か生き物の命を生贄にして生きながらえるべきなのでしょうけれど、そこまでして生きたい理由がありませんし、”彼”に近づこうと思っても、何も見えはしませんけれどね」
「アレンは薬師だったから、あんたもそうしたの?」
「ええ」
フェリシアは曖昧に笑った。
「…ちょっとだけおやすみなさい。喋りすぎて疲れちゃいました」
フェリシアが布団に潜り込むと、ミストは薄手の布団もかけてやり、「それじゃあ、ゆっくり休みなさい」と告げて部屋を出た。
そして、小さな声で呟いた。
「さて、あいつはどう出るかしらね?」
その声は少しだけ楽しそうだった。
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